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ミヤザキケンスケ オフィシャルブログ

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 その時が来ました。これまでで最大の壁面を前に、最後の一筆を入れました。永遠に思われる作業に終止符を打ち、遠いウクライナの日本人が一人もいない街での3週間に渡る壁画制作が終わりました。描き終えて思った事は、「絵が好きだ」ということでした。

 僕は子供の頃から絵が好きでした。絵は僕にとって自分の想像を形に出来るとても楽しい遊びでした。しかし中学生ぐらいになると、上手に描くことが絵の優劣だと教え込まれ、次第に絵を描くのが楽しくなくなってしまいました。大学で絵の勉強をして描く技術はついたものの、子供の頃のように楽しくは描けていなかったと思います。
 卒業後ロンドンへ渡り、帰国してからも国内外で活動を行ってきました。2年前に起したOver the Wallではケニアと東ティモールに壁画も残しました。それらの活動全てに全力で取り組んできましたが、果たして絵を楽しんでいたかというと、必ずしもそうではなかったかもしれません。楽しむ以前に必死だったように思います。

 今回はたくさんのスタッフが支えてくれたおかげで、毎日ただ絵を描く事だけを考えればよい日々でした。「明日はああしてみよう、こうしてみよう」いつも寝る前に考えては、朝一番でそれを実践していました。自分が考えたアイデアを毎日毎日形にして、すこしずつすこしずつ絵にしていく、それは本当に幸せな時間でした。もちろん体力的に大変な部分はありましたが、それ以上に想像を形にする楽しさが何倍も勝っていました。壁画を描いている時の僕は、きっと絵が大好きだった子供の頃と同じ顔をしていたに違いありません。

 明日足場を解体し、最後のサインを入れます。長かったマリウポリでの生活も終わろうとしています。明日壁画の全容を公開しますね!
 
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 ついに「Ukraine Mural Project」という文字を壁画に記しました。その瞬間、フラッシュバックのようにこの一年間の思いがよみがえってきました。この話を持ってきてくれたUNHCRの千田さん、サポートしてくださった全ての方々、マリウポリ市というまだ見ぬ戦線からほど近い町にいくという事で、覚悟を持ってプロジェクトに望んできました。いろんな思いが交錯する中、いまそのタイトルを壁に記す事が出来ました。3人のウクライナ人のワーカー、先に帰ったバブさんと福井君、駆けつけた慶輔、ずっと時間を共にしたイェゴール、チャンハン、ミヌク、みんなの力でこの大きな壁面をいま描き終えようとしています。
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 とりあえず言える事は、今まで生きてきた38年間で自分が表現したかったことを、今出来る全ての力を使って表現できたと思います。明日壁画は完成します。その瞬間自分自身がどう感じるか今はまだ分かりません。しかし全ての力を使い果たして日本に帰ることが出来そうです。

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 気がつけばウクライナ滞在もあと一週間になりました。壁画完成まであと3日。今日は一番時間をかけていた手袋の中の人々を描き終えました。この手袋の中には様々な人たちが入っています。ウクライナの様々な地方の人たち、ギリシャ人、ロシア人、日本人、韓国人、アフリカ人、相撲レスラーもいれば侍もいます。そしてマリウポリの製鉄所で働く人たち、漁師、先生、生徒、実際に遊びに来ていた子供たちの似顔絵。。。
 人の存在には力があります。それが絵であろうとも、人々が集結するとエネルギーを感じる事ができます。様々な人種が共存する世界、それぞれの個性はそれぞれの魅力として発信できる世界、これはマリウポリに関わらずいま世界中で求められている事。この絵に込めたのはまさにこの町でUNHCRが掲げている「City of Solidiarity」の精神です。

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 実際にこの壁画を描くにあたり、想像以上の体力と精神力を使いました。ゴールを決めず描きながら考えるという無謀なプロセス、100平米に面相筆でひたすら描き込んでいくという気の遠くなるような作業。もう一度やれといわれても絶対に嫌だ!っといいたいです(笑)。でもこの作業が出来てしまうのはやはり壁画だからだと思います。壁画にはやはりそれだけの魅力があり、やりがいがあります。人生であと何枚こんな作品が描けるか分かりませんが、少なくともこれまで描いてきた中で一番力を入れた作品になりそうです。

