2006年08月16日

サボテンは感情を持つか

究極の血液型心理検査」というサイトが、今、このての世界ではホットなサイトになってます。ためしにアクセスしてみてください。

これは、松岡圭祐著『ブラッドタイプ』(徳間書店)という小説に描かれた方法で作られているそうです。
血液型による性格の違いを否定しようという小説です。
仕組みについては、バーナム効果に説明があります。
血液型性格分析に夢を持つ方は、心してアクセスしてください。


ところで、「百匹めのサル現象(hundredth monkey phenomenon)」って聞いたことがないでしょうか?
ライアル・ワトソン『生命潮流』で発表された説で、

はじまりは、1950年代、日本の科学者が幸島という小島で、猿たちにサツマイモを与えていたときに起った。ある日、一匹の猿がサツマイモを洗う知恵を身につけ、それがほかの猿にも伝わっていった。その食べ方がほぼ100匹の猿のあいだにひろまったとき----これがいわゆる臨界量である----一瞬にしてその島にいたすべての猿だけでなく、何マイルも離れたほかの島の猿までが、洗って食べるようになったというのだ。(マイクル・シャーマー『なぜ人はニセ科学を信じるのか』機淵魯筌ワ文庫)

その現象から、

もし多くの人々が一斉に瞑想にはいり、その数がある臨界量に達すれば、結果として世界的に重大な変化を誘発するになる・・・・

かくして、たくさんのひとが一緒に祈れば、世界に平和をもたらすことまでできる、と考えるむきもあるそうです。
それがもし本当なら、すばらしい話です。
が、そもそも、「百匹めのサル現象」という事実からして、でっちあげらしいのです。
『生命潮流』では、河合雅男氏らの論文をもとに記述している、としているのですが、そもそも実はもとになった論文にそのような記述がないらしい。つまり、原典に書いていないことをでっちあげたのだそうです。

原典にあるのは、1952年に一匹のサルがサツマイモを洗うことを覚え、1962年には、そのサルの群れは59匹、うち、36匹がサツマイモを洗っていた、という内容なのだそうです。
10年かけて、36匹にしか増えていない。群れにはそもそもサルは100匹いない!

(参考)
100匹目のサル
幻影随想:「100匹目のサルのウソ」はいかにして暴かれたか

もととなった「百匹めのサル現象」がでっちあげなのですから、それにもとづいた、「みんなで瞑想すれば世界平和が訪れる」といういい話もありえないことだということになります。

この話は、教科書か何かに載った、と耳にしましたが、はっきりとは調べは付きませんでした。
ただ、+++ はるか日記 +++03/22(土)『表現者のリアクション責任』に、中学校の「社会科資料集」に載っていた、という情報を発見できましたが、他にご存知の方がいらしたら、情報をいただければ、と存じます。
想像するに、社会科の副読本としては、世界平和を実現するひとつの可能性として挙げられたものでしょう。その限りにおいては害のある話ではないのですが、それを認めてしまったら、

・原典を捻じ曲げて引用する、
・目的のためにはでっちあげも辞さない、
・科学よりも道徳を優先することで科学の独立性が失われる、

という弊害、最終的には、

・科学的な思考法が身につかない。

という大問題に通じるわけですから、やはりそうした説を発表するのは許されることではないでしょう。

ところで、この説が、

「ある思想・行為は、臨界量を超えると、いっきに社会に広まる」

程度で止めておけば、パラダイム・シフトっぽくも聞こえるし、ニュートンとライプニッツが同時に微積分法を発見したとか、ダーウィンとウォレスが同時に進化論にたどり着いたとか、有坂英世と池上禎三とが同時に上代特殊仮名遣は古事記ではモにもあるのを発見したとか、そういう話にもつながる気がして、さもありなん、と思い流してしまう気がしませんか?
それが、「100匹」という限定をしたり、「一瞬にして」と絞り込んだり、離れた場所にも伝わるという信じられないことを加えたり、現象を意思の力で起こすことができると大風呂敷を広げたせいで、マユツバぽくなっているのではないでしょうか。
だから、贅肉を落としてシンプルな説に生まれ変わると、真偽を見抜けなくなるのではないでしょうか。


