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『NOでは足りない』
ナオミ・クライン
岩波書店
2600円+税
2018年7月刊

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著者は『ショック・ドクトリン』を刊行した人です。ショック・ドクトリンとは、何らかの惨事(さんじ)が起きた際に、それに便乗して利益をむさぼる資本主義を指しています。惨事(さんじ)とは、戦争、クーデター、テロ攻撃、市場の暴落、自然災害、などなどです。このような状況に陥った時、人々のショック状態につけ込んで、大企業に有利な経済改革を強行することを、

ショック・ドクトリン

と著者は命名しました。今回のショックの対象は、あのトランプ大統領の出現です。本書では、

アメリカ社会が持ちうる最悪な要素をすべて象徴する男

と形容していました。

トランプの政策は、規制国家の解体、福祉の否定、移民への厳しい対策と、これまでのアメリカの方針を覆(くつがえ)すものでした。著者は、これらの脅威に対してNOと言うだけでは足りないと、本書を上梓しました。

著者は、トランプ・ブランドとは、

金儲けの限りを尽くすこと

としていますが、この指摘自体は外れていません。もともと不動産業を営む家の息子として生まれ、家業を継いだトランプは、政府や自治体などの公的な資金を呼び込むことと、「はったり」に長(た)けていたので、「はったり大好き社会」のアメリカで飛躍的に業績を伸ばしました。

私がこの人を知ったのは1980年代初めでしたが、

「へえ、派手好きな奴だな、(この人の栄華は)すぐ終わるだろ」

という感想を持っていました。

とにかく宣伝や生活が派手で、目を見はる美女を次々と取りかえてという生き方は、この人の中身の空虚さを表していたのです。案の定トランプは事業で大コケしましたが、この人の持つ執念と、アメリカ社会が破産者に寛容だったこともあり再起しました。

商売、特に金儲けのセンスはありますが、ハートが全くないという男で、私の評価では、

ガラクタ(父の言葉では)

に入っています。しかし面(つら)の皮が厚く、とうとう大統領にまで昇りつめたのは、

「あっぱれ!」

です。

と言っても、前任者のオバマさんが、外見や前評判とは裏腹にダメ大統領で、アメリカをすっかり弱くしたことと、日本のメディアが報じていない、

嫌われもののヒラリー・クリントン

が対抗馬だったことから大統領になってしまいました。本人は落選する予定で、事業のための大宣伝になればいいや、という目論見(もくろみ)でしたから、内心はさぞびっくりしたことでしょう。

トランプの思惑は、世界のボス、覇権(はけん)国アメリカの再生ではなくアメリカ最優先です。他国については、

「みんな、自分のことは自分でやってくれ、助けが要(い)るなら、相応のカネを出しな」

という「多極思考」です。この反対がアメリカが世界の覇権を握る一極主義です。アメリカの政権は交代する度に、

一極主義か、多極主義か

に振れますが、オバマ、トランプは多極主義でした。アメリカ外交を左右する権威となったキッシンジャー元国防長官など、代表的な多極主義者です。多極主義を唱える理由は、

多くの国でビジネスチャンスが広がる
一極主義を維持するための軍事費などの費用が安く済む

が主でした。トランプは、アメリカで絶大な力を持つ、

軍産複合体

を相手に、アメリカ一極主義を潰しているところです。軍産複合体とは、軍幹部・国防総省幹部・軍需産業が結びついたムーヴメントで、戦争・紛争をせよ(軍需品使用で儲かる、軍は存在価値が上がる)という志向を持っています。ミサイルなど、定期的に使ってくれるとありがたいわけです。また、覇権国アメリカに逆らう国が現われると、国防費増額も国民の賛同を得やすいので、

もめ事大歓迎

とも言えます。ところがトランプのように、

アメリカが世界のために働くなんてごめんだね、紛争が起これば関係国でなんとかすればいい

という大統領では困るのですが、今回は国防費の大幅増額で、少しは安心しているようです。国防費増額は、オバマが削りすぎたこと、ロシアと中国と北朝鮮とイランの脅威に備えるためでもあります。2018年10月5日に、ペンス副大統領が中国を激しく批判する演説をしましたが、米中の争いは本格化しそうです。と言っても戦争に発展するというのではありません。

トランプは、当初の支持者を失うことなく、中間選挙でも負けを最小に抑えました。日本の朝日と同じで、アメリカでもトランプについては正確な報道は少なく、フェイクニュースというのは的外れでもないのです。本書では、トランプと今のアメリカの短所を並べていますが、著者の視点が左傾化しすぎという部分もありました。それでも現在のアメリカを知るには興味深い一冊です。

アメリカでは、さまざまな国民間の分断がありますが、日本も今は右と左の分断が大きくなりつつあります。安倍首相とトランプの関係が良い(本当にいいです)ので、日本は中国とも関係を改善しています。日本としては、国防を強化しながら、中国とも友好関係を深めていくというのが、もっとも現実的な方針です。習国家主席も、世界の中でプレゼンスの大きくなった(本当に大きくなったのです)安倍首相を無視できなくなっています。

難易度が非常に高いですが、トランプがイエスと言えば、北方領土につき、「米軍駐留なし」という条件で二島返還の可能性もあるのです。貿易問題でも、安倍さんはノーとはっきり言えるので、日本はこの首相の間は安定するでしょう。さて本書、アメリカを知ることのできる一冊でした。

『仕事は自分で探して創り出すものだ。与えられた仕事だけやるのは雑兵(ぞうひょう)だ』
(織田信長)

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