某日「もしもしあの‥。神森です。僕に聴かせたいアルバム3枚、何ですか。あの‥今から行きます。」
僕の好きなアーティストを(おもむろに)訪ね、僕にお薦めのアルバム3枚を選んでもらうこの企画。
お薦めの訳と、僕が後日、自ら購入して聴いた感想を掲載していきます。
毎月25日に更新します(→過去の連載は
こちら)
いやはや。
いよいよ(まだまだ?)3回目。
ぼちぼち感想やゲストのリクエスト等をいただいたりして、嬉しい限りです。
はてさて。
今回は、ここにきて、入手困難なチョイスに遭遇。
購入するのに苦労しました。
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そんなわけで。
どこかで見たことのあるポージングをきめている(笑)第3回のゲストは‥
HARCO(青木慶則)氏
圧倒的にポップでキャッチ−でキュートな、声、言葉、旋律、音
ライブでのリアルタイム・サンプラーを駆使した一人多重録音パフォーマンスは、同じマルチプレイヤー・シンガー・ソング・ライターとして、刺激と影響を受けた
常に貪欲に自分の音楽を追究する、優しさ溢れる彼の「歌」は、
大人の心をも踊らせる、煌くポップ・ミュージックだ
ちなみにこの写真のポージングは本人たっての希望によるもの‥
けして強要したのではありません(笑)
「招かれざる客」といいながら、写真のとおり、HARCO氏が僕の部屋を訪ねてきてくれたのだった
「いやあ、青山さんの回を見て、予告のとこに『次回訪問先は‥ HARCO氏』てあったけど‥僕が来ちゃったなあ(笑)」
というHARCO氏のお薦め3枚は‥
○
Frank Pahl「
the back of beyond」(2003)
『かつてアヴァンポップ界でもひときわ異彩を放つグループ「オンリー・ア・マザー」を率い、現在はソロアーティストとしてアメリカはミシガン州の片隅で、最高にチャーミングでエクスペリメンタルな音楽を作り続ける奇才。プリペアドピアノやバンジョー、スライドギター、ハーモニカ、ウクレレ、ベル、おまちゃ‥さらにはもう普通では見たことがないような楽器や自動演奏機を自ら製作し、多種多様な音世界を作り上げる。』−CD帯より抜粋−
■HARCO
基本的に現代音楽畑、の人
「音」にこだわっていて、自作楽器も作ってるんだよね
オルゴールみたいに、ぜんまい仕掛けでギターを勝手に弾く装置を作って、
それが10秒で1周するようにしてループを組んで、それと一緒に合奏したりとか。
彼は普段、音楽の先生をしているくらいきちんとした音楽の知識があって。
珍しい楽器をただ重ねるだけではなく、ちゃんと「音楽」にしているあたりが、聴いていて納得ができるし、自分がインストをつくるときの励みになる
神森君のCDを聴いたり、ブログで「
音のしくみ」て本が紹介されているのを見て、「音」にこだわっている人だと思ったから、好きじゃないかな、と思って
■神森
素晴らしいです、このアルバム
キラキラしていてコロコロしていてフワフワしていて‥
全編不思議で温かみのある音が左右正面にちりばめられていてとても楽しい
またそんな沢山の音が、それぞれの音を邪魔することなく、しかしそれぞれの個性を保ちながら存在しているというのも驚きだ
この聴きやすさは、まずともかく楽曲がどれもよい、というのが大前提だろう
コードの展開や音の積み(和声)などがしっかりしている中で、いろいろな音が暴れたりはしゃいだりしているので、飽きたりすることもなく安心して楽しめる
その辺はさすがミシガン大学の教授、といったところか
トイ・ポップなんて言われているそうだが、いろいろ掘り下げて聞いてみたい
HPで自作楽器の画像が見れるのだが‥キてますな、こりゃ(笑)
○Lindberg Hemmer Foundation「Supermarket-Music」(1997)
『NU-ELECTROの達人?リンドバーク・ヘマー・ファウンデイション、コペンハーゲンより登場!リンドバーグのハモンド・オルガンとヘマーのベース・ムーグをはじめとするシンセサイザー群の絡みは絶妙。』−CD同梱の宣伝用紙資料より抜粋−
*このアルバムは廃盤になっています、現在は
April Recordsから「
Scandinavian Supermarket-Music 」という再発盤を購入可能
■HARCO
リズムボックス+ムーグ+オルガンのインスト
神森君にとって、「歌もの」もそうだけど、「インスト」も、将来的にあれかな〜、と思って。
CM音楽の仕事などをする人にとって、参考になるかな、と。
構成力の素晴らしさとか、全曲完成度が高くて、凄く好き
自分のラジオ番組でもジングルとして使ったりするなあ
