房代

引越しデート(じきはら)

2004年12月17日11:49
 久しぶりに房代から連絡があった。引っ越しするから手伝ってほしいと言う。「そんなん彼氏に頼んだらええやん。彼氏おるんやろ」と言うと、「彼氏はおるけど、こんな事頼まれへんねん」と房代が答える。と言うことは、メンソールなら頼めるんか....。なんか変な関係やな....。

続きを読む

ビジネスランチ(ふぅふー亭)

2004年12月16日13:18
 実はメンソールは麺類が苦手である。食べれないというわけではないが、うどんやそばなどを積極的に食べにいったりはしない。しかし、どうしたわけか最近麺類がブームになってきているようにも思う。大阪でも讃岐風のうどんが増えてきたとの情報は得ているし、麺だけを楽しむなら讃岐風だが麺とだしのコンビネーションなら大阪風が一日の長がある、といった議論があることも知ってはいる。

続きを読む

会わなくても平気(びりけん)

2004年12月16日13:15
 房代とは、旭屋の前で待ち合わせした。彼女とは長らく会っていないような気がするんだけれど、調べてみるとやっぱり10日間も会っていないんだ。「最近メンソールと会っていなくても平気になった」と房代が言う。実はメンソールも同じ。「こなれたんじゃない」とメンソールは言い。「そうかもね」と房代が笑った。

続きを読む

レトロな気分で…(丸太町東洋亭)

2004年12月13日22:55
 好きな料理はぎょうさんおまんねんけど、その中の一つにカレーライスちゅうんがありまんねん。わし、土曜日は突然に京都へ行くことになって、ランチはどこでもわしの好きなとこ指定したらええ言われたんで、これ幸いとばかりに『丸太町東洋亭』を指定しましたのや。
 
 1995年に出版された『ぴあBOOK(カレー)』ちゅうガイドブックにもその名前が乗っとる『丸太町東洋亭』は大正六年創業の、京都でも屈指の西洋料理店やそうですがな。残念ながらカレーは昼のメニューには乗ってなかったんやけど、ものすごいええ経験が出来ましたわ。店は河原町丸太町交差点の北東側。すぐにそれと判る店構え。店を入ると初老の女性が出迎えてくれる。老舗ならではの優しく家庭的な応対。わしは、四人掛けのテーブル席に案内されましたのや。まずはビールを注文。アサヒかサッポロかちゅうて聞きはったんで、ちょっと迷うた末に、サッポロにしましたのや。約束の相手はちょっと遅れるちゅうことやったんで、ビールを飲みながら先にメニューを見せてもらうことにしましたのや。カレーがなかったんは残念やってんけど、カレーがないならハヤシライスかなとも思たんやけど、ここはビーフシチュー(\2,500-)にしましたのや。ほんまはタンシチュー(\2,500-)にもかなり心が傾いたんやけど、さすがに二品は食べられへん。涙を呑んでビーフシチューを選びましたんや。
 
 約束の相手が到着して、そいつはランチコースを注文しよりました。前菜、スープ、メイン、デザートが付いて\1,700-でしたで。前菜はえびを白身魚で巻いてエスカベッシュ風にしたもの。何とも柔らかい感じでおました。次はグリーンピースのソース。こちらもはんなりとした感じで、いかにも京都風。グリーンピースが確かにおりまんのやけど、輪郭でんねん。決してぼやけてるちゅう訳やおまへん。ものすごい優しいんですわ。料理もそうやけど接客もそう。ものすごい優しゅうて、柔らかいんですわ。店に入った時もそうやったんやけど、老舗が持ってる雰囲気、重厚感とか歴史の重みとかがおますやろ。せやけど、堅苦しいとか威圧感があるとかとちゃいまんねん。優しいですわ。なんちゅうか、家庭的な雰囲気というが、ものすごい気にかけてくれてはって、大事にされてるちゅう感じが判りまんのや。ものすごいええ気持ちになりまんねん。外を見ると、河原町通りが見えて、車や人で賑おうてますんやけど、この場所だけ隔離されてまんねん。雑踏の中にあるとは信じられんくらい静かですのや。
 
 ランチのメインと合わせて、わしのビーフシチューも到着しましたで…。取っ手付きの陶器の皿にシチューが入れられたあるんやけど、冷めん様に下から暖めてくれてますのや。これが驚きでな。普通やったら固形燃料使いますやろ。せやけどな。たぶん、固形燃料では火力が強すぎると思いはったんやろな。固形燃料ちゃいまんねん、ロウソクでんねん。これには感激しましたで…。感涙もんやがな…。
 
 わしは、ビーフシチューに合わせてはグラスで赤ワインを頼みましたのや。これまた普通やったらグラスに入れたワインを持ってきてくれまっしゃろ。ここではちゃんとデキャンタで持って来てくれまんねん。嬉しいなぁ。一つ一つは大したことないようなことなんやけど、その一つ一つがなんか嬉しゅうさせてくれますのや。ビーフシチューはかなりの分量やったし、肉もバラ肉やすね肉など複数の部位の肉が入っとった様に思います。肉は軟こうて、味は濃厚なんやけど、しつこさやくどさがあらしません。軽いちゅうたら誤解されてしまいそうなんやけど、これも優しいんですわ。意識的やったんかどうか判らんのやけど、人参は繊維が残っとりました。ただ、火が通ってないちゅうことやおまへんで。
 
 わしはパンをお代わりして、シチューは全てぬぐい取らせてもらいました。後で聞いたんやけど、この店の煮込み料理は今の石炭ストーブを使こうとるのやそうやで。レジカウンターのとこでドミグラスソースは一ヶ月くらいかけて作るらしいでっせ。夜は\5,000-のクラシックコースがあるらしいんやけど、絶対夜も行ってみたいでんな。
 

(店  名) 丸太町東洋亭
(ジャンル) 欧風料理
(住  所) 京都市上京区河原町丸太町上がる東側
(電  話) 075-231-7055
(営業時間) 11:30-14:00, 17:00-21:00
(定 休 日) 月曜日


2000年5月11日に書いたレポートのリライトです。
 

亀という名の店(トルトゥーガ)

