2007年01月15日

ドライミストによる蒸発冷房の現状

ミストブログを本年もよろしくお願いいたします。
東京理科大学 辻本研 ドライミスト班。

               
『ドライミストによる蒸発冷房の現状』
          
東京理科大学  辻本 誠

1.開発の経緯
本稿では愛・地球博で注目された、「なごミスト」と名付けたドライミスト開発の経緯と現状について説明する。
 開発の動機は、簡単にまとめれば「地表面における太陽エネルギーの吸収率を上昇させる可能性のある屋上緑化から、緑化を除いて蒸散による冷却効果だけを残す」と「ミスト消火のために開発されたノズル技術」の合体である。このアイデアが平成15-16年度経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業「ドライミスト蒸散効果によるヒートアイランド抑制システムの開発」(代表:辻本誠/奥宮正哉)註1)として認められ、ミストを噴霧した空間の内外に一卵性双生児を配して温冷感を測るなどの実験研究1), 2)を経て、2005年夏に愛・地球博(グローバルループ、ワンダーサーカス電力館、オーストラリア館)でデビューした。
微小な水滴を散布して涼をとる方法は、公園などのアミューズメント施設に以前から存在し、愛・地球博でも20種類ものミストが乱舞(?)した。しかし、1流体ノズル(後述)単独で「頭上から噴霧し、濡れを感じさせずに涼をとる」というシステムは我々の「なごミスト」だけである。愛・地球博ワンダーサーカス電力館でのアンケート(1424名)では、設計者として1/7程度になると予想していた「濡れたように感じ嫌だ」との回答は2%以内に収まっている。

2.現状と今後の展開
愛・地球博で大勢の人に体験してもらったお陰もあって、2006年夏は、グローバルループ施設の再利用として、豊田市駅前のペデストリアン・デッキ、安城市デンパークの休憩所などに移設されたのをはじめ、東京都が平成18年度重点事業18「都市と地球の温暖化対策」の中でドライミストの設置に関する補助(最大1000万円×2件)を用意することとなった。我々としては採用された「秋葉原クロスフィールド」を含め複数の案件を提案し、六本木ヒルズ66プラザ(図1)でも実現することができた。
図1図1





図2は8月7日の測定値で、ミスト内外で等エンタルピー線上を空気状態が変化している(気温30℃近辺では気温1℃低下で相対湿度5%上昇)ことが分かる。2007年夏には函館五稜郭タワーのアトリウム部、新丸ビルの外構部での利用が決まっていて、これまでの適用範囲を分類すると、建物周辺の待合・休憩スペース、遊歩道の半屋外空間と、室内では夏季に冷房設備の無い地域でアトリウムのように自然換気が期待できる空間への対応となる。今後はエネルギー・水の使用実績の公表ならびに適用地の気象分析を蓄積することで、より具体的な展開が期待できる。
図2図2



3.技術論
3−1.ミスト生成
ミストの作り方に入る前にドライミストとは何かが定義される必要があろう。自然界のmist(霧)は、平凡社大百科事典によれば、直径数μ〜数十μの水滴が1cm3の空気中に数個〜数百個含まれたものである。我々がドライミストに求める性能は、(霧後、空中でほぼ100%蒸散することと感触がドライで、触っても濡れた感じがしない。また女性の髪が濡れたり、化粧が崩れたりしないことである。こんな性能を評価する既成の試験方法は無く、試行錯誤の結果として、平均粒径としてザウター平均値(総体積/総表面積):16μ註2)のノズルを使っている。ただし、平均値だけでなく粒径分布にも注意が必要で、分布の幅が広くなるとミストも出来るが、粒径の大きい方で雨も降るという感じになって、△寮能が満たされない上に、水滴になる分、(蒸発により奪う熱量)/(ミストを作る際の投入エネルギー)=COPと考えた場合のCOPが低下する。
次に、ミストの作り方は、現状では水を6MPa(60気圧)で加圧して、直接、ノズルから噴出させてミストを作るやり方(一流体式)である。この方法でのエネルギー消費は、ラフな数字だが、超音波方式の1/100、二流体式(圧縮空気を利用する霧吹きの原理)の1/10である。一方、一流体式の弱点は、発停時の圧力変化時に、ミストになりきれない水がノズル先でボタ落ちすることであるが、これは昇圧と降圧の仕方を工夫することで対応できる。
 次の問題は室外でミストを噴霧する場合、どんなノズルでも起こる課題だが、外気風の影響により噴霧したミストが、ノズルもしくは周辺の配管に吹き戻されて水滴化し、滴下することである。これではせっかく上記のボタ落ちを防いでも甲斐が無い。これへの対策は水平面(外気風のベクトルの向き)に対して噴霧角を調整する、配管とは一定の離隔距離をとり、その距離の間にミストの濃度(空間密度)を水滴化しないレベルまで下げる、などがあるが、これも今のところ、試行錯誤にならざるを得ない。これらの現象を簡易に試験する方法が存在しないので、現状では大学の屋上の手すりに各種のノズルを取り付け、上方へ向けて噴霧して、手すりが濡れるかどうかで性能を比較している。