普段プロとしてやっている人じゃないと作れない音楽だと思うな
■神森
チャカポコした軽めのビート(TR-808という昔のリズムボックスの音)の上に
ボサノバやジャズぽい、いわゆるラウンジ的(モンドつうのかな?)な音楽が乗っかった、軽やかで涼しげなアルバムだ
アルバムのタイトルが「Supermarket-Music」ということで、BGMとして何気に聴くと、ただのイージー・リスニングに聞こえる節もある。
のだが、音色やそれらの重ね方・使い方のセンスとか構成力が、よくある無味無臭なただのスーパーマーケットで流れるBGMとはまったく異なる。というよりも、むしろ正反対だ(それらに対するアンチ・テーゼにとれなくもない)。
それから、この肩の力を抜いた感じ、
自分の引き出しに入っているものでチャチャッとアルバム作ってみました、というくらいの瞬発力が感じられた
それは、今の自分の音楽製作に欠落している部分でもあり‥(いつもあーだこーだ、なかなか曲作りが終わらない)。
もう少し懐の深い大人になりたい、そんな、お腹周りにだけ貫禄のつきつつある男、神森徹也、29歳(笑‥えない)
○
Sukpatch「23」(2006)
『米国ケンタッキー州はニューポート出身の2人組エレクトロ・ローファイ・ユニットによる7年振りのアルバム』
■HARCO
OCTOCUBEというユニットを一緒にやっている友人でもあるんだけど
それは置いておいても、「宅録」で「歌もの」ということで神森君に通ずるものがあるかな、と思って。
彼等も多分バンド経験はあまりなくて、
もともとヒップ・ホップが好きで、白人である彼らが、自分達なりのヒップ・ホップをやろうとしてこうなった、といった感じ。
僕も宅録の人だけど、
「宅録の人」と「そうでない人」の違いは、
そうでない人の場合、
スタジオでがっちり演奏するのが好き
それに対して宅録の人は、
箱庭的に自分だけの中でやるのが好き。
スポーツで例えると、
そうでない人が
サッカーとか、チームプレイなのに対して
宅録の人は
マラソン、一人で走り続ける、
て感じだと思う。
■神森
ギター、声、メロディなどはTeenage FanclubやSuperchunkのようなギター・ポップぽい質感で
ビートは90年代のローファイとか言われた音楽(もしくは、それに影響を与えた80年代後半のヒップ・ホップ)のような質感
そんな違った質感同士が心地よく、「ポップス」の中で共存している
ところどころに垣間見られる、妙な浮遊感は、2000年に入ってからの音響系とか言われた音楽の影響か
このジャンルレスなゴチャマゼ感は、やはり宅録ならでは、だ
いろいろな音楽に興味を持って、憧れて、吸収して、吐き出している
ま僕がそんな感じなので、非常に共感できる部分だ
とかなんとか
このアルバム、単純によい
メロディや音が一体となっていて、煌いているし、泣いている
僕が曲を作るのは、
自分が日々生きてきた・生きている中での微妙な感情を、
言葉で、旋律で、音で、それらすべてのバランスで、自由に(「自由に」というのは非常に難しい‥多くの知識が必要とされるから)表現したいからで、
今のところそれを実現させるための最も現実的な方法論が「宅録」なのだと思っている
画家が自分の絵を背景から何から細部まで一人で描くのが当たり前であること、と同じような感覚だと思う(多分‥)
ところで
HARCO氏が「宅録の人はマラソン、一人で走り続ける」と言っていたが
計らずも僕の曲に「とにかく走る」という曲がある
とにかく宅録しまくった曲だ(笑)
終わりに------------------------------
今回のお勧めCD3枚はどれもジャンルは違えど、可愛らしく、妙で、潔く、筋のとおったアルバムだった
HARCO氏によれば、紹介してもらったミュージシャンの中には普段はCM音楽製作やTV音楽製作(や音楽大学の教授)など、クライアントが存在する音楽の仕事をしている人も多いのだそうだ
彼等はそんな中で培われたであろう「プロ」としての意識や実力を持ちつつ、それをひけらかすことなく、肩の力を抜きながら、楽しんで、自分の音楽を作っているのだろう。
HARCO氏もそんなミュージシャンの1人だと思う
「知識は宝」であることは疑う余地がないが、それだけに捕らわれ過ぎず、常に遊び心を忘れずに、自信と不安と共に、これからも音楽で自分を表現していきたい
HARCOさん、どうもありがとうございました
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次回訪問先は‥ 林立夫氏 です
みなさんお楽しみに
神森徹也