2014年09月26日

カーマンセラ嬢の舞踏 二

≪明治36310日、不思議館が開館する≫

明治36310日 大阪毎日新聞

不思議館○不思議館 いよ〳〵明日より公衆に観覧せしめるので、噂の高いカーマンセラ嬢が火焔を負ふて舞台に立つの奇観を見らるゝが、此カーマンセラ嬢といふは西班牙語で火の美女といふ義に通ふ由にて、舞踏の際衣裳の各部より発する電光と、舞台の光色を変ずる装置、および火焔を噴出す凡ての装置は舞台の床下に準備せられ、舞台の上面は普通のと異(かわ)りはない。唯ブラツシユ地に金の刺繍したのと銀條のと油画的のと三ツの緞帳が吊るされ、舞台の前にピヤノが据ゑられてあるのみだ。去つて床下へ潜り込むと、薬品に因つて火焔を吐出す管を中央に、其後(うしろ)に無数の電線があつて、それより十五六坪の中を、蜘蛛の蛛網(す)の如く縦横に張り廻し、電光の点滅を自由ならしむるスウイツチ等、緻密に排置されてある。開場の暁にはハリス氏が六名の職工を監督し、この床下から電力を応用して舞台へ種々の色を現はすのだ。之に使用する電力は百五十ボルトで、三十五アンペールの電燈十四個を点ずるのださうな。
〈編者註〉上掲の広告はホームページ「探検コム」より拝借した。

 明治36311日 大阪朝日新聞

○不思議館(開会式) 昨十日紳士連を招請して例の評判高きカーマンセラ嬢の電気舞踏を演じたり。招状を発したるは七八百人と聞きしに入場者は千三四百名、これを不思議の始めとして場内は如何にも不思議を極めたり。

二時の開場時間は三時となりて漸く開かれ、第一の暗中妖怪の舞の際は過(あやま)つて電燈を点じて明中のお化となり、第二、白銀の舞は反対(あべこべ)に電燈の光なくて更に演じ直したり。去れど第三、夜の舞、第四、朝顔の舞、第五、火焔の舞等は巧に電気を応用して美光燦爛、眼も眩む許り、観覧者は覚えず拍手して大喝采を表しぬ。

舞踏の外にマルコニー無線電話、エッキス光線鏡板等も観覧者の興味を惹きたりき。

明治36414日 大阪朝日新聞

○余興評判記(三) 不思議館(上)

 場外の動物園と相対して場内の人気を集めて居るのは例の電気光学不思議館であらう。開場当時は不思議に不思議を重ねて見物に一種の不思議を感じさせた事もあつたが、近来は追々整頓して、そんなケツタイな事も無くなつた。カーマンセラ女の夜の舞、火の舞、朝顔の舞、火焔の舞の壮観なことは云ふまでも無い(孰れも同調同工ではあるが)。その他にも無線電信、エツキス光線、育兒器などは大に人の目を歓ばせる。滑稽鏡に映りたる自分の姿の奇怪なるに驚く人、透明鏡に骸骨の映りたるを見て自分の顔を撫でゝ見る人、取り〴〵に感興を催すであらうと思はれる。小供の見物としては顕微鏡に映ぜる蜻蛉の幻燈、月世界の幻燈、更に趣味を感ずるのはカーマンセラ女の舞の前に見せる各種の活動写真であらう。然し是等は細々しく紹介するまでも無く、皆様は評判を聞いてお在(いで)であらうから、こゝにはカーマンセラ女の談話を筆記して、活動写真的に同女の真面目をお目に掛ける。善くお目を留めて御覧あられませう。

 黄金色の髪、碧色の清(すず)しい眼、薄き唇、淡墨(うすごろ)い瞼、薔薇色のふッくりした頬に笑(えみ)を含みて曰く、西洋の博覧会といひますと、何うしても余興に重きを置いて居ります。余興で人気を寄せて、さうして博覧会を見せる組織になつて居るやうですから、私も何うしたら人気に投ずるであらうかと思つて日々苦心をして居ります。左様、此方へ参つてから浪花座と蘆邊踊を見ました。浪花座を見物致した時は、何故お国では男女混淆芝居をせぬだらうと思つて異(あやし)みましたが、蘆邊踊を見て成ほどゝ感じました。蘆邊踊は女の方が舞台にお立ちなさるけれど、その調子から姿性までが、とても浪花座で見たお里さん(徳三郎の演じた壺坂のお里)には及びません。西洋では一たん舞台へ出た上は髪が乱れやうとも帯が解けやうとも決して他人の手で助勢する事は致しません。それは第一演劇の妨げにもなり、熱心に技を演じて居る處へ補助者の出るのは客人に対して失礼でもあるからです。處がお国では、芝居にも踊にも後見とかいふものが沢山出ます。夫が為、私共の目からは拍子が抜けて見えますから、是は全然廃止されるが宜しからうと思ひます。(何がし)

