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『偽装死で別の人生を生きる』
エリザベス・グリーンウッド 
文藝春秋
1800円+税
2017年5月刊

 ある日、今までの自分は死に、新しい人間となって生きるという、推理小説のようなノンフィクションでした。

 死亡偽装の理由は第一がカネ、第二が暴力、第三が愛だそうです。カネというのは借金または保険金詐欺でした。

 著者は大学の学資ローンの返済額に悲嘆して、死亡偽装を考えたのが、きっかけで取材を始めて刊行となりました。初めは自分の死亡の偽装からですが、いくつかの実例が紹介され、失敗の理由も示されています。自殺を装っての失踪、トリックを使っての偽装。外国での警察を巻き込んでの偽装に対し、それを見破ろうとする保険会社の関係者の話が述べられています。

 フィリピンでは、別の死体込みで5000ドル(約55万円)で実行できるとか。偽装を請け負う人、それを見破ろうとする人、虚々実々の内幕が綴られています。今ではDNA鑑定が簡単なので、難しい面も否定できません。ネットで検索すると、さまざまな方法が出るのでしょうね。

 私が社会にいた頃、偽装死で別人になった人を何人か知っています。その後の消息は不明ですが、当時のやり方はシンプルでした。対象は山谷(さんや)などにいるホームレスです。彼らの中には、たったの50万円程度で自分の戸籍を売る者がいました。それを買って別人になりすますのです。本人は死亡ではなく失踪でした。

 その戸籍で運転免許証や、ひどいのになるとパスポートを作ります。仮に犯罪などで逃走中という者もいるので、興信所や探偵事務所で前科照会をしてもらうのです。警察OBがいる事務所で簡単にやってくれます。問題はホームレス本人が何かの事情で自分の戸籍を使うようなことが起きる場合です。実際にやった人は知りませんが、その用心のためにも、そのホームレスは殺してどこかに遺体を処分すると言っている人もいました。私は金融業でしたから、借金を返さなくて夜逃げする人もいて、追跡したこともあります。まともな人は、やはり、住民票など使うこともあるので、定期的に調べていれば、どこに逃げたかわかるものです。家族や知人がいて、その存在を押さえていると、これもそのうち分かります。

 ホームレスといえば、最近は一時ほど聞かなくなりましたが、今もあちこちにいるのでしょうか。切実な問題として受刑者には、出所しても住む所がないという人が少なくありません。最近はそういう人のために更生保護会とは別に、面倒をみてくれる法務省の施設があるそうですが。長期刑務所に来る受刑者には、家族がいない、いてもどうしているかわからない、何年も連絡を取り合わないというケースが普通なので、失踪に近い状態とも言えます。

 本書に戻りますが、マイケル・ジャクソンが偽装死で、本人は生きているという話も述べられていました。もちろん、フィクションですが、そのように思いたい人が多いのでしょう。ネットでいろいろなことが調べられたり、手続きできる反面、それが命取りになるようです。今はSNSなどで、誰かの消息や、人探しも容易なのでしょうね。これでは、国内では偽装死は難しく、海外に行くしかありませんが、私たち日本人は外見や言葉の問題もあって厄介(やっかい)です。そもそも、偽装死を企(くわだ)てること自体が普通ではありません。

 そんなわけで、読んでも実用的に役立つものではなく、あくまで興味の対象として読んでください。ところで、著者は本書が売れてローン返済に役立ったのでしょうか。アメリカの学資ローン地獄は日本よりはるかにひどいですから。

『人生で何よりも難しいのは嘘をつかずに生きることだ。そして、自分自身の嘘を信じないことだ』
(ドストエフスキー)


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