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無期懲役囚、美達大和のブックレビュー

教養を深めたい、仕事に生かしたい――。
人として成長するために本を読みたいと思っても、何から読めばいいかわからないビギナーのためのブログ。
服役中の無期懲役囚・美達大和から届く書評を随時公開。
週2回をめどに更新していきます。


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『誰もボクを見ていない』 山寺 香

『誰もボクを見ていない』
山寺 香(やまでら・かおる)
ポプラ社
1500円+税
2017年6月刊

本書は、2014(平成26)年3月に埼玉県川口市で起きた殺人事件がテーマでした。

17歳の孫の男子が金目あてに祖父母を包丁で刺殺したという事件です。これだけの情報だけなら、なんと自分勝手で心のない少年だろうと感じるのが普通でしょうが、この少年の事情は違いました。その生(お)い立ちは悲惨(ひさん)の一語に尽きます。

その原因は母親のだらしなさ、浪費(ろうひ)癖、虚言(きょげん)癖によるものでした。母親はまともに働くこともせず、絶えず男を取り替え、その相手を金としか考えないようなクズだったのです。そのため、少年は小学校にも時々しか通えず、小5から中2の間は完全に不登校の状態でした。その間、少年は母親とその相手の男と3人でラブホテルで暮らしています。これがまたおかしな話で、毎日ホテル代を日払いの他に、まだ小さな少年が一緒にいるのを知ってて、ホテルの管理人は何もしないのです。要は料金さえ払ってくれたら、あとは干渉しないとしていました。

また、少年は母親に強制されて、親類や祖父母から借金を重ねます。借金の理由は母親が考えますが、借りることが半(なか)ばノルマ制みたいもので何としても借りてこいというものでした。先方でも母親が借金を少年に強要しているとわかり、母親に話をするのですが、口がうまく、心臓に毛が生(は)えているような女なので全く効果がありません。

しかも、金の使い途(みち)は、この母親のパチンコ代・ラブホテル代・ホストクラブ代などです。「言うことをきかないと施設に行ってもらう」という脅し文句で言うなりにさせられていました。ラブホテル生活の間に、妹が産まれますが、面倒をみるのは少年でした。それが過酷な環境の中で、献身的に面倒をみるのです。

そうこうしている間に男にも逃げられ、少年が働くようになると、給料は数カ月先のぶんまで前借りさせられ、母親は相変わらずの生活を続けます。こうなるまでに途中で児童相談所の介入もあったのですが、当時は法律の壁があって強制的に保護できませんでした(現在は、できるようになりました)。小学校の先生は、学校で何とかしようと思っても、家ですべてひっくり返されてしまうとどうにもならないと語っていましたが、そういうものなのでしょうね。

前借りもできなくなると少年と母親は金に困りますが、それでも母親は働こうとはしません。その挙句(あげく)、「ばあちゃんたちを殺しでもすれば(金が)手に入るよね」と言い出します。少年が適当に「そうだね」と笑うと、母親は「本当にできるの?」と詰めていくのです。そうして少年は恩ある祖父母を殺しました。私が驚いたのは、殺害を知らせると母親が笑ったこと、そして死んでいる祖父母の家に入って金品を物色して盗み出したことです。その後、逮捕された母子は、少年が懲役15年、私は殺せとは言ってませんと否認した母親は強盗だけの罪で4年6カ月の刑でした。

少年には、多くの支援者が現われましたが、なんと悲惨な人生なのだろうと同情を禁じ得ませんでした。本来の少年は、妹に示す優しさや共感力もあり、学習意欲もありました。それが、このような人生に変えられたのです。

本書では、著者が新聞記者ということもあって、このような子どもに対して、社会ができることとは何かと、問いを投げていました。少年は心理的・性的・経済的虐待とネグレクト(育児放棄)の被害者です。無慈悲に祖父母を殺したことは大罪でしたが、そこには酌(く)むべき事情がありました。

最後に少年の心境が綴られていますが、自分の行為への分析にまだまだ曖昧(あいまい)な部分があるものの、これから獄中で勉強することが予想されるので、知的な青年となるでしょう。そして、この少年は自身で告白しているように、心は女性という「性同一性障害」の疑いがありました。男の子も15歳前後ともなれば、体力的に母親を凌(しの)ぐので、おかしなことに従うことはなくなるのですが、心情的に「女性」であれば逆らえなかったのかと想像しました。

本書の後半が、救済できなかったのか、何が必要かという点で読みどころとなっています。心配なのは、出所後の母親と暮らすであろう妹のことでした。また、少年は他者、とくに男への恐怖心もあるので、獄中でうまく良い人に出会って改善されたらと願うばかりです。

『人生のあらゆる瞬間において、人間は過去の自分であると同時に未来の自分でもある』
(オスカー・ワイルド『獄中記』より)


