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無期懲役囚、美達大和のブックレビュー

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『新・階級闘争論』門田隆将(かどたりゅうしょう)

(管理人注 都合により、今週は「近現代史のツボ」を休みます。来週以降の再開をお待ち下さいませ。)


新・階級闘争論 ー暴走するメディア・SNSー (WAC BUNKO 341)
門田隆将
ワック
2021-04-27


(7月4日記)



オビには、

「死んだはずの全体主義が、SNSを駆使して甦り、集団リンチを繰り返し、国家転覆を実現するまでに巨大化」
「些細な差異を強調し、差別の被害者を生み出し、不満を利用した新しい階級闘争の正体」

とありました。

本書のテーマは、「暴走するメディアとSNS」についてです。

階級闘争という語は、マルクスが唱えた共産主義でのブルジョアジー(資本家)と、プロレタリアート(労働者)との闘争というのが淵源でしたが、時代が移り、今回のような形になりました。

著者の指摘する「新・階級」とは、

「性別、収入、学歴、人種、性的指向、職業、価値観等々、人間の持っているあらゆる差異を強調してつくり上げられた、本来は存在しない「階級」「階層」によるもの」

です。

その差異をことさらに強調することによって差別の被害者を作り、それに対する不満を利用して、本来はあり得ない一種の階級闘争に持っていくもの、とも指摘していました。

本書の骨格は月刊誌の『WILL(ウィル)』に2013年から8年間にわたって連載された著者の論評です。この8年間、いろいろなトピックスがありましたが、それらを思い出しながら、社会が、より非寛容になり、絶えず何かを誇張、歪曲して、騒動や集団リンチにしてきた足跡が記録されています。


ざっと目次の一部を拾ってみると、

アメリカに台頭した全体主義
キャンセル・カルチャー
寛容が消えた日本はどこにいくのか
トランプ叩きで暴走したアメリカ
『新潮45』休刊と日本のジャーナリズム
国難を乗り切るには、まず国会改革
中国はなぜ、ヒトヒト感染を隠したのか
厚労省はなぜ、国民の命の敵なのか
秘密保護法と人権擁護法、どちらが怖い
スクープを誤報にした朝日
産経スクープ「吉田調書」の衝撃
『文芸春秋』植村手記が問うもの
共謀罪は天下の悪法か
表現の不自由展は何が歴史的だったのか
司法は国民の敵か
偽善に満ちた最高裁判決
司法改革の敵「官僚裁判官」を許すな
緊迫する世界と平和ボケ日本
金正恩のジレンマは何をもたらすのか

などなどです。


この他にも、少年A、虐待死、白鵬、女系天皇、中国の台頭、慰安婦問題が題材となっています。

トランプ氏の件では、メディアの9割以上が「反トランプ」なので、ありとあらゆる手を使って、トランプ氏をおかしな人、愚かな人に仕立て上げていきました。

著者は、その過程を具体的に叙述しています。

2021年1月6日、連邦議事堂に集まったトランプ氏の支援者に対し、暴動を煽(あお)ったとして、ツイッター社はトランプ氏のアカウントを永久停止にしました。しかし、当日の同氏の演説を調べてみると、「平和的に」という語がしっかり語られていたのです。

これは、自説に不利な事実は報じないという、朝日、毎日、東京新聞がよくやる「報道しない自由」の濫用でした。

アメリカの「キャンセル・カルチャー」というのは、その人を糾弾(きゅうだん)し、公の場から排除することを指しています。

SNSでは、ハッシュタグ・#を使って激しく攻撃する手法が日本でも形成されています。

前出のトランプ氏の演説では、「皆さんは、その声を平和的、かつ愛国的に聴かせるために、連邦議事堂へと行進するのです」と語っているのを一切報じず、その3週間以上前にツイッターで呟いたwildという言葉を使って暴行を煽動したと報道したのです。

『新潮45』の休刊問題については、皆さんと一緒に、ちょっと「国語」について考えてみましょう。

問題の端緒は自民党の保守派女性議員の杉田水脈(みお)氏がLGBTにつき、『新潮45』に投稿した論評でした。

国や行政によって、LGBTに対する支援の度が過ぎるのでは?という趣旨です。論評を忠実に再現してみます。

尚、ⒶとかⒷの記号は私が加えました。

「Ⓐ行政が動くということは税金を使うということです。例えば、子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。
Ⓑしかし、LGBTのカップルのために税金を使うということに賛同が得られるものでしょうか。
Ⓒ彼ら彼女らは子供を作らない、
Ⓓつまり「生産性」がないのです。
Ⓔそこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。
Ⓕにもかかわらず、行政がLGBTに関する条例や要綱を発表するたびにもてはやすマスコミがいるから政治家が人気とり政策になると勘違いしてしまうのです」

これが大炎上しました。

当時、杉田氏を擁護する陣営は、糾弾する左派メディアや識者が、ⒶⒻを報じず、或(あるい)はほんの少し触れるだけで、焦点をⒸⒹに合わせたと指摘しています。

皆さんは、どう感じましたか?

