2006年08月14日

子宮平滑筋肉腫の重要論文

2000年10月21〜25日 れのん先生へのQ&A

Q:(子宮平滑筋肉腫の予後判断のポイントとなる)腫瘍壊死というのは、凝固壊死のことでしょうか。

A:そのとおりです。もともとの論文には、coagulative tumor cell necrosis、つまり、
凝固性腫瘍細胞壊死という言葉ででてきます。日本では凝固壊死といっていますが、
アメリカの病理医は、tumor cell necrosisと呼ぶ方が一般的らしくて、私もどちらか
といえば腫瘍壊死という言葉を使うほうが多いかもしれません。ただこの場合、一般的
に認められる「腫瘍内の壊死」ともとられかねないので、注意が必要です。混乱させた
ようでしたらすみません。

Q:その件が載っている論文の、タイトルと筆者をお教えいただけますか?

A: Bell SW, Problematic uterine smooth muscle neoplasms.
American Journal of Surgical Pathology 18(6):535-558,1994

 (MEDLINEでも検索できますが)ただしこの論文の神髄は、中に出てくる図にあるので、やはり全文をご覧になったほうがいいと思います。



2006年08月06日

子宮肉腫って何? その2

第2話 どうして筋腫と間違うの?(検査と診断のこと)
 第2話では、肉腫と筋腫の区別(「鑑別」は難しげなので、ここからは「区別」にします)を中心に、どんな検査をし、どこがポイントになって、「肉腫の疑い」が出てくるのかを書きたいと思います。

 ちょっと難しい用語も出てきますが、席亭が受けた検査の所見や数値の一部を公開しますので、実例に即して読んでみてください。

 


筋腫と間違いやすい肉腫
 肉腫にはいろいろ種類がありますが、子宮筋腫(Leiomyoma)との区別が問題となる肉腫は、主に次の二つです。

子宮平滑筋肉腫 LeiomyoSarcoma(以下、LMS

 文字どおり、子宮平滑筋に発生する肉腫です。子宮筋腫のうち、筋層内筋腫、粘膜下筋腫との区別がよく問題になります。

 閉経後の女性に多いといわれています。

・低悪性度の子宮内膜間質肉腫 Endometrial Stromal
Sarcoma(以下、ESS),low grade


 子宮内膜は、腺細胞という粘液を分泌する細胞と、そのすきまを埋める内膜間質細胞でできています。この内膜間質細胞が悪性化したのが、ESSです。平滑筋肉腫よりもまれな肉腫です。

 筋層内筋腫、粘膜下筋腫、子宮腺筋症との区別が問題になります。

 低悪性度のESSは30〜40代に多いといわれています。



席亭の場合−−こんなに変わった診断名



(内診のみ)生理不順

(経膣エコーで)子宮筋腫

(経腹エコーで)子宮筋腫

(MRIで)変性した筋層内筋腫、ESS,lowgradeの可能性

(細胞診で)LMSあるいは変形筋腫

(術後の最終診断)LMS






内診でわかること
 内診でわかる一番の違いは、子宮筋腫は硬く、子宮肉腫は軟らかい、ということです。

 また、筋腫は肉腫よりはゆっくりと大きくなります。

 したがって、何度か内診を受けていく間に「子宮が急に大きくなっている」ことを理由に肉腫が疑われることもあります。もちろん、その前にMRIなどで「良性」の判定を受けておいたほうがよいことは、言うまでもありません。一度「良性」と判断された筋腫でも、半年に一度はエコーなどで大きさをチェックしていれば、なお安心です。

 肉腫の場合、子宮がどのくらいの速さで大きくなるかについては、「1年間に、子宮が妊娠6週以上の増大をしたと認められたとき」という基準があります(『子宮体部悪性腫瘍の診断と治療』1999診断と治療社)。また、閉経後に子宮が大きくなってきたは場合は、腫瘍が小さくても、肉腫が疑われます。





席亭の場合(肉腫が大きくなる速さの一例として)



 98年6月…51ミリ×41ミリ→同11月…62ミリ×60ミリ



   子宮ではなく、腫瘍の大きさです。いずれも経膣エコーの数値ですが、機種と検査者は異なります。

GnRHアナログ療法を受けていたにもかかわらず増大していたことから、肉腫が疑われました。



血液検査でわかること

 子宮肉腫は腫瘍マーカーには表れにくい「がん」ですが、LMSでは、LDH(乳酸脱水酵素)の値が高くなることが多いといわれています。また、TPA(組織ポリペプチド抗原)が高値をしめした、という報告もあります(産婦97.6
p852)。ただし、いずれの数値も高ければ即LMS、というわけではありません。TPAは妊娠でも高くなります。

 ESSでは特に指標となるものはありません。

 

 LDHの参考値(健常成人の値)216〜383IU/L以下

 TPAの参考値(健常成人の値)110U/L以下










席亭の場合(LDHが高くなった一例として)

 98年11月…500IU/L(手術の約3ヶ月前)

 99年8月現在、348IU/L

TPAは術前でも0.0でした。





超音波でわかること

 超音波検査(エコー)には、膣から撮る「経膣エコー」と、お腹の上から撮る「経腹エコー」があります。

 経膣エコーは、比較的腫瘍に近いところから撮ることができるため、個々の腫瘍の様子を見るのに適しています。

 一方、子宮の全体像を見るには、経腹エコーが適しています。撮る前に尿をためておかなければならない、お腹の脂肪が多いと正確な画像が得にくい(わしや……by席亭)など、デメリットもありますが、患者としての負担感は経膣エコーよりずっと少ない検査です。