このレビューで美達が紹介した本

『迷宮』第18回

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私を担当した刑事の一人は最初から県警本部の一課ではなく、田舎の刑事からスタートした人でした。

この県警本部と各所轄(しょかつ)の刑事の間には序列があり、本部が上です。所轄署とはみなさんの地域にある△△署のことを指しています。同じ刑事部の課長と言っても、本部の第一(いち)課長(殺人などの強力犯担当)は花形部署・出世コースで階級は「警視正(けいしせい)」といって国家公務員です。

所轄署の課長は、警視正の二つ下の警部が普通になり、地方公務員になります。その上の警視は小さな署の署長になれる階級ですが、ここまでが地方公務員です。警視正なら、所轄でも大きな署の署長になります。

なお、警視正の上は警視長(ちょう)、警視監(かん)、警視総監(そうかん)です。このクラスは、ほぼ国家公務員Ⅰ種試験、今は総合職試験に合格した「キャリア官僚」で占められています。キャリアは全国の29万人の警察官のうち、わずか500人です。

合格者(大抵は大卒で22歳スタート)は初めから警部補(ほ)から始まり、半年で警部、2年3年で(26~28歳で)警視、5年6年で(33~35歳で)警視正、また5~7年で(40代前半で)警視長、50歳前後で警視監となり、警視総監や警察庁長官(これが最高峰)を狙います。

警視長は小さな県の県警本部長、警視監は主要な大きな県の県警本部長になる階級です。ここで警視庁と警察庁の違いについて述べておきます。他の道府県は北海道警察、○○県警、大阪府警と呼んでいますが、東京だけは「警視庁」です。このトップが警視総監で一人です。

そして、各都道府県警察の上に君臨するのが、「警察庁」となります。警察庁にはトップの長官、次の次官がいますが、彼らは県警本部長や警察庁の刑事局長、長官官房などを経て長官や次官に上がるのです。警察庁のエリートコースは、長官官房、刑事局長、警備局長などのポストを経ることが一つの「お約束」になっています。

私はいつも、官僚の人事発表の記事を見ていますが、警視総監も警察庁長官も「東大法学部」出身です。昔は人気がなく、Ⅰ種試験でも成績がよい人は大蔵省(財務省)に行ったのですが、20年くらい前から警察庁も人気が出てきました。代用監獄にかかわる予算と天下り先増加と捜査権と情報が権力の源泉とわかってきたからです。

内閣府においても、警察官僚は情報を総理にあげる点で一定の力を持っています。ノンキャリアの人は、47都道府県の中で1カ所は設けてある県警本部長になれたら、それが最高峰です。ノンキャリアのモチベーション対策のためにこうしていますが、警視庁内のノンキャリの最高ポストは、企画課長(地域部長も兼ねる)です。警察も階級社会なので、平(ひら)の巡査から試験で昇任できます。巡査の上の「巡査長」は正式な階級ではありません。年功で勤続10年で自動的に昇進します。

その上の巡査部長(部長刑事とは、この階級です)の昇任試験は高卒で拝命(はいめい。就職すること)後、4年以上の実務経験を経た者、大卒で2年以上同条件となっているのです。ノンキャリで高卒でも、30歳前後で警部補という人もいます。

刑事になると、昇任試験の勉強をする時間がなくて(本人たちの話です)、昇進は望まず、刑事の職人・プロを目指すそうです。面白いなと思ったのは、古い制服は各自で裁断処分をすることで、ベルトのバックルも金槌(かなづち)で使えないようにつぶすと言っていました。世間に出回るようでは事件のもとです。

みなさんがテレビのニュースなどで目にすることがある、首相や大臣を警護するSPも警視庁の所属でした。正式には「警備部警護課」といって第一係から第四係まであります。第一係が首相担当、第二が大臣、第三が政党要人、第四がその他の要人の担当です。

新聞やテレビで見ると髪の毛をぴしっと整え、イヤホンをした長身の人がSPとなっています。基準は身長173センチ以上、柔道・剣道3段以上、巡査部長以上の人が最低3ヵ月の訓練を経て配属されるのです。もちろん、拳銃の射撃訓練でも相応の成績を収めた人たちで、あの部署もいざとなったら楯になるというので魅力的ではあります。

『奮闘するのが、僕の健全な生活です』
(ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』の中のクリストフの言葉)

『迷宮』第17回

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たとえば、前出の機捜(機動捜査隊)の捕り物劇(逮捕現場)でのエピソードです が、185センチ120キロはあるぞ、というごつい体格の刑事が、ヤクザを一本背負いで車道に叩きつけたあと、仁王立となり、

