寝たり起きたり

ぼーっと生きてます。

2007年10月

寝て、起きて。できるだけ、やれるだけ。でも呑気にいきたい。

メイドの恋・5

スーザンに、ダニエル君が列車に乗るのを確認するまで帰って来ないよう厳命し、2人を送り出してから、妻は言った。
「また新しいメイドを探さなきゃ」
……そのうち、暇をやらねばならないだろうねえ、あれは。
「料理がうまくて、人柄が良くて、使い込みをしない、仕事を完璧にこなすメイドは何処かにいないかしら」
我が家が払える給金で来てくれるようなメイドで、そんな優秀な人間はいないだろう。
スーザン以外では。
いや、スーザンだってあの事件がなければ屋敷のキッチンメイドのままで、うちには来ることなどなかっただろうし。
若者2人が幸せになるのはいい。
いい、のだが。
妻がメイドに頭を悩ませる日もそう遠くはないだろう。
近い将来、家庭内不和の原因になることは間違いない。
その様子がすぐさま頭に浮かび、私は溜息をついたのだった。



(終わり)


※《彗星舎》輪音様の記事『競演企画~七色ワトスン』に基づいて記事を作成致しました。




(10.30. 4:40)
御指摘がありましたので、少々書き加えました。

メイドの恋・4

「す、すみませんっ、ワ、ワトソン博士とは知らず……」
郵便配達人のダニエル君は、更に小さくなって座っている。
「だから日曜日しかロンドンには来れなかったのね」
しかしスーザンはその時間帯は奥で働いている訳で、気づかれることもなかったのだ。
私が彼を捕まえに行くのと入れ違いに、スーザンが妻の為にお茶を持って来て、妻がスーザンに窓の外を見せるまでは。
「スーザン、ダニエル君を駅まで送って行きなさい」
私が笑って言うと、スーザンは困ったような顔をした。
彼が乗る列車の時間には有り余るくらい時間がある。
「送って行きなさいよ。折角会いに来てくれたのだから」
妻が加勢してくれた。
分かりました、と彼女は言って、部屋を出て行こうとしたところで、妻がまた声をかけた。
「ちゃんと私服で行くのよ」
……我が妻ながら、実に気のきく女性だ。



「仕事に関しては完璧で年季も入っているけど、スーザンもやっぱりお年頃ね」


(続く)


メイドの恋・3

そんな、或る日。
「郵便ですっ」
ご苦労様、と言いかけ、ふと違和感を感じて顔を上げた。
いつもと違う配達人。
「あ、あの、今度からこの辺りの配達はスミスさんから僕に変わったんです」
「……新人さん?」
「は、はいっ」
顔を真っ赤にして、彼は言った。
――それからというもの。
スーザンは郵便配達人が来るのを楽しみにするようになった。
屋敷の前で、二言、三言、言葉を交わすだけ。
それが、本当に楽しかった。
しかし。
幸せな日々は長く続きはしなかった。
実家の父親が病に倒れ、丁度、他所の屋敷で給金のいいキッチンメイドの職を見つけた為、スーザンは屋敷を移ることを決めた。
最後の日。
いつものように彼と言葉を交わした。
でも。
辞めることは言えなかった。
言えないまま、その日もスーザンは彼の姿が見えなくなるまで見送った。



スーザンは、移った先の屋敷に1年程勤めた後に、故あって我が家に来ることになったのだが。
「……成程。君はスーザンに会いに来ていたのか」
スーザンは妻の後ろで小さくなっている。
仕事を忘れて家を飛び出し、主人の私の前で取り乱したことを恥じているらしい。

(続く)

メイドの恋・2

「うちに何の用が――」
「ダニー!!」
悲鳴のような声。
思わず振り返ると、其処には我が家の優秀なメイドの姿があった。
「スーザン……」
男の動きが、止まった。
私は困って2人の姿を交互に眺めた。



スーザンは幼い頃、運良く地元の大地主の屋敷のメイドになった。
両親は諸手をあげて喜んだ。
貧しい家。
スーザンの下には何人もの弟や妹がいた。
だからスーザンが働きに出ることは、誰にとってもいいことだったのだ。
最初は洗い場でひたすら皿を洗い、鍋を磨き、鳥の羽をむしり、ウサギの皮を剥ぐ日々。
冬は手が切れることも度々だった。
あまりにも疲れて服を着たまま寝ていることもよくあった。
親が恋しくて泣いた。
ようやく仕事にも慣れた頃、今度はキッチンメイドに昇格して、キッチンで下働きをするようになった。
そのうち、単なる下働きから、パンが焼けるようになり、あれこれ料理も覚えるようになった。
必死だった。
他のメイド達のように休みの日に遊びに行ったり買い物をしたりするようなこともなく、給金は殆ど実家の両親に渡した。

(続く)

メイドの恋・1

或る朝のことだった。
いつものように、我が家の名コックでもある、メイドのスーザンの手による朝食を済ませると、妻が言った。
「最近、うちの前におかしな人がいるのよ」
妻が言うには、日曜日の朝になるとその男はうちの前に立つのだと言う。
このところ私は、事件絡みでホームズと行動を共にしていたので、うちのことに関してはおろそかになりがちだった。
「何だか気味が悪くて。ジョーンズさんに相談したのだけど」
その男は日曜日の昼過ぎまでしかいないのだそうだ。
身なりが悪い訳ではない。
ただ、我が家をじっと見つめているだけで、実害はない。
だから対処のしようもない、と妻は溜息をついた。
「そろそろ現れるんじゃないかしら」
妻は立ち上がって、そっと窓の外を見た。
「……やっぱりいるわ」
私はすぐさま妻の傍に行って、窓の外を眺めた。
通りの向こう側から確かに我が家を見ているようだった。
これは私が追い払うしかないだろう。
私は即座に行動した。
通りに出ると、まっすぐその男のところに向かう。
すると、それに気づいた男が逃げようとして、更にそれを私が捕まえた。
(続く)
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