私はこの文を一見して杉田氏の配慮不足だと見ました。

ⒸⒹのうち、特にⒹは子を作らない人は価値が低い、とも受け取れます。

人間否定に感じますが、皆さんは、どうですか?

生産性がない者に税の投入は不要とも解釈でき、言論としてはレベルが低過ぎます。

私なら、ⒷⒸ以下をこう変えます。

Ⓑその税金ですが、残念ながら無尽蔵に何にでも投入できるというわけでもなく、日本と国民の皆さんの将来を鑑(かんが)みれば優先順位があるわけです。

ⒸLGBTの皆さんも日本国民として尊重されることはもちろんですが、現在の少子高齢化対策や、高齢者の医療や介護対策、障がい者や難病を持つ方々への対策費を優先しなければならない、というのが国民の生命と生活を守るべき国の務めだと考えられます。

としますが、どうですか?

ついでにⒻについては、人気とり政策になってしまうことは長い目で見るとLGBTの方々に対してはリスクになり得るので、一時的な人気ではなく、しっかりと地に足を着けた対応をすべきではないでしょうか、と、こうなります。

杉田氏の文は、ⒸⒹが致命的でした。

政治家、公人ならば、もっと配慮しなければなりません。

ただし、私は本レビューで以前も書いたように、LGBTの人々が「声高に自分たちの権利を主張すること」に否定的であり、「多様性を認めよ!」とLGBTに理解のない人を糾弾することにも、

「ふざけんな! 多様性というなら認めない、歓迎しないのも自由だろ!」

という思いです。

日本という国でその道、生き方を選べば、まだまだ白い目で見られるのはあたりまえで、それも覚悟して生きろ、ということです。

コロナでは、相変わらず厚労省の不手際が目立ちます。新薬の承認、ワクチン開発の遅れは、この省が悪いです。

朝日新聞の件は、今更、不実を挙げてもキリがありませんが、福島第一原発での吉田所長に対する虚偽報道、慰安婦問題での元記者の植村の記事の虚偽など、日本の国益をどれだけ損なったら気がすむのか、一種の狂気すら感じます。

植村の件は裁判でもことごとく虚偽という判決が出ています。

7月現在、またも「森友学園問題」をやっていますが、これも完全な虚偽報道で、安倍前首相は「全く」関係ありません。

本書でも叙述されていますが、左メディアも野党も良心がないのでしょうか。

あれは、あくまで財務省と近畿財務局のミスなのです。本書では、自殺した職員についても触れていますが、前日に野党議員が押しかけて職員を吊るし上げていました。

司法と裁判官については、著者も得意の分野なので、昨今のおかしな判決の数々について言及していました。

虐待事件では、東京・目黒区の結愛(ゆあ)ちゃんの件ですが、殺される一週間前にも、以前住んでいた香川県の医師が品川の児相に連絡していたのにもかかわらず救えませんでした。著者は警察の介入を強化せよと提起していましたが同感です。

終盤には皇室問題もありますが、先行きを見ると明るいとは言えません。

女性天皇と、女系天皇、当レビューで以前も説明しましたが全く違います。

現在、眞子さんと小室の結婚問題がありますが、女系・女性天皇となれば、この男のように相手の女性すら守れない、しかも問題の多過ぎる母親を持つ者が、天皇の義兄どころか、天皇の父になる可能性があり、それは国民から尊敬の念を失い、皇室衰退へとつながるのです。

というので本書、広い分野にわたっているので是非、一読下さい!