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 今日はついに最後の男、フォトグラファー小野慶輔が到着しました!日本から丸二日かけてマリウポリについた彼は既にへとへとでしたが、目の輝きは海外モードに入ったときの彼のそれでした。

 今日は日曜日でオフにしていたので、初めてとなるマリウポリ市内観光をしました。マリウポリはソビエト時代に鉄鋼業や港として栄えた町ですが、現在はその頃に建てられた建物や道路の劣化が進み、さらに3年前の紛争で大きな被害を受けました。今日はその時に襲撃された市役所と警察署なども見たのですが、痛々しい状況でした。
 案内役をしてくれたエヴァとスベトラは日本語教室の先生ですが、何とかマリウポリの魅力を伝えたいといろんな場所に連れて行ってくれました。僕らはついつい町のシンボリックなタワーや教会などより、廃墟化した建物などに興味がいってしまうのですが、それは失礼な事だったと、彼女たちの寂しそうな顔を見て思いました。。。

 この町に2週間滞在して、いろんな事を考えました。皆がこの町がどうしたら良くなるかを考えています。政治家には期待できない、町にお金があるわけでもない、自分たちでできる事からやっていこう。そういった境地にあるように思います。僕たちが残す壁画は郊外にあります。直接この町のシンボルとはなれないかもしれませんが、いつか治安が安定して日本人がたくさん訪れる町になり、その時に壁画を見に来たという人が一人でもいれば本当に嬉しいです。
 広い世界の中でマリウポリという町に出会ったこと、これは大切な縁です。僕も必ずこの町にいつか戻ってきたいと思います!

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写真 小野慶輔


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 今回の壁画のテーマは「City of Solidarity」で、共存がテーマです。マリウポリにはウクライナ国内の紛争のため近隣から多くの人たちが移り住んでいて、いろんな問題があると聞いていました。しかし実際にはIDPs(国内避難民)の方々にお会いする事はなく、3年前の紛争に関しても具体的に話を聞くような事はありませんでした。
 もしかしたらそこまで深刻な状況ではないのではないか?と思いはじめていたところ、メンバーの発案でマリウポリに住んでいる方々にインタビューを取ろうという話になりました。そこで思いついたのが先日お邪魔した日本語教室で、今日は授業終了後にお話を聞かせていただく事になりました。

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 まずは僕たちがなぜマリウポリに来て壁画を描いているのか。その話から始めました。そして3年前に起こった事、そして現在はどういう状況であるのか教えて欲しいと訴えました。すると集まってくれた10名ぐらいの方々が、少しずつ話をしてくれました。
 紛争直後は皆突然起こった悲劇に頭がいっぱいで、毎日その話ばかりしていたそうです。しかし3年が経ち、しだいに考える事に疲れて来て、もっと別のポジティブな事を考えて生活しようと、切り替えたのだそうです。この文化施設(ハラブダといいます)もそのようなタイミングででき、気分転換に日本語を学んでみようと思った方がほとんどでした。
 そして実際に避難して来た人がいるかどうか聞いたら、驚いた事にその中に3名もいました。みなドネツクから3年前に避難してきたそうで、引っ越して来た当初は本当に大変だったそうです。突然の人口増加は家賃の高騰や仕事不足を生み、避難民を敬遠するような動きもあったのだそうです。しかし今は少し落ち着いて、この町に溶け込みだしているとのことでした。
 衝撃でした。自分たちが見ていたのは上辺だけで、本当はその奥に複雑な思いと重い現実があったのでした。彼らは一様にこの町の良い部分を見ようとしているようでした。政治には期待できないから自分たちで住みよい町を作っていこうという気概を感じる事ができました。そこで少し怖かったのですが、僕たちが行っているプロジェクトをどう思うか聞いてみました。すると想像以上に良い反応が返ってきました。

「あなたたちが行っている事は非常に意義があり、私たちは本当に嬉しく思っています。ポリティブな壁画はきっと町の人たちを元気づけるし、新しい希望の象徴になると思う!」

 本当に嬉しい言葉でした。1年間準備をして来て、紛争という重い問題を抱えた場所に自分の絵が受け入れられるのかどうか、ずっと半信半疑でした。しかし子供たちとの交流や一連のテレビ取材、そして今日のインタビューでの話で元気づけられました。完成まであと少しですが、少しずつ町と一体になれて来ているような気がしています。