3−2.蒸散量と適用範囲
 さて、ミストが100%うまく蒸散するシステムが出来上がったとして、ノズル先からどれだけ水を出すかというのも難問である。自然観察が趣味の筆者としては、単純に森の冷却効果をそのまま持ち込もうということで、「図解生物学データブック」(丸善、1986、p67)に従い、クスノキの全蒸散速度:測定日8/28 2137(mgH2O/d平米/h/10mmHg飽差)から、気温34℃、相対湿度50%→飽差21mmHgで、かつ葉の重なりから水平面全体から蒸散するとして、標準値を7.5ml/分/屬箸靴拭山田宏之(2003)(都市緑化の観点から、環境情報科学、32-2、pp.28〜31)でも、単木を対象とした夏の1日の総蒸散量の測定値は、樹幹面積23屬離ぅ船腑Δ1日あたり220函6.6ml/分/屐法32屬離ぅ船腑Δ452函9.8ml/分/屐砲任曚榮韻献ーダーである。
 次はどんな気候のところが適用範囲か、言い換えればどんな地域では蒸散がうまくいかずに不適切か、という判断が必要になる。これも精査は必要だが、相対湿度が70%を超えると、経験的に蒸散が不十分で床が濡れやすいことと、3-3.の温冷感のことを配慮して、気温30℃以上、相対湿度70%以上をミストの冷却効果が薄れる望ましくない条件と決めて、気象庁のホームページから各地の24時間データを分析した。
 2003−2005年の3年間、6−9月の1時間データで、「気温30℃以上、相対湿度70%以上」の時間数は、以下の各都市でそれぞれの数字となる。
函館:0、仙台:6、東京:0、名古屋:9、大阪:9、松山:5、福岡:20
各都市の気象をさらに詳しく検討すると、海風の存在の有無、降雨などが時間数に影響していることがわかる。時間数が極端に多い福岡では、図3のように発生はピークを17時とする山形の分布で、夕方から夜半にかけての過ごし方が気になるところである。このように、ミスト適用の可否を検討することで、各都市の夏の特徴、微気候への対処のあり方など、新しい視点も開けてくる。
図3図3





3−3.ドライミストと温冷感
「日本は高温多湿なので、ミストを噴けば湿度があがり、体感上、蒸し暑くなるだけではないか?」というのが、このシステムを提案すると必ず出る反論である。
 確かにミストを空気中に噴霧すると、相対湿度は上がるが、同時に空気温は下がる。気温30℃前後では、気温1℃の降下で相対湿度の上昇は5%で、図4に矢印に示したように夏の暑い日の気温と湿度が変化する。
図4図4










一方、室内での定常状態の温度・湿度下における快適性についてのASHRAE(Kochほか、1960)の研究成果によれば、図4の太線のように温冷感(例えば、暑いの太線の右側にあたる温度、湿度の条件では50%以上の人が暑いと言い、左側では暑いという人が半数を切る)が説明されていて、相対湿度75%までは気温だけで温冷感が決まる、とされている。また、真夏の名古屋であれば、ミストを噴霧すると、環境は図中の矢印上を移動して、過半数が暑いとは言わない環境、すなわち「暑い」から「少し暑い」の間の環境へシフトすると判断できる。ただし、図4の太線は室内での実験結果であり、日射、外気風の影響などまだまだ解けていない部分が多い。
さらに東南アジア(バンコク、シンガポールなど、※oteyama注:追加図参照)で利用されている例では、ミストは水滴が直接、肌にあたる粒径の大きいもので、蒸散で気温を下げることが主目的のようには見えない。相対湿度が高くて蒸散の十分起こらない場では、一部が気化して気温より温度の下がった水滴が肌にあたった方が、涼しさを感じるのでは、とも考えているが実証的研究は行われていない。真夏、子供たちにはこの方が人気があることは明らかである。
バンコクのミスト追加図。バンコク市内のミスト。









