わたしは暗やみのなかで
その音を聞いている
低くうなるようなその音を
それがまだ遠いのか
それとも近いのか
そんなことさえとうに
考えることをやめてしまった
このひときれのパンをどうするか
そればかり考えているのだ

どれだけ眠っただろうか
鋼鉄の車列は見知らぬ土地を
いくにちも走っている
冷たい銃身に顔を預けたまま
故郷にいる母の夢をみた
これから何が始まるのか
ぼくは知っている
もう引き返すことは
できないということも

紫陽花の季節が巡ってきた
この小さな庭の植物たちは
彼の地の出来事など知る由もない
わたしは今にも
降りだしそうな空の下で
ただ紫陽花の花をみつめている

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