〈編者註〉415日、16日の両日に続きが載るが、化粧の話がほとんどで、興趣が薄いので省略する。ただ人力車の話で、「人力車に乗らうとする時、支配人のハリスを嫌ひます。是はハリスが肥て居るからでせう」とあって、ハリスが肥満であったことがわかる。

明治3641日 大阪毎日新聞[広告]

電気光学不思議館器械部完成廣告

無線電信。X光線。活動写真。胎兒化育器。電気筆。天然色写真器。滑稽鏡。透明鏡。電気作用大顕微鏡其他種々

UNQUESTIONABLY THE MOST

3EAUTIFUL AND FASCINATING NOVELTY

OF THE PRESENT DAY

CARMENCELLA

FIRE DANCER AND TERPSICHOREAN MARVEL

本館は以上記載の如く二十世紀に於ける学術応用の余興を蒐集し、嘗て見ること能はざる斬新の器械類を公衆の観覧に供する者なれば、開期中是非共諸賢の研鑽を仰ぐもの也

電気光学(博覧会場内唯一の余興)

電気光学 不思議館

カーマンセラ 003カーマンセラ 011



















 明治
36419
日 大阪朝日新聞[広告]

 博覧会に来りて不思議館を見ざれば日光を見ずして結構と云ふに均し 

米国女優カーマンセラ嬢演舞番組

第一回 モーニング、グローレー(新意匠朝顔の舞)

第二回 ナイト(八面玲瓏美巧燦爛たる夜の舞)

第三回 リレー(百合舞)此演舞に着する衣裳は全世界中最大最長のものにして之を能く操縦する者は獨り當館のカーマ
   ンセラ嬢あるのみ

第四回 フワイヤ(火の舞)火煙猛烈の裡に包囲せられつゝ演舞を為す極めて皮肉の蹈舞

器械部

胎児化育器、透明鏡、大顕微鏡、X光線、無銭電信機、天然写真、活動写真、月世界大映写鏡、其他種々

右毎日午前十時開場 博覧会場内唯一の余興 不思議館

明治36419日 都新聞

○火炎の舞(不思議館のカーマンセラ嬢) 於大坂 遅塚麗水 

 博覧会の逢坂門より入り、右に折るれば其処に不思議館と云ふあり。米国の女優カーマンセラ嬢が登場して朝の舞、夜の舞、白百合の舞、火炎の舞など演ずるにぞ、好奇の観客は常に場に満ちたり。舞は五色の電燈と反射鏡とを巧みに応用するものなれば、不思議でも何でもなけれど、其五彩の変化尤も巧妙なれば、誠に人の眼を喜ばすなり。

場に入れば柱も天井も壁も黒く塗られて夜より暗きが中、正面舞台に火炎色緞帳の懸け卸されたるは実(げ)に眼の覚むる心地したり。扨て勇ましき西楽の中に緞帳は巻き上げられて数番の活動写真を映じ出す。(中略)活動写真を映し終れば是よりカーマンセラ女優の舞(ダンス)は始まるなり。

観棚左右の扉は閉され、場内の電燈は一時に消されて薄暗(たそがれ)よりも尚ほ暗きが中に、舞台に懸けたる緞帳は真中より颯(さつ)と披(ひら)いて左右に分れば、唯だ見る、漆を盛りしと思はるゝ暗き彼方に人あり、黄金の髪を振り乱して天女のごとく舞ひ出でたり。長き袂(たもと)は雲をや綴れる、曳ける裾(もすそ)は霞をや裁ちたる、□々(せんせん)として翻がへる裾に、袖に映じ出だせる彩色(いろ)電燈は紅(くれない)より黄に、黄より碧に、碧より紫、紫より青藍(せいらん)に暈変幻化の色を尽して、其の美しさ言ふべかりしもなし。最後に長き袖を収めて春筍(たかんな)のごとく身に巻き纏へば、衣は紫金(しこん)の光を放ちて幕は音なく下り来る、朝の舞とは是れなり。

 次なるは夜の舞とて、身に金紫燦然たる衣を着け、蝶の精かとばかり舞ひ出でたるが、舞台の後に屏風形の幾回(いくまわり)の大鏡を立てたれば、真中に舞ふ一人の姿は背に数個の姿を現じ、例の五彩の電燈の射映を受けて紅(あか)きは霞、紫は嵐、青きは雲を纏ひしとばかり、光彩陸離、見る眼も眩ゆし。

