この人が注目されたのは、コロナ禍の中で、国内のマスクの在庫を店別にタイムリーに示すアプリを作ったことで、当時は日本が遅れていることと合わせてメディアの人となりました。
インクルーシブとは包括的、包摂的、包み込むと捉えて下さい。オープンガバメントとは、開かれた政府、人々の意見が拾いあげられる、検討される、誰もが、その気があれば参加できる政府のことです。
ソーシャルイノベーションとは、従来とは異なる創造的な解決法によって、社会問題や課題を解決するという概念です。
近年、起業する人たちの中でも、これとビジネスを融合させた流れが増えています。日本のみならず、海外の途上国での社会問題を解決し、それを収益につなげ、社会にも貢献するというあり方です。
著者は現在の台湾で、ソーシャルイノベーションが活発になり、さまざまな考えを持った人が共に目的を達成していく、孤独に闘うのではなく、助け合いながら社会を変えていく、それが進んでいることを語っていました。
台湾、20代の若者の投票率が89.63%で、日本とは天と地の差です。
この差は、政治に自身が参加することによって変革がある、あるであろう、変えてやるのだ、という思いと、自分たちの暮らし・今・未来が政治によって変わる、支えられるという思いの差でしょう。
こんな点からも「このままの日本ならば」、未来は明るいとはならないことが暗示されています。
オープンガバメントでは、データのオープン化、市民参加、政府の説明責任、落ちこぼれを防ぐインクルージョンが鍵です。
オープン化と政府の説明責任、日本は、まだまだ「いかん」ですね!
著者にとってのデジタルは、「人と人をつなぐもの」でした。デジタルの意義は、「人と人をつなぐもの」と述べています。
そのため、ネット上のコメント欄の設計も大切な政治の一つとしていました。著者がデジタルやネットで重要視しているのは、Fast速さ・Fair公平さ・Fun楽しさという3つのFです。
多くの人が共生する時、この3つの概念は大切であり、これらが守られることで、より多数の人の参加が促進されます。台湾では国民がデジタルを通して、いろいろな政府のプロジェクトに参加していますが、スローガンは、「なぜ誰もやらないんだと嘆くより、まずは自分がその誰もやらないうちの一人であることを認めよう」でした。
それを認めてから社会参加します。台湾では、メールアドレスさえあれば、政府に提案ができます。
日本では、「政府に」、となると、せいぜいパブリックコメントに参加するくらいでしょうか。しかし、議員本人や党に提案する、働きかけることは「いくらでも」できます。
今回の政策はダメ、こうすべき、と、100人の人が毎日電話するのでも、十分な喚起となるでしょう。
手紙にしても何百通と出せば動かすこともできますし、議員会館や、選挙区の事務所に日参する、こちらで、目的の議員たちに訪問を重ねて、党に発議するためのグループだって作れます!
要は、本当にやる気になるかどうか、実現まで諦(あきら)めないかの違いです。今の日本は、見た目は素晴らしく見える筏(いかだ)に乗って、落差1000メートルの滝壺(つぼ)に向かって流されているようなものでしょう。
自ら進路を変える舵(かじ)もなく、流れる先にある運命を見ようともしなければ、何か策を実行しようともしません。
これまで、なんとなく大丈夫だったから、もしかしたら大丈夫だろう、いや、大丈夫なはずと思考停止しています。
未来は1年後、5年後、10年後のある日、「ハーイイ、お待っとさん、未来でーすっ!」と来るわけではありません。今日、今も未来です。
変化は日々の積み重ねであり、どう変化するかは、ビジョンが必要なのです。この日本の将来もそうですが、皆さんの将来も同じです。
この国の未来は、今の段階では経済的に明るいとは言えません。経済的にという語が指すものは財政ではなく、皆さんと密接なかかわりのある景気です。
今の政治の流れでは、財政出動が期待できず、真の好況となるのは難しいだけに、皆さんは自身で備えておかなければなりません。
経済面でも健康面でも、皆さんが「持続可能」になるための鍵になります。
この2つに問題を抱えてしまうと、生き続けるのが苦痛になるわけです。大抵のことは、準備することで改善できます。しない手はないでしょう。
本書に戻りますが、著者の語り口は柔らかく、温かさにあふれています。しかし、著者の言葉には、必ず、起こってくるであろう批判や反論に対して、それらを防止する言葉がさりげなく加えられています。
頭がいいんです。そして、起こるであろう反論、批判を適確に読む能力も高いのがわかります。
ただし、著者の芯は、自論への反論を、いつでも論破できますよ、という自信と、完璧主義者であることが、その穏やかな言葉の奥に、ちらりと垣間見えました。
語り口は柔和ですが、著者の言葉の流れ方には、先の先を読んでるよ、という思いが洩れています。単に頭がいいだけでなく、処世的にも賢い人なんですね。
台湾という国は、「常在戦場」です。いつ、中国がアクションを起こすのか、という環境下にあります。
ただ、春先からのロシアのウクライナ侵攻で、西側世界が結束したこと、経済制裁の核とされたSWIFT(スイフト)からのロシア排除を敢行したことで、中国も、「ちょっと待てよ」となったでしょう。
実際にそんなことになったら、日本も含めて西側諸国の浴びる返り血の量は半端なものではありませんが。
これがアップされる頃も、日本での国防への議論は、そんなに盛り上がっていないでしょう。このような機会に遭っても変わらなければ、いざとなった時、アメリカは腰を上げないことも検討し、対策を立てておかねばなりません。
日本が経済力・技術力・国際的立場で停滞していけば、アメリカとしては日米同盟の意義も薄れます。
本書は、近未来の社会の特質を示し、どう対応するかのヒントが列挙されていました。
人と人が、つながることでやれることは無限にあります。参考までに一読を!
今回の本は、
トーマス・オーリック
ダイヤモンド社
2022-03-30
エリカ・エンゲルハウプト
日経ナショナル ジオグラフィック
2022-03-17
Food Up Island
ワニブックス
2022-03-22
ジェフリー・ディーヴァー
文藝春秋
2022-04-06
です。
『これからの世界を生きるために持っておきたい価値観とは、社会が用意した脚本通りに振る舞わなくてもいいということです』(著者。本書より)
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書評・レビューランキング
この本、書店で見かけてすぐに「読みたい!」となり、今後の世界におけるIT関連の見解、台湾としての国情と取組み、著者のソーシャルインクルージョンへの想い等、とても参考になるものでした。予測される反論等も織り込んで書かれているのには私は気付かず、さすが頭の良い人同士は理解し合えるものなのですね。自分の読んでいた本が一面で紹介されると嬉しいですね。遅読ですが、倦まず弛まず頑張ります!(本当はもっと書きたい事がありますが、成すべき事を成すために失礼いたします。くれぐれも御自愛を。いつも心の支えにしております!)