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無期懲役囚、美達大和のブックレビュー

教養を深めたい、仕事に生かしたい――。
人として成長するために本を読みたいと思っても、何から読めばいいかわからないビギナーのためのブログ。
服役中の無期懲役囚・美達大和から届く書評を随時公開。
週2回をめどに更新していきます。


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『落陽』 朝井まかて

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『落陽』
朝井まかて Kamate Asai
祥伝社
1600円+税

 今年は、この著者の当たり年になりそうです。

 女浮世絵師を描いた『眩』(レビューは既に管理人さんに送付済)や、幕末の江戸城開城(明け渡し)の際に残った大奥の5人の女を描いた『残り者』(読みたかったのですが、同じ著書の作品ばかり、レビューするのもみなさんに申し訳なく、我慢のしどころ)など、ハイペースで刊行しています。

 テーマがいいんですね。今回は、明治神宮(明治天皇と、妃の昭憲皇太后を祀っている所)の建立と、その時代の世相でした。書評(雑誌などの)では、もっと神宮建立の様子を描いている(一種のプロジェクトXのように技術者や、周辺のこと)と思ったのですが、それより、世相・風俗が多い作品でした。

 主人公というか狂言回しは、東都タイムズ記者(新聞記者)の瀬尾亮一・27歳です。瀬尾は、元『萬朝報』の記者でしたが、クビになり、三流の東都タイムズに移りました(萬朝報のボス、黒岩涙香は、『レ・ミゼラブル』を訳し、『噫、無情』のタイトルで刊行するなど、当時の新聞にエンタメ性を加えた人でもあります)。

 この東都タイムズの記者は、「羽織ゴロ」でもあり、情報をつかんできては金持ちをゆするなど、怪しげな仕事もしていたのです。その瀬尾が、明治天皇の病状が重いことを知った時から、物語は始まります。そうして、間もなく天皇は崩御され、天皇を祭神とする明治神宮の建立プロジェクトが動き出すのです。森厳さを出すために、集められた樹木(一般から献木させます)は10万本、最終的に150年後の完成を目指しました。150年をかける(森らしくなるまで)というのが凄いです。

 本書では、明治天皇の治世や人となりについても描かれていますが、「歴史のみたっちゃん」の私には、ちょっと物足りなく、みなさんには後で良書を紹介しましょう。しかし、本書は作品としては面白く読めるので心配ありません。

 明治天皇(この人は、外国からもグレード・エンペラー、大帝と呼ばれました)は、開国後の日本と共に成長した人です。満16歳で明治を迎え、ただの坊ちゃんから、雄々しい天皇へと、周囲の者と自己の強い努力で変身しました。武人天皇を目指した人でもあり、質実剛健、贅沢はせず、常に国と国民のことを考えた人でもあります(その点では、昭和天皇と今上=今の天皇 も全く同じです)。

 日清戦争(1894(明治27)年~)では、大本営のある広島ですごし、兵士のことを思って粗食を守りました。明治天皇は、夏のどんな暑い日でも羅紗の厚い軍服をぬぐことなく、「夏は暑いものやろ」と平然としていた人です。心の奥では戦争を好まず、なるべく避けようとしますが、いざ開戦となれば国と兵のために自己を律したのでした。

 日露戦争で勝ち、欧米のみならず、アジア・アフリカ諸国の王候や政治家からも尊敬を集めます。新生トルコを築いたケマル・パシャなどは、明治天皇の肖像を飾って崇拝していたほどです。

 明治天皇は、政治にも深く関与しています。人間を見る眼は鋭く、誠の心のない者を嫌う人でした。明治天皇が、武人天皇となったのは、西郷隆盛や大久保利通の考えにより、武士あがりの侍従でとり囲んだからです。大の写真嫌いで、世に出回っているのは定型の何パターンかでしかありませんが、それでも若い頃からの精神の成長が、眼の表情に表れています。

 本書では、合わせて新聞記者や風俗についても描かれ、明治から大正の世が、しのばれました。東京が、まだ東京市(東京都になったのは、1943=昭和18年 ただし、江戸から東京になった時は東京府)の頃で、人口は200万人でした。

 本書では、明治天皇の大喪の日に乃木希典大将夫妻が殉死したことを書いていませんが、その点が残念です(この件は、必ずといっていいくらい出てくる逸話でもあります)。昭和天皇は、祖父になる明治天皇の記憶を怖い人と語っています。叱られたわけでもなく、見ているだけで威厳があって恐ろしかった(もっとも昭和天皇は、まだ幼少の時でした)と語っていました。

 明治天皇は、美子皇后とも睦まじく、鼻筋の通った皇后を「天狗さん」と呼んでからかっていたそうです。最期は糖尿病の合併症などでしたが、かなり、無理をしていたとされています。

 さて、明治「大帝」の書、数多あるのですが、コンパクトで正確かつ、よく調べてあると感心するのは松本健一『明治天皇という人』(新潮文庫)でした(本書は、明治の歴史と、登場する数々の政治家の人となりがわかるという貴重な一冊でもあります)。明治大帝を知りたい人はご一読を!(本書も共に)

