2012年09月24日

「コンビニ弁当で養豚奇形」情報はどう広がった?

「コンビニ弁当で養豚奇形」情報はどう広がった?

 森田が「科学を放棄した安部氏の講演から、消費者団体は何を学ぶのか」と題して、8月28日の衆議院第1議員会館で開かれた「院内緊急学習会」の模様をお伝えしました。それを読んで、「また、この亡霊が現れたのか……」と私、松永は思いました。コンビニ弁当による養豚の流産、奇形発生のエピソードです。
 この話、大元の情報をたどって行くと、かなり疑わしい内容であることがわかります。ところが、ずいぶんと時間がたった今でも、食品添加物不安をあるためのもっとも効果的な事例として、このように使われるのです。

 私は、このエピソードのなにが問題でなぜ疑わしいと考えるのかを、養豚関係者の集まりなどでは講演し、養豚業界雑誌にも書いたことがあります。「だから、皆さん方の取り組み、養豚の実態を、しっかりと情報公開し、見てもらって、消費者に理解してもらうことが必要なんですよ」と説明するわけです。
 しかし、よく考えてみれば一般向けにはあまり解説していません。よい機会なので、ここで解説させてください。


 先日の院内緊急学習会で、森田によれば安部氏は、「友人による告発」として、次のように説明しました。

 3カ月コンビニ食を食べたお母さん豚は早産、流産になって奇形豚を生む。食品添加物の「せい」で、子供たちの味覚は麻痺され、清涼飲料水やインスタント麺などからとんでも ない量の油、塩、砂糖を摂っている。食品添加物をとるなら覚悟が必要だ。なぜなら明日、禁止になるかもしれない。禁止の原因はほとんどが発がんだ。

 この話、おそらく2004年3月19日発行の西日本新聞朝刊に掲載された記事が発端です。「食卓の向こう側」という連載記事の一つです。要約すると、次のような内容です。

<記事要約>
 2年ほど前、福岡県の養豚家が、母豚に賞味期限が切れたコンビニ弁当やおにぎりだけを毎日3kg食べさせた。するとぶくぶくと太りだしたので、すぐに量を減らしたが、妊娠して114日後、予期せぬ結果が出た。死産が相次いだのだ。産まれた子豚も奇形だったり虚弱体質ですぐに死んだり。羊水はコーヒー色に濁っていた。25頭の母豚が被害に遭い、農場主は産まれるべき約250頭の子豚をフイにした。原因は分からないが、コンビニ弁当だけでは栄養バランスが崩れる。一般的なコンビニ弁当は高脂質で濃いめの味付け、少ない野菜。それに、家庭にはない食品添加物も入っている。

 さらに、食品添加物にかんする記述として、『「腐る」という自然の摂理から逃れるには、何らかの形で人の手を加えなければならない。』と書かれています。そして、記事の最後は、こう結ばれています。

「豚体実験はもうこりごりだ」。農場主はうんざりした顔で言った。


 この記事、当時はずいぶんと話題になり、2ちゃんねる等では「どこのコンビニの弁当だったのか? 西日本新聞はコンビニの名称を書くべきではないか」などの書き込みが数多く見られました。
 ただ、なにせ福岡市に本社がある西日本新聞の記事だったので(発行は、九州一円と山口県)、東京ではあまり大きな話題とはならず、コンビニ企業や養豚業界が抗議するような動きには繋がらなかったようです。

 安部氏はもともと福岡県北九州市在住で、「食卓の向こう側」の連載にも登場しています。安部氏は講演で、たびたびコンビニ弁当と養豚の話をしており、西日本新聞の名称を挙げる場合もありましたので、安部氏の今回の院内集会での話も、この記事が基になっているのではないか、と推測できます。

 さて、この記事のなにが問題か? 私は、次のように考えます。

●まともな養豚家は、いきなり母豚の飼料全量をコンビニ弁当とおにぎりだけには切り替えない。飼料の管理は、養豚の要である。コンビニ弁当とおにぎりは、栄養のバランスが悪く高脂質、高塩分。それをいきなり1日3kgとは、暴挙。そんな人の話を信用する?

●25頭の母豚被害は、養豚家にとって影響が大きく、通常なら感染症がまず疑われる。ところが、養豚専門の獣医師団体や生産者団体のどなたに尋ねても、どの獣医師が診察したのか、わからない。県の家畜保健衛生所にも届けが出ていない。

●食品添加物はさまざまな安全性評価試験を行うことが定められており、催奇形性や生殖毒性などないことが確認されたうえで認可されている

●豚の死産や奇形は、一定の自然発生がある。ウイルス感染などが原因の場合もある。コンビニ弁当や含まれる食品添加物以外のものが原因である可能性を、否定できない。

●コンビニ弁当の飼料化は、いくつかの研究機関が検討しており、死産や奇形などの研究結果は報告されていない。宮城県畜産試験場が1999?2001年度に行った研究では「コンビニ弁当廃棄物は粗脂肪が多く養豚用飼料としてそのまま給与することは難しいが、簡便に市販配合飼料と配合し給与する場合、30%程度までの配合であれば、産肉性、肉質等にほとんど影響がない」という結果が出ている。

