2018年08月19日

#『魔法雑貨店の秘密』(小説)

 以前、カクヨムの『日帰りファンタジー』という短編小説コンテストに参加した作品です。カスリもしませんでしたがw  1万文字弱の作品です。興味のある方はどうぞ。一人称現代ファンタジーです。


 東京からほど近い県にある、寂れた駅前商店街。
 
 その一角に、『魔法雑貨店』という名の小さな雑貨店があった。

 僕、宮永諒也(みやながりょうや)はその店の従業員である。昼間は僕しか従業員はいない。というか

、そもそも、ここはフルタイムいる必要すらない店なのだが……。

「諒也君、お疲れ様。今日はお客様は来たかね?」

 初老の紳士が、店をキョロキョロと覗きながら言う。

 彼は、この店のオーナーであり店長の江藤和臣(えとうかずおみ)。普段は、輸入雑貨を扱うそこそこ

大きな会社の会長をしている。一週間に一回くらいのペースで、店に顔を出している。

「オーナー、お疲れ様です。今日もお客様は来てませんよ。あっ、以前から不思議だったんですけれど……」

「ん? 何だね?」

 オーナーは下あごの白い髭を弄びながら、僕の話を聞いていた。

「失礼な質問で申し訳ないのですが……、ここの売上って、月でも10万くらいなんですけれど……えーと、経営とか大丈夫なんですか?」

 ちなみに、オーナーが会長を務めている会社は、年商50億と言われている。10万なんて、はした金なのかもしれない……。だからこそ、余計、この程度の売上しかない店を経営し続ける意味が分からない。

 そんな仮にも平の従業員である僕のぶしつけで生意気な質問を、オーナーは鷹揚に笑い飛ばした。

「君が心配する事はないよ。この店は、完全に私の趣味だからね。それとも、君には滞りなく、ちゃんと給料を払っているつもりだが、足りないかね?」

「い、いや、とんでもない! 逆にこんなにもらっちゃって申し訳ないくらいです……」

 恐縮のあまり、語尾が小さくなった。

 確かに、ここの給料が滞った事はない。とはいえ、毎日閑古鳥が鳴いている店で働いて、一般企業並みの給料をもらっているという事実は、僕にとっては、少々居心地が悪い。

 オーナーはそんな僕の顔を見て、微笑んでいる。このオーナー見ていると、昔に流行ったスポーツ漫画の監督を思い出すんだよな。

「諒也君は非常に真面目だね。3年もこの店で働いてもらって欠勤もないし。よし、そろそろこの店の『秘密』を明かす頃合かな」

 この店の『秘密』……確かに、僕も少し不思議に思っている事がある。

「もしかして……オーナーがたまに仕入れてくる、この手品道具ですか?」

 僕は棚に陳列されている中にある細い杖を手に取った。軽く振ると、星屑が舞うように見える。

「手品……か。いや、君はこの店の名前を知ってるだろう?」

「そりゃ、もちろん。自分の勤め先の名前忘れるなんてありえませんよ。『魔法雑貨店』ですよね?」

「ああ、その通り。この店は『手品雑貨店』じゃないよ。『魔法雑貨店』だ」

 オーナーは、ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべた。


 『魔法雑貨店』という店名は、正直、最初聞いた時は捻りもなくてイマイチだなって思っていた。きっと、手品用品を置いていたり、魔法のように便利なアイデア雑貨を売っているからかなと勝手に解釈していた。

