永岡瑞季の毎日映画館!

映画館はびっくり箱です。 日常生活でいらいらしたことがあっても、 映画館に入ってチケットを買って、席について、もらったチラシを見ているうちに真っ暗になって予告編が始まる。 そうしたら、もう何もかも忘れてしまいます。映画館にはそんな魔力があります。 映画をこよなく愛する永岡瑞季の映画レビューを書いていきます☆DVDやスカパー!で観たものも入ったり、たまにはもう一つの趣味のドラマのことも書くかもしれません! よろしくお願いします。

2009年10月

「ディア・ドクター」



原作・脚本・監督 西川美和
出演 笑福亭鶴瓶 瑛太 余貴美子 井川遥 香川照之 八千草薫
配給 エンジンフィルム+アトミックエース(2009/日本/127分/カラー)

医者がいなかった村へ呼ばれてやってきた伊野(笑福亭鶴瓶)は
村のみんなに感謝され、なくてはならない存在だった。
しかしそんな彼が急に失踪し・・・
一つの嘘、そしてずっといえずにいたもう一つの嘘。
その嘘は罪ですか・・・?

伊野と看護士大竹(余貴美子)は毎日診療所にやってくる
患者の治療に加え往診にも行くという忙しい日々を送っていた。
そんな診療所にやってきた研修医・相馬(瑛太)は
次第にそんな伊野に共感を覚え始める。
そんなある日、未亡人の鳥飼かづ子(八千草薫)が
畑で貧血を起こす。どうやら胃を悪くしているらしい。
その夜、伊野はかづ子の家を訪ねる。

かづ子の娘は東京で医者をしており、忙しく
彼女は一人暮らしだ。
そして、夫を亡くした時、娘に負担をかけたことを負い目に思っている。
そんな彼女は娘に病気のことを話さないようにと
伊野に頼む。
「・・・ひきうけた」
「でも、僕には、おなか、見せてもらえませんかね」
そして出た検査の結果から、伊野はひとつの嘘を
つきとおすことを決心する。
しかし、その嘘から、もうひとつの大きな嘘が
発覚することとなり…

偽医者だった伊野。
そんなことは知らず、娘の勧めで入院したかづ子に
刑事は尋ねる。
「彼はあなたに、なにかしてくれたんですか」
何も知らないかづ子がにっこりほほえんで
「いいえ、なあんにも」というシーンが
わたしにとっては非常に印象的でした。
そして、失踪前に、伊野はかづ子に会いに行きます。
田んぼの仕事をしているかづ子に大きく手を振り、
白衣を投げ捨てるシーンが非常にきれいです。 
棚田の緑が鮮やかで、心に残ります。

伊野の理解者である製薬会社の斎門(香川照之)の
セリフがすごく好きでした。
刑事が言います。
「なぜ伊野は医者になり済まし続けたんですかね?
愛、ですか?」
その問いに答えることなく斎門は椅子から転げ落ちます。
思わず手を貸す刑事。
「今助けてくれたのは、愛、ですか、刑事さん。
伊野がやっていたのも、そんな気持ちからだと思いますよ」
(セリフは正確ではありません、ごめんなさい)

伊野が使っていたペンライトは医者だった父のものでした。
失踪先で、伊野はすでに認知症となり
彼のことがわからなくなっている父に電話をします。
「俺や。治や」
「そう・・・ですかあ」
「父さんのペンライト、なくしてしもた。ごめんな」
「そう・・・ですかあ」
そのシーンも心に残りました。

前作「ゆれる」、前々作「蛇イチゴ」では
家族の葛藤を描いた西川美和でしたが、
今回の作品は全編に温かいまなざしが満ちており
希望が感じられました。
八千草薫さんの笑顔が心に残る、美しい物語です。

(9月5日、ヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞)

http://deardoctor.jp/ 

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「空気人形」5



監督・脚本・編集 是枝裕和
原作 業田良家「ゴーダ哲学堂 空気人形」
出演:ぺ・ドゥナ ARATA 板尾創路 高橋昌也 余貴美子 岩松了 丸山智己 奈良木未羽 柄本佑 星野真里 寺島進 オダギリジョー 富司純子
配給:アスミック・エース(2009/日本/カラー)

