調べ(取り調べ)は通常、刑事2人が組んで行います。部長刑事(巡査部長)と巡査のコンビが一般的ですが、大きな事件になると係長(警部補)刑事のコンビになることもあります。私は係長刑事のコンビでした。

 警察の階級は下から、巡査(じゅんさ)・巡査長(ちょう)・巡査部長・警部補(けいぶほ)・警部・警視(けいし)・警視正(せい)・警視長(ちょう)・警視監(かん)・警視総監(そうかん)となっています。巡査長というのは正式な階級ではなく、任官(にんかん)(拝命とも言う)して10年以上の者が年功で与えられる階級です。警視正以上が国家公務員で、警視以下は地方公務員となります。小さな署の署長は警視、それ以上の規模の署の署長は警視正です。

 国家公務員総合職試験(以前のⅠ種試験のこと)に合格すると警部補からのスタートとなり、あっという間に警視正警視長になります。このようなキャリアは全国25万人の警察官の内で約500人です。当然、警視総監もその上の警察庁長官もキャリアの中から選ばれます。

 調べでは、大体が畳4枚ほどの部屋で机を真ん中にして、容疑者とメインの刑事が向き合って座り、サブは2人の横顔を見るようにコの字型に座るのが普通です。テレビによくあるような、ライトを容疑者にあてるなどはありません。

 否認(「やっていない」と)していなければ和(なご)やかなものです。通常、さほど重大犯罪(殺人・強盗・強姦など、著しく他者を傷つける犯罪)でなければ部長刑事と平(巡査か巡査長)刑事のコンビで取り調べとなりますが、今回(2017年末)、新入の受刑者にきいたところ、部長刑事一人だけの取り調べもあったそうです。これは珍らしい例でしたが、犯罪が詐欺だったこと、共犯の中でも下っ端かつ初犯だったことで、楽に取り調べができると思われたのでしょう。

 私の時代、調べ室(「窓なし」が多いが、「窓アリ」も稀にある)では、ワープロを持ち込む刑事はほとんどいませんでしたが(ごく稀にいると、他の刑事は「すごいなあ」という感じ)、今はみんなワープロ(というよりパソコン)を前にしての取り調べとなっています。

 テレビやドラマによくある(あった)ように、机をバシーンと叩いて「いい加減にはけ!(白情しろ!)」というのは、そんなに多くありません。ということは少ないながらあるわけですが、否認している者や、悪どい者相手には、きつくなるのが「お約束」になっていて、初犯ではなく再犯なら大体は計算(きつく言われるのは)ずみです。関西方面のヤクザならば、暴力団担当の刑事(マル暴といって、ヤクザより外も内もヤクザです)に何発か、どつかれるのは「お約束」「税金」みたいなものと語っていました。 関東や他ではないケースです。

 一人が厳しく(主に若い方の刑事)、もう一人が宥(なだ)め役(年長の刑事)というのは、よくあるケースになっています。初めから、「私が悪うございました。やりました、全てお話しします」という被疑者でも、いかに刑を軽くするかに全精力を傾けるのが定番なので刑事は油断しません。確たる証拠と、状況から長年の経験(この経験からくる解明能力は素晴らしいレベルです、特にベテランは!)に沿って真実を暴(あば)き出します。頑強に否認している被疑者で尚かつ再犯者であれば、少々の脅しなどでは供述しません。では、どうするか?

 一に証拠、二に情です。証拠を次々に探してきては並べて、「おまえの供述なんかいらないよ。これで十分、裁判で有罪にできるからな」と余裕の笑顔で語り、「喋(しゃべ)んなくていいから。その代わり裁判官の心証が悪くなるってことくらい知ってるだろ」と楽しそうに言うのが常道です。証拠がしっかりしていれば、いくら否認しても有罪になり、そのうえ、反省が全くないと、判決は重くなります。なので大概は諦めて供述するのです。では、証拠が薄い(少ない、または立証するのに弱い)時はどうするのか。

 これは、刑事冥利(みょうり)に尽きるというほどの技術の見せどころになります。俗に「落としの○○さん」と異名を取る刑事が、どこの都道府県警にも何人かいるのですが、一種の職人芸です。まず、事件の話など一切しません。

 被疑者の生い立ちから世間話のように話し始めます。時折、被疑者に同情したり、大変だったなあとねぎらったりするのです。これが実にうまく、中には本当に涙を流して「おまえが悪いんじゃない、世間が」とか「親が」とか被疑者の人生に共感していきます。親や配偶者や子の話も交えて、被疑者の心を動かす「ツボ」はどこか周到にリサーチするのですが、このリサーチの技が実に巧妙です。


『一人の真の友人を見出すことのできなかった者は、数人の友人を持つことによって自らを慰(なぐさ)める』
(ボナール フランス思想家)