 MRIと違って、心臓にペースメーカーを入れている人も大丈夫。ベッドサイドに機械を持ち込んで撮ることもできます。もちろん、放射線被曝の恐れもありません。

 経腹エコーでわかるのは、腫瘍の大きさ、子宮の大きさ、腫瘍の組織の状態(ある程度まで)です。

 また、パワードプラ、カラードプラといった方法を使って、腫瘍の中やまわりの血流を見ることもできます。子宮肉腫ではすべての場合に血流が見え、筋腫の場合は60%しか見えなかった、という報告があり、区別のポイントとして注目されています(『産科と婦人科』99年6月号より)

 一般に「がん」は、異常増殖を続けるために、内部に新たに血管をつくって、栄養を奪っていきます(我田引水、じゃなかった、血管新生といいます)。このため、腫瘍の中に流れの盛んな血流がある場合、肉腫が疑われます。

 











































































超音波でわかる違い
 子宮筋腫 子宮腺筋症 子宮平滑筋肉腫

(LMS)
低悪性度子宮内膜間質肉腫(ESS,lowgrade)
子宮の大きさ  多 様 多様・風船状に腫大 新生児頭大以上が80%  多 様
腫瘤(こぶの状態) 大きさは多様

複数できることも

 不明瞭 8cm以上のものが60%

1個だけの場合が多い
 多 様
周囲との境界  明 瞭  不明瞭  不明瞭  不明瞭
内部のエコー ほとんどなし

または渦巻状
高輝度の点状  不均一  高エコー
血               
なし、または乏しく直線的   −−  豊 富  豊 富


(青字は良性、赤字は悪性)


(『産科と婦人科』99年6月号、増刊号より抜粋・編集)




 

席亭の「超音波検査報告書」を解読すると……

 Ut(子宮のこと)長径111mm、体部71×99mmと腫大

 体部内に73×59mmのnodula(結節)様エコーを認める。

 内部にhigh echoic(高エコー)部分を含み、一部血流+

 診断は、myoma Ut.(子宮筋腫)。CT またはMRIを要する。





MRIでわかること−子宮筋腫の多彩な顔
 MRIでは、体を、縦、横、斜めなど任意の断面で切った画像を撮ることができます。

 基本的には、T1強調画像とT2強調画像という2種類の撮り方があります。腫瘍や液体は、T1…では黒っぽく(低信号)、T2…では白っぽく(高信号)映ります。造影剤を使うこともあります。

 現在、筋腫と肉腫の区別をするための画像診断法としてMRIは最も期待されているものです。中でもESS,low
grade は特徴的な画像として表れるので、区別がつきやすい、
とされています。LMSについては、通常の筋腫との区別はほぼつきますが、筋腫が変性・変型したものとの区別は難しい、といったところです。

     下の表に一応まとめてみましたが、「よくわからない」ということがわかるだけの表になってしまいました。大ざっぱに言うと、高信号の部分が腫瘍全体に散らばっている(びまん性という)場合に「肉腫の疑いが否定できない」とか「良性ではない可能性がある」と言われ、手術を勧められたりします。

 患者としては、ちょっと納得しがたい感じがしますが、そういうことです。


 

 
























































MRIでわかる違い
通常の

筋腫
変性を

伴う筋腫
富細胞筋腫 異型筋腫 出血を

伴う筋腫
子宮平滑筋肉腫

(LMS)
低悪性度子宮内膜間質肉腫  (ESS,lowgrade)
T1強調 正常筋層と同程度の低信号 多彩

(変性像によって異なる)
 −−  −− 淡い

高信号
出血は高信号  正常筋層より やや高信号
T2強調 正常筋層より低信号が多い 多彩

(変性像によって異なる)
比較的

均一な

高信号
均一な高信号が多いが、

低信号主体、高低信号混在もあり
 −− 多彩

(不均一に高信号

出血は高信号

壊死は低信号)
均一に高信号な病巣が子宮内腔に存在、

または分葉状に筋層内に侵入

リンパ管・静脈へは「虫状」に侵入



(青字は良性、赤字は悪性)


(『産科と婦人科』1999.6月号より抜粋・編集) 



 




 席亭の「MRI検査報告書」を解読すると……



所見:

 子宮体部後壁に、約5cm程度の、T2強調像で、子宮筋層とほぼiso
intensity(同じ強度)で、一部さらにhigh intensity(高信号)の部分が混在
する腫瘤を認めます。

通常のmyoma(筋腫)とはsignal intensity (信号強度)が異なりますが、スプレキュア(GnRHアナログの薬)のためかもしれません。鑑別を要するものとしては、endometrial
stromal sarcoma,low grade(低悪性度子宮内膜間質肉腫)
があげられます。
結果:

Edematous degenerated intramural myoma,probable E.D stromal sarcoma

浮腫変性した筋層内筋腫、子宮内膜間質肉腫の可能性あり)






子宮鏡、針生検で一部をとる

 ここまでの説明でおわかりいただけたでしょうか。

 筋腫と肉腫の区別は、画像診断や血液検査等を統合してある程度「あたりをつける」ことができます。これだけの検査をして、全く肉腫を思わせる要素がなければ、ひとまず安心してよいでしょう。