「ワタシハ、ココロヲモッテシマイマシタ。」
本来持ってはいけない「心」を持ってしまった
空気人形をめぐる人々をとおして
人と人とのつながりを描く是枝ファンタジー。

空気人形「のぞみ」(ペ・ドゥナ)は持ち主秀雄(板尾創路)の
夜のオモチャ、「性的処理のための代用品」。
そんな空気人形がある日「心」を持ちはじめ…。

秀雄がいない間に彼女は様々な人と出会う。
そして、レンタルビデオ屋でバイトをする純一(ARATA)を
一目見たとたん自分と同じ何かを持っていると感じ、
恋に落ちる。
空気人形が出会う人々はみな、心の中に
どこか空虚感を感じている人ばかりだ。
昔代用教員をしていた老人(高橋昌也)、
新聞に載っている犯罪をすべて自分のせいだと
思ってしまう未亡人(富司純子)、
家ではひとりさびしく卵かけご飯を食べる
レンタルビデオ店長(岩松了)、
過食症に陥っている一人暮らしのOL(星野真里)、
年をとっていく自分を認められず、
自分の代わりになる人はいないのだと
自分に言い聞かせる受付嬢(余貴美子)、
マニアックなビデオを借りてばかりの浪人中の受験生(柄本佑)、
妻に去られた夫(丸山智己)とその娘(奈良木未羽)。
そして、純一は癒えぬ傷をかかえて、生きることすら疑問を感じている。

「ワタシミタイナヒト、ケッコウオオイミタイ・・・」

 そんなある日、純一と映画の話をしながらビデオを
整理していた空気人形は、釘に腕を引っ掛けてしまい、
中の空気が抜けてしまう。
必死で栓を探し、息で空気を満たしてやる純一。

空気人形が家に帰ると、「ハッピーバースデイ」の歌を歌っている
秀雄がいた。そう、彼は新しい「のぞみ」を買ってきたのだ。
やっぱり自分は誰かの代用品。
その事実を眼前に押し付けられた空気人形は
自分が作られた人形工場を訪ねる。

彼女を作った人形師(オダギリジョー)は優しく
「おかえり」と彼女を迎え入れ、こう問う。
「君が見た世界は・・・きれいなものはあった?」
「うん」「生んでくれてありがとう」
そう言って彼女は純一を訪ねてこういう。
「代用品でもいい。あなたが望むことなんでもしてあげる」
そして純一は彼女にしか頼めないことを頼むのだが…。

作中で、老人が空気人形に教える詩の中のことばが
非常に印象的でした。
「生命は その中に欠如を抱き 
それを他者から満たしてもらうのだ
世界は多分 他者の総和」

人は誰もが代わりなどいない存在で
そして人は他者を必要としている。
そんなメッセージが根底に流れている
すばらしい作品でした。
空気人形は空気を満たしてもらうことで
生きていける。
純一が空気人形のおなかの栓から空気を満たすシーンは
原作にもあるのですが、
是枝監督の目には「非常にエロティック」であり
なおかつ「非常に映画的」に映ったのだそうです。
だから、このシーンはメタファーとしての
セックスシーンなのだそうです。
そして、そのシーンは非常に印象的です。

そして、是枝監督は「人と人とのつながり」を決して
きれいごとだけで描いてはいない。
純一は、哀しい選択をします。
純一を救えなかった空気人形がとった道も
哀しいものです。
しかし、最後に拒食症の女性が見た外の風景は
空気人形が初めに見た世界と同じくらい
「キレイ・・・」なものでした。

非常に多くの伏線が張られていて
密度が濃い映画でしたが、ゆっくりと、ゆっくりと
空気人形が赤ん坊の心から大人の女へと成長していく、
そんな物語でもありました。

もう一度最初から観てじっくり考えたい作品です。

(2009年10月11日シネマライズにて鑑賞)

http://www.kuuki-ningyo.com/index.html
 

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