「さて、諒也君、さっき君が振ったこの杖だが……どんな原理で星屑が出ていると思うかね?」

 オーナーは、さっき僕が持っていた杖を受け取って、軽く杖を振っていた。やはり、さっきと同じように星屑が舞うように見えた。

「えーと、電池の力で、杖の先から電気が光って……」

「これ、電池を入れる場所ある?」
 再びオーナーから返された杖をまじまじ見ると、杖が細すぎて電池を入れる場所もなかった。

「えーと……ああ、そうそう、充電式ですか?」

「充電の差込口はあるかね?」

 僕は、杖を隅から隅まで触ってみたが、どこにも差込口らしき所はなかった。

「種も仕掛けもない。これが『魔法』だよ、諒也君」

 少々、ドヤ顔になったオーナーを僕は唖然として見ていた。

 でも……僕はせっかくのオーナーのドヤ顔に素直に頷く事は出来なかった。

「仮に魔法があるとしますよ。普通、魔法って、杖を使う人の魔力がないとダメですよね? 僕は当然ながら魔力なんてありませんよ」

「これは、魔法使いが魔力を注入して作った杖。当然ながら、永久に星屑は出ないよ。使い捨て型のオモチャ用に作られた物だ」

 オーナーは、まるで商品のプレゼンでもしているかのように淡々と説明した。

「えーと……申し訳ありません。魔法使いってどういう事ですか?」

「魔法使いは魔法使いだよ。読んで字の如く、魔法を使う人だよ」

 そんな事くらいは分かっていると、のどから出かけた言葉を止めた。

「……やはり口で説明しても無駄か。諒也君、今晩、ある所に魔法商品の仕入れと、一般雑貨の納入に行くんだが、一緒に行くかね?」

「は、はい、是非!」

 いつも知らない間に、オーナーが仕入れてくる先程まで『手品』道具だと思っていた商品。何処で仕入れるかはもちろん興味がある。

「灯凛が帰って来たら、出発するぞ。だが、1つだけ約束してくれ」

「何でしょう?」

「仕入れ先で見聞きした事は、他言無用だ。私は君を信頼して連れて行くのだからな」

 いつも穏やかなオーナーの目が急に鋭くなった。僕は驚いて頷く事しか出来なかった。
 


 オーナーが『灯凛』と呼んでいたのは、オーナーの孫娘で江藤灯凛(えとうあかり)大学生だ。

 僕が17時まで店番をして、彼女が18時から19時閉店まで2時間だけ店番をする。

 お客さんは昼間同様、ほとんど来る事はないのだが、オーナー曰く、おこずかいをあげたいあまりバイトさせているのだとか。ただでおこずかいをあげると、彼女の両親、つまりオーナーの息子達が文句を言うからだと言う。

 孫に甘すぎるお祖父ちゃんは困ったもんだな。僕にもそんな祖父が欲しいが、残念ながら他界している。

「諒也さん、お疲れ様! あっ、お祖父ちゃんも来ていたのね。もしかして、例の場所に行くの?」

 灯凛の目が爛々と輝いている。

 ちなみに、灯凛は大学生……という割には非常に小柄で、どう見ても、高校生または中学生にしか見えなかった。それを言うと、空手三段の彼女の蹴りが飛んでくるので、決して言わない。

「ああ、今日は諒也君も連れて行く」

「マジで? いいなーいいなー後で感想を聞かせてね」

 雑貨屋の商品仕入れに行く場所に、そんな目を輝かせる要素はあるのだろうか……。

「私も連れて行って欲しいけれど、ダメなんだって。つまんないの」

「何が起こるか分からないからな。危ないから灯凛はダメだ」

 孫に激甘なお祖父ちゃんは、眉間にシワを寄せた。

 というか……何が起こるか分からない危険な場所ってどういう事だ?
  
 僕の不安げな顔を察したのか、オーナーは表情を緩めた。

「ああ、脅かしてすまないな。あの場所はそんなに危険ではないのだが、念の為だ」

「はぁ……僕、大丈夫でしょうか? そんなに運動神経はあまりいい方じゃないんですけれど。多分、空手三段の灯凛ちゃんよりもひ弱ですけど……」

 すると、オーナーは力強く僕の肩を叩いた。

「大丈夫、大丈夫。何かあったら私が守ってやる」

 どうせ、守ってくれるなら灯凛ちゃんの方がいいんだけれど。いや、女の子に守られるっていうのは、もっとダメな男か……。

 
 『魔法雑貨店』がある商店街より、オーナーの高級車に乗せてもらい、僕は謎の仕入れ先とやらに向かっていた。

 手品……いや、『魔法』だったか。魔法使いのいる世界に行くって事なのだろうか?