2004年12月13日22:47
 「私がこれまで付き合ってきた人は、誰も誕生日を祝ってくれなかったの」と彼女が言った。そんな彼女に、「誕生日は一緒に食事しよう」とメンソールは言った。店は『創華飯店』にするか『ラ・ムレーナ』にするかと相談してたんだけど、いよいよ一週間前になって、『トォルトゥーガ』に行きたいと彼女が言いだした。
 亀という名前の付いた『ラ・トォルトゥーガ』は【大阪グルメ倶楽部】の相楽りさ子か松たかこか…、と噂されたこみき嬢が絶賛した店である。
 待ち合わせはなぜか神農さんの前。この日は雨が降っていたので、メンソールはすぐ近くにあった座敷つきの露店に滑り込み、豚バラ肉の串焼きを食べながら待っていた。彼女は30分遅刻して現れた。しかも和服姿。落ち着いた色の振り袖だが、柄は今年の干支であるウサギだったりした。
 この日は雨が降っていることもあって、店は16:30に予約してたんだけど、少し早い目に行くことにした。京町堀一丁目の交差点を西に入り、靫公園の北側を歩く。小さな赤いか目の看板は出ているが見逃すことの方が多いと思う。目印はもう一つのフレンチビストロ『ビストロ・グラース』だ。こちらは南仏系のフレンチでだが、通りに面しており、ブルーの軒が目立つので見逃すことはないだろう。実は、『トォルトゥーガ』は『ビストロ・グラース』と同じビルの中にあるが、正面の入り口から入らずに、靫公園に面したテラスから入る客も多いと聞く。
 店内はそれほど広くない。正面の入り口を入るとすぐにカウンター席があり、それを抜けるとテーブル席がある。テーブル席は合わせて16席くらいだと思う。混んでくるとテラス側の入り口はクローズされてしまうので、テラス側から入ってみたいという場合には、早い目に行く必要がありそうだ。
 メニューは黒板に書かれているものだけなので、まずは今日のメインを何にするか検討する。これは穴ウサギの血入りソースに決定した。なら前菜は…と迷っているところはドリンクのオーダーを取りに来たので、穴ウサギを食べるつもりであることを伝えて、それに合うワインを選んでもらうことにした。四種類の候補の中からメンソールが選んだのはシラー種のもので、金額は一万円弱。まぁ、誕生日を祝うことだし、たまにはこれくらい良いでしょう。一応テイスティングはしたけれど、グラスを持ち上げるまでもなく漂ってくる甘い香り、口に含んだときの膨らみとかは、言葉では表しがたい。料理なんてどうでも良いからということで、ワインだけガバガバ飲んでしまいそうになった。
 「ハッピー・バースデー」と言いながら軽くグラスを合わせる。「君の瞳に乾杯しよう」と言ったら、「あなたの目つきが心配」と言われてしまった。「和服とか喪服の女って独特の魅力があるってよく言うでしょ。メンソールも私の帯解いてみたいのとちゃうの?」 メンソールはイエスだと即答し、ついでに「アレ〜」とか言いながらクルクル回ってほしい、と言ったら「アホか」と言われてしまった。
 結局長時間悩んだ末、前菜には牡蠣と牛肉のスモークきのこサラダ添え、牡蠣を口にすると濃厚な潮の香りに圧倒される。ふわっという感じで広がり、それがなかなか消えていかない。牛肉スモークの方は普通だったんだけど、表面には粒胡椒が、裏麺には岩塩がかけられていた。粒胡椒の薫りは鮮烈だが、時たま歯が胡椒を噛み砕いたときに、不意打ちのように広がる刺激にはたまらないものがある。岩塩の方も同じで、時たま岩塩を噛み砕いたときの感触と、口の中に広がる塩の味には、それを求めているのにじらされているような不満感と期待感が入り交じった感覚がある。口の中の感覚が活性化され、総動員され、塩粒を噛み砕いたときの感触を逃すことなく受け止めようとする。
 二品目は子羊の脳味噌。ご丁寧に二匹分も入っていて、ちょっと分量は多かったし、かなり重かったので、ワインはどんどん減っていった。見た目はタラの白子に似ている。食感はタラの白子と河豚の白子の中間くらい。メンソールはタラ白子の方が好きだな。少量食べるには良いけれど、二匹分は多すぎる。
 穴ウサギの肉はそれほど臭みはなかったが、固いのでしっかりと味わえる。またお薦めのワインともよく合った。意外と小骨が多かったので、ナイフフォークで食べることは途中で諦めて、手づかみでバリバリを行かせてもらった。
 コースメニューはないので、料理をア・ラ・カルトで、それと美味しいワインを楽しむ店だと思う。一品のボリュームは多い目なので、二人で行けば二皿くらいのオーダーで十分だと思う。人気の店なので、予約はした方がいいと思う。食後酒が飲みたいと言えば、オー・ド・ヴィが出てきたり、マディラが出てきたりするし、結構隠し球が用意されてるんじゃないかと思う。
 ちなみにオーナーの豊田氏は『ビストロ・アミスター』の出身。


【店  名】 ラ・トォルトゥーガ
【ジャンル】 フレンチ
【電話番号】 06-6448-3999
【住  所】 大阪市西区京町堀1-13-17 ハイツオオクラ靫公園一階
【営業時間】 11:30-14:00, 17:30-23:00
【定 休 日】 日曜日

 
1999年11月24日に書いたレポートのリライトです。現在『トルトゥーガ』は移転して、北浜にあります。

 

複雑な関係(和庵)

2004年12月13日22:33

 ねぇ、男の人ってセックスの後、ペニスが寒く感じるのかな....。さすがのメンソールもいきなりの言葉にひっくり返りそうになった。こいついきなり何を言い出すんや....、と思うまもなく、女はセックスのあと穴が寒くなるの....、と彼女が言った。これは『スカートの中の秘密の生活(田口ランディ著)』の中の一節。ふーん、そうなのか....、とメンソールは思ったが、男にはこの感覚は判らんなぁ。一応房代に尋ねてみると、よく似た感覚は有るんだそうだ。ちなみにこの田口ランディ女史だけど、最近知ったところによれば、某フォーラムのシスオペなんだそうだ....。世の中って狭いもんだな。

 房代との関係というのは、けっこう複雑なものがあって、あるときは兄妹、あるときは恋人、あるときは友人で、またあるときはビジネスパートナーだったりする。要は恋愛感情だけじゃないんだな。そんな房代から行こうと誘われたのは塚本にある『和庵(なごみあん)』だった。本当は金曜日に行こうと誘われてたんだけど、メンソールは三日続いた激務が一段落ついた日だったし、ひたすら眠たかったので、一日ずれて土曜日になった。まぁ、土曜日だからと言ってメンソールは休日だったわけではない。平日の昼間から蕎麦屋で日本酒を飲める日もあるし、土曜日に仕事が入ることもあるし、一定のパターンというか、

ウィークリーでスケジュールが決まるわけではないので、けっこう面白かったりする。この日も午前中は日本橋、午後はクライアントを訪問し、いったんオフィスに戻ってから、再度出かけることになった。オフィスと言ってもメンソールの場合はホーム・オフィスなので、オフィスへ戻るというのは帰宅すると言うことで、帰宅すると外出したくなくなってしまう。

 『和庵』はJazzが流れる和風料理の店らしい、カウンターだけのスモールサイズの店らしい、料理はお任せ料理しかないらしい、という話を房代から聞いていた。店はビルの二階にあるし、それほど派手な看板はでていないし、隠れ家といった感じ。階段を上がりきったところが入り口になっており、引き戸を開け、そこで靴を脱いで上がる。予想したよりもずっと明るくて広い空間。四人掛けの低いテーブルが五セット置かれている。稲穂やほうずきを使ったディスプレイとかけっこう内装には凝っている。メニューを見るとお任せ料理が『和コース(3,500-)』と『庵コース(\5,000-)』の二種類。鍋料理は予約が必要なんだ