さて白百合の舞といふは、袂の長さ一丈に余るを衣(き)て舞ふものにて、矢張り電燈の射映を受けて、紅莫青紫、変り行く衣の色は前のに似て美しく、舞の終りに袂を颺(あ)げて立ち上れば、衣の色は雪より白く変り来り、実に一本の白百合の楚々として立つにも似たり。

最後の舞は火炎の舞とて、燃るばかりの紅(あけ)の衣(きぬ)、舞ひ行くほどに火薬を用ひて烟の迷ふ其の中に、色電燈は一団の猛火を幻じ出して天女のごとき舞人(まいて)の身体を裏(つつ)むと見ゆるなど、余りに手品めきたれど観る人の眼を喜ばしたり。(後略)」(都)

明治3655日 京都日出新聞

○米国女優の事(相手は市長) 大阪博覧会場に余興の見世物多き内に、世界の新奇を蒐めたる不思議館の米国女優カーマンセラ嬢こそ第一に人の注意も牽き、評判最(いと)喧しき一つなる可し。其朝の舞ひ、夕の舞ひ、あるは胡蝶の舞ひに、燦(さん)たる電燈の色を併せて、目覚むるばかりの美しさに、体のこなし、眼光の色に云ひ知れず艶なる處ありとて、怪(け)しからず胸騒がす男ども尠(すくな)からぬ中に、今其羽振り好き大阪市長鶴原定吉氏が、開場の折一目見て心を奪はれ、何とか当つて見んと思へど、肩書に対して左様々々(そうそう)まづい事はいはれず、兎や角と日を過すうち、去る二十日開会式の当日、同館々主荒木和一の請願を幸ひ、開場を許して自分も出掛け、午後十時頃演芸の終りて見物人の散じたるを待ち、和一を橋渡しにて百五十円で靡かせんとしたるに、人気を貴ぶ女優の事とて左右(そう)なくは靡きもせず、百五十円は突返へし、沸(に)へ切れぬ返事で断りしかば、愈よ躍起となり、又数日を思案に過して同館に出懸け、カーマンセラを引張り出し、大阪ホテルに連れて行き、有る限りの馳走をなし、其上自由亭へ連れ行きて二百円と切り出せしに、先方(むこう)も左(さ)る者、五百円位ならばと足元を見られて、大に呆れるものゝ、値を付けて買はぬ訳には行かず、左りとて五百円の金は惜しゝ、殊にはカーマンセラが嬢と名乗るは表面だけ、内輪には同館の技師ハリスが夫で有るばかりでなく、そんじよそこらの二三の紳士には僅(わずか)の金にて自由にされしと知るに付け、大いに業を沸して居らるゝ由。

明治36531日 大阪朝日新聞

カーマンセラ 007○不思議館への御代理

両殿下(編者註:皇太子同妃両殿下)は不思議館へも行啓あらせらるゝ筈なりしも、俄に御見合せとなりたる由は前紙欄外に記したるが、昨日午後二時過、特に御代理として侍従二名を遣はされ、機械室を巡覧せしめられたるよし。カーマンセラ嬢は俟ちに俟ちたる行啓の御見合せとなりしを一方ならず遺憾に思ひ居れりと。

〈編者註〉右図は行啓をみこして五月二十八日付大阪朝日新聞に「博覧会画報 両殿下御覧の不思議館」として掲載された挿絵であるが、上記のように実際は中止になった。

明治3671日 大阪毎日新聞

○カーマンセラ嬢の舞踏寄付 不思議館のカーマンセラ嬢は今回本社の主催に係る貧兒慈善観覧会の挙に賛同を表し、昨日左の書簡を送りて舞踏寄付のことを申込来れり。同訳文左の如し。

拝啓 陳者今回貴社にて観覧会に貧兒招待相成候由聞及び候に就ては、妾は彼等に同情を寄するものなると同時に彼等に愉快なる一日を付与せんとする貴社の美挙を賞揚するものなることを御通告いたしたく候。尚妾は妾の舞踏を彼等の観覧に供するを以て最も幸と致し、貴社の御都合次第何時にても彼等貧兒のため舞踏を行ひ可申候。願くはこの書簡を以て彼等への招待状と致すを得ば幸甚これに不過候 早々



misemono at 10:30│Comments(0)TrackBack(0)カーマンセラ嬢の舞踏 

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