 僕は、ファンタジー世界を題材としている漫画や小説は好きで良く読んでいる。だが、それはあくまでもフィクションであって、僕自身が巻き込まれるとは思ってはいない。

 そもそも、このオーナーはそこそこ大きい企業の会長さんだ。今も、バッチリ海外の有名ブランドの高級スーツに身を包んでいるし。この状況の何処にファンタジーの要素があるか、僕は問いたい。経済誌には出てくるかもしれないが、間違いなくファンタジー小説には出てこないだろう。

「もしかして、さっき脅した事がまだ怖いのか? 大丈夫、大丈夫、ただの商品の仕入れと納入だから

。街を出る事はないので危険はない」

 ああ……もしかしたら、本当にファンタジーなのかもしれない。どうせ一緒に転移するなら、スーツに身を包んだオジサンよりも……いや、まぁいいや。


 車で20分ほど走らせた後、ようやく車が止まり、街外れの小さな森に着いた。

「うわあ、いよいよファンタジーっぽくなってきましたね」

 僕は、既に開き直って……いや、精神は崩壊寸前である。もう何か起こるなら、起こってみやがれ。

「これから行くアムレートという場所は、ファンタジーという架空ではなく、現実の『魔法雑貨店』にとって大事な土地だぞ」

 いや、だから……アムレートって何デスカ? 聞きようによっては、普通の会社名にも聞こえるけれど。聞こうと思ったが、声が出なかった。しかし、察しの良いオーナーは僕の考えている事などお見通しのようだ。

「魔法王国アムレート。ああ、もちろん日本ではないぞ」

 うん、日本に魔法王国があるなんて本気で言ったら、間違いなくオタクで厨二病だと思われる。

「……いや、もう覚悟は出来ました。オーナーは信頼の出来る方です。きっと何か訳ありなのでしょう」

「確かに私が魔法王国アムレートと関わりを持つようになったのは、訳ありだな。しかし、それを話すと長くなるので、また今度な」
 
 オーナーはそう言うと、森の中をライトを照らしながら進んでいった。

 10分ほど歩くと、急に道が開けて、狭いが広場のような所に出た。オーナーは革のカバンから、一本の杖と古い書物を出した。そして、地面に何やら紋章のような物を描き始めた。

 あれだよね、間違いなく魔法陣だよね? 

 オーナーが呪文のような物を唱えると、魔法陣?と思われる紋章が光りを放った。

「さあ、諒也君。行くぞ、魔法王国アムレートに!」

 まるで魔物でも倒しに行くように意気込んでいるオーナーには悪いけれど、確か、僕達は仕事で商品仕入れに行くんだったよな……。

 
 魔法王国アムレートは、予想通りのファンタジー世界だった。

「ぼ、僕達、随分浮いているように感じますが、大丈夫ですか?」

 オーナーは先程も言ったが、外国の有名ブランドの高級スーツ。僕はというと、黒いポロシャツにGパン姿だった。いや、『魔法雑貨店』に服装規定はないので……。

「大丈夫だ。少なくとも服装だけで差別して襲い掛かってくる人はいない」

 目を縦横に張り巡らせると鎧を纏った戦士風の人もいたし、町人風の麻のような生地で仕立てられた簡素な服を着ている人もいた。

「ふう……何かゲームの世界にでも来たみたいですね」

 素直に感想を述べると、オーナーはちょっとしかめっ面になった。

「先程も言ったが、ここはファンタジーのような架空ではない。もちろん、ゲームオーバーもリセットもないからな」

 というか、僕の身はオーナーが守ってくれるんじゃないの?

「ご、護身用のナイフでも持ってきた方が良かったんですかね?」

「君は生真面目だな。冗談のつもりだったんだが……大丈夫だ、ここは日本と同じくらい安全だからな。変な行動さえ取らなければ平気だ」

 僕、さっきからおのぼりさんみたいにキョロキョロしているから、充分に挙動不審だと思うけれどな。

 オーナーは、僕の背中を軽くポンポンと叩いた。

「もうすぐ、目的地に着くから安心しなさい」

 環境が違う所で安心なんかは出来ないのだが、確かに道歩く人はみな穏やかでニコニコ笑っていたので、多少の警戒は解けた。

 そんな事より、歩く度に羨望の視線と共に、『カズオミ様』という単語が嫌というほど聞こえてくるんだけれど……もちろん、僕の隣にいるオーナーの事だよな? オーナーはこの世界では有名人という事だろうか?