けど、『河豚コース(\8,000-から)』と『地鶏コース (\3,500-から)』の二種類。地鶏コースのメインは飛鳥鍋だそうで、これがこの店の一番のおすすめなんだそうだ。メンソールは\3,500-の和コースをオーダー。それと、とりあえずグラスビールをオーダーしたんだけどグラスビールはなんと \200-。安い!!。表面に霜が着いた素焼きのマグに入れられたビールはおいしか

った。前菜三種盛りが運ばれる頃にはすでにビールを飲み干していたので、日本酒は純米酒を主体に数種類あるが、メンソールは春鹿をオーダーした。日本酒は片口で供され、猪口は好みのものを選ぶことができる。まずは備前の大きめの猪口を選んでみた。

 前菜三種盛りの中央は胡瓜と千切りにしたキクラゲの酢の物....、だと思ったんだけど、胡瓜と千切りにした昆布だった。昆布の味に意表をつかれた感じ。右側には鯛のぽん酢締めかな....。口に入れるとポン酢の風味がほんわりと有るんだけど、噛んでいくうちに鯛の旨みがでてくる。メンソール好みの一品だった。この前菜三種盛りはかなり気に入ったんだけど、あと一種類はなんだったか覚えていない。なんでやろ....。

 次の皿は造り。鯛の作りなんだけど、てっさほどは薄くないけれど、薄切りにして皿に並べてある。酢橘を半分にカットしたものが添えられていて、あと白髪ネギ、胡瓜と人参も白髪ネギと同じ太さに細く千切りにされたものが同量並べられて添えられている。白髪ネギは何とも言えない甘みがあって旨い。メンソールは造りにもほとんど醤油をつけないんだけど、房代は山葵と醤油だけで日本酒が進むと言っていた。日本酒はもちろん二杯目の司牡丹。違う銘柄をオーダーすると、猪口まで取り替えてくれる。これはいいサービスだと思う。

 三皿目は天ぷら。椎茸に白身魚を挟んで揚げたもの。挟んであったのは太刀魚だった。もう一つのものは、ハモ。ハモで松茸を巻いて揚げてあるので、松茸の香が閉じこめられていてとってもセクシー。こんなに香り高い松茸は久しぶりだ。

 四皿目はこの日のスペシャルサービスで、丹波の黒枝豆。しかも枝付きで、豆もかなり大きくてしっかりしている。茹で加減も抜群だった。丹波の黒枝豆は『アルファ』で開催された【モルトオフ】の時に、産地直送のものが出されたらしいが、メンソールは所用があって途中退席してしまったので、これを食べていない。だからここで食べるのが今年初。そして多分今年最後だろう。

 五品目はハマチのホイル焼き。メンソールはちょっと心配になってきた。これは本当に\3,500-のコースなんだろうか。\35,000-の見間違いだとは思わなかったが、コスト・パフォーマンスは十分すぎるほど高いと思う。キノコ類と共にホイル焼きにされたハマチはあっさりとして上品な味に仕上がっていた。

 六皿目は蕎麦サラダ。はっきりと言うが、この蕎麦サラダは手抜きだ。レタスの上に蕎麦を置いて、ドレッシングをかけただけだろう。ついでに言うと、このドレッシングは生協の野菜たっぷり和風ドレッシングだろう。最後の皿として、これはいかんと思うぞ。ここまでかなりの仕事をしてきているだけに、残念でんな。

 二人で日本酒を四合飲んで、一万円とちょいだった。とりあえず最後の蕎麦サラダには目をつぶるとして、なかなかのもんでした。マスターは若い方なんだけれど、客と話すのが苦手みたいで、料理や器をほめても、他人事のように聞き流すといった感じ。房代によれば、多分内装とか食器とかは、別にコーディネーターがいるんで、ほめられても実感がないんじゃないか....といっていた。判らんではないが、料理をほめたらなんか喋れよな。扇町にある『TAKOH』とか、守口の『ムスタッシュ』とかのマスターは、自分のこだわりとか、料理とかについて聞かなくても喋りまくる。どちらが良いとか悪いとかと言うつもりはないんだけど、内装とか、容器、料理に感動して、コミュニケーションを取ろうとしてるんだから、応じてほしいような気はする。店はメンソールのグループしかいなかったし、忙しくはなかったと思うぞ。付け加えとくと、日本酒はマスターがセレクトしたらしく、純米酒主体の取りそろえについて聞いてみたときは、しばらく話をしてくれた。だからこっちが話のきっかけを作らないとダメなのかな....。

 まぁとにかく隠れ家でんな。リーズナブルやし。メンソールは鶏肉好きやし、次回は地鶏コース食べに来ることにしよ。\3,500-コースと\5,000-コースの違いは、ご飯もんとかフルーツがあるかどうかの違いだそうで、酒飲みにいくなら\3,500-コースで十分。

 


【店  名】 和庵(なごみあん)
【ジャンル】 割烹
【電話番号】 06-6303-2707
【住  所】 大阪市淀川区塚本2-24-4 伊藤ビル二階
【営業時間】 17:00-23:00
【定 休 日】 無休(オープン直後につき)
【そ の 他】 マスター:伊藤英樹
【同 伴 者】 房代


1999年10月24日に書いたレポートのリライトです。

 


 

おしゃべりウェイター(イゾーラ・ベーラ)

2004年12月13日22:28
 いきなり店の説明をしておくと、西宮にある『オステリア・エノテカ』の姉妹店で、豚ローズのジラローストで有名な店だ。ちょっと陰になっていて見えにくいが、店内にはいると巨大炭焼きマシンが鎮座していて、豚一匹分の背肉を丸ごと火にかけることが出来るようになっている。KFPリンクの八階は飲食店街になっており、かなり明るい雰囲気で、『トラットリア・イゾーラベーラ』も、店の前に簾をかけたりして、カジュアルなムード。店内のテーブルの配置も、かなり余裕を持たせているように見える。余裕を持たせているように見えるというのは、店のセンターには余裕があるが、テーブル同士はそれほど間隔が開けられているわけではない。
 
 メンソールと房代は、まず店の前に置かれている黒板に書かれたメニューを吟味する。メインは豚ロースのジラローストにすることは、店を予約した時点で決定していたので、アンティパスタやパスタを何にするかが問題なのだ。「メンソール、これ好きなんちゃう」と房代が見つけだしたのは、鰯のバジル&ウイキョウのリングイネ。これは簡単に決まったが、その後が決まらない。とりあえず店内に入って、ウェイターと相談しながら決めることにした。
 
 印刷メニューと黒板メニューの二つのメニューが持ってこられた。房代が選んだのは岩牡蠣のジュレ添え、ところが表の黒板に書かれていた鰯のバジル&ウイキョウのリングイネがない。聞くと、表の黒板は初夏のメニューなんだそうで、予約しておけば別だが、今日は出来ないとのこと。出来ないメニューを出すなよな。もしくはちゃんと要予約と注釈を入れとくとかしてほしいぞ。いきなり店とか料理とかに対する期待がふにゃふにゃ〜としぼんでいくような気がした。
 
