以前の記事(私、怒ってます その2 〜獣医療を、飼い主さんを馬鹿にするな!〜参照)で乳腺腫瘍の話が出たのと、何故かここ数日で乳腺腫瘍のキーワードでこのブログを訪れた方が何人かいらっしゃる様ので、今日は乳腺腫瘍の当院の手術の選択肢を書こうかと思います。
もちろん手術以外の方法もありますが、乳腺腫瘍は外科切除が第一選択と私は考えています。
もちろんレーザーなども腫瘍に対しての治療法の選択肢はいくつかありますが、今日は外科切除に絞って書こうかと。
麻酔の話も先日書いた事ですし(0.01%=100%=0% 〜全身麻酔のリスク〜参照)。
乳腺腫瘍は犬の腫瘍の中でもダントツに多い腫瘍である事と、人間とは違い、5対の乳腺(乳房)があり、そしてその脈管系(血管、リンパ管)の走行がややこしいということもあり、腫瘍の中でも乳腺腫瘍を選んでみました。
乳腺脈管02
これが犬の乳腺とその乳腺に関連する脈管系の図です。
わかりにくいかもしれませんが図の右側が血管の走行、左側がリンパ管の走行です。
第1〜2乳腺は頭側の同じ血管系に支配され、第3〜5乳腺は尾側の同じ血管系に支配されています。
そして第1〜3乳腺は頭側の同じリンパ管(リンパ節)に支配され、第4〜5乳腺は尾側の同じリンパ管(リンパ節)に支配されています。
なぜこれが重要かつ、面倒かというと癌の転移は血管、もしくはリンパ管に癌細胞が入り込み、他の場所に送り込まれて起るという考え方から来ています。



そして私は外科切除を選ぶ場合には
1.片側乳腺全切除
2.領域乳腺切除
3.部分乳腺切除
4.局所麻酔による腫瘍のみの切除
の4つの選択肢の中から飼い主さんと相談して決めています。
もちろん他の病院さんではまた別の選択肢もあるとは思いますが、一応今回は当院で提示する主な4つの選択肢です。
片側乳腺切除再発・転移の原因が脈管系(血管、リンパ管)となると、一番転移、再発の可能性が低いのが片側乳腺全切除ということになります。
赤のラインで囲った部分を全て切除する方法です。
リンパ節を含め、片側の乳腺を全て切除します。
利点は最も転移、再発の可能性が低い手術手技ということになります。
欠点、リスクとしては非常に傷口が大きくなる(侵襲性が高くなる=体への負担が大きくなる)ということ、そしてとにかく縫って縫って縫いまくるので麻酔時間が長く、麻酔リスクが高まるということです。
私、怒ってます その2 〜獣医療を、飼い主さんを馬鹿にするな!〜でも書きましたが、侵襲性というのは虐待という意味では決してありません。

領域乳腺(1~3)
領域乳腺切除術。
血管、もしくはリンパ管に支配されている領域の乳腺を全て切除する方法です。
第1〜3乳腺のいずれか一つ、もしくはそれ以上の乳腺に腫瘍がある場合、いずれも同じリンパ管の支配領域にあるのでリンパ節も含めて第1〜3乳腺を全て取り除く手術です。
仮に第一乳腺に腫瘍があっても第3乳腺まで切除するということになります(赤ラインで囲った部分)。









領域乳腺(3~5)
同じく後半(血管支配領域)の領域乳腺切除です。
第3〜5乳腺をリンパ節も含めて切除します(赤ラインで囲った部分)。
第5乳腺に腫瘍があったとしても第3〜5乳腺を全て切除します。
利点は片側乳腺全切除術よりは転移、再発のリスクは少し高まりますが、傷口は片側乳腺全切除術よりは小さくなりますし、麻酔時間も少し短くなります。
ただ、やはり欠点としては全身麻酔であるということは片側乳腺全切除術と同じですし、片側乳腺全切除術よりは再発、転移のリスクは少し上がります。



ここで「あれ?」と思われた方は鋭い!(笑)
実は第3乳腺の血管支配は尾側、リンパ管支配は頭側となり支配領域が頭側と尾側が重なるのです。
ということは第3乳腺の乳腺腫瘍の領域乳腺切除術=片側乳腺全切除術となってしまします。
ですから第3乳腺の乳腺腫瘍は結構やっかいなのです。

部分切除
部分乳腺切除術です。
罹患部分(腫瘍がある部分)の乳腺(この場合は第4乳腺)のみを切除します。
利点は麻酔時間が短い、傷口が随分小さい(=侵襲性が小さい)ということになりますが、やはり欠点として全身麻酔であるということ、そして再発、転移のリスクがさらに大きくなるということです。


(以上の図はinterzoo社 SURGEONより引用、改変)





MGT02
そして4番目の局所麻酔による腫瘤のみの切除。
利点としては全身麻酔が必要でない事、傷口が非常に小さく、短時間で、侵襲性が非常に小さい事。
欠点としては再発率、転移の確率が一番高い、体質の関係もあるでしょうが、取っても取っても別の場所に出来て何度も同じ手術を繰り返す子も少なくありませんが、それはこの方法を選ばれた飼い主さんも覚悟の上でこの手法を選ばれています。
飼い主さんの中には「もうこれで5回目ですね〜」と笑って来院される方もいらっしゃいますし8回くらい実施されている飼い主さんもいます。実際このくらいの大きさであれば転移している可能性は非常に低いので、小さい(豆粒程度)うちであれば、しかも犬の乳腺腫瘍の50%は良性であることから邪道な手術ではありますが、これはこれでありなのかなと思い実施しています。
あまり大きな腫瘍だと適応外ですが。
でも局所麻酔だからといってノーリスクではありません。
局所麻酔でもアナフィラキシーショックを起こす体質の子もいるのは知っておいて下さい。
もちろん術前に皮内反応試験を行ってから実施します。

ただ、猫の乳腺腫瘍は非常に悪性度が高く、転移率も高いので、基本は片側乳腺全切除となります。

乳腺腫瘍の治療の第一選択は手術と書きましたが、それでも手術の方法はこのようにたくさんあります。
動物の年齢、状態、腫瘍の外貌、大きさ、費用、その他諸々の要因を考慮することができます。
なのでどの方法がベストなのかはその子その子によって違いますし、飼い主さんの考え方もそれぞれ違います。
ただ、言えるのは私、怒ってます その2 〜獣医療を、飼い主さんを馬鹿にするな!〜の記事でいただいたコメントにもあるように、動物を飼うからには動物のQOLを低下させるような行為、記事に出てきた医師のように自潰してもほっておくというようなことは本当に止めて欲しいと思います。
お金を飼い主さんからむしり取るのであれば片側乳腺全切除術以外の術式は提示しません。
そして色々な術式や手術以外の治療法があるのはお金をむしり取るためにあるのではなく、動物を助けたい、助けられずともQOLを維持したい、そして飼い主さんのQOL(特に費用の問題)も考え、先人達が試行錯誤の上、そして今現在もさらなる方法を考え研究してきた結果であり、現在進行形で研究、試行錯誤しているんです。


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