 残念ながらここまで調べても「肉腫の疑い」を否定できない場合は、手術を受け、腫瘍を切り取ってスライスし、顕微鏡で見てもらう、ということ(病理細胞診)をしなければなりません。

 

 自慢話が一気に「キッタハッタ」の世界に入ってきました。

 ちょっとひと休みしましょう。


 
 しかし、検査のためにいちいちお腹を開けていたのでは体が参ってしまいます。

 開腹したまま細胞診の結果を待ち(もちろん痲酔はかかってます)、悪性だったら手術続行(つまり全摘ということ)という手もありますが、難しい「鑑別」を大急ぎでやってもらうのは不安だし、何だか検査をする人に気の毒でもあります。

 「それでもいい」という人もいるかもしれませんが、病院によっては、開腹せずに組織を採取してくれるところもあるので、検討してみてはどうでしょう?

 次のような方法があります。検討材料としてリスク(危険性)の面も書きましたが、開腹手術よりは安全で、体のダメージも少ない方法です。

針生検

 経腹エコーで腹腔内を見ながら、膣からピストルで針を3回ほど入れ、腫瘍の中で悪性の可能性の高い部分を採取します。

 リスクは、感染症と針の誤刺(防止装置があります)。

 痲酔は原則として使いませんが、希望すれば鎮痛の処置をしてくれます。20分程度で終わります。1泊入院または外来で可能な検査です。

 検査後3日間は安静にし(2〜3日出血があります)、抗生物質を内服します。

 ただ、腫瘍のごく一部しか採取できないため、後述する子宮鏡ほどには精度は高くありません。

子宮鏡(ラパロスコピー) 闘病噺に体験談あり

 子宮用の内視鏡下で腫瘍を削り取り、細かくして膣のほうから取り出す手術です。全身痲酔で行います。

 リスクとしては、子宮穿孔(穴が開く)、感染症があります。術後、抗生物質を点滴・内服します。術後の回復は速いので、5〜7日程度の入院で済みます。

 この術式は悪性腫瘍の手術として行うと保険の適用になりません。筋腫の核出または検査として行います。

 


病理細胞診でわかること
 ふう、やっとここまで来ました。肉腫がこんなに検査を重ねてもわかりにくい病気だとは、なった私も知りませんでした。主治医が「よくわかんない」を連発していたのも頷けます。ここまでおつき合いくださった読者に、心から感謝と敬意を表します。

 

 それなのに、また「よくわかんない」話を書かなければなりません。

 実は病理細胞診をしても、筋腫と肉腫の区別がはっきりつかない場合もあるのです。

 これは、子宮筋腫があまりにも多彩で、いまだ研究の余地を残す腫瘍だということに起因します。また、よく「『がん』は細胞の顔つきで判断する」なんて話を聞きますから、「がん」共通の課題なのかもしれません。一口に「悪性・良性」なんて言いますが、境界はあいまいなものなんですねえ。

 とりあえず表にまとめてみましたが、境界のあいまいさと筋腫の多彩さをわかっていただければ結構です。

 





















































































































細胞診での区別のポイント
平滑筋肉腫

(LMS)
低悪性度内膜間質肉腫(ESS,lowgrade) 変型平滑筋腫

(Bizarre Leiomyoma)
富細胞平滑筋腫(Cellular Leiomyoma) 静脈内平滑筋腫症

(Intravenous Leiomyomatosis)
細胞密度 高い 通常の筋腫と同じ 通常の筋腫と同じ 通常の筋腫と同じ
細胞の形 通常の平滑筋細胞(紡錘形)と似るも、多形 増殖期内膜間質細胞に似る 通常の筋腫と同じ 通常の筋腫と同じ 通常の筋腫と同じ
細胞核の形 異型が多い ないか、あっても軽度 異型あり なし ほとんどなし
核分裂像 MIが10以上(凝固壊死があれば、少なくてもLMS
MI通常5未満 少ない

(通常MIは5以下)
多い

(MI =

 5〜15)
ほとんどなし
凝固壊死像 ある場合も なし なし なし
その他の特徴 周囲や血管への浸潤像がある場合も リンパ管内に多数の巣をなして増殖

しばしば浸潤像
静脈内に浸潤
肉眼で見ると 魚肉様で軟らかい

しばしば出血・壊死を伴う


子宮筋層のびまん的肥厚

筋層の脈管内に虫状または塞栓状の病変
通常の筋腫と同じ 通常の筋腫と同じ ESS,lowgradeに似る


赤字:悪性 青字:良性 橙色:悪性の経過をたどるが、細胞学的には良性

MIとは、「核分裂指数」(Mitotic
Index 強拡大10視野中の核分裂像の数)。


(産婦99.6 p807~811,823~829 増刊p183~191
より抜粋・編集)






席亭の「病理診断書」(子宮鏡下で切除した部分について)

を解読すると……



病理学的診断:

Uterine content: leiomyosarcoma,compatible

                                           
low grade

低悪性度の子宮平滑筋肉腫と認める)

病理学的所見:


検体は、淡黄色〜乳白色の筋腫核様切片多数。出血はみられません。

Histological(組織学的)には、紡錘型細胞は束状に配列しており、

Cellularity(細胞密度)が高く、

核は腫大し、異型性の強い大型細胞が多数みられる。

核分裂像も少ないが散見される

leiomyosarcoma(平滑筋肉腫)と思われます。Surgical Margin Positive(切り取った切片は陽性)です。

鑑別としてBizarre Leiosarcoma(Biazrre
Leiomyoma の誤記と思われる。だとすると、変型平滑筋腫)があるが、Ope
材料で検索したい。

******

ちょっと蛇足を

******


 解読の結果を、病理医になった気分で解釈すると、

回切った部分だけで言うと、悪性度はかなり低そうだけど、肉腫だと思います。でも、良性の変型平滑筋腫の可能性も捨てがたい。うーん、どうしようかな。よく調べないとわからないので、手術しちゃってください。どうぞよろしく

って感じかな? 深読みしすぎかしら。

 この診断書、実は、つい最近もらいました。つまり、私、良性の可能性も残ってるってことを知らずに全摘手術を受けちゃった。

 術前に言ってほしかったような、言われなくてよかったような、妙な気分です。

 まあ、術後の子宮の写真を見れば「あー、全然筋腫と違う」ってわかるからいいけど、撮っておかなかったら、今ごろ「もしかして良性だったのでは?」と疑心暗鬼にかられていたかも。

 こういうこともあるので、切ったものの写真は、家族に頼むなりしてゲットしといたほうがいいと思います。

 


セカンドオピニオンのおすすめ(2001.5
加筆)

 ここまでお読みくださった賢明な読者諸兄姉ならば、子宮肉腫が非常に鑑別の微妙な腫瘍であることがおわかりかと思います。

 肉腫といっても、軟部肉腫など、他の肉腫とは異なる鑑別基準があるため、できれば、婦人科腫瘍を数多く診ている病理医のセカンドオピニオンをとられることをお勧めします。

 

 受診先は、国立がんセンター、大学病院など、専門医のいる病院を。

そのほか、メールでもご相談に乗ります。

 

 セカンドオピニオンをとる際は、



  • 検査の画像(MRI、CT、エコーなど)



  • 腫瘍、組織など、切り取ったものすべて(病理に依頼して借り出します)



  • 主治医の紹介状・経過説明を書いたもの、カルテのコピー


を用意しましょう。

 これらはすべて借り出すことができます。まだ法律はできていませんが、それは患者の権利として当然に認められることです。

 「医師が渋ったら転院し、転院先の医師から前の医師に頼んで借りてもらうとよい」という意見もありますが、いわゆる「系列」の違う病院に転院した場合、かえってうまくいかない場合もあります。

 また、転院先の医師が名医とも限らず、また元の病院に戻る可能性だってあるわけですから、できるだけ自分で言いましょう。

気弱な人は、押しの強い家族や友人に付き添ってもらって、がんばろー!


<今回の参考文献>Amazonで入手できるもののみ
検査値診断ハンドブック


2006年07月27日

子宮肉腫って何? その1

第1話 子宮肉腫って何?(2001.5.31 第2稿)
〜この原稿は、今は閉鎖したサイト「わらびの里」で、管理人猿独楽亭わらびが書いたものです。
参考までに掲載します。〜

1.肉腫は「がん」で癌じゃない
 肉腫は「がん」の一種ですが、癌ではありません。
 「がん」は悪性腫瘍(ないし悪性新生物)の総称ですが、「癌」はそのうち上皮組織(皮膚とか膜をつくっているもの)に発生した腫瘍につけられる名前です。
 一方「肉腫」は、上皮組織ではなく、結合組織(骨、筋肉、軟骨、腱、じん帯、脂肪、血管など)に発生した腫瘍を指す名前です。
 腫瘍というのは、あらゆる異常な増殖組織のことです。このうち、周囲の組織を破壊して広がり(浸潤)、体のほかの部分にも広がる(転移)性質を持つものを、悪性腫瘍、すなわち「がん」といいます。
 発症率で比べると、癌は「がん」の80〜90%を占めるのに対して、肉腫は約1%にすぎません。そのためか、肉腫はあたかも癌の一種であるかのように取り扱われることもありますから、ちょっと注意が必要です。子宮肉腫も、日本産婦人科学会では、子宮体癌の枠内に入れられています。
 また、子宮間葉性悪性腫瘍と呼ばれることもあります。

2.癌はカニ、肉腫はニク
 癌と肉腫は、ヒポクラテスの時代(紀元前4〜5世紀)から区別されていました。癌(cancer
またはcarcinoma)の語源がカニに似た外見にあるということは、よく知られています。
 一方、肉腫(sarcoma)の語源は、ギリシャ語のsarc。肉という意味です。英語で言うと、fleshで、ナマ肉とか果肉というイメージです。ちなみに私のナマ肉腫を見た夫によると、「ザクロに似てた」そうです。一般に肉腫は、灰白色か褪めたピンク色をしていて、柔らかい、とされています。

 ところで、どうしてヒポクラテスを持ち出したかというと……。先ほど、癌と肉腫の違いは発生した組織の違いと書きました。この書き方だと、「発生した場所が違うだけで、中身は一緒なのね」と思われそうな気がします(実は私、初めはそう思っていました)。でも、癌と肉腫は、できた場所だけではなく、そもそも成分的に違うものなのです。このことは、肉腫の浸潤や転移の仕方を考える上でポイントになってきます。
 また、一つの腫瘍の中に癌と肉腫の成分が混じって存在することもあります。こうした腫瘍を癌肉腫(carcinosarcoma)といい、子宮肉腫の半数はこのタイプです。