 結局メインはジラローストと、イサキの炭火焼きに決定。アンティパスタとしては岩牡蠣のジュレ添えと、トマト&モツァレラのカプレーゼと相成った。イサキも豚ローストも300gほどあってかなりのボリュームだと思われたので、パスタは省略した。
 
 続いてワイン。メンソールの好きなキャンティーがあったので、それにしようかと思ったら、裏にお薦めのワインを載せていますとのことだった。メニューの裏を見ると、トップから二番目にあるのはピノ・ノワールの文字を発見した。イタリアンワインでピノ・ノワールとは珍しい。ソムリエの方と色々と会話したんだけれど、どうしたわけかソムリエ氏は、メンソールはイタリアンワインが苦手で、フランスワイン、特にブルゴーニュの方を好んでよく飲んでいる、と思ったようだ。ピノ・ノワールはメインの豚ロースのジラローストに合わせるにはちょっと力不足かもしれない…、と思ったので、確認したところ。大丈夫だとのこと。ピノ・ノワール好きのメンソールは、それをお願いすることにした。が…、しかし…
 
 ワインはまずラベルを確認すると、デカンタージュしてくれた。何の修飾もない、化学実験で使う平底フラスコのようなカラフィは、たぶん持ちにくくサーブしにくいんじゃないだろうか、いつかウェイターの指先から滑り落ちてテーブルがワインの海になるんじゃなかろうか…、と不安に駆り立ててくれる。正直最後の一滴が注ぎ終わったときはほっとした。
 
 まず登場したのは、岩牡蠣のジュレ添え。牡蠣はそれほど大きなものではない、岩牡蠣としては小型の部類にはいるのではないかと思う。白いさらには岩塩が敷き詰められ、その上に岩牡蠣が乗せられている。ジュレに包まれた岩牡蠣には、最初は海胆かと思ったが、赤ピーマンをペースト状にしたソースとバジル&オリーブオイルのソースがかけられ、上にキャビアが乗せられていた。まず丸ごとメンソールの皿に取り、二分割して房代の皿に分ける。磯の味はあまりしなかったけれど、とてもいい歯触り舌触りだった。料理としては美味しかったんだけれど、この歯触り舌触りが岩牡蠣のものなのか、ジュレのものなのかが最後まで判らなかったし、なんかジュレの感触にだまされているような気がした。やっぱり岩牡蠣は余分なソース類は一切なしで丸かぶりするのが一番でんなと思ったというか、そういう食べ方が懐かしくなった。
 
 皿に敷かれていた岩塩のようなものも味見して、岩塩であることを確認したけれど、なぜ岩塩なのか。クラッシュドアイスでもいいだろうし。見た目ということならば氷砂糖だっていいんじゃない…といって房代と笑い合った。
 二皿目はカプレーゼ。トマトはフレッシュなものの他に、ペースト状のものもあった。新鮮な酸味がとても印象的な一品で、この酸味が最後のジラロースト以外の料理に顔を出すんだけれど、それがこの日のテーマのように感じられた。
 
 三皿目はイサキの炭火ロースト。内臓は抜いてあり、代わりにネギが詰められている。魚自体の味付けは塩味がメイン。他にはバジル、ローズマリー。身はかなり柔らかかったので、取り分けるのにはかなり苦労したけれど、少し遅れておしぼりが出されたので、これは手づかみしても良いということだろうと判断し、完全に解体させていただいた。残ったのは背骨と尾びれのみ。頭部もバリバリ囓らせていただいた。
 
 最後の皿は豚ロースのジラロースト。最初出されたときは、大した量じゃないじゃん、と思ったが、食べ進んでいくとかなりボリュームがある。塩味がメインの味付けなんだけれど、かなり辛い目。突き刺すような辛さではなくて、ほんわりとした辛さなんだけれど、多分この辺が限界で、これ以上辛くするとダメなんじゃないかと思う。いえば非常に微妙な、いい感じの塩加減だった。惜しむらくは、脂身の量が少ないところかな。日本人は、肉の脂身が好きなんだとメンソールは思う。ヘルシー志向になっていることは判らないではないけれど、もう少し脂身の柔らかさと甘みを楽しみたいと思う。
 さて、ワインに話を戻すことにしよう。メンソールが選んだイタリアのピノ・ノワールは、実はあまりピノ・ノワールぽくなかった。あまりふわっと広がらないし、ジャムのような香もしない。ジラローストを食べ終わった頃に、ウェイター氏がやってきて、ワインが気に入ったかどうか聞いてくれた。色々と話をする中で、メンソールがオーダーしたワインは、ピノ・ノワールを使っているものの、あまりフランスっぽくないワインなんだそうで、フランスワインを普段飲んでいる人にはあまり勧めないのだそうだ。ちなみに、ピノ・ノワールから別れた品種ではあるけれど、ピノ・○△×という名前の葡萄で、純然たるピノ・ノワールじゃないんだそうだ。それならメニューにピノ・ノワールなんて書くなよ。過剰な期待を寄せるやないか。
 
 更に、ジラローストはトスカーナ地方の料理なので、トスカーナ産の赤ワインを合わせるのがいいのだそうで、メンソールがオーダーしたワインではなくて、トスカーナワインをサジェストした方が良かったんじゃないかと、ウェイター同士で話題になっていたんだそうだ。まぁ、舞台裏の話をしてくれるのは面白くて嬉しいけれど、食べ終わってからそんな話するんじゃねぇ…とメンソールは思ったぞ。ウェイター氏が去った後、「食い終わってから言うなよなぁ」と房代が怒こっとった。
 
 ドルチェが来るまでに、チーズを囓ってたんだけど、ゴルゴンゾーラにはハチミツと松の実、黒胡椒がかけられていて、なかなか面白い風味だった。メンソールが選んだドルチェはクレーム・ブリュレ。かなり濃厚な味で、更にバニラアイスクリームが載せられている。
 
 とどめは例によってグラッパ。この日飲んだグラッパは、葡萄の絞りかすからではなく葡萄から作るのだそうで、かなり優しい味がした。
 
 全体的な印象として、料理は美味しい。ウェイター諸氏も、なんとか客とのコミュニケーションを図って、好みのものを提供しようとする姿勢が見えるけれども、何か言わんでもええことまで、ぺらぺら喋ってるような気がしないではない。ちょっと勘違いしてるような気がしないではない。それに、レポートには書いてないけれど、オーダーを取り間違えたんだから、ちゃんと謝ってほしいと思うぞ…。ということで、美味しかったんだけど、二度は行かない店でんな。
 

【店  名】 トラットリア・イゾーラベーラ
【ジャンル】 イタリアン
【電話番号】 078-846-2816
【住  所】 神戸市東灘区向洋町中2-9-1 神戸KFPリンク八階
【営業時間】 11:30-14:00, 17:00-21:00
【定 休 日】 第一・第三水曜日
【そ の 他】 300台の駐車場あり

 
1999年8月5日に書いたレポートのリライトです。
 
 
 

幸せになる方法(カレー工房UNO)