  
 仕入れ先というのは、何やら豪奢な宮殿のような場所だった。

「カズオミ、良く来たな。待ってたぞ」

 オーナーに声を掛けた人は、街の人よりも上質なローブを身に着けていた。いかにも『偉い人』オーラを身に纏っている。   
「エーヴァルト、いつも忙しいところすまんな」

 エーヴェルトと呼ばれた『偉い人』とオーナーは固く握手を交わしていた。

「とんでもない、それはこっちのセリフだ。おや、そこにいる若者は誰だ?」

「ああ、向こうの世界で『魔法雑貨屋』の従業員をしてくれている諒也君だ。今回初めて連れて来た。色々不慣れなので、大目に見てやってくれよ」

 すると、エーヴェルトが歩み寄ってきて、ぎこちない笑顔で握手を求めて来た。顔はいかつい感じで『偉い人』オーラを醸し出していたが、思ったよりも温和な人のようである。
「私はエーヴェルトだ。よろしく頼む。アムレートでは王宮召喚師をしている。何年か前にカズオミをここに召喚したのは私だ」

「は、はぁ……宮永諒也と申します。よろしくお願いします」

「ミヤナガリョウヤ? 随分長い名前だね」

「あっ、別にミヤナガでも、リョウヤでも構いません……」

 そもそも、何故日本語が通じるのだろうという疑問はあったが、この際いいだろう。

 挨拶も済んだ頃、オーナーは、持ってきたアタッシュケースから、うちの店の商品をいくつか取り出した。

「ほほう、これは何だね?」

 エーヴェルトは、物珍しそうに着火式ライターを手に取った。

「これは、このトリガーを引くと……」

「おお! 呪文を唱えていないのに炎が出たぞ! さすが、カズオミ。今回も凄い物を持ってきてくれたな」

「気に入ってくれたかね?」

 オーナーの言葉に、エーヴェルトは満足気に頷く。

 着火式ライターでこんなに驚くとは……魔法王国というからには、全く機械文明がないのかな? というか、確かにファンタジー世界で着火式ライターとかあるようには思えないけれど。

 
 エーヴェルトは、初めて来た僕の為に宮殿の内を案内してくれた。
 オーナーは勝手知ったる何とやらという感じで、スイスイと歩いていた。僕は最初に来た時とまだ同じくキョロキョロと視線が忙しい。

 着いた部屋の中には棚があり、僕も見知っている『魔法雑貨店』の一般雑貨が並べられていた。どうやら、ここは納入した商品の在庫倉庫のようだ。部屋の中には、少女がいて棚をせっせと整理している。
 それにしても、どう見てもファンタジー世界なのに、アルカリ電池があったり、セロテープがあったり、コレジャナイ感が半端ない。

「リザ、こっちに来なさい。今日はカズオミが連れて来てくれた初めてのお客さんがいるぞ」
 エーヴェルトに呼ばれたリザという名前の少女は、作業をしていた手を止めて、僕達の方に小走りで来てくれた。まだ15才くらいといったところだろうか? 