3.肉腫の自覚症状は?
 他のがん同様、肉腫それ自体が痛んだり疼いたりするのではなく、肉腫ができたことでもとの臓器が正常に機能しなくなったり、肉腫が周辺の神経や臓器を圧迫したりすることによって、さまざまな自覚症状が出てきます。

 また、肉腫が大きくなるにつれて、健康な組織に必要な栄養を奪っていくことにより、疲れ、やせ等の症状が出ることもあります。
 子宮肉腫の場合、発生するのは主として子宮の筋肉(子宮平滑筋といいます)の中か、内膜の中にある結合組織(内膜間質といいます)ですから、過多月経・過長月経など生理の異常、不正出血、下腹部痛、腰痛、お腹の張り(子宮が大きくなるため)などの症状が出てきます。出血が多くなれば、貧血、めまいといった症状も起こります。

 ただ、これらの症状は、成人女性の4人に1人は持っていると言われる、子宮筋腫(leiomyoma)にそっくりです。子宮筋腫は、子宮平滑筋にできる良性の腫瘍です。特に筋層内筋腫、粘膜下筋腫と呼ばれるタイプの筋腫は、肉腫とできる位置がほぼ同じであるため、自覚症状もほぼ同じです。しかも、困ったことに、見た目や、ときとして性質までもがそっくりであるため、筋腫と肉腫の鑑別は非常に難しいのが実情です。
ただ、ある程度まで予測はつけられる、というところまでは来ています。

4.子宮肉腫になるのはどんな人?
 これは一概には言えません。年齢、妊娠・出産経験の有無などバラバラです。

 ただ、よく一般書で「肉腫は閉経後に多い」と書かれていることがありますが、そうとは限りません。確かに子宮平滑筋肉腫(leiomyosarcoma 略称LMS)は閉経後の患者が圧倒的に多いそうです(平均年齢52歳)が、閉経前の患者も現存します。

 また、30〜40代の患者が主流の肉腫(低悪性度子宮内膜間質肉腫 endometrial
 stromal sarcoma, low-grade 略称ESS,low-grade)もあります。このタイプには、20代の患者もいます。

 また、これもよく一般書や雑誌の婦人病特集で書かれるのですが、「筋腫は悪性化しない」とは、言い切れません。最初から肉腫として発生するものもあれば、ごくわずかだが筋腫の一部が悪性化して肉腫になるものもある、というのが定説です。
 分子生物学の視点から、子宮筋腫を「子宮平滑筋が肉腫に変異する一過程」と見て、変異にかかわる諸因子を明らかにしようとする研究も行われています。

 以下は私見なのですが、子宮筋腫が見つかったとき、十分な検査をせずに「良性」と決めつけて経過観察したり、安易に薬物療法を開始したりすることは、むしろ危険なことなのではないでしょうか。今筋腫を持っている人には、「私は良性だから大丈夫」とばかり思わずに、かるーくでいいから一度は悪性を疑ってみて、と言いたい。そして、検査設備の整った、優れた診断技術を持った医師・検査技師のいる病院でちゃんと検査を受けてから、治療に入ってほしいと思います。

 体癌の組織診をして陰性だったとしても、肉腫の可能性が消えるわけではありません。腫瘍マーカーにもほとんど表れないので、ぜひMRI、超音波(腫瘍内部の血流がわかるもの)を受けてください。

5.「肉腫の疑いあり」と言われたら
 安心してください。子宮に肉腫ができたって、それだけでは死にません。子宮は次世代の生命のための臓器であって、持ち主の生命の維持には直接関係ない臓器なんですから。
 また、他の「がん」同様、肉腫から持ち主の命をおびやかすような毒物や細菌が発生するなんてこともないです(周囲の器官にもぐりこむために酵素を出すってことはあるけど、まあ、それで死んじゃうわけじゃないからおいといて)。
 とにかく、明日にも切らなきゃってことじゃないですから、落ち着きましょう。
 まずは冷静に、医師に
「どうして肉腫が疑われるんですか」
「ここまでの検査結果を詳しく教えてください」
「この病院では過去に子宮肉腫の患者さんを扱ったことがありますか」
などと質問してみてください。そして、十分に納得のいく説明を得てから、次のステップに進んだほうがよいと思います。

 なぜなら、前述のとおり、肉腫と筋腫の鑑別はとても難しいものだからです。そして、どういうタイプの肉腫かによって、治療法も異なるからです。
 また、子宮以外の器官にできる肉腫とは、鑑別の基準が違います。ここを混同してしまう病理医も少なくありません。
 したがって、子宮肉腫の鑑別経験のある病理医に診てもらったほうがよいと思います。
 病理医がどう診断を下すか、それを受けて臨床医が的確に治療を行なうか。これで未来が決まると言っても過言ではありません。

 私はこの事情がよくわかっていなかったため、病理のセカンドオピニオンをとりませんでした。これから治療を受ける方には、「ぜひ」とオススメしたいです。
 場合によっては、転院も必要でしょう。
 ただ、幾つも病院を回ってあまり日数をかけすぎるのもよくありません。
 一般に「がん」は、診断が下ったときに既に50%が転移していると言われています。そして、子宮平滑筋肉腫は、細胞の性質上、癌より転移が速いと言われています。