「水にやさしく語りかけると水がおいしくなる」に類する話を耳にしたことがあるひとも少なからずいらっしゃるでしょう。
これは、江本勝『水からの伝言』』(I.H.M.)から出た話らしいのですが、「ニセ科学」入門幻影随想:初等教育を侵食する似非科学で、口を極めて剣もほろろに思いっきり否定されております。
この話は、小学校の道徳教育でも用いられ、きれいな言葉が平和をもたらす、ふうな授業展開が行われているようです(事例は後者のリンク参照)。
これも、「100匹のサル」と同じく、いい話ではありますが、科学教育においては問題あり、ってわけですね。

ここまで読んで、どうして「水にやさしく語りかけると水がおいしくなる」という説がまちがいなんだ?と思っておられる方もいらっしゃることでしょう。
実は、もとになった本に、「水にやさしく語りかけると水がおいしくなる」とあるわけではないのです。
どうやら本当は、「水の入ったビンに『ありがとう』と印刷した紙を貼ると、水はきれいな結晶を作り、『死ね』と印刷した紙を貼ると、きれいな結晶を作らない」となっているんだそうです。
・・・・そうだとすると、ツッコミどころ満載です。
水はひらがなや漢字を読めるのかよ! ハングルやキリル文字だとどうなんだ? 英語や中国語もわかるのかい?
・・・・しかし、贅肉を殺ぎ落としてシンプルにした、「水にやさしく語りかけると水がおいしくなる」だと、否定の論陣を張るのが急速に難しくなります。
語りかける人間の「気持ち」が水の分子に影響を与えるのだ、という説明には納得がいかないひとでも、語りかけるときの音波が水の分子に影響を与えるのだ、という説明を否定するのはかなり難しいことです。一般に、あることとあることとに関係がない、という証明をするのは不可能に近いからです。
これも、やさしい話し方で毒のある言い方をした場合と、凶暴な語り方でやさしい内容を語りかける場合との対照実験とか、言葉ではなく音波そのものの影響を調べるとかの実験は考えられますが。


「サボテン(植物)には感情がある」というのはどうでしょう?
もとになったのは、「バクスター効果」といわれる「研究」で、植物との対話などに詳しいです。
ごく簡単にまとめると、

・バクスター氏が、ドラセナに嘘発見器をつないで、葉っぱを熱いコーヒーに浸したがなんの変化もなかった。
・しかし、マッチで葉を燃やそうと思った瞬間、嘘発見器に動きが見られた。
・燃やすふりだと動きはなく、本気で燃やそうとしたときだけ、動きがあるところから、植物は人間の心が読めるのだ、と判断した。

・そしてさらに、知り合いの心理学者に実験をして見せたところ、最初の数本の植物は反応を見せない。心理学者に、植物を傷つけたことがあるかと訊ねると、あると答えた。そのことから、植物は自分たちに危害を加えた人物を記憶し(離れた場所にいる植物にも情報を伝え)、そういう人の前では「気絶する」と判断した。
・植物を嘘発見器として使ってみることができた。

・・・・そう、実は、バクスター効果というのは、「植物には感情がある」というよりも、「植物には人間の心が読める」「植物同士で 情報伝達する」という話だったのです。
これならマユツバ度マックスですね。「テレパシー」の領域ですから、超能力を信じないひとはもう受け付けないでしょう。
「燃やそうかな〜、それとも燃やすのよそうかな〜」なんて思うたびに、植物はびくびく動揺したり安静になったりしているのでしょうか。
「気絶」に至っては、超能力の実験が失敗するのは信じない人がいるせいだ、というのと同様の後付けの理由説明でしょう。
また、私も生徒さんたち全員の顔を識別できるわけではありません。
それなのに、植物は人間を識別できるのです。自分たちにいたずらするネコの顔も識別できるのでしょうか。すごいです。
農家の人たちなんて、連続殺「植物」での指名手配犯ですね。田畑から野菜たちの悲鳴・怨嗟の声が聞こえてくる気がします。