「は、初めまして……私、リザといいます」

 この子も日本語喋ってる! それにしても、人見知りなのだろうか? エーヴェルトの影に隠れるように一歩下がったところで、ちょこんと頭を下げた。

「初めまして、ええっと、僕はリョウヤだよ。よろしくね」

「リョウヤ……? 変わった名前ですね」

 首を傾げて、リザは僕の顔をしげしげと見つめた。

「リョウヤは、カズオミと同じ世界から来た人なんだ。だから、ちょっと変わっているのかもしれないな」

 エーヴェルトの説明にうんうん頷いて、ようやくリザは少し笑みを浮かべた。

「カズオミ様と同じ世界! この便利で面白い物がある世界の方なんですね! うらやましいです」

 面白い……アルカリ電池やらセロテープのどこがって思ったけれど、僕が魔法の杖を珍しがるのと同じ心理なんだろう。

 リザは再びちょこんと頭を下げたと思ったら、棚の方に戻って作業を再開させていた。

「諒也君、君も気づいていると思うけれど、ここ魔法王国アムレートは『魔法雑貨店』の大事な取引先だ」

 いや……取引先があるなんて話は聞いてないけれど。しかも、日本ではなく異世界に。

「店舗はあるんですか?」

「ああ、露天形式だけれどな」
 驚く事がてんこ盛り過ぎて、もう受け入れるしかない。さっき、自分で言ったけれど、オーナーは信頼出来る人なのだ……多分。

「……一応ですね。どうしてこの世界に来る事になったか理由を聞いてもいいですか?」

「長くなるんだがな。まあ、かいつまんで話すか……」

 オーナーが下あご髭をいじりながら言いよどんでいると、横からエーヴェルトが割り込んだ。

「それなら、私が教えよう。そもそも、私のせいでカズオミがこの世界と関わる事になったのだからな」

 エーヴェルトは、僕にこういう疑問をぶつけられるのを予想していたのか、一冊の本を僕に差し出した。


『魔法王国アムレートの災厄と救済』
 
 またもや、日本語で書かれている本である。ファンタジーのご都合主義で片付けてもいいかどうか判断に迷うところだった。
 僕は本を手に取り、読み始めた。   
 要約すると……ここ魔法王国アムレートは、生まれつき、膨大な魔力を持った住民が集まる国で、戦闘だけではなく生活の中にも魔法は欠かせない。

 料理をする時の炎は自分で出すし、暑ければ魔法で冷気を纏う。そんな生活が当たり前だったので、機械文明というものが発達する訳がなかった。

 しかし、ある時、アムレートの民達が持つ膨大な魔力を狙う、凶悪な魔道士デルフィーノが現れた。

 デルフィーノは、他人の魔力を吸収する能力の持ち主だった。最初は民に成りすまし、段々と民から魔力を吸い上げていった。魔力を吸い上げた魔道士は、身体が膨張し、巨大魔物への変化した。

 アムレートの民達の魔力は、ほぼ底まで吸い上げられ、現れた巨大魔物。

 魔法王国アムレート始まって以来の『災厄』として、王国を治めるアレクシス王は、王宮召喚士であるエーヴェルトに相談した。エーヴェルトは、古の書物より、異世界より王国を救う救世主を召喚する方法を得て、召喚するが……。

 呼び出された異世界の救世主エトウカズオミは、戦う力を持たない普通の人間だった。

 万事休すと誰もが思った時……、巨大魔物へと変化してもなお、民の魔力を吸い続けていたデルフィーノの身体に異変が起こった。民の魔力はあまりにも膨大で、巨大魔物となった身体でも受容出来ないほどだった。身体は膨れ上がり、そのまま破裂するように消滅してしまった。

「つまり、アムレートの人達の魔力を吸うだけ吸って、勝手に自滅したって事ですか? ちょっとマヌケですね……」

 僕は書物を読んで率直な感想を述べた。いや、だって、これから王国を滅びの道へと導こうと思ったのに、魔力を全て吸い取ろうとしたんだろう。欲深いラスボスなんてそんなもんだ。

「終わってみれば……な。当初、私は本気で召喚が失敗したと思い、国が滅びると絶望をしていたんだ」

 エーヴェルトは表情を曇らせて、俯いてしまった。オーナーが責めるような視線をこちらに向けているのが分かった。

「あ……いや、すみません。そんなつもりじゃなかったんです! 魔物がマヌケだったせいで、王国が滅びなくて本当に良かったって意味ですよ」

「ああ、いいんだ。事実、こうして王国は滅びず、民は元気に暮らしている。この救世主カズオミのおかげでな」

「え、さっき『召喚は失敗』したって……」

 魔物は自滅して、王国の危機は無事去った。戦う力がないオーナーが救世主ってどういう事だろう?

