梅田にあるヒルトンホテルのロビー、世界時計前で百花と待ち合わせた。彼女とは仕事の関係で、何度もメールで打ち合わせしていたし、以前にもあったことがあるはずだと勘違いしていた。メンソールはあるはずもない彼女の名刺を必死になって探し、あるいはパソコンの住所録の中から彼女の名前を探そうと何度も検索を試みたが、もちろん彼女の名刺は出てこなかったし、彼女の名前では検索はヒットしなかった。
メンソールが人と会うときは、約束の場所から少し離れたところで待つようにしている。今回もそうだった。世界時計の前に黒服の女性が立ち、しきりに時計を気にしている。きっと彼女だろう。何度かメールを交換していると、実際に会うのが始めてであっても、何となく自分がこれまでメールでやり取りしてきた相手というのは、直感で分かるもんだ。メンソールは自分の電話から彼女へ電話する。メンソールが持っている電話から流れる呼び出し音に合わせるようにして彼女は携帯電話を取り出し、呼び出し音がとぎれると同時に、目の前にいる彼女の口が動いた。
あらかじめ、お洒落系の居酒屋へ行きたいと聞いていたので、メンソールは新地にある『花うさぎ』へと向かった。創作日本料理の店とはなっていて、和食の技術をしっかり踏まえた上で一捻りするというのが、この店のコンセプトらしい。コースは\2,900からでリーズナブルである。メンソールは、初めて女性と会うときにはバラの花束をプレゼントするんだけど、この日は時間に余裕がなくて、バラの花を買えなかった。だから、店に到着するまでにあった花屋に入り、そこでバラの花を買ってプレゼントした。
ここだよ、とメンソールが誘導すると、店の前で彼女は小さく驚きの声を上げた。店の入り口だけを見ていると、高そうな印象を受けるんで、びっくりしたんだと思う。丈の長い白い暖簾、そのすぐ後ろが引き戸になっている。このあたりがちょっと入りにくいところ。片手で暖簾を持ち上げながら、もう一方の手で引き戸を開けなければならい。引き戸が軽いのでまあ気にならないと言えば気にならないが、普通は暖簾をくぐってから扉があるという二段モーションになってるので、ちょっととまどう。スムーズな動作で入店できない。
カウンター席に案内された。予約していたんだけど、メモ帳にメンソールの名前と予約時刻を書いた紙がセロハンテープで貼り付けられていた。これじゃ居酒屋じゃん。創作日本料理と書いているのであれば、和紙に筆書きででも書いてくれればそれなりの雰囲気になると思うんだけどな…。そこまでしなくても、良くある「予約席」とかかれたプレートを置いておいてくれた方が、よっぽど気分がいい。メモ帳に走り書きというのはやめてほしいぞ。
まずはビールで乾杯。注文を取りに来た女性は和服姿でたすき姿も似合っていた。メンソールが「トリビー」というと、良く聞き取れなかった…、問い言うような顔をしたので、「とりあえずビール。トリビーね」と言った。和服の女性はにっこりと微笑んで下がり、百花はかみ殺すようにうつむいて「クックックッ」と笑った。
突き出しは、鶏胸肉を蒸したものに、たらこ&マヨネーズソースのようなものがかけられたもの。食べてみると、たらこマヨネーズソースではなくて、さらにごまソースも使ってあるような感じ。棒棒鳥にかける中華風ソースを胡麻ペーストを生かして、和風にアレンジしたような感じだった。
二皿目は定番の造り。さーもん、マグロ、タイ。三皿めは炊き合わせ。内容は穴子で色々な野菜を巻き込んだようなもの。歯触りは柔らかく、でも味付けは少し濃いめ。百花が言う。「メンソールってメールの印象と全然違うんやね」メールの印象と違うと言われるのは結構珍しい。
「多分それはビジネスモードで書いてるからじゃないかな」とメンソールは応えたけど、「他の人もみんな、メンソールはクールでダンディな人に違いないって言ってるよ。じゃ、会ったことあるん?、と聞くと、会ったことはないけど、メール見てたらクールでダンディーな人じゃないかと思うって言ってる」
メンソールの何処がクールでダンディーなんだろう、特に意識してクールなメールを書いているわけではないぞ。
メンソールの何処がクールでダンディーなんだろう、特に意識してクールなメールを書いているわけではないぞ。
「なぁ、百花…」メンソールは、少し身体を百花の方に向けて言った。「前に会ったときから、百花のこと気になってたんやけど…、付き合ってくれるかな…」
百花はメンソールがトリビーと言ったときの様に、かみ殺すように下を向いて「クックックッ」と笑って、それから言った。「私、メンソールとは初対面ですよ」
百花はメンソールがトリビーと言ったときの様に、かみ殺すように下を向いて「クックックッ」と笑って、それから言った。「私、メンソールとは初対面ですよ」
えぇ〜〜、うっそ〜〜〜、とメンソールは思った。彼女とは前に一度会ったはずだったんだけど、勘違いだったんだ。それで出かける前に彼女の名刺を探しても見つからなかったんだ。何度条件を変えて検索しても、彼女のデータが入ってなかったんだ…。しかし、こんな事でひるむメンソールではない。「ずっと前から知ってるような、そんな自然な雰囲気なんだよ」と取り繕う。百花は、こんどは軽く微笑んで、「いいよメンソール、私のこと気に入ってくれたんならうれしいよ」と応えてくれた。
次の皿は焼き物。意外な展開に動揺したメンソールはどんな料理だったか覚えていない。覚えているのは、このころメンソールは最初のビールを飲み干し、日本酒に移行していたことくらい。そしてメンソールが飲んでいたのは島根の『天界』と言うことくらいだろうか。