今回の本は、

なぜ女系天皇で日本が滅ぶのか
竹田恒泰
ビジネス社
2021-06-23






アメリカ民主党の欺瞞2020-2024
渡辺 惣樹
PHP研究所
2021-05-22



赤い日本
櫻井よしこ
産経新聞出版
2021-05-01



検定合格 新しい歴史教科書
藤岡信勝
株式会社自由社
2021-05-22



崩壊 朝日新聞 (WAC BUNKO 278)
長谷川煕
ワック
2018-06-16



です。


『プリンシプルを持って生きれば、人生に迷うことはない』(白洲次郎(しらすじろう))


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『ストイック・チャレンジ』ウィリアム・B・アーヴァイン

ストイック・チャレンジ 逆境を「最高の喜び」に変える心の技法
ウィリアム・B・アーヴァイン
NHK出版
2020-11-27



(7月3日記)


本書のテーマは、「逆境に打ち克(か)つ」ですが、その逆境とは日々の不快な出来事、感情、怒り、困難などです。

ベースは、紀元前4世紀にキプロスのゼノンが創始した「ストア派哲学」でした。

日本では禁欲主義とも紹介されていますが、ストイック、ストイシズムの語源となった語でもあります。

著者は大学の哲学科の教授です。オビには、「究極のメンタルフィットネス・プログラム」とありました。


目次の一部を紹介すると、

試練に対処する
怒りは事態を悪化させる
回復力(レジリエンス)が決め手
回復力は習得できる
感情はコントロールできるか
アンカリング効果で感謝が芽生える
フレーミング効果で楽観的になる
ストイック・テストに取り組む
逆境を冷静に受けとめる
逆境はテストである
ストア主義者として生きる
ストイック・テストのための日常トレーニング
胆力を鍛える
心地よい領域(コンフォート・ゾーン)を拡大する
順境も冷静に受けとめる
死 卒業試験

となっています。


冒頭、著者は航空会社のアクシデントで長時間の待機と、ホテルでの一泊を余儀なくされた際の自らの対応を、ストイック・テストと称し、苛(いら)立つことなくクリアしたエピソードを述べていました。

著者は、苛立ち、不快、怒りに直面した際、どのように対応すべきかを、「ストイック・テスト戦略」と命名し、自分の回復力や問題解決能力を試されているのだ、と定義していました。

そうした負の出来事は、自分を「よりよいもの」にするためにあり、このような試練はありがたいとも語ります。

ストイック・テストは、ストア派の哲学者たちが考えたもので、物事をどのように見るか、どのように評価するのかという「フレーミング効果」とも深くつながっています。

フレーミング効果とは、状況をいかにとらえるか、その状況に対して抱く気持ちに大きな影響を与えることを指しています。

本書では、逆境と欲望の関係や、逆境に直面するかは先見(せんけん)の明(めい)の有無によると述べられていました。逆境では何よりも不安や苦痛がコストとして大きなものになります。

対応としては、怒りを避け、回復力を持つことであり、そのための教訓とトレーニング方法が紹介されていました。

怒りは自分に害を及ぼすものであり、避けるべきものです。ただし、ストア派哲学者は感情を抑えつけていたわけではありません。

参考までに付記すると、ストア派哲学者にはセネカやエピクテトスがいます。彼らは感情を大事なものとしつつ、マイナスの感情を減らそうと努めたのです。そのために用いたのがアンカリング効果でした。

その一つが、「人生が今より辛(つら)いものになることを想像するネガティブ・ビジュアリゼーション」です。

これは常に思い続けるのではなく、一瞬、考えるだけでもいいそうです。

私は学生時代から、いつも最悪の事態を想定してきたので、いざ、ネガティブな状況になっても困る、へこむ、などが全くありません。こんなことを想定してなくても、どうってことはないとわかっていますが、具体的にどんな行動で対処するか、というために想定し続けています。

本書では、もう一つ、「心を乱すのは出来事ではなく、それに対する評価である」と述べていました。

『自省録』の著者であり、五賢帝の一人、マルクス・アウレリウスも、

「あなたが何かの外的な要因で悲しんでいるなら、その痛みは原因自体ではなく、それに対するあなたの評価のせいだ。その評価は、あなたの力ですぐに取り消すことができる」

と語っています。

さらに、思考の型として、「あたりまえの今は恩寵(おんちょう)と思え」とあります。

本書、叙述は平易ながら、是非、皆さんに知って実践して欲しいことがたくさんあったので、一部を列挙しておきます!!