参考図書
がん―自分で選び、決定するために 早期発見・検査・診断・治療・回復まで
子宮体部の悪性腫瘍




2006年07月25日

抗癌剤感受性試験

投稿日時:2000年10月15日 れのん先生のメール

 こちらのメールでは、抗癌剤の感受性試験について個人的な考えを書かせていただきます。

>  肉腫の細胞はせん癌と違い培養が難しく、よい知見が得られづらいといって
>  いましたが、れのん先生本当なのでしょうか??。

 細菌と抗生物質の関係では、感受性試験が古くから行われています。たとえば、膀胱炎の時の尿を培養して、はえてきた細菌がどんな種類で、どういう抗生物質が効果があるか、というような検査です。細菌の感受性試験は、臨床的な治療の結果と非常によくあいます。

 同じような原理で、悪性腫瘍と抗癌剤で、感受性試験ができないか、という研究も、かなり古くから行われています。しかし、私の知る限り、いまだに満足できるシステムは作られていません。ひとつは、悪性腫瘍が細菌のようには簡単に培養できないということがあります。特殊な培地を使い、工夫をして悪性細胞を培養しても、培養が失敗してしまうことがかなりあり、また成功してもかなり長い時間がかかってしまうことが多いです。

 もう1つは、ふつうの悪性腫瘍は、ただ1種類の細胞が大増殖してできているのではなく、腫瘍細胞にもいろいろな個性があるということです。このため、ある薬が、癌細胞の一部には効果があっても、別の細胞には効果がないということもあります。白血病の細胞や、悪性リンパ腫の場合は多少事情が異なりますが、ふつうの癌の多くは、こういう問題が出てきます。

 その結果、実際にいろいろな方法で抗癌剤の感受性試験を行っても、その結果と、臨床的な実地の効果が一致しないという事態が起こってきます。たとえば、感受性試験で効果が期待できる抗癌剤を使ったのに、実際にはどんどん悪化したというようなことです。

 では一般に、抗癌剤の種類をどういうふうに決めているかというと、これは経験的なものです。こういう種類の抗癌剤をこういうふうな投与方法で投与すると、これくらい効果がある、という実際の臨床のデータに基づいて投与法を決めることが多いです。つまり、実際の悪性腫瘍の患者さんで、人体実験をしながらどういう抗癌剤の投与法がいいかを、世界的に試行錯誤で、また手探りで研究しながら治療しているといいてもいいでしょう。

 こういう意味で、いろいろな腫瘍には、それぞれ効果のある抗癌剤とあまり効果のない抗癌剤があることがわかっています。抗癌剤の感受性試験は、私の知っている範囲では、このような経験的な抗癌剤の効果の予測を越えることができていません。

 もちろん、実際の患者さんでも、投与している抗癌剤が効果的かどうかは、以前お話しした、抗癌剤の効果判定できちんと見ていきます。その患者さんで効果のあまりみられない抗癌剤をだらだら続けていくことは避けなければいけませんし、一般的にはあまり効果が期待できないが、その患者さんには効果があった、ということもあります。

 以上 まとめますと、抗癌剤の感受性試験はそれほど一般的ではないこと、臨床的には、今までの経験や実際の患者さんで抗癌剤の効果を予測することで、抗癌剤の種類や投与方法を決めていることがほとんどであること、をお知らせしたいと思います。



2006年07月19日

子宮平滑筋肉腫の病理診断

2000年10月20日 れのん先生のメール

 病理診断には、いろいろ問題があるという発言をしてきました。子宮筋腫(平滑筋腫)と平滑筋肉腫の区別は、婦人科の病理診断の中でも特に問題が多いです。

 歴史的には、腫瘍の細胞の異型度(細胞の顔つきの悪さ)と核分裂像の数が、子宮の平滑筋肉腫の診断に重要だといわれていました。しかし、1994年に、スタンフォード大学の病理から、平滑筋肉腫の診断にもっとも重要な所見は、壊死があるかないかだという報告が出ました。

 彼らによると、子宮に発生する平滑筋の腫瘍で、平滑筋肉腫および筋腫か肉腫か迷うような腫瘍で、組織の所見と、患者さんの予後を見ると、壊死のある腫瘍の場合は、核分裂像の数や細胞異型の程度に関係なく予後は不良。逆に壊死のない腫瘍は、たとえ核分裂像が多くても細胞の異型が強くても予後良好の例が多いという結果です。

 この壊死は、「腫瘍壊死」と呼ばれる特徴的な壊死で、他の悪性腫瘍でもしばしばみられるものです。筋腫の場合、硝子様壊死と呼ばれる別の壊死性変化もあり、腫瘍壊死と混同してはいけません。今のところ、国際的にはこの診断法がいちばん悪性度の評価としては正確だと考えられています。したがって、もっとも問題になる組織の所見は、腫瘍壊死の有無、それからだいぶ重要度が落ちて、核分裂像の数や細胞異型の程度、ということになります。