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 すでに日本を発って3週間が過ぎました。マリウポリにも気づけば2週間近く滞在している事になります。毎日同じ場所で壁画を描いているので、次第に顔なじみが増えて来て、特に子供たちがたくさん集まるようになってきました。もちろん言葉は通じないので、ギリギリ彼らが少し知っている英語をたよりにコミュニケーションを取っているのですが、言葉の会話より僕たちが描いている絵が面白いらしくずっと飽きずに見ています。
 面白いのが、毎日何かしらのお土産を持って来てくれる事です。昨日はどこかでもいできたリンゴだったし、今日は杏でした。僕らに「スパシーバ(ありがとう)」と言ってもらいたいらしく、いろんなものをくれたり、絵の具運びの手伝いをしてくれたりします。特に韓国人のミヌクが人気者でいつも子供たちがくっついてきます。

 そんな中、今日小さな事件が起きました。

 それは最近良く来る中学生の女の子3人組が、僕たちのためにケーキを焼いてきてくれたのが始まりでした。彼女たちは思春期の女の子らしく、はにかみながらいろんな質問をしてきます。日本のアニメが好きなようで、いろんなアニメ話をふってきますが、残念ながら僕の知らないものばかり。この町で唯一の日本人としては不甲斐ないばかりなのですが、相当日本のカルチャーに影響を受けているようでした。
 今日の作業もそろそろ終わって片付けを始めようとしていた頃、女の子たちが何やらヒソヒソと話しをしています。そして高所作業から降りて来たミヌクの前に一人の女の子が立ちはだかり、思いを伝えるように

「You are My SENPAI!!」

と言いました。
一瞬何かシリアスな空気を感じたのですが、全く意味不明な言葉なので(ましてミヌクは韓国人)、そのままバケツを持って片付けにいってしまいました。ミヌクが片付けから戻ると、その女の子が友人二人になだめられながらシクシク泣いていました。
 
「どうしたの?」

と聞くと、携帯をミヌクに突きつけ、

「アナタはワタシを愛シテイルゾ!」

っとグーグル翻訳機の機械的な声が響きました。またもや惜しい感じではありますが、さすがに状況が理解できました。滞在期間が長くなるとこんなエピソードも生まれます。言葉が通じなくても恋って生まれるんだなーとしみじみとしたウクライナの夏の日の出来事でした。

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 今日はワーカーの3人の最後の仕事日でした。イワン、オレグ、アレクシーは毎日嬉々として絵を描いてくれて、日を追うごとに粗かった仕事も徐々に緻密になり、最終的には虹を描く作業まで任せる事ができました(僕の中で虹を描く作業を任せられるのはかなりの上級者です)。
 僕はいろんな人と一緒に絵を描きますが、何も考えずに役割を与えているわけではありません。その人の性格や特徴を掴みながら、少しずつ作業のハードルを上げていきます。最初の下地の作業は誰でもできますが、完成に近づくにつれ任せられる作業は限られてきます。僕が描くための下地作業はリカバーできるのですが、仕上げそのものはそうはいきません。それがそのまま絵に影響してしまうからです。ですがこの仕上げの作業をやってこそ、「絵を描いた!」っという達成感を感じられるので、長く作業を共にしてくれた人には必ずこの「仕上げ」の作業をやってもらう事にしています。
 僕の絵の描き方は言わばドミノ方式で、前半はひたすらドミノ並べのようにコツコツと下地を作り、最後にドミノを倒す「仕上げ」をします。辛い並べる作業をがんばったからこそ、最後の仕上げには達成感があり、自分が描いたという満足感があります。今回はイワンが太陽と虹、オレグが星と虹、アレクシーは家を仕上げてくれました。もちろんタッチが違ったり、甘い部分もありますが、なによりも彼らの手で仕上げてもらった事に価値があり、僕自身いろんな人の手が入った絵をまとめる作業が一番好きだったりします。

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イワン

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オレグ

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アレクシー


 彼らがもしもこの経験から、絵を描くのはそんなに難しくないと思って自分で絵を描きだしてくれたらいいなと思います。帰り際にイワンが「素晴らしいプロジェクトに関わる事ができて幸せでした」といってくれました。今回一番心を通わせたのは、間違いなく彼らだと思います。