3−4.ドライミストとヒートアイランド対策
 使用電力量と水量の実績については、愛知万博グローバルループUNIT4で以下の値が得られていて、ポンプ容量とミスト散布量が理想的な組合せであれば、前述の定義のCOPが300を超える装置となる。
 グローバルループUNIT4(対象面積:約4100屐.離坤訌躾堯576個 期間:7/5-9/25)
使用水量 838.480㎥(398ml/時間・屐法∋藩囘杜藁漫2025.9kWh(1.03W/屐
このCOPであれば、夏季、都市内小公園(50m四方)に適用して、小公園の全周囲に建築物があり空調しているとして、高さ3mの部分の伝熱負荷を2℃分下げることで生じる省エネルギー分は、ミスト生成に必要なエネルギーを下回る。その結果、地域のエネルギー消費の総量は変わらずに、気温が2℃下がる(相対湿度は10%上がる)わけで、これがヒートアイランド緩和につながるという点が、我々の狙うドライミストの神髄であると考えている。
 なお、打ち水や保水性舗装はエネルギーを使わない?ので、COPが無限大という議論も成り立つが、平面からの蒸散には限界があり、特に無風の場合はミストの1/3-1/2で、気温を降下させる効果は期待できない。打ち水をするのが日暮れ時であることも、このことを説明している。

4.過去から未来へ
時代を遡って、現行の冷房システムが無い時代、エアワッシャを備えた蒸発冷却は、千葉県庁(明治43年)、東大六角講堂(大正3年)に採用されていた3)ようである。またドライミストの先達として、深堀4)は1993年に一流体ノズルによる霧発生システムで都市空間の快適性向上の可能性を指摘しているし、名古屋のオアシス21でも2004年夏から細霧冷房の試みがなされている。
 冷媒を用いる既成の装置、いわゆるクーラーは容易に涼しさをもたらす反面、「窓を閉めて廃熱を掛け合う」近隣関係を作り出している。筆者としては、「少し我慢しても窓を開けてドライミストによる冷気を分け合う」ことを目標にしたい。このため、2006年夏には、住宅に適用できる小規模の装置を開発するということで、自宅も含めて、DIYに挑戦した。(図5)。この経緯は卒論生のブログ http://blog.livedoor.jp/misuto601/に詳しいので、是非、見ていただいて、騒音レベルが低く省エネルギーのポンプの開発にお知恵を拝借したい。
図5図5







注1)地域新生コンソーシアムのメンバーは以下のとおりで、ドライミストの登録商標は能美防災蠅砲茲襦幣ι古佻紳4947954号)。名古屋大学、清水建設蝓Т浜法人、中部電力蝓↓蠕酲楡什扈蝓能美防災蝓↓螢函璽ン
注2)He-Neレーザーを用いたフランホーヘル解析法で粒径分布を求めている

文献
1) 辻本 誠、ミストの蒸散効果を利用したヒートアイランド対策−そのコンセプトと初歩的検討−空気調和・衛生工学会中部支部学術研究発表会論文集第4号、2003年3月
2) 児玉奈緒子ほか、ドライミスト散布によるヒートアイランド抑制システムの開発(その5)、日本建築学会東海支部研究報告集 第44号、2006.2
3) 空気調和・衛生設備技術史、pp6-7、空気調和衛生工学会、1991.4
4) 深堀賢久、霧発生システム、産業機械、1993年7月号

※(本論は「月刊:建築設備と配管工事4月号特集」掲載に向けた未定稿です。)

misuto601 at 19:38│Comments(4)TrackBack(0)clip!Tsujimoto | oteyama

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この記事へのコメント

1. Posted by 澤田勝彦   2007年08月12日 19:10
居心地のいい学校づくりでドライミストを紹介しています。
澤田勝彦:沢田創造研究所
〒979-0155福島県いわき市三沢町仲畑75-1
TEL:0246-65-5126 FAX:0246-65-5182 Ksa00122000@yahoo.co.jp
沢田創造研究所 http://www3.plala.or.jp/sawadahp/
澤田勝彦の建築スケッチ http://www3.plala.or.jp/sawadak/
居心地のいい住まいづくり http://www3.plala.or.jp/jch/
2. Posted by 中野 哲郎   2008年07月20日 22:59
大分市で少年野球団の役員をしております。この夏の炎天下の中、子供達は練習に日々取り組んでおります。熱中症で気分が悪くなる子も年々増えています。
せめてテントの中(休憩する為・子供たちへのお茶※水分補給場所)にこの装置を導入できないかと思います。(もちろんこの暑い中での練習も注意は必要ですが・・・)予算(費用)と設置条件をお知らせ願います。(給水施設一か所あり)
テントの広さ3m×3mが2台横並び設置です。
3. Posted by 種岡一男   2009年06月07日 19:17
小生もドライミストには関心を持っていました。あなたが開発をしていることを6/7テレビで拝見しました。
早速ですが、小生も水の微粉粒子を扇風機に設置し簡易冷却装置ができればと考えていたさなか、あなたのテレビを拝見しました。是非コンタクトを取りたいと思っています。
メールアドレスは確認できると思いますので宜しくお願いします。
4. Posted by 広 直樹   2009年08月26日 10:01
超音波方式の1/100と記載されていますが、
根拠資料等はありますでしょうか?

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