2018年02月09日

『ひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』『SUPER VOYAGER!−希望の海へ−』

雪組トップコンビの大劇場お披露目公演へ。
お芝居・ショー共に、初めて拝見する演出家で、
わくわくしながら席に着きました。



以下、感想です。




雪




若手作家の作品とは思えないほど安定感のあるお芝居と、
大劇場お披露目とは思えないほど安定感のあるトップコンビだった。

生田氏の作品は、すごく知性を感じる脚本と、大劇場的なダイナミックな演出で、手堅い創りだなぁ。

でも、宝塚の主役の役柄として、ロベスピエールは難し過ぎたのでは・・・?という違和感が拭えない。
こんなに周囲(そして観客)から「おまえ明らかに間違ってるぞ!!!」と思われ、説得され続け、
その上「そんなことないもん!!!」と逆ギレし続ける主役は珍しい・・・。
行動の根源は素晴らしい理想だったとしても、
最終的な行動(恐怖政治)自体は、仲間たち(というか崇拝者サンジュスト)から煽られた結果であり、
ビビりまくった末のパニックのようでもあり、最後は死ぬことで現実から逃げたようですらある。
この役あんまりいいところがないぞ・・・。
元々宝塚の作品にフランス革命を描くものが多いので頻出する人物ではあるし、
宝塚ファンで名前を知らない人はいないだろうと言えるほどポピュラーだけれど、
そのほとんどが敵方としての描かれ方。
別に善人にする必要は無いけれど、主役として描きたい理由のようなものがもうひとつ弱かった。

構造的にロペスピエール達革命側が主役なので
タレーラン達が悪役として描かれているんだけど、
ロベスピエールより更に正しい善の存在としてダントン達がいるので、
結果的に三重構造になってしまっている。
でも、それがロベスピエールが善にも悪にも挟まれて苦悩する効果は生んでるかも。

登場人物の総てが理想と行動に大きな矛盾があり、
それに観客が違和感を持つ箇所ですかさず「じぶんでもその矛盾分かってますよ」という補完が入る。
脚本でフォローするのは合理的だけど、演者のお芝居で納得させる方法もあったし、
このトップコンビなら出来たのではないかなぁ。

ロベスピエールについて生田氏が考察を深めた先に、生田氏自身が彼に言いたかった事を、
ダントンに代わりに台詞で言わせたんだな、というのがありありと感じられて、
この作品の眼目であろう二人の口論の場面は、若干引くものがあった・・・。
(結果、この作品で一番魅力的な人物はダントンになった模様)

そして、マクシムとマリーアンヌの牢獄の場面がとても良い場面だっただけに
最期の抱擁とキスは蛇足だよー!と、勿体無いきもちになった・・・。
宝塚的なラブストーリーとして終わらせたかったのかなぁ・・・生田くんはロマンチストだねぇ。

観終わってから考える程に、もっとこうすれば・・・!みたいな思いが後から後から湧いて来るんだけれど、
宝塚座付作家のオリジナルでは充分な佳作だと思いまする。

そうだ、この作品でとても印象的だったこと。
雪娘たちの強さが女性運動家の群集芝居で活かされてて、いいぞいいぞー!と血が騒いだし、
生田氏はフェミ的視点を台詞にかなり差し込んでて、今の感覚の作家だ、と嬉しくなった。
(『某アデュー〇セイユ』での女性活動家の描き方の酷さを思い出して泣けた・・・隔世の感。)
それから、マリーアンヌが復讐を「政治家を殺す」ことでしか成し遂げられないと思い込んでいたのを
女性運動家達の存在を知って「正々堂々と抗議して政治を変える事もできるかもしれないんだ」
という新しい発想の転換をしたのも印象的だった。
『ダディロングレッグズ』で、ジルーシャが「おじさまが会いに来てくれない!」という苛立ちを、
「私が理事になって会いに行けばいいんだ」と発想の転換をしたのを思い出した。


キャストについて。

ロベスピエール役のだいもん氏。
この方の真面目で誠実な風情が、マクシム自身の行動の矛盾をより複雑にしたような気がする。
生まれる時代を間違え、己の器を図り間違えた、臆病で弱い男の、理想との葛藤。
その苦悩が魅力に昇華されてるけど。
マクシムくんはさ、地方の村で人々のよろず相談を受ける
人情派弁護士として穏やかに暮らすのが一番ぴったりくるよね・・・。
(父親に見放されて育ったっぽいのに、恨むどころか憧れちゃうピュアボーイ・・・)
そして、歌がうますぎて、むしろ歌っている感じがしないというパラドックス。
歌い出す瞬間、観客が身構える必要がないというのは、
ミュージカルを観る上でこんなに楽なのか・・・ということをひさしぶりに思い出した。
技術に気を取られない分、役の感情に集中出来る上、その感情がより豊かに伝わってくる。
またワイルドホーン氏のドラマティックな曲が映える映える。
陰の持ち味の慟哭役者(なにそれ)であり、抑揚のある楽曲を歌いこなせるだいもん氏の
お披露目に相応しいお役での船出、おめでとうございます。