「アムレートの『災厄』はむしろ、魔道士デルフィーノが消滅してからだった。奴の吸い上げた魔力は、身体が消滅しても民の元には戻らなかったのだから……」

「な、なるほど……」

 書物には、魔法王国アムレートは、戦闘にも生活にも魔法が欠かせないと書いてあった。機械文明が発達していない国でどういう事が起こるか想像に難くない。   
「そこからが、救世主カズオミの出番だったって訳だ」

 エーヴェルトの言葉にやや恥ずかしそうに、はにかむオジサンが1人。やっぱりビジネススーツのせいで、ファンタジー世界の救世主には見えなかったが……。


 オーナーは、アタッシュケースの中の着火式ライターをもう一度取り出した。

「この世界では炎は魔法で出す物だった。しかし、私達が住む日本には魔法なんてものはない。しかし、炎は出せるんだ。そう、こんな100円か200円で買える物でな」

 オーナーは、ライターで何度も炎を出しては消していた。確かに、僕達は炎をどうやって出すのか原理が分からなくても当たり前のように炎が出せる。

「紙を切るハサミ、肉や野菜を切るホウチョウだったか。我々が今まで魔法で処理していた事を、呪文なしで出来る神の道具をカズオミは、我が国に持ってきてくれた」

 まるでエーヴェルトは子供のように目を輝かせながら言った。紙を切るのも魔法でしていたとか……。この国の人はどんだけ魔法に依存してきたんだ。そりゃ、ただの雑貨でも神の道具に見えるだろう。

「カズオミがいなければ、我々はどれだけ不便な暮らしを強いられていたか……それどころか、生死すら怪しかったかもしれん。魔法に依存し過ぎていた我々は、獣肉を手に入れる手段すらなく、それどころかその肉を切る事も出来なかったのだからな」

 僕は頷きながらも、ふと腑に落ちない出来事を思い出した。

「あっ、でもうちの店にある魔法商品は何ですか? 確か、オーナーも『魔法使いが魔力を注入した』と」

 すると、エーヴェルトの顔色が急変した。キョロキョロと辺りを見回す。そして、先程よりも声をかなり落として言った。

「実は……民の魔力は、ほぼ全て吸い上げられてしまったのだが、あそこにいるリザだけは魔力が残っていたのだ。もちろん、その事は伏せてある。だから、リザはこの宮殿から出る事は出来ない。彼女の安全の為にな」

 魔力が残された者がいるとなると、諍いの元になるのだろう。あんな少女がその矢面に立つのは辛すぎる。

「うちの魔法商品は、全てリザが魔力を注いでくれている。もちろん、使い捨てのオモチャレベルにな」

 すると、奥で作業に戻っていたリザがちょこちょこっと歩いて、ニコニコと微笑んで、僕に何かを手渡した。

「これは、ランプ?」

 手の平に収まるくらいの小さなランプだった。花の形をしていて、全体が淡い青色の光を放っている。もちろん電源は何処にもない。きっと、魔法の力で光っているだろう。

「初めてお会いした記念にプレゼントです。しばらくは光っていると思います。切れたら、また私が魔力注入しますから遠慮なく言って下さいね」

 まだ若いのに随分と礼儀正しい子だ……それにしてもだ。

「オーナー、どうしてエーヴェルトさんもリザちゃんも、日本語が喋れるんですか? この書物も日本語だし……」

「なるほど、それはもっともな疑問だな。自分から言うのも気恥ずかしい話だが、救世主となった私の言葉は、この国では習得が義務となったのだ。誰に話しかけても日本語が通じるぞ」

 多分ポカンと口を開けてマヌケ面を晒していたに違いない。オーナーは、僕の顔を見て苦笑いをしていた。

 日本では、そこそこ大きな会社の会長。そして、異世界である魔法王国アムレールでは救世主。

 僕は……とてつもないスケールのデカイ人の元で働いているんだな。

「さあさあ、諒也君、今日は簡単な仕入れだからそろそろ帰ろう。これからは、君にも仕入れと納入を手伝ってもらうからな」

 オーナーもとい、救世主カズオミはスーツの襟を正して、照れ隠しか急かすように僕を促した。

(了)
  



miosuhara at 12:41|PermalinkComments(1)小説 

2018年08月18日

#健診 (日常ネタ)

 こんな身体ボロボロのいい年した女の健診録なんて需要あるのだろうかと思うのだが、まぁ、たまには日常ネタもいいかと思い記しておくw

 先日、健康診断に行ってきた。

 会社で義務化されているので、受けざるを得ないのだが、9月までに自分で病院に予約取らなきゃならんのでメンドくさい。しかも、9月過ぎて予約を取った場合、全額自腹となるという罠まで仕掛けられている。恐るべし……。