2004年12月13日22:13

 その日は特に暑いわけではなかったが、何かしら寝苦しかった。寝入りかけては目が覚めるということを何度か繰り返した後、また眠りから覚めた。但し、まだ目は閉じている。そして、越してきて五年が経つが、この家では初めての金縛りに襲われた。身体は動かないと判っていても、つい手を動かしたくなる。通常は手が動かないのでパニックになるのだが、メンソールは息を整えると、両手で印を結んだ。といっても両手は動かないので、自分の肉身体から霊身体だけをイメージして動かす。印が結べればこちらのものだ。「臨・兵・闘・者・皆・陳…」早九字を唱えながら意識を集中させる。金縛りが解け、メンソールは目を開けるが、部屋の様子がおかしい。室内灯の色がいつもと比べて、どんより曇って黄色い。こんな時は霊が来ている。特に害を及ぼしそうな霊ではなかったが、メンソールはすかさず右手で印を組み、火の精霊サラマンダーを召還し、結界を張り、封印する。そのまま深い眠りに落ち、次の朝を迎えた。余談だが、水の精霊オンディーヌは人なつっこいが、大地の精霊グノメは気まぐれやなのだそうで、メンソールもまだ会ったことはない。

 幸せになる方法は色々ある。菜園の木戸にはローズマリーを絶やさぬ事。マッシュポテトには胡椒を加えること、バラとラベンダーを植えること、それからいつも恋をすること。そして忘れないこと。恋人達の喧嘩は、恋の更新なのだと…。

 

 大喧嘩した訳じゃないんだけど、房代を電話口で泣かせてしまった。それから二日間の間、メンソールは房代から、罵詈雑言のありったけをメールでぶつけられた。これまで何度か危機はあったけれど、今回は本当に危ないと思ったし、それなら、メンソールにも色々と言いたいことはあるけれど、ここは沈黙しておこうと思った。別れ際は綺麗でなくっちゃ。付き合っているときに言えなかった不平不満を、こんな時に漏らしたところで、全然建設的じゃない。

 房代を泣かせる少し前に、カレー工房『UENO』に行きたいと言われていた。カレーは\2,500-、シチューは\3,000-ながら、一日数食の限定販売。もちろん要予約。子供連れは厳禁。女性は生足厳禁。必ずストッキングがソックスを着用すること…。カレー通のメンソールが、このカレー屋をみのがしていたのは迂闊だった。後に、マスメディアではいっさい宣伝していない、口コミだけで営業しているとも聞かされた。

 何度か電話を入れる。コールはしているけれど、誰も出ない。どうなっとるのやと思うこと二日目で、ようやく電話がつながった。希望通りの日時に予約が取れたので、早速房代にメールでその旨を伝えた。6時間と経たないうちに房代から返事が届き、「ありがとう」とか書かれていた。


 地下鉄御堂筋線の『梅田』駅で待ち合わせて、近鉄大阪線の『河内山本』駅で下車する。北口を出て川沿いに北へ。山本高校を通り過ぎ、山本幼稚園の北東の三叉路からさらに北へ二軒目。さらに一軒北側に「カレー工房『UENO』」と書かれた看板が目にはいるが、それは間違いで、その一軒手前の民家にはいる。入ると右手に鐘があるので、それを鳴らす。茶事の場合、寄付きの近くに板木がある場合があり、それを叩いた回数で、亭主は何人の客が到着するかを知る。この場合はやはり二回ならすんだろうな…、と思ったので、二回叩いた。乾いてはいるが少し寂しげな音が家の中をこだました。

 女亭主が現れ、入り口近くの部屋に案内される。女性はすかさず生足でないかどうかのチェックを入れられる。どうして生足がいけないのか、メンソールにはよく判らないし、房代が言うには、若い女性はストッキングをはく習慣がもうないのだそうだ。

 部屋にはいるとまず、掛け軸を拝見する。何が書いてあるのかよく判らなかった。しばらくすると女亭主が挨拶にやってきた。おしぼりを渡され、「熱いうちにどうぞ」と言われるが、これが火傷しそうに熱い。持ってられないんだけど、放り出すわけには行かないので、とりあえず広げて、さりげなく振り回して放冷した後、畳みながら、おしぼりを使う。で、いきなり『ブルータス(マガジンハウス刊)』の、女性の学歴問題についての話になったので、どうなることかと思ったが、「料理はやっぱり感性ですよね」で締めくくられた。

 メンソールはカレー、房代はシチューを予約していた。器はこの日から夏仕様のもので、ドイツ製なんだそうだ。シチューは280g、対してメンソールのカレーは 190g。この差はいったい何なんでしょう。

 まず、最初に出されたのは、メンソールにはナン、房代にはロールパン。「阪急百貨店のナンと、ドンクのロールパンです」との説明があった。以前はナンも自家製のものを使っていたけれども…、とのことだったが、この時点で房代はすでに ????な状態だったらしい。女亭主が下がったあと、パンが好きで、パンには多少うるさい房代が言った。「ドンクはロールパンやのうて、フランスパンやで、それに阪急百貨店のナンは、パン屋が作ったナンちゅう感じで、中が詰まってて、カレーには向けへんで…。わざわざ梅田まで買いに出る意味があるんやろか…」

 メンソールのカレーは、小振りのシチュー皿といった茶色で蓋付きの器に入れられている。一部焦げて固まっているので、オーブンに入れたのかな…、と思ったが、容器は思ったほど熱くない。蓋を取ると、中はほぼ真っ黒と言っていい。スプーンで少量すくって口に入れると、軽い甘みと共に、濃厚な味が広がる。素直な感想として、「これはカレーじゃない、シチューだ」だった。で、やや塩辛い目。これは濃厚すぎて、量が食べれるもんじゃない。入っているのは牛肉のみだが、形もなくなってしまうほどには柔らかくはなっていない。ナンの方はサクサクした感じがなくて、ちょっと重たい。濃厚で辛い目のカレーと重い目のナンで、メンソールは水ばかり三杯も飲んでしまった。

 房代の方のシチューは、ちゃんと一般的なシチューと同じ色がしている上に、色々な季節野菜が入っていて、メンソールとしてはシチューの方が好みだ。メンソールがこの店を友人から教えてもらったんだけれど、カレーをオーダーした人は、シチューに手を伸ばしてはいけないのだそうだ。もちろんメンソールと房代は、カレーとシチューの両方を味見しましたけど、女亭主の見ていないところでやるようにしましょう。

 メンソールのカレーはあっという間になくなり、器の壁についているカレーも全部ナンで拭って、それでもナンが余ったので、房代のシチューも器ごとピカピカにした。女亭主が器を下げに来たとき、感激していた。

 デザートはジュースが出た。まず一口飲まされたあとで、内容を説明してくれる。メンソールの感じでは、ミックスジュース。パイナップルとリンゴとバナナ、それからパパイヤかマンゴーと思ったんだけど、裏をかかれてしまった。正解はカルバドス(アップル・ブランデー)につけ込んだパイナップル、パパイヤとマンゴーは入っていたけれど、バナナではなくバナナのリキュール。牛乳やシロップは使わずにハーゲンダッツのバニラアイスクリームなんだそうだ。ここでも「料理も結局は感性ですからねぇ〜」の一言で締めくくられてしまった。ものすごい自画自賛。客のメンソールとしては「そうですねぇ〜」と相づちを打つしかない。

 店を出ての帰り道、しばらくは房代と、顔を見合わせて、これまでこらえてきた分も一気に放出して笑い転げた。この店に来たことのある別の友人によれば、調度品などの説明もしてくれるのだそうだ。ひとしきり家の中を案内してくれた上で、着席し、食事となるのだそうだ。どうぞお友達にも紹介してください、とも言われた。興味のある人は是非行ってみてください。カレーの味としては、濃厚で塩辛い意外特筆するものないですけど、女亭主のキャラクターは独特で面白いです。



【店  名】 カレー工房『UENO』
【ジャンル】 カレー(かなりこだわっている)
【電話番号】 0729-22-2003   
【住  所】 大阪府八尾市山本町北3-6-25
【営業時間】 12:00-20:00
【定 休 日】 不明

P.S.