逆境の多くは自分の準備不足で起こる
逆境によって生じる不安や苦痛は、逆境そのものより大きなコスト
人生に何が起こるかはコントロールできない
起こったことにどう立ち向かうかはコントロールできる
選択肢が限られているとき、くよくよ思い悩むのは愚かだ
やり方を変えればたいていのことはできる
逆境に動じなければ、立ち直る必要さえない
回復力は持って生まれるのではなく、身につけるものだ
逆境を乗り越える経験は、人を強くする
自分を知るには、試練が必要だ
逆境は歓迎すべき試練である
敵がいなければすぐれた者であり続けることができない
逆境にどう対応したか、自分で評価しよう
逆境に対処するスキルは、練習によって向上させることができる
大きな目標は、多くの小さな目標に分解するといい
コントロールできないことは思い悩まないがストア哲学の教えだ
人間に必ず訪れる死について考えることは重要である
これをするのは最後かもしれないと考えることが死への備えになる


どうですか、早速、実践してみて下さい。

ストア派では、私が前から何度か述べてきたように心の平穏のアタラクシアと、不動の心のアパティアを獲得することが目的です。

人には楽天主義と悲観主義の人がいますが、最悪の状況と対応を考えておき、楽天主義で行くのが望ましいでしょう。

悲観主義の人は、往々にしてその悲観的思考や言動が、本当の悲劇、ネガティブな状況を呼び込んでしまいます。周囲をも暗くしていることもあるのです。

逆境をゲームの一部ととらえれば、感情面の衝撃を減らせます。

逆境に直面した時は、まずマイナスの感情に襲われないように必要な措置をとって下さい。できるだけ、逆境を歓迎すべき、ともあります。

本書では「5秒ルール」として、その時には5秒以内にストイック・テスト戦略と断定せよ、と述べられていました。

逆境を恐れるのではなく楽しむことが大切です。

私が信奉してきた『葉隠』では、災難に遭った時、平然としているのはまだまだで、大喜びせよという一節がありますが、私はこの一節が最も好きで、この思いで今日まで来ました。

「よっしゃ!」という私と、もう一人のわたしが、「さて、どうやるのか、お手並(てなみ)拝見」という心理です。

塀の中に入り、自分の人生を振り返った時、私のこの性格や考え方は、我がオヤジとの付き合いの中で培(つちか)われたものと感心すること頻(しき)りでした。

この人は自分の思い通りの結果でなければ思いっきり罵倒し、努力は一切認めません。

習ったところから出題される以上、100点があたりまえ、95点なら「なんだ、それ」、90点なら「バカか、父さんの子でない」です。

1番以外は2番も100番も同じ、負けはあり得ないの人で、私の打たれ強さはこうしたオヤジによっても鍛えられました。

もっとも、子どもの頃から、がっくり、しょんぼりはありませんでした。

いつも、「よーし、見てろよ!」で、そのへんの大人より精神力が強く、今でも感心します。

95点・90点は全て自分のミス、自分が悪いとしか思いませんでしたし、私の気性は先天的なものが大きかったとしか考えられません。

本書、良書でした。


今回の本は、


良き人生について―ローマの哲人に学ぶ生き方の知恵
ウィリアム・B・アーヴァイン
白揚社
2013-09-11



図解 一生折れない自信のつくり方
青木 仁志
アチーブメント出版
2020-10-12



です。


『汝(なんじ)の運命の星は、汝の胸中にあり』(フリードリヒ・フォン・シラー)