 正直、健診なんて憂鬱なだけだ。若い頃はオールAの健康優良児だったが、今やD2という最低評価をもらうまでに身体がボロボロに。血圧高いわ、心臓肥大やら、胃にポリープはあるし、その他、記したくない事が色々w 別にもういつどうなってもいい身体ではあるが、健診は働いている社会人の権利(というか、強制だが)であるので、大人しく受ける。

 私の場合、生活習慣予防なんちゃらなので、項目がやたら多い。年を食えば、それだけ診なくてはならない場所が多いんだよ……。最初は採血だった。私は元々血管が細いが、いつも何だかんだで普通に採血出来るのに、今日は何と後回しになってしまった。1回刺されたのに、また刺されるのかよ……。昔、献血をしていた事があったので、注射されるのは割と慣れているが、痛いのには変わりがない。痛いのがたまらなく好きというMな変態ではないので、普通に憂鬱だったw

 ここの病院の健診は、一種類終わると、必ずカウンターに寄り、次は何処に行ったらいいか指示を仰ぐ。採血が終わった(本当は終わってないが) ので、カウンターに行き、次の目的地を聞くと、『胸のX線及び胃の検査(バリウム)』との事で、『いきなり!?』と声が出てしまった……。だって、バリウムですよ? 生活習慣なんちゃらのメインイベントとも呼べる検査を序盤にやるなんて……。

 いきなりクライマックス感半端ないwww

 胃のバリウム検査は、ハードです(白目)  まずは、胃の中を膨らませる発泡剤を飲まされるのにも関わらず、『ゲップは我慢して下さい』と無茶な事を言われる。そして、可動式の検査台の上に乗せられて、白くてまずいバリウムを少しずつ飲まされながら、まな板の上の鯉状態になり、『右向いて』だの『そのまま一回転して』だの言われたい放題。ようやく終わったと思ったら、下剤を飲まされて、バリウムを強制的に体外に排出させる。下剤が効いている間は、当然、お腹が壊れているのでもう最悪。

 そんなハードな検査を何とか終えて、後はハードというか、精神面でハードな身体測定があり、体重とかお腹周りとは、全てを見なかった事にして、その後も淡々と検査項目をこなしていく。

 診察の時に、聴診器で音を聞かれた時に『貧血の音がする』とか言われたけど、貧血って音に出るの?? 

 もう終盤の頃になるとぐったり。何といっても、前夜の19時から何も食べていない訳だし。でも、体重測った後はショックで食欲もなくなったよ。

 途中、婦人科検診の辺りで、思わずあくびが出て、診てくれる女の先生と目が合ってしまい、めっちゃ笑われた。油断していた。気を付けなければ……。そーいや、待っている間は暇だったので、人間観察していたら、斎藤工にちょっと似ているイケメン先生がいたな。あと、ボブカットのやたら可愛い看護師さんも。まるで、医療ドラマのようだなーと思いながら、ぼーっと待っていたw

 最後は一番最初にNGになった採血をリベンジ。細い血管用の針で刺したら、何とか血が採れたようで何より……。何度もやり直しはさすがに嫌だ。

 12時頃、ようやく全項目終わった。健康を保つ為にする健診なのに、疲れるし、お腹痛いし、本当に最悪だ。そして、待っている間、暇なので、退屈しないように、来年こそは荷物を入れる小さなポーチを忘れないようにしなければ……(毎年思っていて忘れているw)


miosuhara at 21:07|PermalinkComments(1)日常 

2018年08月12日

#BBQ会+α

 昨日は、ゲームルームの有志が集まるBBQ会だった。

 会社のBBQ会は、親交を深めたい人などほとんどいないし、いても個人的に深めているので、面倒くさいので常に不参加。なので、10年以上前にネトゲの仲間とオフ会でやった以来だ。普段はアウトドアイベントは、ほぼ縁がない。