 1999年6月5日に書いたレポートのリライトです。

P.S.2.

 一日数食の限定。子供連れは不可。女性は生足不可。パンスト、もしくはソックス着用のこと。

観覧車の見えるバーにて(マダム&ムッシュ、Gallaxy)

2004年12月13日22:06
 脳を活性化させること。そのためには、感動すること、好奇心を持つこと、健康であること、恋をすること…。
 
 HEP FIVEの屋上に観覧車が居座るようになった。観覧車は大阪のランドスケープを大きく変え、同時にデートコースに組み込まれた。けれども本当にクールにやろうとするならば、観覧車に乗るのではなく、観覧車の見えるバーで彼女を口説くべきだとメンソールは思っている。阪急グランドビルは、観覧車とちょうど良い位置関係にあるので、例えば『ワインバー』や『Wansa Kansa』からも観覧車を見ることができるが、ロケーションとしては今一の感がある。新梅田シティーの展望台という手がないではないが、残念ながら観覧車を真横からしか見れないため、やや迫力に欠け、ここ一番のデートに使うには辛いものがある。それにここ一番のデートがいつも夏とは限らない。真冬にこの展望台はちょっと寒いし、雨が降ることも考えておかなければいけない。観覧車は正面から見たい、そして決めのデートに使えるバーという条件をインプットして検索をかけると結局三軒しか残らない。北浜の『バー・リパリウス』、名前は忘れたけどホテル阪急インターナショナルのバー、そしてもう一軒は十三にある。
 
 昔、新神戸オリエンタルホテルのバーで、マティーニに一家言持つバーテンダー北国氏から、直々に二種類のマティーニを作ってもらったことがある。そのときに見た夜景は印象的だった。勤務先を変わる前には、弁天町の三井アーバンホテル大阪ベイタワーのスカイラウンジ『エア・シップ』から見た夜景は、それまでの、郊外の山間から、遠く離れた都会の夜景を見るのとは違った感激があった。それ以上に感動したのはWTCコスモタワーの55階にあるバー『ベイ・ルースト』からのものだった。同時に、このバーを決めのデートに使ったら、やっぱり決めの夜はハイアット・リージェンシーだろうなと考えて、自分の財力のなさを嘆いたもんだった。このバーで夜景を見た後、OTSに乗って移動し、天王寺都ホテル…ではちょっと寂しい。

 この日メンソールは庄内に行く用件があった。庄内には、もと阪急ブレーブス福本豊選手の実家の中華料理屋があるが、しばらく行かないうちに焼鳥屋になっていた。多分引っ越したんだろうと思う。メンソールは十三へとって返し、観覧車の見えるバーを目指した。十三では東側の出口を出て、そのまま淀川を目指す。予備校の角を曲がると一階がギャラリーになったビルが目にはいる。ギャラリーの反対側にはフレンチレストランがあったはずだが、名前が変わっていた。ひょっとしたら少しカジュアルなイタリアンレストランに鞍替えしたのかもしれないし、あるいはオーナーが変わったのかもしれない。正面の入り口を入るとエントランスホールがあり、その奥にエレベーターホールがあるが、セキュリティーがかかっているのでそのままではエレベーターには乗れない。エレベーターホールへの扉の左手側にあるパネルから"2201"と押して、コールボタンを押す。そういえば昔、京都に暗証番号を打ち込まないと扉が開かない店があった。決して秘密結社っぽいところではなくて、ごく普通の洋風居酒屋だったんだけど、けっこう美味しかった。三年ほど前に行ったときには無くなってしまっていて、寂しさを感じたことを覚えている。エレベーターホールへの扉が開くと同時に、エレベーターもその扉を開く。メンソールは乗り込むと 22階のボタンを押した。
 エレベーターを降りてから店までは少し歩かないといけない。扉にはノブの様なものが二つついている。もちろんノブが二つあるわけではなくて、片方は飾りなんだけど、暗いのでよく判らない。ちゃんと本物のノブをつかまないと、扉を開けるときに苦労するので注意しよう。店内はやや天井が低いように感じられるが、グレーを基調としている。テーブル席は全部で20席くらいだが、ゆったりと間隔を開けて配されているのでサロンといった趣がある。カウンターはそれほど大きくなく 6席くらい。残念なのは、カウンターに座ると振り向かないと夜景が見えないことだが、それがサロン風の作りをしている理由なのかもしれない。
 
 カウンターの左端にはMacintoshが置かれている。内装に合わせてちゃんとダークグレイ(ブラックだったかもしれない)だ。クールなデスクトップだったので、UNIXか…、と思ったくらいだったが、ちゃんとアップルマークがあった。そのMacが BGMのジャズを演奏している。昔、心斎橋に『アン・サラ・エラ・クリス』という、ジャズシンガー四人の名前を並べた店名の店があって、クォードのコンデンサー・スピーカーが売り物だったが、この Macについているスピーカーもコンデンサースピーカーかと思うくらい薄かった。その横にはやはりアップルマークのついた円筒形のものが…。察するにスーパーウーファーなんだろう。
 
 メンソールはカウンターに座るとマティーニをオーダーした。前回マティーニを飲んだのは『NOBU』というバーで、けっこうレモンの効いた美味しいマティーニを作ってくれた。メンソールは『2nd. NOBU』という店を先に知って、2nd.があるなら 1st.があるだろうと探していたら偶然見つけてしまった。場所は『Harbar Inn』の一階下。
 
 マティーニのグラスを持ったメンソールは立ち上がると、夜景が見えるテラスへと歩いていった。しばらく店内で外を見ていたメンソールは、ちょっとだけ身体が震えた。『エア・シップ』も『ベイ・ルースト』も足下に広がる市街地を眺める感じになるが、ここからの夜景は大阪市内を同じ目の高さに感じることができる。ミニチュアのように見えるのではなく、しっかりそこに存在するものとして感じることができる。メンソールはテラスへの扉を開けて一歩踏み出した。眼下には淀川が横たわり、阪急電車が橋梁を通過するたびに、心地よい振動が耳を刺激する。メンソールは考えた。今度は恋する彼女と二人でここへ来ることにしよう。恋することと感動すること。恋する彼女と、感動を与えてくれるシチュエーション。どちらもメンソールの脳を活性化させてくれるはずだ。

