昨日はFIPの抗体検査やその他の検査が単独では確定診断に至らないというお話を書きました。
でもそれは本当はFIPのような感染症に限らず、多くの病気はいくつかの検査結果を元に確定診断を下すというのは実は変わりがありません。
でもできるだけ直接的に診断を下したいのは我々獣医師もそうですし、飼い主さんも同じだと思います。

我々獣医師は一応なんらかの病気を疑って検査をすることにはなるのですが、やはり重要なのは臨床症状。
これは昨日書いた事と同じです。
何らかの症状が出ていないと何から検査をするか・・・・となるわけですし、実際に臨床症状が出ているから飼い主さんは動物達を病院に連れてくる訳ですし・・・
もちろんワクチンやフィラリア予防で来られた時に偶発的に、もしくは身体検査時に病気を発見する事はありますが。

そしてその病気を疑った時には出来るだけ確定診断に持っていきたい訳です。
的確な治療を行なうために。

だけどもその的確な治療がない病気もたくさんあるのもまた事実。
悔しいですが。
その中の一つが昨日から書いているFIP(猫伝染性腹膜炎)。
この確定診断が非常に難しい。
疑えるようなものから、え?実はFIPなんじゃないの?なんてものまで。
今回は明らかに疑えて、かつ検査で確定診断したものです。
唯一こういった場合のみ確定診断ができるのが「遺伝子検査」だと思います。

オーバーン大学では
「FIPV(猫伝染性腹膜炎ウィルス)は末梢血の単球、マクロファージで増殖するのに対して、FECV(猫腸コロナウィルス)は腸粘膜で増殖するため、腸以外から遺伝子検査により検出されたコロナウィルスをFIPVと判定」としています。

ただ、この腸以外からというのが意外と難しい。
どこから検出しようとするのか」が難しいのです。
そのうちの有用というか、典型的なものが腹水、胸水
腹部膨満
この子のお腹がパンパンに膨れているのがわかるでしょうか?
腹水がたまっています。
他の病院でFIPと診断されたのですが、ネットで確定診断はできないことを知っておられ、その病院でも確定ではないけれどという説明を受けたらしいです。
そしてその病院の言っている事は全て私も正しいと思う事を説明しました。
あと残っているとしたら「遺伝子検査」。



腹水
腹水です。
黄疸が出ています。
前の病院でも血液検査で「肝酵素の上昇を伴わないビリルビンの上昇」は見られました。
臨床症状も含めてこれでほぼ確定診断でいいと思います。
 もちろん助かる可能性が低い事も。
でもこの飼い主さんは出来るだけの事はしたいということで当院に来院されました。
となるとさらに確定診断に近づけ、徹底的な治療を行なう事になりました。


 ウィルス検査遺伝子検査で腹水中から多量のウィルスが検出されました。
先ほども書きましたが腸コロナウィルスは腸にしかいません。
となると「腸以外」ということになればFIPVと判断できる訳です。
これで更なる確定診断と言っていいと思います。



ということで確定診断を下したところで徹底的な治療の開始です。
しかし、猫ちゃん、飼い主さんの懸命の頑張りがありましたが、助けてあげる事はできませんでした。

ここまで検査が必要なのかと言われれば必ずしも必要とはいいません。
飼い主さんがどこまで求めるかにもよることもあります。
が、抗体検査では何も言えないことが多々ある、迎え入れてコロナウィルス抗体価が陽性だったからといって現在も将来のことも何も言えないのもまた事実。
抗体検査を受ける必要はないとまではいいませんが、一喜一憂する必要もまたないのが抗体検査。

獣医領域ではまだ遺伝子検査はハードルが高いと思われているとは思いますが、実は徐々に簡便になってきてるのもまた事実です。
そのうちの一つがFIPVの遺伝子検査。
一つ治療方法はまだ確立されていませんが、確定診断の方法が徐々に増えてきているのも事実です。

今後も色々な病気でもっと精度のいい検査が確立され、そして治療もどんどん確立していければいいんですが・・・・

病院のHPはこちら
http://www.adachi-vet.com/