マリーアンヌ役のまぁや嬢。
生命力と真っ直ぐな勢いがある方なので
「愛する人達を殺された!→殺す!」「彼を止めなければ!→殺す!」という思考回路に、
こちらも、そうだよね!殺さなくちゃね!と同調しそうになるけど、
いやいや、その発想極端すぎるよ・・・!?
(マクシムとマリーアンヌは発想と行動が極端な似た者カップルだなぁ・・・)
あと、逃げ足がものすごく早くて生き残るのが納得←
この方もとても歌える上、ひとりで大劇場空間を任されても担える強さがあって驚いた。
実力派トップコンビの誕生、嬉しいなぁ。

ダントン役の彩風氏。
明るくかわいらしい童顔と熱量の高さが、鷹揚で前向きな人物像に活かされて、とても素敵だった。
陰のトップと陽の二番手の組み合わせは、恋敵より友情物が映える。
その体温のようなものが、作品そのものの重さを大きく救う存在感。
奥さんへの愛情深さも溢れるように伝わってきた。
(「結婚はいいぞー!お前もしろよー!」みたいな台詞は激ウザ(脚本が)だったのに、
 後半の展開で哀しみを増幅させる伏線だったと分かってつらさ倍増・・・)
スタイルの良さも際立ってたなぁ。

デムーラン役のコマ氏。
冷静で一歩引いた俯瞰の目を持ち、自分に出来ることを粛々と行う頭の良さは新聞記者らしく、
根底には友情と政治への熱い思いを持っているのも伝わって来た。
それって、コマちゃんそのもののようじゃないか・・・!
これで退団。哀しい。あなたのやわらかな笑顔は宝塚の財産でした。
わたし来世はコマちゃんの福々しい穏やかなお顔を包む巻き毛になりたい・・・。

サン=ジュスト役のあーさ氏。
滴るように美しい、正に花のサンジュストくん。
鋭角的な美貌の奥に、知的で野心的な輝きがあるのが素晴らしくて、
主人公を実質的に陰で操縦する役どころを見事に担っていた。
この方はいつも、こんなに綺麗なのに
アイドルっぽくならずに常に地に足が着いたお芝居をされてて、月組育ちらしいなぁと思う。
今後の雪組でのご活躍が楽しみです。


ショーについて。
なんというか、内容が全部入りのテンコ盛りで、丼のフタからいろいろはみ出してる感じだった(なにそれ)
あと、楽曲チョイスと、歌詞の語彙チョイスが
大昔から在籍してる古式ゆかしい座付き作家センスで、いろんな意味で若い作家とは思えない・・・。
幕開きがさわやかなセーラーのお衣装なのに、
「おまえが〇〇ならおれが〇〇してやるぜ」みたいなマッチョな歌詞だったり
「おれは獣になるぜ」みたいな猛禽な歌詞だったりして
ぜんぜんさわやかじゃなくておもしろかったです(作文)
クラシックな、というか古いというか、ぶっちゃけベタなシャンソンや歌謡曲の連続で、
それをジャズアレンジやラテンアレンジで応用している。
場面も特に目新しいものは無かったけど、
逆にジャズで若者たちが踊るシーンとかは、王道だけど振付けがとても新鮮で印象に残ったし、
(後で調べたら三井聡氏が振付けだった!すてきなダンサーさんだよねぇ、振付けもされるのか!)
白燕尾&白ダルマにシルクハットとステッキでの大階段群舞はオーソドックス故の良さ。
(だいもんヒストリー映像が流れた時はサヨナラ公演だったっけ・・・??と面食らったが・・・)
なのにー!その大階段からフィナーレに突入するかと思いきや、
わざわざ一旦幕を下ろして幕前でヒップホップ(わざわざラップを録音)がはじまり、白目。
背景にホストクラブ入口みたいな映像が差し込まれるのがダサすぎて
ほんとに若手作家の作品なのかと(以下略)
(わたしが将軍だったら、宝塚に「ヒップホップ禁止令」と「オーケストラ憐みの令」を出したい)
なんかショーの流れが体感的に気持ち悪くて、内容の雑多振りも相まってうまく消化できぬ・・・!

だいもん氏は、ショーになったら
「おれの中に眠る花組DNAが火を噴くぜ!!」みたいに振り切れてゆくのがおもしろかった。
あーさ氏が女役の場面で、殺された後に全く呼吸の気配がしないプロ根性にしびれた。
あと、まぁやちゃんかわいい。かわいい。(二度言う)


新トップコンビは「望海風斗と真彩希帆」という一組のお名前の字面から
「帆に風を受けて希望の大海原へ漕ぎ出だす」という共通イメージがあって素敵だなぁ。

新しい組の今後がとても楽しみになりました。






mitsuyo0715 at 16:13│宝塚歌劇 雪組