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 今日は壁画制作中にUNHCRのウクライナ代表DINUと、ウクライナ市の副市長が来てくれました。DINUはとても優しく、温かい人で、僕たちのプロジェクトを全面的にサポートしてくれました。またロンドンから帰国中の娘さんがワークショップの手伝いをしてくれて、本当に助かりました。
 今回受け入れ先になってくれたUNHCRには、全ての段取りと現地調整をしてくれ、本当に助かりました。ウクライナ代表のパブロさんも、時々Twitterで僕らの活動の事をPRしてくれたり、本当に全面的に応援してくれているのがよくわかります。
 僕は今回の壁画制作を通じて、アートは自由ですべてを乗り越える力があると確信しました。自分が選んだアーティストという仕事に、本当の意味で誇りを持つ事ができたのはウクライナに来てからです。ケニア、東ティモール、ウクライナと様々な経験をさせてもらいながら人間としても成長させてもらっている事を実感しています。

 完成まであと一週間ちょい。ここでの壁画制作はきっと生涯忘れる事はないと思います。壁画制作も終わりが見えて来て、いよいよ大詰めです。ワーカーの3人は明日までの契約で、その後は僕たちだけで描き上げます。いよいよ頂上が見えてきました!明日もがんばります。

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 ウクライナの日々も17日目、だんだんと慣れて来たような気がします。言葉が通じない環境も、男だらけのアパート暮らしも日常化して来て、あと一年ぐらいいけそうな気すらします。。。
 ウクライナの物価はとても安いです。タクシーが200円から300円ぐらい、レストランでお腹いっぱい食べても1000円かからないし、ビールも一杯100円ほど。3年前の紛争でグリムナが大幅に下落したせいですが、安定してきた今はまさに天国。ヨーロッパ並みの生活を、ヨーロッパの半額以下でできるのですから最高です。もちろんここマリウポリは戦線に近いので、観光客は全くいないし、今は夏休み期間中という事もあり、町から人が消えています。今日は一緒に働いているワーカーにインタビューしてみました。

「今、この町のことをどうおもっているのか?」
 
 すぐそばで戦争が起こってること、3年前の出来事に関しては誰もはじめは話しませんでしたが、突っ込んで聞いていくと少しずつ話してくれました。たくさんの人がこの町を離れた事、いつ起こるか分からない現状にストレスを感じること。しかし自分たちの生活はここにあり、今の状況に関してはしょうがないと割り切っていることなど。。。
 自分が生まれ育った町の状況を悪く言いたくない気持ちはよくわかります。僕も東日本大震災後に「日本は大丈夫か?」と心配された時に、海外は過剰に報道し過ぎだと感じた事がありました。たとえそれが事実であっても、やはり生活をしている人間にとってはあまり考えたくない話題なのかも知れません。

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 ただこの壁画を一緒に描ける事をとても誇りに思ってくれているようで、普段ビルの窓を磨いたり、ペンキを塗ったりするのとは違い、クリエイティブな事ができる事に喜びを感じてくれていました。ここでも一緒に作り上げる喜びを共有できている事を非常に嬉しく思いました。

 壁画制作も佳境に入ってきました。これから詰めの作業に張ります。ワーカーとの仕事も後2日、とにかくがんばります!

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 今日から僕、チャンハン、ミヌク、イェゴールの4人での活動、しっかり締めていこうと張り切っていたのですが。。。なんと突然の雷雨。すぐにやむかと思いきやなかなかやまず、結局ずぶ濡れになりながら片付けをしました。
 雨が降ると野外の壁画はどうにもなりません。雨が上がっても画面が濡れていると描けないので、一回ふってしまうとその日の作業は終わりになります。焦る気持ちを何とか押さえてアパートに帰りましたが、昼過ぎに雨はやみ、日差しが強いのでもしかしてと思って学校に戻ると、画面は完全に乾いていて数時間作業する事ができました。ウクライナの日差しは本当に強いようです。

 今回は一人になる時間があまりないのでゆっくり考える時間がありませんでしたが、改めてこの大きな壁に描くことの大変さを身にしみて感じています。やっぱり今までの壁画とはわけが違い、大きすぎて全体のバランスや形を取りながら進めるのがとても難しい。。プロジェクターなどで転写する方法もあるのですが、あまり好きではないのでよけいに時間がかかっています。とはいえこんな素晴らしい壁に絵を描けるだけでも幸せなので、いまは一分一秒を惜しんで画面に向かっています。明日は雨が降りませんように!!


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