『他人と比較してものを考える習慣は致命的な習慣である』
(バートランド・ラッセル)

このレビューで美達が紹介した本


美達から手紙が届きました(2016年12月4日付け)。

 いろいろあったようですが、最終的に皆さんの高度で温かい「相手を思いやる心」でおさまった事、これは凄いなあと感嘆しました!私のような者のブログなのに、心から感謝します。

 みなさんからのコメントが増え、紙数の厳しい制限(獄の指定)がなければ、もっと細かく対応したいのですが、了承してください。公平にとも心がけていますが、その時々の質問の性質により、回答量に差が出ますので。また、修養中の息子さん お母さんには、特に多くなりやすい点、どうか、ご海容を。お母さんの自責の念がわかるだけに 、私でよければ役に立ちたいのです。同時に息子さんの資質がよいので、将来は社会の為にも何かやってくれると期待しています(と、いうことだから、息子さん!)。

 冬眠に入る人、暫くお別れの人たち、常に念頭にあるので早く戻って来てください。意地悪された件、私の対応はストレートですから、人にはすすめられません。自分が同じ事をしなかったというので、よかったのです。意地悪というのは率直に自分の不満など(己の狭い価値観や歪んだ心情)を出せなかった弱さ、卑劣さからきます。弱い奴、気の毒と思うのも「今」の私の対応です。相手の心の内や価値観までどうこうできないと割り切ります。
 
 それと以前の「私にあう街」の件、こんな本がありました。『本当に住んで幸せな街』(光文社新書)。
 
『仕事について』を好きとの事、嬉しいです。「最終話」また見てください。足、早く治るように、戻ってくるようにと。鋼鉄の身体との事、どうかハートも鋼鉄、又は柳のしなやかさで頑張ってください。
 
 日本の安全保障(エネルギーも含め)、まさにコメントの通りで、この点、国民はもっと知る必要があります。「平和憲法」の念仏だけでは国は守れません。これからの人たちが正しい知識と行動を選ぶ事が大切です。
 
 修養中の息子さん、知っての通り、獄では荷物の量(本)と時間制限もきつく、綱わたりで やってます。どうか、興味を持って学んでください。日本人に必須です。できるゆえに気を抜かず、いつも、お母さんもいると考えて下さい。『西郷南州遺訓』(文庫でアリ)など、心の修養のヒントになります(他のみなさんも是非)。
 
 明治の近現代史を学んでいる人、とても良い事で嬉しいです。松陰のように私もここで共に学ぶ者を募集し、ささやかに実行しています。幕末・明治はエキサイティングな時代ですね。読みものとして(PHP文庫)「幕末維新の不都合な真実」/(小学館)井沢氏の『逆説の日本史』19巻以降/(新潮文庫)「明治天皇という人」など、わかりやすく、内容があります(他にもたくさんありますが、まずは)。
 
 方眼紙、自分の手で書くのが大切です。さて、12/14のFRB以後、行かない手はありません、と言える時が来ました。もちろん、多少の下落(調整のための)が平気なら「今」行きます。万一、外れたら、次を狙いましょう。ケーキも寿司も施設へも大丈夫でしょう! ちなみに私は「買出動」しています。FRBでもし、下落なら安い買い場になるはずです。他のやってる人も読みましたね。
 
 筋トレ、筋肉痛が常にないと、夜中でも起きてやってたものです。北村氏、私も好きでした。メニューではレップス少なめ、ウェイトどんと重め、そして、とにかく速く動かす事、体軸をぶれずに、と。部位は変えます。3~4日ローテーションでした。セット多め(10~15以上!)他、30mダッシュ50~100本(社会人になり、減ってこの本数。スタミナ、バッチリでしたが) 。余計な所に筋肉つくと、パンチスピード遅くなりますね。励んで下さい。
 
 父の件、本当に好きです、普通はムッとする事も多かったのですが。真っ直ぐな人でした。旭川、えっらく「シバレるね」ですね!食べ物のうまい所でもあります。旭川出身の「永久に乙女さん」いろいろ気遣いありがたいです。
 
「海」のお母さん、「天然」でないとの事、でも、娘さんみたいですね。私にできる事、遠慮せずに。本当に紙数あればと思いますが、我が身の不徳のせいですね。12月、早いもので、すぐ年越しとなります。多忙と察するのですが、みなさんご自愛専一に。(美) 

『人工知能と経済の未来』 井上智洋

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『人工知能と経済の未来』
井上智洋 Tomohiro Inoue
文春新書
800円+税
2016年7月刊

 サブタイトルに「2030年雇用大崩壊」とあります。

 人工知能(AI)の進化により、将来、消えてしまう職業が多くなる、という言説が、近年増えているので読んでみました。

 読む前の私の思いは、AIに替わられる職業はあるものの、メディア・書籍で騒がれるほどのことではないというものでした。AIの進化では、AI自体が独自で「学習して発展する」ディープラーニングというのもありますが、完全に人間を超える(その感性も含めて)とは思えません。いいえ、マシンとして超えたとしても、情緒や職人が長年にわたって鍛えたミクロン単位の技を再現することは、至難の業ではないかな、と感じています。喧伝されるように、近未来にAIが恐ろしく賢くなって、人間を支配するなど、空論でしかない(物語としては、面白いのでしょうが)、というのが自論です。