 カウンターに戻ったメンソールは二杯目のカクテル。メニューには日本酒カクテルがいくつか書かれていたので、それをオーダーする。カクテルの名前は吉野という。使った日本酒は小鼓。これにカシスを加え、トールグラスでオンザロックにしたもの。キールの変形だと思うが、日本酒の香はちゃんと生きていて、カシスの香りもさわやかだった。ちなみに一番高いワインは\78,000-だった。知らないワインだったけど、ドメーヌ・ド・ロマネ・コンティーと書いてあった。その下にはシャトー・マルゴー。なんと\30,000-以下のワインがない。もちろん\1,000-のデキャンタ・サービスというのはあったけど…。
 
 ベストなスポットではないけれど、淀川花火大会の日には、予約が殺到してるんじゃないかと思う。穴場なので、二人きりになるには良い店だと思う。値段はちょっと高い目かな。


【店  名】 Galaxy
【ジャンル】 バー(Bar & Sky Lounge)
【電話番号】 06-6301-9506
【住  所】 大阪市淀川区十三東1-20-3 グランビュー大阪22階
【営業時間】 19:00-25:00
【定 休 日】 無休
【そ の 他】 http://www.roy.hi-ho.ne.jp/popbox/

 
 
 メンソールはいったん庄内に戻る。そして房代と会った。彼女は少し前、『一(はじめ)』にいった頃から急に綺麗になったように思う。多分恋をしてるんだろうと思うけど、同時に彼女の、「結婚したらメンソールとは付き合えへんから…」という言葉を思い出して、悲しくもなった。ハーブの香をまとった房代が「ビールが飲みたい」と言う。それなら…、とメンソールは再び十三へ。十三は良く知らないんだけど、居酒屋道場があるはずだ。銀行の手前を曲がると居酒屋道場の看板が見えるが、その手前で房代は立ち止まる。その視線の先には看板があり、その看板には『マダム&ムッシュ』と書かれていた。そうか、ここにあったのか…。
 
 『マダム&ムッシュ』はビストロのようなものだとメンソールは思っていた。入ってみるとかわいらしい作りの店内で、入ってすぐ右手が、オープンキッチンにはなっていないが、キッチンがある。その奥の右手にはカウンター 6席、左手側にはテーブル席があり、こちらは22席。店に入るとすぐにエスコートの女性が対応してくれた。カウンターに座るかテーブル席を取るかをしばし悩む。悩んだときには聞けばいいという主体性のないポリシーを持っているメンソールは、エスコートの女性に、どちらがお薦めかと訪ねると、奥のテーブル席に案内してくれた。
 
 「カウンターの中もフロアも全員女やで。メンソール好みの店ちゃうか…」と房代がさっそく茶化す。「キッチンにおるシェフは男やろが…」と反論するが、なんか虚しい気がしないではない。メニューはフードメニューとドリンクメニューの二種類がある。ドリンクメニューで目を引くところはビールの取りそろえが多いこと。10種類程度だが各国のビールもある。それからカクテルが豊富。そのときメンソールは、この店はビストロじゃなくて洋風居酒屋なんだ…と気がついた。オーダーしたのはまずビール。ビールをオーダーするとビンですか生ですかと聞かれることがあって、一時期、じゃ缶ビールと答えていたんだけど、あまり受けないので最近はやっていない。
 
 フードメニューもけっこうしっかりしている。オーダーしたのは、冷茄子のバルサミコ風、鳥そぼろ春巻き、それからチーズフォンデュ。突き出しは貝柱のマリネだった。茄子はごま油の香がするので、いったん揚げてあるのだろう。バルサミコはそれほど主張せず、カツオだしの風味が感じられる。出だしは好調。二品目の鳥そぼろ春巻きも、鳥ミンチを味噌味に仕上げてそれを春巻きに仕立てたもの。チーズフォンデュは、パンの他に、ブロッコリ、カリフラワー、キャロット、ポテト、鶏肉。ポテトは皮付きなのが嬉しい。それに合わせてワインをデキャンタで頼む。チーズはかなりあっさり目で、「チーズフォンデュはやっぱりチーズが糸引かなくっちゃね」なんて言ってたんだけど、火を消すタイミングが良かったのか、うまい具合に焦げ付いたチーズをかき集めると、それはそれは美味しかった。特に鶏肉は特筆もので、ちゃんと歯ごたえがある、噛むと味があるの二拍子そろっている。けっこう良い肉を使ってるんだと思う。聞いてみると、もとフレンチのシェフなんだって。しかも作り置きはしないとのこと。そら、単なる洋風居酒屋とは味が違うわな…、と納得するメンソール。しかも女の子好みの内装やし、近くにはラブホもあってムフフなロケーションである。
 
 「メンソールのこと、なんでこんなに好きなんやろ」と彼女がぽつりと言った。「結婚するんだろ」とメンソールが言うと、「そんなん、いつになるかわからへん」と答えた。彼女が来月にでも結婚するなら、メンソールはすっきりあきらめることもできるだろう。いつになるか判らない、けれどいつか彼女をさらっていく男がいる。そう考えると無性に寂しくなる。メンソールは彼女を送って行くと、そんな寂しさを振り払うかのように家路を急いだ。
 


【店  名】 マダム&ムッシュ
【ジャンル】 洋風居酒屋
【電話番号】 06-6390-1449
【住  所】 大阪市淀川区十三本町1-7-4 プラザパオ一階
【営業時間】 11:00-15:00、17:00-23:30
【定 休 日】 無休

  
P.S.
  1999年6月10日に書いたレポートのリライトです。

結婚したら(Pappara)

2004年12月13日21:58
この世の悪という悪には、打つ手があるか、あるいは打つ手がほとんどない。もし打つ手があれば、とことん探すこともしなければ、そんなのは気にしないこと

 サンドラ・ブロックとニコール・キッドマンの二大女優が競演する映画、『プラクティカル・マジック』の原作本の冒頭に掲げられているこの文句は、マザーグースのものである。原作者のアリス・ホフマンはメンソールよりも9歳年上なんだけど、そうとは思えないくらい童顔のかわいいというのがぴったり来るような女性で、どことなく歌緒留に似ていたりして、メンソールの好みだったりする。
 
 性格の違う姉妹をモチーフにして、魔女伝説と恋愛小説をミックスしたようなストーリーなんだけど、タイトルの『プラクティカル・マジック』がどういう意味を持っているのかは映画を見てのお楽しみということで....。
 
 「私、結婚したらメンソールとはつきあわへんからね....」、房代が言った。青天の霹靂、ゴジラの咆哮の様に聞こえたメンソールは、「えっ、どうして....」と聞き返そうとして、房代の言葉が、突然のものではないような気がしてきて、止めた。「そうか....」と口では答えつつ、「そうだろうな....」と心の中で思った。房代に会ったのは今年に入ってからだったから、そろそろつきあい始めて半年になる。にもかかわらず、メンソールは房代から、色々な刺激を受け、啓発された。バーの窓にはカーテンが掛かっていて、外の景色は見えないが、犯人のアジトを監視している刑事の気分にでもなって、指先でカーテンをちょっとずらしてみれば、そこには人通りの多い天神橋筋商店街が横たわっている。
 