ちなみにメンソールの隣にもカップルが座ってたんだけど、その男がどうもグルメ通気取りの男で、連れの女性に色々と蘊蓄をたれてるんだけど、それが全部間違っているという恐ろしい男だった。それをまた連れの女性が感心して聞き入っているあたりが、メンソールにしてみれば不気味だったかな。男が語った蘊蓄のうち、凄まじいやつを二件、このレポートの最後で公開しておくので、参照してほしい。
「百花、これからどうする?。飲みに行く?。それともふたりっきりになる?」
百花はキャハハッと笑って、「二つ目は却下ね」と応える。「何が飲みたい?」
と訊ねるメンソールに、百花は「焼酎以外なら何でも…」と応えた。
百花はキャハハッと笑って、「二つ目は却下ね」と応える。「何が飲みたい?」
と訊ねるメンソールに、百花は「焼酎以外なら何でも…」と応えた。
(店 名) 花うさぎ
(ジャンル) 創作日本料理
(住 所) 大阪市北区曽根崎新地1-1-16 クリスタルコート一階
(電 話) 06-6324-4433
(営業時間) 17:00-26:00
(定 休 日) 日曜日
少し前に、メンソールの所にダイレクトメールが届き、新しい店のオープンを知らせてくれていた。新地に出来たワインバーで、ソムリエールの名刺が添えられていたが、メンソールはその名前に見覚えがなかった。それならば行って確認してやろう。名刺に印刷された名前からだけでは思い出さないことも、直接会えば何か思い出すかもしれない。メンソールが足を向けた店は閉まっていた。土曜日は休みらしい。と言うことでとって返し、その時に彼女の手を取り、別のワインバーを目指した。
入り口の横にある窓から覗いてみると、客はまばらだったので、それを確認してから扉を押す。入ってすぐの所には、少し湾曲したガラス板かアクリル板かがあって、そこにワインボトルが飾られている。良く雑誌などの紹介記事では、このボトルディスプレイが使われていて、まるでワインボトルが空中に浮かんでいるように見える。入り口から受ける印象だと、ちょっと可愛げな店のようだが、中に入ってみると全く異なったアダルトな印象を与えてくれる。壁はコンクリート打ちっ放し、明るい目の色のカウンター、百花は反対に暗い色になっているので、軽い目のモノトーンの世界に入り込んだようだ。メンソールは一番奥の席に座った。
ワインはフランスものが中心で、ボトルは高い目のものが多かった。フードメニューを見ていると、チーズメニューとそれに合うワインが書いてあったので、それに載せられてチーズをオーダーした。もちろんメニューのお勧めに従ってワインはピノ・ノワールをオーダーした。百花は辛口の白ワインをオーダーしていた。
彼女が席を外したときに、ソムリエさんと彼女が持っていたバラの花束についての話となった。「記念日でもなんでもないのに、花をプレゼントしてもらったと言って喜んでましたよ」とソムリエさんが言うので、女の子は花をもらうのがとっても嬉しいらしい。それも突然予期しないときに。花束なんて枯れちゃうので、男の側の感覚からすると鉢植えをプレゼントした方が長持ちすると考えがちなんだけど、鉢植えではいけないんだ。女の子は待ってるんだ。プレゼントされた花束が枯れかけたときに、次の花束を持ってきてくれる王子様を…。もう一つ、女の子を口説くときには、シャンペンとチョコレートを準備するんだけど、なぜシャンペンとチョコレートなのかはまた別の機会に説明することもあるだろう。
メンソールは二杯目のジンファンデル、百花も二杯目のリースリングを飲んでいた。「なぁ、百花…」メンソールがささやく。「二人の今後について話をしないか」
「二人の今後って?」
「まずこのあとのこと、それから明日からのこと。付き合ってくれるかな」とのメンソールの問いに、百花は「メンソールと一緒にいると楽しいよ」と答えてくれた。「じゃこのあとのことなんだけど」とメンソールは続ける。「百花と二人っきりになりたい」
百花はまたかみ殺すように「クックックッ」と笑い、「ごめんメンソール、メールで『口説くぞ』って書いてあったでしょ。だから逆読みして口説かない人だと思っての。だから準備してこなかったの」
準備というのは彼女の子供を預けることなんだ。メンソールは彼女を駅まで送っていった。早歩きするメンソールの腕を彼女がとってくれた。「また誘うよ」とメンソールが言い。「楽しみにしてる」と百花が言った。
「二人の今後って?」
「まずこのあとのこと、それから明日からのこと。付き合ってくれるかな」とのメンソールの問いに、百花は「メンソールと一緒にいると楽しいよ」と答えてくれた。「じゃこのあとのことなんだけど」とメンソールは続ける。「百花と二人っきりになりたい」
百花はまたかみ殺すように「クックックッ」と笑い、「ごめんメンソール、メールで『口説くぞ』って書いてあったでしょ。だから逆読みして口説かない人だと思っての。だから準備してこなかったの」
準備というのは彼女の子供を預けることなんだ。メンソールは彼女を駅まで送っていった。早歩きするメンソールの腕を彼女がとってくれた。「また誘うよ」とメンソールが言い。「楽しみにしてる」と百花が言った。
(店 名) I WILL
(ジャンル) ワインバー
(住 所) 大阪市北区堂島1-3-29 日宝レジャービル一階
(電 話) 06-6341-7328
(営業時間) 18:00-27:00
(定 休 日)
(店 主) 川角浩二