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フィスト・ダンス 第20回 『聖徳太子と鯉と紫色』

翔太たちは、その後、睦会(むつみかい)の五稜との対面式を何事もなく終えた。

「菊、他の学校の奴ら、加賀より強いって言ったらびびってただろ」

「うん、加賀さん、本当に有名なんだ。みんな、あの加賀さんがって言ってたよ」

『テオジニス』のカウンターでは、翔太、マーボ、トミー、西、津田が座っていた。他校での加賀の評判は高く、それに伴って翔太の評価も高くなっているようだった。

「そうだ、加賀は他校の上級生をぶっ飛ばしていることもあってタックと同じくらい名前は通っているからな」

西は1年当時の加賀が、遠征や街での武者修行で他校の上級生を潰していた経緯を話した。

「菊たちも、やってんだろ、街では?」

西は宙空を殴る真似をした。翔太たちが、やっていると答えると、今に名前が知れ渡るさ、と頬を緩ませた。

「やっちゃん、俺たち、バンバンやっていいんだよね?」

「おお、マーボ、バンバンやれ。今年の大中の1年は強いって宣伝しとけや」

津田の言葉を聞き、マーボとトミーは笑みを浮かべた。

「どうだい武者修行の戦績は?」

他の客への料理をさばいた天野に、翔太は「負けなしです」と報告した。

「だって先輩、翔太は同じ学中なんて、端(はな)から相手にしてないですから。生学(せいがく)を相手にしてます」

マーボは得意そうに胸を張った。

「ええっ、もう生学をかい」

早くも高校生を相手にしていると聞き、天野は目を丸くした。西も津田も同じ目をしていた。

「はい。全員ではないですが、生学の方が多いです。弱い奴を相手にしても強くはなれませんから」

自分を鍛えるためには、強い奴を相手にしなければならない、と決めていた翔太には当然のことだった。

「先輩、翔太は俺らとラベルが違うんです」

「ラベルじゃなくてレベルだろ」

トミーが指摘すると、マーボは舌打ちして、俺のことは、そおっとしといてくれ、と毒づき、場に笑い声があがった。

「菊山君、生学は体も大きいし、体力もあるだろ」

「体は大きいですが、力は俺の方があります」

「ええっ、生学より力があるってのかい」

天野は信じられないという表情だが、マーボとトミーが翔太の鍛錬について話をすると、そうかあ、と深い溜息をついた。隣でママの千波が、本当に凄いんだねえ、と感心している。

「いや、まだ足りないです。昔の人は、もっともっと修行していました。俺もそのくらいやらなきゃダメです」

歴史に名を刻んだ剣豪や剣術者たちの稽古、修行は狂がつく程のもので、自分のは大したことではないと感じていた。

「そうか。志(こころざし)が違うんだよな、菊山君は。どんな総番になるのか楽しみだな、これからが。しっかり、頑張ってな」

天野の温かい眼差しを受け、翔太は気を引き締めて返事をした。まずは自分が飛び抜けて強くなること、そして、マーボとトミーも特別な領域まで強くすること、それが目標であり、夢だった。

「お?いったっ」

マーボの声と同時に、浅黒いタイ人のキックボクサーがダウンした。ブラウン管の中から歓声が湧き上がる。マーボの家での夕食後のテレビの前で、翔太、マーボ、亜里沙の三人がテーブルを囲んでいた。亜里沙はビール、翔太はファンタ、マーボはコーラを飲んでいる。

翔太が小学校3年の時から始まったキックボクシングの中継は、90%がKOというわかりやすさもあり、この時には、三つのテレビ局が、別々の曜日に放送していた。

圧倒的な人気番組は、剛柔流空手三段で、真空飛び膝蹴りを持つ、沢村忠(ただし)だった。沢村が出る番組は月曜日の午後7時から30分の枠で流されていた。
「キックの鬼」という称号で、タイ人キックボクサーを倒す沢村忠は、一つのヒーローであり、偶像にもなっていたが、翔太にとっては、その闘うスタイルが参考になっていた。

殴る、蹴る、投げるというのは、喧嘩に等しいスタイルだった。もともとはタイ式ボクシング、ムエタイに日本のプロモーターが投げ技を加えて日本流にアレンジし、キックボクシングという名を付けていた。

それまでの格闘技といえばプロレスやボクシング中継がメインで、あとはドラマの柔道やマンガの空手くらいしかなかっただけに、キックボクシングのKOシーンやKO率は衝撃的で、社会でも一種のブームにもなった。翔太にとっても同じように、KO率の高さと戦うスタイルに惹き付けられていた。

タイ人キックボクサーの蹴り足が鞭のようにしなるのも手本になっている。彼らの練習の光景がテレビに流れると喰い付くように眺め、自ら実践してみるのも一つの習慣になっていた。

立ち上がり、カウント、エイトで再びファイティングポーズをとったタイ人選手に、日本人選手が猛然とラッシュをかけた。ディフェンス一方のタイ人選手を見て、マーボは上体を左右に忙(せ)わしく揺らしながら、「決まったな」と言ったが、翔太は、「いいや、効いちゃいない」と画面を見つめている。

「効いちゃいないってか、あんなにパンチが入っているのに」

マーボは眉をひそめて訝(いぶか)しげな表情をしている。

「全部ガードされているか、躱(かわ)されてるぞ。危ないな、油断すると」

「危ないってどっちが?」

亜里沙はアルコールが入って少し紅潮した顔で、まさか、というように翔太を一瞥(いちべつ)して画面に見入った。翔太は日本人選手ですと答え、パンチが大振りになってきたことを指摘した。