「俺が今、売り出し中の△△だあっ!」

と、たんかを切ったのも、

「ええっ、自分で言うかよ、売り出し中って!」

と笑ってしまいました。

当時は昭和60年代で、ヤクザなどはパンチパーマ全盛で、マル暴(ヤクザ担当の) 刑事も大体はパンチパーマでした。中にはスーツやブルゾン上下も本職以上に派手な刑事もいました。この頃は「暴対法(暴力団対策法)」もまだなく、刑事とヤクザがうまく付き合っていた頃です。

うまく、というのは、刑事が「覚醒剤月間」などといって、覚醒剤事犯を集中的に 取り締まる期間であれば、「おい、頼むぞ」と刑事に頼まれて、ヤクザがそこそこの量(約100グラムから500グラムまで)の覚醒剤をコインロッカーなどに入れておき、それを刑事が見つけるという出来レースがありました。

ほかに「銃器月間」「暴行犯月間」など、時期によって取り締まりの対象が定められ、ここで成果をあげておくと出世につながるのです。特に拳銃の押収はポイントが高く、これをやった刑事は周りからも一目置かれます。

押収の出来レースには「クビつき」「クビなし」の2通りがあり、「クビつき」とは被疑者も付けて捕まえる(アゲる・パクる)ことで、「クビなし」は物の(拳銃・薬物など)のみの押収です。クビつきは組員の誰かが「チョーエキ(懲役刑で服役すること)に行くわけで、これはヤクザ側も刑事に大きな恩を売れ、何かと情報がもらえたり、お目こぼしをもらえます。

情報というのは、違法な風俗店やゲーム賭博店や鉄火場(博打の会場)などへのガサ入れ(捜索)情報のことです。お目こぼしとは「ニギリ」とも言いますが、暴行・傷害・恐喝事件などを捕えないで「たいがいにしとけ」と見逃してくれることを指します。ただし、これは何かあると別件逮捕で蘇るので要注意です。

別件逮捕というのは、本当は殺人容疑で逮捕(パクるといいます)したいのに確固とした証拠がないので、傷害か何かで捕まえといて、22日間の間に自供を引き出そうとすることを言います。刑事をいうのは、相手がヤクザなら何でもありなので、カタギの人にヤクザ特有の筆字の名刺を出しただけで脅迫だとかで捕えてしまいます。

 
脅迫罪は刑法代222条で「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し外を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」という法律です。この「害を加える旨を告知して」が、組の名刺を出す行為何だという解釈で、ヤクザとしては税金みたいなものと諦めるのが一般的でした。

なので、新聞やニュースなどで何かがコインロッカーから見つかったと報じられた時は、「あっ、これは共同作業だ」と見ていました。仮にクビつきで物を出す時であっても、入手先は言えませんと押し通すことも事前に決められています。

ヤクザが悪質なことをすれば捕えますが、そこそこなら放っておくのがマル暴刑事のセオリーでした。現在は暴行法のために互いに交流ができず、刑事もヤクザ情報が取れなくなり、やりづらい時代になりました。以前なら、ちょくちょくヤクザの事務所に顔を出してはそれもなくなったそうです。

刑事からの話で興味深かったのは、殺人や強力犯(強盗・強姦など)を担当する一課の刑事でした。一課に配属になった新米の頃は腐乱したり、バラバラになった死体の運搬係をさせられたりして参ったというのが、一つの儀式みたいな物と語っていました。

初めの頃は司法解剖に立ち会うのもいやだったとか、その死体が脳裏に刻み込まれて、寝ている時に夢を見ることも度々だったそうです。仮に被害者がやっていないと否認をしていても、刑事というのは、99%真犯人がどうかわかるとも話していました。この勘は長い間の観察力・洞察力の蓄積がなせる業です。

『自ら恃みて 人を恃むことなかれ』
(『韓非子』)

みたつ・やまと●1959年生まれ。2件の殺人を犯し、長期刑務所に服役中。現在でも月100冊以上を読む本の虫で、これまでに8万冊以上を読破。初めて衝撃を受けたのは10代のときに出合ったロマン・ロラン著『ジャン・クリストフ』。塀の中にいながら、郵送によるやりとりで『人を殺すとはどういうことか』(新潮社)、『夢の国』(朝日新聞出版)などを著す。
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『人生を変える読書 無期懲役囚の心を揺さぶった42冊』
廣済堂出版
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『女子高生サヤカが学んだ「1万人に1人」の勉強法』
プレジデント社
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『牢獄の超人』
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『私はなぜ刑務所を出ないのか』
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『塀の中の運動会』
バジリコ
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『刑務所で死ぬということ』
中央公論新社
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『人を殺すとはどういうことか(文庫)』
新潮社
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『死刑絶対肯定論』
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『ドキュメント長期刑務所』
河出書房新社
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『人を殺すとはどういうことか(単行本)』
新潮社
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『夢の国』
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