宮城県畜産試験場・「食品残さの養豚飼料としての利用」
http://www.pref.miyagi.jp/res_center/3laboratories/spread/no77/sankou/no77s16.pdf

 結局、一事例でコンビニ弁当の是非、さらには、食品添加物の問題点にまで話をつなげるところに、無理があるのです。よくよく読めば、情緒先行、事実あやふやな記事なのですが、同じ書き手として「うまい」とうならざるを得ないのは、最後が「豚体実験はもうこりごり」で結ばれているところ。この一言で、読者は人体実験を想像し、ぞわーと背筋が寒くなる。私にこの腕があったら、さぞかし売れっ子ライターになれるものを……なんて冗談はさておき、「ぞわー」の情報が人の口の端に上りやすいのは世の常。こうした書きぶりの連載は人気を呼び、のちにブックレットとしても販売されています。

 そして、次の記事が出ました。今度は「フジサンケイビジネスアイ」2006年11月4日付。小泉武夫・東京農業大教授のインタビュー記事に、次のような記述があります。

 賞味期限切れのお弁当を養豚場に運んで豚に食べさせていたら、豚の子どもに奇形が多くなったと報道されたことがありましたが、「無菌状態の弁当にするために使われる、発色剤や粘調剤などの添加物が原因の可能性があります」と指摘。キレやすい子供が多くなったことや16?25歳の男子の精子がここ30年ほどで20%も減少していることなども食生活との関連が疑われています。

 ちょっとわかりにくい記事なのですが、カギかっこの中が教授の発言で、それに記者が補足説明した形になっています。

 そこで、私は同社に電話して、発言の根拠を尋ねたのですが、「教授がこう言ったのは事実です。この発言がどんな科学的根拠に基づくかは、教授から聞いていません。教授に尋ねてください」とのこと。どの論文や研究報告が根拠になっているか、新聞社から尋ねてほしい、と頼みましたが、「私たちには関係ない」の一点張りで、まったく応じてもらえませんでした。

 当時は、食品残さの飼料利用がおおいに脚光を浴びていた時期で、さまざまな事例が公表されていました。社団法人畜産技術協会等は、「畜産経営における食品残渣等利活用のために」をまとめています。が、そうした事実は、無視されてしまいました。
http://jlta.lin.gr.jp/report/detail/pdf/kokunai_h017-03.pdf


 こうして、コンビニ弁当と養豚のエピソードは、雑誌等でもたびたび取り上げられ、安部氏もいろいろなところで話すので、拡散していったのです。

 今回、院内集会の模様を読んで、私は「最初の記事が出てから8年もたっているのに、またか」と思ってしまいました。私がその場にいたら、「根拠はなんですか」と尋ねたところです。が、安部氏は講演後に質問をいっさい受け付けなかったそうなので、いたとしても確かめる術はなかったでしょう。

 根拠を尋ねて、もし新聞記事だ、と言われたら、前述の疑問に加えて、もう一つ、重要な倫理的な問題を生じます。記事が事実だとしても、8年前の記事が「2年前のこと」として書いたことを、そうとは説明せずにあたかも現在のコンビニ弁当の話であるかのようにしゃべるのは、いかがなものでしょうか。

 いずれにせよ、根拠を明示せずにコンビニ弁当で奇形だ、流産だ、と発言するようなことは、社会通念上、許されない、と考えます。でも、個人がそのような問題発言をすることを止めることはできません。

 問われるべきは、そのような発言をこれまでもたびたびしてきた人物を、院内集会に講師として招き、講演させた主催者側の判断です。主催者の「食品表示を考える市民ネットワーク」を構成するのは7団体で、「主婦連合会」「食の安全・監視市民委員会」「NPO食品安全グローバルネットワーク」「生活クラブ生協連合会」「グリーンコープ共同体」「特定非営利活動法人日本消費者連盟」「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」、共催は全国農業協同組合中央会(全中)と全国農業協同組合連合会(全農)でした。安部氏の話は、院内集会でおおいに“受けた”そうです。個人的には、やりきれない気持ちです。

 さて、長々と解説したのは、もし読者の皆様がこの話をどなたかから聞かされたら、「いやいや、元の記事に問題があるようですよ」と説明して、情報拡散を止めてほしい、と願うからです。
 情報の影響力は大きく、取り扱いは慎重でなければいけない、と考えます。これは、「間違った情報は、その時に是正を求めないと、後々まで尾を引く」ということを示す典型的な事例。だからこそ、企業などには「間違った報道には、しっかりともの申してください」とお願いしますし、私自身も繰り返し自戒して、取材と情報発信を続けています。