 二日前、メンソールは房代から「玉一ぃ〜」と言われた。そしてこの日、再び「メンソール、玉一ぃ〜」と言われた。説明するまでもないと思うが、『玉一』は天満にある有名韓国料理店で韓国料理店で、安いし、旨いし、ボリュームはあるしで、文句の付け所がない。慢性金欠病のメンソールでも『玉一』ならいける。
 
 房代とは、地下鉄天神橋筋六丁目の一番出口で待ち合わせた。メンソールは梅田から歩いていった。多分間に合うだろうと思ったのだが遅刻してしまった。待ち合わせ場所までは後5分くらいかかるだろう。メンソールは房代に電話して、『玉一』までの道を教えた。多分『玉一』の店の前で会えるだろう。でも『玉一』は人気の店だ。果たして空席はあるのだろうか....。
 店に到着するとカウンター五席だけが空いていた。腰を下ろすと早速ビールをオーダーした。他には生肝、水キムチ、蒸しとん足、カオリフェ。いつもながらの素早いサービングで、乾杯する暇もなくむさぼりにかかる。メンソール、食べんの早いから....と房代は言うけど、これでもかなり遅くなった方なんだよ。それでも美味しいものに出会うと食べるスピードはいつもより速くなってしまう。
 
 「メンソールに会えて嬉しいよ。何より世界が広がったし....」と房代が言う。そう、それならメンソールも嬉しい。
 
 注文した品々が一気に並ぶので、カウンター席ではちょっと窮屈だ。後ろのテーブル席では女性客8人のグループがいたので、「メンソール、女ばっかりやで....。私は帰るから、メンソールは仲間に入れてもらい....」なんて言われたりもした。房代と言うのは不思議な女だ。
 
 「メンソール、満腹なんやけど、ちぢみも食べへん」と房代。良いよと答えたメンソールはビールをもう一杯お代わりし、半分を房代のジョッキに移した。ちぢみは、それ本体も美味しいけど、タレが美味しい。結局料理五品と、生ビール三杯で、 \4,900-。超リーズナブルだ。

 メンソールは、『玉一』から少し離れたところにあるバー『PAPPARA』へと河岸を移す。JR天満駅以南よりは活気に欠けるとはいえ、天神橋筋商店街に面してこんなバーがあると知る人は少ないのではないかと思う。一階はブティックのような店なんだけど、『閉店サービス』とかで、バーゲンをやっていたので、ひょっとして二階のバーまで閉店してしまうんじゃないかと思ったりしたこともあった。
 
 ちょっと急な階段を上りきったところの、右手側の扉を開ける。店内は薄暗く、その雰囲気は、西部劇に出てきそうなバーだ。カウンターバックには木製の五段ぐらいもあるラックがおかれていて、200本以上のボトル類が整然と並べられている。少し違うのは、ボトルの首にワンショット分の値札がついていることだろうか。
 
 メンソールはバーボンのソーダ割、房代はスコッチのソーダ割りだった。カウンターに座ってしばらく話をしていると、房代の冒頭の発言となった。「メンソールはね、女好きなんだけど、遊び人じゃないのよ。そこがメンソールの抜けてる部分であって、魅力でもあるんだけど....」と房代がいう。(女好き)=(遊び人)という公式が房代の中にはあるようだけど、房代がいうとおり、多分メンソールは『遊び人』にはなれないと思う。

 バーテンダーはまだ20代くらいの男性で、服装はラフだが、逆にこの店の雰囲気では蝶ネクタイは似合わないだろう。メンソールの二杯目はラフロイグ。ラフロイグの香は、正露丸に似ているという人もいるし、ラスサンプーチョンという中国茶に似ているという人もいる。ほとんど空のボトルだったし、特有のスモーキーなフレーバーはかすかに嗅ぎ取ることが出来る程度だったけど、嚥下した後の戻り香は多少力不足は感じるが、健在だ。
 「『アルファ』へ行くようになってね、少し洋酒のことが判るようになったのよ」という房代のために、メンソールは、バーボンと、コーン、シングルモルトとブレンデッドをテーブルの上に並べて、房代と一緒に飲み比べた。話はスコッチウィスキーのスモーキーフレーバーの話から、ニッカの社名の由来。ニッカの工場に住むと噂される魔物の話、なぜニッカがシールドルが得意なのかについて....。それから二人のこれからについての話になった。
 
 ふとカウンターをみるとトマトジュースの缶が目に付いた。「ブラッディーマリーとか好きじゃない」という房代に、本来はクラマトで作るカクテルなんだけど、日本では入手できなかったので、代替えとしてトマトジュースを使ってたんだ....と教える。「クラマトを使ったブラッディーマリーは、めちゃくちゃ美味しい」とメンソール。確かに初めてクラマトを使ったブラッディーマリーを飲んだとき、メンソールはブラッディーマリーというカクテルに対する認識を改めざるを得なかった。それくらい美味しかったし、ショックだった。「じゃ、今度飲みにつれていって」と房代。
 
 昔梅田に『バーボンハウス』というライブハウスがあった。メンソールはアーリータイムズをキープして、ステージ横のカウンター席に陣取ったものだった。このバーは、今は無き『バーボンハウス』のイメージを残している。『バーボンハウス』ほどは広くないけれど....。メンソールは『アーリータイムズ』をオーダー。昔と同じソーダ割。学生時代に経験した懐かしい香。「メンソールはね、私の弟なのよ」と房代が言う。びっくりして房代を見上げると、「前世の話よ」と房代が続けた。
 
 そうなのか....。メンソールの心の中で何かがはじけたような気がした。懐かしいアーリータイムズ。そのソーダ割りの味と香。一緒にいるとなぜか不思議な感じがする房代という女。そうか、両方ともメンソールにとっては懐かしいもんなんだ。でも、もしそうなら、房代は結婚してしまっても、やっぱりメンソールの姉であることには変わりないことになる。メンソールの最後のオーダーは『ティフィン』という紅茶のリキュール。甘くて渋い味は、今のメンソールにはぴったりかもしれない。

 今日は帰るのか....。と聞くと、房代はうなずいた。大阪駅の構内で、房代と別れるとき、寂しさという名のすきま風がメンソールの心に吹き込んできた。メンソールはふと思った。『プラクティカル・マジック』。マジックというのは魔法、魔術のことだ。プラクティカルというのは....。メンソールは考えるのを止めた。プラクティカルだって....。そんなことがあるんだろうか.....。


【店  名】 PAPPARA
【ジャンル】 バー
【電話番号】 06-6352-1699
【住  所】 大阪市北区天満橋6-5-9 21STビル二階
【営業時間】 19:00-25:00
【定 休 日】 無休
【そ の 他】 全28席


P.S.
 1999年6月6日に書いたレポートのリライトです。
Comments
  • ライブドアブログ