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『手業に学べ技』
『手業に学べ心』
塩野米松(しおのよねまつ)
ちくま文庫
各950円+税

 2冊とも「職人」についての書です。

 塩野氏の本は『木のいのち木のこころ』(宮大工の西岡棟梁と唯一の弟子小川の話)や『不揃いの木を組む』など読んでいます。私、この方面(職人)の話が好きなのです。この道に長い人たちの言葉というのは、簡潔で飾りけがないのに、真理(しんり)を突いています。

「一本だけの離れ木というのはたいがいヒビがいっとるな。南で風を受けたりな、北風を受けたり、枝があったら
風で木が回るでしょう。それで根が離れておる。じゃから難しい」

「船大工は一日叩いておるがな(釘のこと)。それだからな、アホだけかせんいうていわれた(アホしかしない)」

「少なくとも二、三年たたにゃあな。木の癖がすっかり出るまで乾燥させるんじゃ」

 船大工の話ですが、木を選ぶところ、それを乾燥させるなど、現代の「お手軽」な時代とは逆行しています。

「心」編には、宮大工の小川の話があり、修行の様子が綴られていました(私はこの人と西岡棟梁の話が大好きで、人生にも応用できる姿勢・哲学の宝庫だと考えています)。鉋(かんな)くずを渡され、それと同じものが出るようになるまで刃を研(と)ぐところから始まるのです。

 やがて、小川も弟子を持つ身となりますが、初めは刃物の研ぎ方からでした。彼の教え方は、それぞれの性格、素質に応じた伸び方をすればいい、時間はいくらかかっても一つ一つ積み重ねていけばいい、というものです。技術を蓄積した人の言葉ってのは趣(おもむき)があります。

「山の環境によって木の癖が生まれるんですね。たとえば同じ方向からばっかし風の吹いているような谷間に生えている木は捻(ねじ)れますよ。それを伐(き)ると、今度はその捻れを元に戻そうと思って反発しますから、そういう癖がどうしても出ますね」

 上に立つ者の戒(いまし)めの言葉として、

「百論(百人の思い)ひとつにまとめる器量なき者は謹(つつし)みて匠長(しょうちょう)の座を去るべし」

 とありました。

 他にも漆(うるし)掻き職人・木挽(こびき)職人・イタヤ細工師・馬方(うまかた)・炭焼き職人・造園職人・釣り針職人・野鍛冶(のかじ)職人などなど(まだまだあります)どの職人の言葉も奥が深いです。職人である以上、これでいいというのはありません。もっとよい物ができないか、技術を極められないかという、あくなき探求の日々です。それが私には求道者(ぐどうしゃ)のように見えるのです。

 後継者不足という問題を抱えながら、尚も自らの技を磨く姿には、真摯(しんし)に生きる姿を学ばされます。最近は、達人と呼ばれる職人の技をデジタルで数値化するのが普及してきましたが、大半の職人は己の経験と体感でミクロン単位の仕事をしているわけです。その技、そこに至るまでの修行が、物づくりというより、人づくりのような気がします。

 小さい頃から大工さんや造園屋さんの仕事を眺めるのが好きでした。ここの作業でも細かいものほど、他の人と差が多くでます。自分では意外ですが、適性があったのかと勝手に考える時もありました。塩野さんの仕事も、そんな職人たちの技を伝承すべく、というものです。じっくりと己を磨く、虚飾のない世界とでも言うのでしょうか。匠(たくみ)という称号に、畏敬の念を感じます。

 みなさんが日々、生活するうえでのヒントが、たくさん詰まっている書です。もちろん、どの言葉・姿勢に何を感じるか、教えられるかは各人で異なりますが。この書には職人と、私たち日本人の心・魂が感じられました。

 是非、手元に置いて、ゆっくり味わってください。

『美しいものを見つけるために、私たちは世界中を旅行するが、自らも美しいものを携えていかねば、それは見つからないだろう』
(エマーソン)