しかし、上記の説が変形されて行くと、しだいに別の様相を帯びてきます。
かつて、ちらと見たTV番組で、

・殺人事件の起った部屋にあったサボテンに容疑者たちの面通しをさせて犯人を見つけた。

というのがありました。
いっけん極端な事例になっているように見えますが、「植物には人間の心を読む能力がある」という超能力の話ではなく、「植物には人間と同じ程度の記憶力がある」という話に成り下がっています。
もし、本当に犯人逮捕に結びついたという事実があったら、よりシンプルになったぶんだけ否定しにくくなっているわけです。

ただし、以上のような事例を積み上げても、「植物には感情がある」という証明はほとんど不可能ではあるでしょう(否定もできませんが)。
なぜなら、「感情」の定義から始めないとならないからです。
植物以前に、ネコやイヌに感情はあるでしょうか? トカゲやウナギやカブトムシやダニはどうでしょうか、というところから始めなければなりません。
私には、ダニ以上に植物に感情があるとはとても想像できません。

さて次に、

・サボテンにやさしいことばをかけるとトゲがなくなり、罵倒するとトゲが厳しくなった。

となると、前述の、水の話とさほど違わないレベルとなり、水の場合よりは信憑性がある気がするでしょう。
そうしてさらに、

・イチゴにモーツァルトを聞かせると糖度が増す(ベートーベンではだめ)。

などといわれるとどうでしょう?
もはや「感情」など切り捨てて、現象面だけシンプルな説として出されると、さもありなん、と思い流すのではないでしょうか。
他に、

・胎教にはモーツァルトがいい。
・牛にクラシックを聞かせると乳を良く出す。

なんて話も耳にしたことがあると、さもありぬべし、くらいに思うでしょう(アッシュの同調実験のような効果ですね)。
すでに実践している農家が多かったりしたなら、「そんなバカな」ということがはばかられます。

仮説:当初怪しい理論として発表された説も、洗練されてシンプルになってゆくうちに信憑性が増す。(シンプル似非科学イズベター仮説)

それでもなお、「そんなバカな」とバクスター効果を否定する論陣を張るサイトがあるかと思いきや、なんとまったく見つけられませんでした。
上記サイトにしてから、自分も実験してみて「灰色」という結論。

@nifty: 夏休みの自由研究2002は、バクスターの追試を成功させています。
樹木医の独り言 バックナンバー 02は、「樹木医」として、積極的に肯定しています。
花とコラム 第6回 植物は考えるでは、バクスター以降のもっと先鋭的な考え(上記サボテンのトゲの話)がアピールされています。
合コンの翌日にデートできる方法―結果を残す男が実践する、超簡単ルールは、

3分で、女がもてはやす男になる。
「フィンクの法則」「コミットメント法」「バクスター効果」「抱きしめホルモン」…女をオトすのにテキメンな心理テクニックをあなたは知っているか?

という内容だそうです。
・・・・バクスター効果を信じるともてるようなので、その方がよいのかも・・・・。

mizuho1582 at 23:53│Comments(2)TrackBack(0)疑似科学 | 書評

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この記事へのコメント

1. Posted by 亀@渋研X   2009年01月26日 00:19
はじめまして、こんばんは。
「PSJ渋谷研究所X」というブログを運営している亀@渋研Xと申します。

古いエントリにお邪魔してすいません。こちらのエントリを参照させていただきながら、下記のエントリをアップいたしました。
トラックバックをお送りしたのですが届かないようですので、失礼してコメント欄でお知らせさせていただきます。

【FAQ】ニセ科学はなくならない:バクスター効果を例に
http://shibuken.seesaa.net/article/113140500.html

ある主張が広まるうちに、どんどん内容が変化して行くことには気づいていましたが、洗練されて飲み込みやすくなって行く現象には気づきませんでした。今回、その点についてはあまりクローズアップできませんでしたが、機会があればまた触れてみたいと思います。
失礼いたしました。今後ともよろしくお願いいたします。
2. Posted by mizuho1582   2009年01月27日 01:52
始めまして。

トラックバックの件が届かない件、申し訳ございませんでした。

ブログを拝読させていただきました。
私のブログを引用していただいて、面映ゆいやら光栄やら!
ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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