メンソールは歌緒留のことが好きだ。でも、歌緒留はメンソールのことが好きなんだろうか....。そんな疑問がいつもついて回る。メンソールから電話をかけて誘うと応じてくれるが、歌緒留が電話をくれたことはない。歌緒留には何度も「好きだ」と言ったが、歌緒留が「好きよ」と言ってくれたことはない。それどころかいつも茶化されてしまう。「メンソール、誰にでも『好きだ』って言うんでしょ」と....。

 メンソールは、「イタリアンの血が流れている」と言われている。女性と見れば手当たり次第に口説きまくるとイメージがあるらしいが、それは違う。メンソールにだって好みのタイプというものがあるし、タイプでない娘を誘うことはない。ストライクゾーンが広すぎるのではないかとの指摘を受けることもあるが、それについては否定しない。


 歌緒留はあまりたくさん食べない。メンソールも最近運動不足気味で、あまりおなかが減らない。それなら最初から、はしごすることを前提にして飲みに行こうということになって、選んだ店がこの店。初めて入ったとき、間違いなく初めてであるにもかかわらず強烈な既視感に襲われたことがある。ビルの一階にあり、ごく普通の居酒屋風の門構え、扉を開けるとすぐ左手にレジがあって、右手奥にL字型のカウンター、左手側にはテーブル席がある。カウンター14名程度、テーブル席は16名程度の店である。この日店は混んでいたが、メンソールが到着すると同時に帰り支度を始めていたグループがあり、それほど待つことなく、カウンター席に着くことが出来た。


 日本酒『天狗舞』をオーダーする。歌緒留は日本酒があまり得意ではない。あまり長いつきあいでもないし、気配りできることを見せておく必要があるかもしれないが、ここは自分の好みを優先しよう。最近ワインばかり飲んでいてやや食傷気味なのだ。

 『天狗舞』よりも先に、突き出しが出てきた。『笹身の煎餅』だそうだ。二つ折りした半紙の上に乗せられ、大量の擦りゴマ、アクセントにはパセリが置かれている。指で摘まんで口に運ぶ。「うんめぇ」としか声が出なかった。笹身肉をたたいて薄く伸ばしたものに軽く塩味をつけ、これまた軽く片栗粉をつけて揚げたものだろう。まさしくふわふわの煎餅のようだ。味付けは塩のみ、それに擦りゴマが絶妙にマッチしている。いきなりの日本酒がぐいぐいと進む。となりに大好きな歌緒留がいることさえ忘れてしまいそうになる。


 歌緒留はメンソールの右側にいるが、左側にはOLとおぼしき女性二人のグループが座っている。歌緒留たちは、なにやら『マグロのずけ』のような料理が運ばれてきた。ニンニクが使ってあると言っていたので、ニンニク醤油に付け込んだのだろう。そういえば【ソニ禁オフ】の時に食べた『マグロの六三郎付け』はメロメロに美味しかったことを思い出した。これもこんな味なのだろうか。左側にいる女性が、メンソールが付き合っている歌緒留なら、メンソールは速攻でこの『マグロのずけ』に箸を伸ばすんだけどな。


 メンソールの二品目は『生牡蛎』だった。もみじおろしとレモンが添えられている。牡蛎自体は大ぶりだったんだけれど、ちょっと水っぽかった。食べ終えた後、ポン酢も全部飲み干したが、ポン酢も少し水っぽかった。ちょっと残念だった。


 メンソールの横にいる歌緒留のことは、メンソール自身、あまりよく判っていない。追いかければ逃げるし、こちらが引けば追ってくる。まるで釈迦の掌の上で走り回っている孫悟空の様な気分になる。「好きよ」というのが恥ずかしいなら、せめてメンソールが「好きだよ」と言ったときに「私も....」と位は言ってほしい。でも、そんなことを歌緒留に求めるのはやめよう。歌緒留に「好きだ」という度に、メンソールは自分の自我とか人格とかが崩壊していくように感じる。それでも「好きだ」言わずに入られない。完全な悪循環だな。

 この辺りでメンソールは『天狗舞』をお代わり。左隣のグループの方は早くも梅ジュースのロックに入っている。メンソールのところには『子牛のカツレツ・ミラノ風』が到着した。見た目は、普通のカツレツで、ソースはかけられておらず、レモンが一切れ添えてある。メニューにもレモンだけで食べてほしいと書いてあった。

 では試してみることにしよう。レモンをしっかりと絞り、一口目。妙に懐かしい味がした。この味は『コロペット』だ。じっくりと切り口を吟味するがチーズの姿は見えない。思わずカツレツを解体しそうになったが、待て待て、今日は一人ではないと思いとどまった。結局最後には、我慢しきれなくなってカツレツを解体した。とろけるチーズではなくて、粉チーズを使っているのだと思う。


 メンソールは日本酒三杯目。そして、『生ハム』が登場した。ちょっとぉ〜。料理を出す順番が違うんじゃないの〜、と思ったのは事実だが、この『生ハム』はベロベロに美味しかったので、まあ許すことにしよう。とってもいい『生ハム』だった。

 そろそろ河岸を変えるころだ。実のところ、今のメンソールはこの程度の料理で十分満腹してしまう。最後のオーダーは『ピリ辛キュウリ』だ。塩もみしたキュウリをぶつぎりにして、醤油、ゴマ油、豆板醤で和えたものだ。実は、メンソールは自宅でもよくこの料理を作って食べます。美味しかったです。福井の『花垣』という酒が飲めなかったのが多少心残りだった。。


・洋風居酒屋『かりん』
・06-997-0566
・大阪府守口市寺内町2-8-9 林ビル一階
 最寄り駅は京阪電車守口市駅。西出口を下車して1分くらい
・17:30-23:00


※用語解説

 ・ソニ禁オフ 『ソニ禁』というのは『ソース二度ずけ禁止』のこ
        と。串カツ屋などではソース大皿に入れられており、
        他の客と共用するため、いったん口をつけた串カツ
        を、再びソースにつけることはご法度である。『ソ
        ニ禁オフ』というのは、『串カツオフ』のことであ
        る。

・コロペット  大阪キタにある洋食の店『ネスパ』が商標登録して
        いる料理。内容は肉をチーズではさみ、パン粉をつ
        けて揚げたものだ。