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高校生が自分の未来について大学生や専門学校生と語ることができる場をつくるNPOカタリバ。一回の授業では、約40人のスタッフが学校をたずねるのだそう。人生の少し先を歩く先輩たちと話すチャンスを得ることで、高校生に進路について、自分自身について見つめる機会を提供するキャリア学習プログラム「カタリ場」を実施するこのNPOを運営するのが、代表の今村久美さんと副代表の竹野優花さん。現在では、全国の学校から授業の依頼を受けて走り回り、約4000人のボランティアスタッフを抱える活躍ぶり。創設からまさに二人三脚で進んできた2人は、仲の良い友達のようでいて、お互いを厳しい目で見つめるパートナー。そんな2人にこれまでの道のりを聞いてみました。
 

まったく違う2人が創発しあって生まれた「共通の夢」


――おふたりは大学時代に出会い、活動を始めたんですよね? その始まりはどんなものだったのですか?
 

竹野:始まりですか。始まりは、あるイベントで一緒になったという偶然の出会いでした。それまでの私たちは、過ごしてきた環境が全然違ったんです。出会った時も、それぞれ「この人は自分とは全然違う!」って思いましたね。

 

 ――それぞれが過ごしてきた環境とは?

 

今村:その環境を説明するうえでキーになっているのが、カタリバのキーでもある「進路を考える場」なんです。私は地方の高校から東京の大学に進んだのです が、当時、周囲は家庭の経済的な都合で就職するか、学力に合わせて進学するかという感じでした。そんななか、私は慶應大学SFCAO入試を受けたんです。AO入試では面接などで受験者の個性を重視して合否を決めるのでチャレンジしたら、成績は良くなかった私が実際には偏差値を20く らい飛び越えて合格したんですよ。大学では本当に刺激的な授業も受け、自分よりも意識の高い仲間たちに自分が引上げられていく感じがしていましたね。そう いう毎日を過ごすなかで、高校時代の友達もそれぞれの大学で当然そういう学生生活を送っていると思っていました。でも、ある時地元での同窓会に参加して、 そうではないっていうことを知ったんです。大学が物足りない、つまらないって話す友達が本当に多かったんです。その時に、今の教育制度って不条理だなって 思ったんです。実際、大学時代の友達は比較的リッチな家庭で教育を受けてきた子が多かったですから。もっとみんなに自分の人生について考えるチャンスが あっていいんじゃないかって。


――一方、竹野さんは?


竹 野:私のいた環境は、高校の頃からみんな自分の道は自分で決めていくという雰囲気だった。そんななかで、私は部活動ばかりに熱中していたこともあって、進 路のことや将来のこと、そもそも世の中にはどういう仕事があるのかってことすらわからなかったんです。でも、まわりが自分の道は自分で決めているように見 えて、わからないと言うことが恥ずかしいことに思えて聞けなかったんですよ。先生にもそんなこと聞くのは恥ずかしいし、友達にそんなこと話題にしたら、 「今さら?」って思われるんじゃないかみたいに思ってしまって、誰にも言えなくてとにかく勉強しとかなきゃみたいな。でも、そうすることで、考える事をな おさら先延ばしにしてしまうようなサイクルでした。結局、浪人したんですけど、それでも勉強しながら目標が定まらなかった。それで一年いろいろ考えて「学 校の先生になりたいな」って、考え始めたんです。今思ってみると、なかば決めつけたっていうか、まず人に言える目標を一個作らなきゃみたいな焦りだった。 大学受験をした時も、どうしてもここに行きたかったというわけでもなく、行けるところにそのまま行ったという感じですね。それからもいろいろ悩んでやっと 決めた進路だから変えちゃいけない、みたいなふうに縛られていたところがあったんです。看護師さんになると決めたからって永遠に看護師さんを目指さなく ちゃいけないなんてこと、あるわけないのに。でも、良い出会いをたくさん経験して、いろんなことをどんどんやってみて、自分自身の価値観をどんどん上書き 保存して、百回でも二百回でも変わっていいんだって気づけたんです。もっとそういう出会いを早くできていればって思いましたね。そんな時に出会ったのが今 村だったんです。当時の自分とはまったく違うタイプだったから、驚きの出会いでしたが。


――違うタイプというのは、どんな?


竹野:彼女は私にとって、とにかく新しいタイプの人だった。当時ですら、いつもPCを持ち歩いていて。まわりにそんな学生いませんでしたから。超アナログ環境だった私に対して、超デジタルだったんですよ。出会った時に「同じ大学生なのに・・・」って、ある意味ショックでした。


――そんな全く違う2人が、なぜ一緒に?


竹野:おもしろいのは、全然違うはずなのに、話はすごく通じたんです。「環境と機会の格差」という同じことに問題意識を持っていたので、意気投合したんです。


――その問題意識に対しての思いというのが今のカタリバの原点だったわけですね?


今村:そう、自分たちの経験も含めて。例えば、就職活動始めるときに初めて自分のことについて考えるという機会を得るということが多いですよね? でも、多くの学生がその時にあまりに自分のことについて考える軸がないっていう状態に気づいてみんな困惑するんです。それを感じた時に、大学生三年生にな るまでの間、自分自身について考える機会自分を振り返る機会や自分で選んで何かにチャレンジしたり、テーマを設定して取り組んだりするような機会がすごく 少ないということ自体が問題なんじゃないかって話していて。2人がそれぞれの環境で感じてきた思いが重なったんです。「一緒に何かできる!」って思いまし たね。全然違う環境いた2人だからこそ、一緒になんかやったら想像以上に面白いことができるかもって。当時、話を聞いてくれた友人の言葉を借りると、それ を「創発環境」って呼んでいました。


今村:創造の創に、発信の発です。


竹野:化学変化が起きて、お互いに元気になるっていう。


今村:違う因子と違う因子が結びついて全く新しいものが生まれていくっていう創発ですね。


竹野:別に新しいもの作らなくても、そこにあるものとあるものを出会わせるだけことだけで勝手に刺激されていく、すごく生産的な状態になったんです。私が調 べて得た情報を彼女に伝えると、彼女が大学で学んでいる、また別の切り口と繋げて捉え、どんどんアイデアが発展していくんですよ。


――そこから一気に今の「カタリバ」が出来上がったんですか?


今村:そうですね。「学生が自分の将来について考えられる場をつくりたい」ということが一 致していたので、結構始めの頃からプログラムがブラッシュアップされていきました。まず、自分自身のことを人にちゃんと話せる場で、情報提供型ではなく 「感情を動かしてくれるような出会いが成り立つコミュニケーションの時間」をつくろう、と。それさえあれば、人の動機づけや、モチベーションを高めること ができる場ができるんじゃないかって。だから、実は2人が出し合ったアイデアを数として考えると、そんな多くはないんです。


竹野:ひとつのアイデアで、そのひとつに意気投合したんです。どんどん膨らんでいくカタリバのイメージを、今村がまとめていく。そうすることでより効果的な場作りのモデルが出来上がり、すぐに始動したんです。


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