「その気になってKOを狙いにいってんだけど、そのぶん、ガードが甘くなってます」

その言葉を待っていたかのように、タイ人選手の膝蹴りがボディに刺さり、上体が前屈みになった瞬間、肘が日本人選手のテンプルを強烈に抉った。そのままテンカウントで試合が終わった。

「翔太の言う通りになっちまったぜ。勝てると思ったんだけどな」

「パンチがないのと、KOで倒そうと焦ってガードが甘くなったのが敗因だ。この人たちのパンチやキックは、ガードが甘けりゃ、大体は一発でKOできる威力があるから。それに大振りになるとスピードが落ちるから注意しないとならないんだ」

マーボと亜里沙は、翔太の解説を聞いて納得したようだ。

「そうか、一発でKOできる威力か。おまえはいっぱい持ってるもんな、それを。俺も早く持つようにしなきゃな」

マーボは真面目な顔で言った。

「大丈夫だ。今の調子でちゃんと鍛えて基礎体力を身に着ければ、次は技術だし、威力も増すさ。ちょっとぐらい強くなったからってサボらなきゃな」

「おお、わかってるって。まだ、そんなラベルじゃねえかんな、俺は」

「おばさん、マーボ、真面目にやってるから、びっくりしてんじゃないですか?」

「そうなの。三日坊主どころか、一日坊主だったのに、今はずっと続けてるんだよ、汗びっしょりになって。面会に行って、その話をしてやると喜んでいるしね、うちの人も。翔太君のおかげよ」

「いいえ、こいつ自信の考え方が変わったからで、マーボの頑張りです。トミーのおかげかもしれませんし」

「それもあるけど、やっぱり翔太君と付き合ったことが大きいよ。これからもマーボを鍛えてやってね。あんたもしっかり頑張るんだよ」

満面に笑みを浮かべた亜里沙に、わかってらあっ、とマーボは威張っている。いい光景だった。

「男は、いいよね。いくらでも強くなれるし、それが勲章にもなるしね。あたしも
男に生まれたかったよ、本当に」

亜里沙は、そう言いながらグラスにビールを注いだ。

「また言ってらあ。母ちゃんは十分に男みたいじゃねえか、姉(あね)さん、姉さんて呼ばれて若い衆もいるし」

「でも、女は女だよ。翔太君、あたしね、男に生まれて極道になりたかったの、強い極道、任侠の人にねえ」

亜里沙は、しみじみと語った。悲哀という語は知らなかったが、翔太はそこに一種の切実さを感じずにはいられなかった。

「いつもの科白(セリフ)かよ」

マーボは半(なか)ば呆れるように言った。

「おばさん、ヤクザもんになりたかったんですか?」

「そうなの。強きを挫(くじ)き、弱気を助ける。粋(いき)でしょ、そんな生き方は。そんなこともあって、うちの人と一緒になったんだよね、きっと。強い人っていうのもあったけど、女の極道ってのはないからねえ」

亜里沙の言葉に恨めしさが込もっている。数年前には、藤純子主演の『緋牡丹(ひぼたん)賭博』という映画の人気が高かったが、亜里沙が望んでいたのは壺振りではなく、純粋な侠客ということだった。

「おばさんがヤクザもんだったら、さぞ気(き)っ風(ぷ)のいいヤクザもんになってたでしょうね。その情景が浮かんできます」

亜里沙が極道だったら、という想像は奇異なものではない。翔太は、かねてから亜里沙と接する度に、「姉御(あねご)」「鯔背(いなせ)」という言葉を覚えずにはいられなかった。それに息子のマーボへの思いが加わると温かさや優しさをも感じていた。

「そう?わあっ、嬉しいねえ、そう言われると。でも、女だからねえ。だから、うちの人とマーボには余計に強くあって欲しいって思うのよねえ、たぶん」

亜里沙は、ぐいっと一息にビールを飲み干すと、また注いだ。

「母ちゃん、心配すんな。このマーボ様が、とんでもなく強い極道になってやっからよ」

「そうだよ、マーボ。そうして強きを挫き、弱きを助ける男になるんだよ、いい男にさ」

マーボと亜里沙のやりとりが、翔太には目映(まば)ゆいものに映った。

「あたしが男だったら、翔太君のお父さんの若い衆にしてもらっただろうね。なんたって極道に恐れられてた人だからねえ」

翔太とマーボは顔を見合わせた。

「オヤジは、そんなに恐れられてましたか?」

「そりゃ、凄かったよ、菊山尚泰といえば。それまで大きな顔をしてた連中が、菊山が来るって聞いたら、蜘蛛の子を散らすように、あっという間に逃げちゃうんだから。伝説の人だからね、菊山さんは」

