致一公司は前回微微が来たときと同じで,中には誰一人いなかった。大神から聞いた話によると,致一の社員たちは二週間以上残業が続いて,夜でさえ事務所に寝泊まりするほどだったので,仕事がひと段落したのを機に,皆に強制的に休暇を取らせていたというのだ。

 

だけど,なぜ愚公は休んでいないのだろう・・・

 

愚公は来客を案内しながらもゴシップを忘れることはなかった,こっそり足を緩めて,へへへと小声で言った:「三嫂,駆け落ちですか?」

 

「駆け落ちに見える?」微微は無気力に反論する:「どう見ても公演でしょう。」

 

愚公が笑う,勿体ぶって言う:「公演時間タイミングがなかなかいいよね,頭越しの一喝に匹敵するよ。」

 

微微はその意味を理解できずに,彼を見返す,愚公がさらに何か話そうとしたが,微微の視線が突然他の方向に向けてしまった。

 

オフィスの向こう側,無駄のない長身の影が自分たちに向かって歩いてくるところだった。

 

机の間を歩く姿は,滑らかで優雅だった,周りが見えないほどに真剣な表情,しかし突然動きが一瞬止まり,熱い視線がこちらに向けられた。

 

黒く深い瞳が,微微の視線とつながる。

 

微微はもう一ヶ月以上彼を見ていなかった,鼓動が鐘のように早まる。

 

彼は一瞬足を緩めたまま,すぐにいつもの足取りに戻って,あっという間に彼らの目の前にやってきた,方部長が一歩前に出て,手を差し出す:「肖社長。」

 

肖奈は視線を移し,彼女の手を握り,礼儀正しく:「方部長,失礼しました。」

 

「そんなことない,突然お邪魔してごめんなさいね。」

 

肖奈は微笑んでから,さらにいくつか社交辞令を述べて,愚公に視線を向けた。愚公がその意図をくみ取り,急いで方部長たちを案内する:「方部長,こちらへどうぞ。弊社は会議室の音響設備が一番いいので,会議室で効果を聞いていただいた方がいいでしょう。」

 

愚公は来客たちを会議室に案内し,肖奈は微微のスーツケースを受け取った,静かな口調で言う,「ついてきて。」

 

明らかに・・・

 

驚かせられなかったじゃないよ。

 

微微の駆け落ちは公演になってしまい,情熱がすでにダメージを受けていたのに,どう見ても普段通りの肖奈を見て,落胆が自然と込み上げてきた,波打っていた小さな鼓動も黙々としまい込んでしまった。そのような気持ちが広がり,微微はさらに敏感に感じ取ってしまった,肖奈の今の歩くスピードが普段よりもかなり早くなっていた。

 

もしかしたら,急いで自分を案内したらすぐに来客対応に行きたいのかな?

 

確かにそれは正しい行為ではある,だけど・・・少なくとも自分の帰りと歓迎してほしかったのに,例え言葉だけでもいいのにT_T

 

微微は恨みがましく肖奈の後ろについて歩く,肖奈が執務室の扉を開け,少し体をよけて彼女を先に行かせる。

 

微微はゆっくりと中に入る。

 

「カチャッ」

 

背後から扉が閉められた音が聞こえた。

 

微微が反射的に振り向くが,腰に重みを感じ,熱い手にしっかりと捉われてしまった,熱い吐息が背後から接近し,どんな風に回転したかも理解できず,微微は扉に押し当てられた。

 

スーツケースがバターンと足元に倒れる。

 

肖奈が体を屈め,脚が近づき,俯き強く彼女の唇を抑えた。

 

微微の頭も“カチャッ”と音が鳴るように,混乱した。

 

最初は唇が強く吸われただけだったが,少しずつ,相手がそれに満足しなくなったようで,中に侵入し始める。全く心の準備ができていない微微,歯は一切の防御の術を持たず,いとも簡単に抉じ開けられ,中への侵入を許した。熱い唇と舌は節度なく貪り,繰り返し飽きずに彼女の口内を意のままに侵略した。

 

舌の侵入に追随して,自分たちの体が,上から下へほとんど全部がぴったりとくっついた,なのに,略奪者はまだ物足りないよう,さらに彼女の体を強く抑えてきた。背後は冷たい扉,しかし前の方,彼に接触しているすべての場所が燃えているように熱かった,微微は氷山に居ながら火の海にいるような感覚を味わい,後ろにも前にも全く退路がなかった。

 

「うっ・・・」

 

微微は息ができなくなり,本能的に彼を押しのけようとするが,全く役に立たないどころか,逆にさらに強い力による抑圧が加わっただけだった。微微は頭がくらくらしてきて,自分の腰が折れそうな気がしていた。彼の吐息が口を通して体全身に伝わったように,彼女の全身の力を吸い出してしまった。

 

どれくらい時間が経ったかわからなかった,ぼんやりする中,ノックの音が聞こえてきたような気がする,そして小さな声が聞こえたような:「肖社長,お客さんを会議室であまり長く待たせるのはあまりよくないと思うんだが。」

 

・・・・・・


このニヤニヤした声,愚公なの?

 

微微の脳に一筋の理性が戻った,薄い扉のすぐ外に人が立っていることを思うと,瞬時に恥ずかしさで不安を覚え,無意識に避けようとするが,しかし前にいるその人はわざと自分を罰しようとしているかのように,ますます侵略の力を強めた。

 

扉の外にいる人が,いなくなったみたい。

 

自分がこれ以上はもう耐えられないと思った時に,暴風雨が突然止んだ。しかし,彼は離れたわけではない,唇や舌は慰めているように,優しく軽やかに,侵略の暴挙を受けた領域をなめている・・・

 

さらにしばらくして,彼は漸く彼女を完全に解放した。

 

微微は息をつく機会を得た,しかし脳は依然と考える気力を失ったまま。彼の手が少しだけ彼女への牽制を解いた,まさかの,役立たずの足に力が入らず,危うく崩れ堕ちるところだったので,慌てて両手が,まさかの自発的に彼の強靭な腰を抱いてしまった。

 

あぁ!

 

微微が自分のしたことを認識した時,穴があればすぐに潜ってしまいたいほどに恥ずかしかった,反射的に言い訳をしようとする:「飛行機,機内の食事がまずくて・・・」

 

半分まで話したところで,微微はうまい具合にブレーキを踏むことができた。よかった,いいタイミングで我に返って話を最後まで言わずに済んだ,もし,お腹いっぱいに食べなかったから力が入らなかったと続けてしまっていたら,大神に笑われなくても,自分で首つりしたくなってしまっていたよ。

 

全身力が入らず,話声も極めて小さかったので,肖奈は前半さえも聞こえていなかったよう,熱い息が彼女の首筋にかかったまま動かない。

 

少し経って,彼が漸く少し離れた,揺れる黒い瞳がすぐ近くで彼女を見つめている,再び彼女の手を取ってそこに口づけを落とした:「ここで待ってて。」