 本書では、未来があらゆる人々が遊んで暮らせるユートピアか、一部の人々だけが豊かになるディストピアかとなっていますが、私の考えではどちらもありません。後者に関しては、AIと関係なく、進んだ資本主義とグローバリズムの結果として、その傾向は今より強くなりますが。

 本書の構成は、AIの最近の話題紹介、AIの今後の進化の見通し、2045年に何ができ、何ができないかの技術論、2030年以降にAIが経済に与える影響(どのように雇用を奪うのか、経済成長を促すのか)、第四次産業革命以降の経済のあり方、未来の世界にベーシック・インカムが、いかに相応しいか、となっていました。

 本書では、将来、なくなる可能性の高い職業をスーパーのレジ係、レストランのコック、受付係、弁護士助手、ホテルフロント係、ウェイター・ウェイトレス、会計士、会計監査役、セールスマン(以下、省略)としています。コックがなくなるとは考えられませんが、味覚と組合せの妙を、デジタル化するのでしょうか。

「2045年」という特定の仕方は、有名なレイ・カーツワイル(『レイ・カーツワイル』NHK出版、興味ある人は一読を)の提唱する、シンギュラリティ(技術的特異点、コンピューターが全人類の知性を超える時点のこと)が、この年代になることから言われています。

 カーツワイルは、「GNR革命」を主張していました。Gは遺伝子工学、Nはナノテクノロジー(10億分の1の世界)、Rはロボット工学のことです。Gの進歩で「人造肉」も可能とされ、既に試作品があります(ジューシーでなく、今の段階では実用不可)。ナノテクでは、人体内に入れることで寿命を驚異的に延ばせるそうです。実験では、若返らせているとあります。

 私が関心があるのは、マインド・アップローディングといって、人の意識をコンピューター内に移し替えるという技術です。その人の記憶・人格・思考の全てが、コンピューターで再現されます。いわば、肉体なき意識として「生きる」わけです。2030年代後半に可能とか。

 本書ではAIが、私たちの生活で、どのように活用されるのか、それによって労働と雇用がどう変わるか、詳しく述べられていました。しかし、未来の話なので、論理的に積み重ねていくとそうなのだろうけど、現実には社会(人間の)感情や都合もあって、どこかに横道があるように感じられるのです。

 著者は、雇用の多くがなくなり、生活のためにベーシック・インカムの効用を主張していますが、私は著者の主張に説得力は感じませんでした。おそらく、人間とは時に不合理なことでも行動してしまうという点を、除外しているところに、私は主張の弱さを感じたからです。雇用がなくなるからには、ベーシック・インカムを採用すべきというまでに、論理の飛躍があります(ベーシック・インカムとは、一切の社会保障をやめて、国民に1人あたり、×円を支給するという制度です)。

 著者は、ベーシック・インカム礼賛者のようで、自論に引き込むために展開する主張に脆さを感じました。とは言っても、本としては知的に面白い一冊です。経済のことも学習できますし、テクノロジーという面でも参考になるでしょう。

 こういうことを知る度に、人間とは本当に賢いと言えるのか、自らの存在さえ否定するイノベーションを進めて、それを心配するのは愚かでは?  と考えてしまいます。どんなにテクノロジーが発達しても、人にしかできないことはあるはずです。これまでも、似たようなことが言われてきましたが、現実社会の進み方は、それを乗り越えてきています。

 2045年、どんな時代になっているのでしょうか? 知識の一つとして一読ください。

『言葉というものはどこから生まれてきたのか。言葉にできない声音でこの世は満ちている』
(石牟礼道子『葭の渚』より)

このレビューで美達が紹介した本


みたつ・やまと●1959年生まれ。2件の殺人を犯し、長期刑務所に服役中。現在でも月100冊以上を読む本の虫で、これまでに8万冊以上を読破。初めて衝撃を受けたのは10代のときに出合ったロマン・ロラン著『ジャン・クリストフ』。塀の中にいながら、郵送によるやりとりで『人を殺すとはどういうことか』(新潮社)、『夢の国』(朝日新聞出版)などを著す。
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『人生を変える読書 無期懲役囚の心を揺さぶった42冊』
廣済堂出版
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『女子高生サヤカが学んだ「1万人に1人」の勉強法』
プレジデント社
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『牢獄の超人』
中央公論新社
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『私はなぜ刑務所を出ないのか』
扶桑社
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『塀の中の運動会』
バジリコ
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『刑務所で死ぬということ』
中央公論新社
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『人を殺すとはどういうことか(文庫)』
新潮社
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『死刑絶対肯定論』
新潮社
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『ドキュメント長期刑務所』
河出書房新社
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『人を殺すとはどういうことか(単行本)』
新潮社
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『夢の国』
朝日新聞出版
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