ああ、また伝説の人か、翔太は胸奥で呟いた。

「すげえよな、翔太のおじさん。極道が逃げちまうんだから。どんだけ強かったのかよってな」

マーボの態度には憧れや羨望の念が込められていた。

「おばさん、男に生まれなかったのは残念かもしれませんが、その代わり、おじさんやマーボがいるじゃありませんか。それに男とか女を抜きにして、おばさんには任侠というか、侠客みたいな気風が十分にあります。俺は、いつもそんなことを感じていますよ」

「ええっ、まあ、翔太君、そんなふうに思ってくれていたのお。うわあっ、どうしよう、本当に嬉しいなあ。あたしね、自分は極道になれないけど、心は任侠でなきゃって、彫り物まで入れたくらいだからねえ」

亜里沙が刺青(いれずみ)をしていることは、翔太もマーボから聞かされていた。小さい頃のマーボは、それをタオルや消しゴムでこすって消そうとしたなど、笑い話の一つにもなっていた。

「そうなんですってね、こいつから聞きました」

「マーボがちっちゃい頃はね、ごしごしこすって消えないって言ってたの。この頃のマーボ、可愛かったなあ、今はこんなになっちゃったけど」

「うっせえな、いつまでもガキのわけねえじゃん」

マーボは憎まれ口をききながら、ニタニタ笑っている。

「翔太君、彫り物見せてあげる。ちゃちなもんじゃないんだよ」

亜里沙は言い終えるのと同時にブラウスのボタンを外し始めた。そして、くるりと背中を翔太に向けて、ブラウスを脱ぎ、腰の辺りの彫り物が見えるようにスカートのホックも外して少し下げている。

「母ちゃん、そんな格好すんなよ。いくら翔太だってびっくりするじゃん」

呆れたような顔のマーボを無視し、亜里沙は背中の刺青がよく見えるようにブラジャーまで外してしまった。刺青の図柄は、金太郎の抱き鯉だった。鯉は出世という意味を持つ縁起の良い図柄だ。

それも普通は一匹だけなのに、鮮やかな緋色と緑色の二匹の鯉が滝を登るように上を向いていた。赤を基調とした金太郎は、きかんきの強そうな顔をして、今にも暴れて飛び出してきそうな二匹の大きな鯉を肉付きのいい両腕で抱えている。

「金太郎はね、マーボが強く逞(たくま)しくなってくれるようにってね。鯉は出世の象徴だから。二匹も入れたのは他人(ひと)の倍、出世するようにって」

顔を翔太に向けた亜里沙は、アルコールでほんのりと赤みを帯びた顔に晴れやかな笑みを浮かべていた。

「それにね、この子が産まれて、いよいよ、あたしもうちの人の女房(バシタ)として肚(はら)をくくらなきゃっていう意味もあったんだよね。うちの人が恥ずかしくならないような姉(あね)さんになるぞって」

「母ちゃん、でっかいケツ、半分くれえ出して言うなよなあ」

マーボは言葉と裏腹に苦笑いしている。

「そうですか。鯉も普通よりでかいですね、それも二匹なんて。おばさん、十分に見せてもらいました。ありがとうございます」

「そう。それだけマーボが立派に出世するようにってね」

亜里沙はスカートを上げてホックをした後、ブラジャーを着けてブラウスを着込んだ。翔太にとって刺青より衝撃的だったのは、亜里沙の下着が上も下も光沢のある生地で紫色だったことである。

この時代、女の下着は白かベージュが普通であり、紫など別世界の色だった。そしてもう一つはマーボと背丈が変わらない亜里沙の体の大きさ、肌の白さと刺青の鮮やかなコントラストが鮮烈だった。