 とりあえず、開催場所まで電車でトコトコ移動。その間もBBQ会のLINEは準備している方達の業務連絡が飛び交っている。グループ会話って本当にこういう時に真価を発揮すると思う。今では当たり前のようにスマホをみんな持っているからこういう事が出来るけれど、携帯なかった時は、一旦外に出てしまえば、お互いに離れてしまうと連絡手段がなかったので、非常に不便だった。しかも、グループで情報を共有する事なんて出来なかったし……。つか、別にこんな事は長々と書く必要はなかったw

 新宿から目的駅に降りて、そこから同じ会の参加者さん2人とBBQ開催場所まで向かう。LINEって、みんな本名、もしくはHNじゃない名前で付けているので、いまいち分からないんだよなー。いまだにゲームルームLINEで、誰の事を指しているのか分からない方もいるし……。それは置いといてw   何とか無事に現地に到着。天気が微妙だったが、カンカン照りよりは良かったと思う。ただ、蒸し暑かったねー。肉がどんどん焼かれて、何と燻製器持参の方がいて、肉やらチーズが燻製されていく。何て上級者なBBQなんだ……。

 お肉も焼きそばも燻製チーズもめっちゃ美味しかったー。

 まぁ、ここまでは割と普通のBBQなんですけどね、何故か現れるスプラシューター(水鉄砲)www さすが、ゲームルームのBBQだと思いましたよ、ええ……。顔に掛けられる人、お尻を狙い打ちされる人、ていうか、むしろ、みんなで水鉄砲持ち寄ってリアルスプラトゥーンも面白そうだなと思ったw まぁ、下が砂利だど危ないから、場所を変えなきゃだけど。

 雲行きが怪しくなってきたので、片づけをして、帰る人と、二次会に残る人に分かれる。私は遠いし帰ろうかなと思ったけれど、こんな機会は滅多にないので、二次会にお邪魔させて頂く事に。カラ鉄に移動して、カラオケをするんだけど、ここはやはりゲームルーム。結構たくさんのボドゲを持参して、カラオケする人、ボドゲする人、更にはカラオケしながらボドゲをするという荒業もw  私も一曲だけ、サクラ大戦3の『御旗のもとに』を歌ったが、その後、延々とアニメ・ゲーム・特撮関係の曲が怒涛の如く流れるwww  私はアニメの歌は分からないし、歌に関してはJ-POPメインなので、ちょっとこの場では普通のJ-POP歌いづらいなーと思って、ボドゲに専念する事にした。

 いくつか簡単なカード系のゲームをして、以前からやりたかった『横暴編集長』をプレイ。上の句と下の句を組み合わせて、漫画・小説・映画などに使えそうなタイトルを作るのだが、一回目の時はそんなにいいのが来なかったけれど、その後は結構カードに恵まれて選んで頂く事が多かった。ひとまず、私が選ばれて、更に自分も気に入ったのは、『流されてアヒルの子』『鬼平ギャグマンガ日和』『鋼鉄ゾンビですか?』 これ面白いなー。物書きに役立ちそう(タイトル選び) またやりたいw

 最後は人狼。熱狂的なファンも多い対話型の心理ゲーム。以前、ゲームルームで見た時に面白そうだけど、めちゃくちゃ難しそう! と見学専門になろうと思って、今回も見学しようと思ったら、主催者様が、初心者にも分かりやすく、めちゃくちゃ丁寧に根気良く説明して下さった。私の役割は『村人』だったので、特に役割もなく場の雰囲気を楽しむ事が出来た。それにしても、やはりこのゲームは凄い。今回は私達の為にチュートリアル的に分かりやすくしてくれたけれど、熟練者達は言葉巧みに騙しに掛かろうとしてくる(でも、後で聞いたら、実際はむしろ私達が見抜きやすいように細工してくれたらしい) この後に中華料理を食べに行ったんだけど、その時に色々丁寧に種明かしをしてくれた。人狼は種明かしを聞くのも楽しいな。

 それにしても、アウトドアもインドアも遊び尽くしたなー久々に楽しかった。

 そして、今回のBBQで強く思った事、それは……、

 やはり、ゲームルームの強者達は只者じゃない!!

 リア充的なアウトドアもこなせて、歌も上手で、ゲーム以外のスキルもめちゃくちゃ高い……。


miosuhara at 10:42|PermalinkComments(2)ゲームルーム