 ニフティーでも同じ問題がありましたが、多くの病理医は、古い診断基準、つまり壊死よりも核分裂像や細胞異型をもとにして、今でも平滑筋肉腫の診断をしていると思います。誤解を受けないように付け加えますが、壊死もあって、かつ核分裂像も多く、細胞異型もあるような平滑筋肉腫も多いです。手術後比較的早期に転移を起こしてしまうような腫瘍の多くは、こういう所見が揃った腫瘍ではないかと思います。ただ、平滑筋肉腫という診断で経過観察して、転移や再発の兆候がない、予後良好の平滑筋肉腫の中に、核分裂像と細胞異型で肉腫と診断されて、壊死を伴わない腫瘍が混じっていることも、当然予想されます。


病理標本はどうなるか

2000年 10月 3日 火曜日 れのん先生のメール

 最後に、病理標本の話題です。これは人によっては、どぎついような内容に映るかも
しれないと思ったので、別便にしました。
 摘出した組織や腫瘍は、まずホルマリン液につけられます。これは「固定」といって、組織が腐らないようにし、また、形態が変わらないようにするためです。固定された組織は、病理医がナイフなどで必要な部分を切り分けていきます。これを「切り出し」といっています。
 切り出された組織は、特殊なカセットに入れられて、パラフィンという鑞(ワックス)状の物質の中に閉じこめられます。これを包埋といっています。このパラフィンに埋まった組織のことを「ブロック」といいます。ブロックを特殊な器械で薄〜く(3ミクロンくらい)切って(薄切といいます)、その切ったシート(切片といいます)をスライドガラスの上にのせ、染色液で染色します。染色した切片を顕微鏡でみて、腫瘍の良悪性や、タイプを診断するのが病理組織診断になります。
 この組織標本(スライドガラス)自体は、10年以上保存している病院が多いと思います。また、仮に標本を廃棄、あるいは紛失しても、さきほどいったブロックが残っている限り、同じ標本を後から何枚も作ることができます。切り出しと診断は病理医の仕事ですが、それ以外の標本の作製は検査技師さんの仕事です。
 臨床医は、そのようにして診断された病理検査の報告書に基づいて、患者さんに説明をしたり、その後の方針を決めているわけです。ちょっとややこしいようですが、これが実際の病理診断の流れでして、もちろん、いちばん重要なのは、標本をみて診断する行為になります。病理診断は直接患者さんに接するわけではありませんが、広い意味では医療行為ということになります。
 患者さんのあまり知らないところで、病気(特に悪性腫瘍)の診断や治療にとってきわめて重要な検査が進んでいるわけですね。

病理診断の信頼性

2000年 10月 3日 火曜日 れのん先生のメール

 病理診断が必ずしも信頼できないというと、患者さんだけでなく一般の医師も、そんなはずはないと思うかもしれません。しかし、実際は、前回のメールに書いたように、間違いもけっこう起こっています。
 特に問題なのは、珍しい腫瘍の場合、似たような腫瘍を区別しなければいけない場合、手術中の迅速診断の場合などです。実は、日本の外科病理医(主に病理診断をしている医師)は優秀で、通常の病理診断ではそれほど間違いはありません。ただ、病理といっても全身のさまざまな病気を扱う訳ですから、一人ですべての病理診断を平等に勉強して、あらゆる病気に精通するというわけにはいきません。
 どうしても専門に分かれていくわけですが、そういう専門の病理医の意見を聞くようなシステムが、日本では充分働いていません。もちろん、第3者機関が病理診断をチェックするというシステムもありません。今後は、そういうシステムも必要になるでしょうね。
 あまり関係ありませんが、日本では病理医自体に対する社会の認知もまだまだだと思います。腫瘍の組織検査は、手術をした医師が行っているものだと思っている患者さんも多いようです。前にも述べましたが、悪性腫瘍の診断・治療上、病理診断は決定的な意味をもっていますが、患者さんの側に、病理診断の重要性や病理医の介在などがよく伝わっていないように思います。

抗癌剤の有効性

2000年 10月 3日 火曜日 れのん先生のメール

 抗癌剤の有効性については説明不足でした。すみません。
 抗癌剤の有効性を示す因子はいくつかあって、たとえば、生存率はその1つです。
その他にも、全身状態や自覚症状の改善というのも重要な項目です。しかし一般的に、ある抗癌剤がある腫瘍に○%有効という時は、抗癌剤を投与してその腫瘍がある程度以上小さくなった割合が○%ということをいいます。これを医学的には抗癌剤の直接効果といいます。
 日本癌治療学会という学会の基準では、抗癌剤投与後に腫瘍が完全に消失した場合を「著効」、腫瘍が50%以上小さくなった場合を「有効」、あまり変化のない場合を「不変」、腫瘍が逆に大きくなった場合を「進行」といっています。「著効」と「有効」をあわせた割合を奏効率といって、これを便宜的にある腫瘍に対するある抗癌剤の効果としていることが多いです。
 たとえば、胃癌に対してAという抗癌剤が単独で40%有効(厳密には40%の奏効率)という場合、胃癌にAを投与すると40%の腫瘍の50%以上小さくなる(消失も含めて)ことが期待できるという意味です。
 これは、抗癌剤の直接的な効果をみるものですから、必ずしも生存率とは一致しません。たとえば、抗癌剤が「有効」でいったん小さくなった腫瘍が再増殖した結果、患者さんがなくなることもあります。また、この基準は、手術で腫瘍が完全に摘出された後で抗癌剤が使われる場合は評価ができません。
 一般的には、転移がある場合でも同じように扱います。ただ、以前に抗癌剤を投与されている場合、2回目以降の抗癌剤は、種類を変えても多少効果は落ちるのがふつうだと思います。
 病理標本のことは、項目をかえて説明させていただきます。