しかも、息子の友人の前で裸になれる心情、こだわりのなさは、以前にも増して亜里沙に対する翔太の好感を深めることにもなっていた。

それがばかりではなく、少し前の歴史の時間に、聖徳太子の「冠位十二階の制度」を習っていたが、その中の最上位の色が紫色だったことも、亜里沙の印象を強めていた。

以来、聖徳太子、紫、亜里沙が、一つの連鎖となって翔太の脳裏に刻まれることになったのである。

「本当に鬼ババアは恥ずかしいってのがねえからなあ」

「何が鬼ババアだ。いい母さんじゃないか。息子が立派になることを願って鯉を彫るなんて。しかも二匹だぞ。その息子が悪童ってのは気の毒だけど」

翔太は笑いながら、長い紫煙を吐き出した。煙は開け放たれた窓の外に流れていった。窓の外の空気は夏の夜らしく、熱気を孕(はら)んでいた。

「おばさんは本当に、おまえのことが可愛くってしょうがないんだな。そんなおばさんをがっかりさせないようにしっかりやれよ」

「わかってらあ。俺は強くなるぜ、とんでもなくな。だから、しっかり鍛えてくれよ、兄公」

「ああ、そのつもりだ。まず、俺が強くならんとしょうがない」

「おまえは別格って言われるくらいつええだろが」

「こんなの、まだだ。生学にしたって本当に強い奴と遭(あ)ってないだけだ。この程度で勝てる相手だから大したことはないだろう」

「おまえなら、そのへんのチンピラ極道にも勝てんじゃねえのか、大人でもよ」

「そんな気もするけど、こればかりはやってみないとな。ただ、初めの何分か、もったら俺の方が体力があるから勝てるだろう。それじゃ、ダメだ。大人であろうと一発でぶっ飛ばすだけの武器をもたなきゃ」

そう言って翔太は傍にあったダンベルに手を伸ばした。

「おまえの理想ってのか、それは高過ぎるけど、そうでないととんでもなく強くはなれねえんだろうな、きっと」

「たぶんな。俺はあのオヤジをぶっ飛ばす。そのためには、ちょっとやそっとの強さで満足なんかできないんだ。それにな、鍛えて力がついたり、上達したりすると気分がいい。そうなるには、一生懸命にやらなきゃならないけど、お?変わった、レベルが上がったと実感できるってのは本当にいいもんだ。おまえも、そう思わないか?」

「おお、それ、わかるぜ。これでも重さが増えると、やったって思うしな」

マーボもダンベルを手にして持ち上げた。今では15キロのダンベルを苦にしなくなっている。

「おまえ、これ20キロにしろ。多少、苦しくてもやってりゃ慣れる。力はついてきてるしな。意外だな、おまえがちゃんとやってるなんて」

「実は俺がびっくりしてらあ、続くなんてよお。でもな、ボサる気にはなれねえんだ。それは俺の根性のなさだって思うようになったからな。自分の力がついてくるのがわかると、次はもっとってなるしな」

「そうだ。その心がけが大事だ。サボる、怠けるってのは罪悪だ、自分に対する。そして、それは根性の弱い奴のやることだ。おまえにはトミーもいるしな。あいつは真面目だから、サボっていると負けるぞ」

「おお、わかってらあ。俺は負けねえよ、絶対にな」

マーボの声に決意が滲(にじ)み出ていた。トミーの向上心は翔太への再三再四の質問からも伝わってくる。街で喧嘩をした後でも、自分のはどうだった、足りないのは何だった、どうすればいい、などど、強さを求めることに貪欲だった。

三人の中で最も素質に恵まれているのはマーボだと翔太は知っていた。体格以上に、運動神経の良さならマーボが上だ。翔太の利点は、やみくもにやるのではなく考えることと、何よりも尋常ではない努力を続けられることだった。

トミーも翔太に近い性質を持っていた。マーボとトミー。その性質の違い、双方の気の強さ、不屈の根性からしていいライバルだった。しかし翔太は、自分にはライバルなどいない、常に己一人抜きん出ていなければならないという確たる信念があった。

そのために他人の五倍十倍努力するのである。マーボの、負けねえよ、の言葉を耳にし、翔太も改めて自分に負けないと己に誓った。

第20回終了


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みたつ・やまと●1959年生まれ。2件の殺人を犯し、長期刑務所に服役中。現在でも月100冊以上を読む本の虫で、これまでに8万冊以上を読破。初めて衝撃を受けたのは10代のときに出会ったロマン・ロラン著『ジャン・クリストフ』(青空文庫にて無料で読めます)。塀の中にいながら、郵送によるやりとりで『人を殺すとはどういうことか』(新潮社)、『夢の国』(朝日新聞出版)などを著す。
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