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『ドン』
飯島 勲
プレジデント社
1500円+税
2017年6月刊

 著者は、2001年から2006年まで、その政策とは別に国民に圧倒的支持を受けていた小泉純一郎首相の懐刀(ふところがたな)ともいうべき人物です。

 小泉首相の政界引退後も、著者は政界に対して一定の距離を保ちながら、『プレジデント』『週刊文春』誌など、対象がビジネスマンという媒体に、自身の政治・経済における知見を発表してきました。政界や国際政治などの動向について、私が追ってきた限りでは、かなり、高精度の見解の持ち主です。

 それだけ内部に肉迫した情報を取っている証左とも言えますが、それだけではなく、著者は「人間」、特に権力や財に群がる人間の性質を熟知していて、それをもとに洞察力を働かせるからでした。現在も、安倍政権の特命担当内閣官房参与という職にあります。

 その著者が過去に遡(さかのぼ)り、日本の政界の『ドン』と呼ばれた人物について語っているのが本書です。『ドン』とは、スペイン語やイタリア語で男性の貴人への尊称でしたが、映画の『ゴットファーザー』の大ボスであるドン・コルレオーネから、首領・大将・ボス・リーダーを広くドンと呼ぶようになりました。

 『ゴッドファーザー』は1973(昭和48)年の公開でしたから、もう42年も経ちます。マーロン・ブランドが演じるドン・コルレオーネは威厳と冷酷さと情愛の塊のような男で、中学生の私も将来は、あんな男になりたいと、夢を見たものでした。

 本書では、パフォーマンスがうまいだけの小池都知事に標的とされ、本日を見ないメディアによって抹殺された東京都議会の内田茂(うちだしげる)、アメリカと、日本の法律を破ってまで歴史に名を残したかった三木元・首相の合作のロッキード事件(のちに無罪とした最高裁判断は立派!)で葬(ほうむ)られた田中角栄(かくえい)など、当時のワイドショー化(今もそうですが)したメディアによって真実を隠された人物たちにつき、著者はその本質を突いていました。

 本書では、都議会については200億円の政党復活予算を、あたかも正義であるかのように廃止した小池都知事の失政やガラス張り政治がいかに誤りであるか、プロらしい分析で綴られています。

 現代は、政治もワイドショー化したメディアの報道の仕方によって大きく歪められています。そのような時代だからこそ、単に目先の大衆ウケを狙う報道に惑わされず、事実を連ねることで判断したいものです。

 田中角栄という人に関しては、大概は功罪(こうざい)、相半(あいなか)ばするなどと表現されていますが、戦後の混乱期に日本復興のために自身33! 関係したものが約100という議員立法は空前絶後で、「永久」に破られない記録となっています。

 罪の方の金権政治については、少し歴史を遡れば明治のころから、大きなスケールで買収や賄賂(わいろ)など行われてきて、山県有朋(やまがたありとも)に至っては貴族の爵位(しゃくい。公爵とか伯爵とか)まで、自分で勝手にばらまいていました。形としては明治天皇に奏請(そうせい。お願いしますと頼むこと)するのですが、天皇には拒否権がなかったので、要望通りになっています。

 本書の内容は、途中から厚労省やアフリカ会議と飛びますが、政治手法や内情を知る一助とはなっていました。結局、ドンとは調整力を備えたリーダー、ボスであるということでしたが、官僚制度にも触れていて読み物しては平易で楽しめました。
私は最近の新聞など、メディアによる政治報道はアウトラインしか見ていません。真相は大きく歪められているからです。

 そう考える根拠は過去から今までに蓄積してきた真相から推し測れる知識があるからで、そのためにも現場にいて正しい見解を持っている人の論考を必要としてきました。著者もその中の一人です。

 ただし、いつものように頭から盲信するのではなく、異なる情報から検証することを欠かしません。

 本書、政治の内側に興味ある人は一読下さい。

『私は固(かた)し玉葱のように元気だった』
(林芙美子作家)


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