2006年07月16日

子宮肉腫の抗癌剤治療 その2<病理検査>

2000年 10月 1日 日曜日  れのん先生のメール

 ひとつ前のメールに追加する内容です。できましたら、いっしょに読んで下さい。
 肉腫にいくつか種類があって、その診断は治療方針の決定に非常に重要だとお話しました。それは、病理組織検査という検査で行われます。
 摘出した臓器を、病理を専門にしている病理医が顕微鏡で見て診断するものです。ふつうは、手術をした医師は情報提供はしますが、病理診断にはタッチしません。私のように、手術もして自分で病理もみる医者は変わり者です。
 なぜ私が病理もみるようになったかといいますと、病理専門のはずの病理医の診断がときどき臨床の診断と食い違うことがあるからです。日本には、病理の専門医の絶対数が少なく、しかもその多くが一人で病理診断をしていて、自分の診断にあまり疑問をもたずに、時々ひとりよがりの診断をしてしまうことがあります。
 アメリカでは、病理診断でも医療訴訟がおこるので、診断の難しいケースやまれな腫瘍などは、必ず病理の中でもさらに専門の病理医に診断を依頼します(コンサルトといいます)。日本の病理医には、このコンサルトの習慣があまりありません。
 肉腫に限らず、癌も含めた悪性腫瘍では、病理診断の正確性・妥当性が、その後の患者さんの治療に重要な意味をもっています。ところが、その病理診断が、必ずしも信頼できないとしたら、これは問題です。
 先週、他の病院から相談を受けたケースもそういうもので、子宮平滑筋肉腫という診断で見せてもらったのですが、典型的な子宮内膜間質肉腫でした。この診断をしたのは大学の病理の講師です。もっとひどいのになると、良性の筋腫で変性のあるものを肉腫と診断していた、というのもあります。
 あまり皆さんの不安をあおるつもりはないのですが、病理診断の問題は他の悪性腫瘍でも重要で、日本ではあまり指摘されていませんが、とても大きな問題ではないかと思います。特に、日本では専任の病理医がいなくて、癌の治療をしている病院もけっこうありますが、これは、麻酔の専門医がいなくて手術をしているようなものだと思います。
 では患者さんのほうでどうしたらいいかといいますと、肉腫という病理診断について、主治医を通して別の病理医のセカンドオピニオンを求める、ということになるでしょう。これが実際はけっこう大変です。さきほど言ったように、日本の病理業界はかなり閉鎖的で、下手に話をもっていくと「俺の診断が信用できないのか!!」ということになっちゃいます(実際そういう病理医は多い)。粘り強く交渉していくしかないでしょう。
 ちなみに、病理組織標本も本来は患者さんに属するものですから、フィルム類と同じく、患者さんから提供の申し出があった場合は、断れない類のものだと思います。私たちの病院では、最近は手術の前に必ず組織提供の同意書を出してもらっています。また病理標本自体、金太郎飴のように、いくつも断面として作れるもので、紛失するかもしれないなどということを理由に断れるものではありません。ただ、細胞診の標本は、複製が不可能です。
 まとまりがなくなってしまいましたが、悪性腫瘍の診断に絶対的な意味をもつ病理診断が、日本では当てにならない局面もあるのだという、少し情けないお話でした。

<ポイント>病理診断のセカンドオピニオンを求めましょう!

2006年07月15日

子宮肉腫に対する抗癌剤治療 その1

2000年 10月 1日 日曜日 れのん先生のメール


 子宮肉腫に対する抗癌剤治療
 **さんへの返信にしてありますが、できましたら皆さんに承知していただきたいことです。
 一口に子宮肉腫といっても、病理学的にいくつかの種類があります。
 まず、筋腫の悪性のタイプの「平滑筋肉腫」。平滑筋の悪性腫瘍といってもいいでしょう。
 次に、子宮内膜間質という、子宮の粘膜にある細胞の肉腫である、「内膜間質肉腫」があります。このタイプは、若い女性にも起こることがあります。
 最後に、癌と肉腫が一緒に出てくる「癌肉腫」で、これはまあ、癌に近いものと思っていただいてけっこうです。
 平滑筋肉腫には、アドリアマイシンという抗癌剤が多少ききます。他の薬剤と組み合わせることで、50%近い有効率が得られることもあります。内膜間質肉腫は、組織の様子にもよるのですが、抗癌剤よりも、黄体ホルモンという女性ホルモンがよく効くことが多いです。癌肉腫には、通常の子宮体癌の抗癌剤が使われることが多く、有効率は、平滑筋肉腫よりも一般に高いです。癌肉腫の肉腫成分が内膜間質肉腫の時には、黄体ホルモン剤が効く可能性もあると思います。
 つまり、肉腫のタイプ、これは病理検査で決まるのですが、それによって、抗癌剤の種類や効果も多少変わってくるということです。肉腫一般ということでも、抗癌剤の効果に関してのコメントはできますが、肉腫のタイプがわかると、より具体的な話ができると思います(以下略by管理人)。

<ポイント>
 医師に「子宮肉腫」と言われたら・・・まず肉腫のタイプを聞きましょう!