January 07, 2006

新日本フィルハーモニー交響楽団トリフォニーシリーズ第395回定期演奏会

まず前プロ1曲目は江村哲二、『武満徹の追憶に《地平線のエオリア》オーケストラのための』。今年は武満の没後10周年ということで以前大野のもとに送られてきた作品を改訂し、今回初演に至ったとの事。江村氏は音大にはいかず独学で作曲活動をしており、その先達として武満には思い入れがあるとパンフレットに記載されていた。この作品も、彼へのオマージュという事で随所に武満作品の影響を思わせるサウンドが随所に現れる。セッティングは両翼配置で、中央に置かれた2台のハープが曲で重要な役割を担っている。その響きが往年の武満がたどり着いた“水”の音を、様々な楽器のハーモニーと共に作り上げている印象を受けた。また中間部、シュワントナーの『・・・そしてどこにも山の姿は無い』を思わせる箇所もみられた。13分を通して純度の高い音響空間が繰り広げられる作品であったと思う。
2曲目はショスタコーヴィチ、ピアノ協奏曲第1番。P.スミスのオケスタCDに収録されていて高1の時に知った曲である。トランペットがもう一つの独奏楽器としてつかわれており、ピアノとトランペットのための協奏曲ともいわれる。これを大目当てにしてきたわけだが、あまり練習していないのか、練りあがっていない印象に終わってしまった。Tpソロもセッティング変え中に袖でさらっているのが聴こえてきた時は良い音だったのだが、いざ本番でオケに混じるとどうも噛み合わない様子。各楽章のほぼラッパだけの時は良いのだが、どうもテュッティになると溶け合わない。オケの方も4楽章などかなりアンサンブルの破綻がみられ、ピアノと指揮とも呼吸が合わない印象だった。それぞれのパーツ(指揮者、Pf&Tpソリスト、オケ)は素晴らしいと思わせられたのだが・・・。ラストの盛り上がりも無理やり持っていったような、ちと苦しい展開で終わられてしまった。あまり各人の持ち味を生かしきれなく、残念。とくにピアノはアンコールが素晴らしかったため、もっとアンサンブルが生きる伴奏で聴きたかった。
後半は交響曲第4番。こちらは前半とは打って変わってただただ圧倒されるだけであった。とにかく素晴らしかった、その一言に尽きる。この作品は今回初めて聴いたわけだが、それにもかかわらずそこで展開されるドラマがはっきりと示され楽曲のエッセンスが伝わってくる。なにより演奏者すべてが最高に集中して楽曲に取り組んでいる様がわかり、かつ指揮者と一体となってホールに気迫が伝播し、惹き込まれた。細かい曲中のディティールで言えば1楽章の弦の音階運動が頂点に達した後に導かれるホルンのファンファーレ、3楽章のこれまた弦セクションによるパガニーニを髣髴させる超絶技巧パッセージのフーガ、また終盤近くの金管コラールなど、素晴らしい聞かせどころとして耳に届いてきた。とにかく、ショスタコーヴィチを新たに発見させてくれる演奏であり、俺の世界をまたひとつ押し広げてくれた。曲の終了後も会場は割れんばかりの拍手で包まれ、素晴らしい演奏である事を改めて感じさせられた。ブラヴィッシモ!

新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会トリフォニー・シリーズ第395回定期演奏会
≪ショスタコーヴィチ、味わい深き第4の大曲≫
2006年1月7日(土)すみだトリフォニーホール 15:00開演 
曲 目: 江村哲二/「〜武満徹の追憶に〜〈地平線のクオリア〉オーケストラのための」(2005・世界初演)
    ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1番 ハ短調
    ショスタコーヴィチ/交響曲第4番 ハ短調
指揮:大野和士
ピアノ:シモン・トルプチェスキ
トランペット:デイヴィッド・ヘルツウォーク
新日本フィルハーモニー交響楽団

Posted by mizukingtrp_cond at 22:56│Comments(2)TrackBack(1)

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金曜日、新年の仕事をたら??と終えつつ、錦糸町へ。新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に行ってきました。 江村哲二:武満徹の追憶に≪地平線のクオリア≫オーケ...
新日本フィルハーモニー交響楽団第395回定期演奏会 ショスタコーヴィチ交響曲第4番他【Internet Zone::Movable TypeでBlog生活】at January 08, 2006 20:40
この記事へのコメント
金曜の新日定期に行きました。
もちろんショスタコの4番を生で聴くのは初めてで、演奏はもちろん非常に感銘を受けるものでした。
期待以上といった感じです。
しかしそれより何より、曲自体が持つ圧倒的なパワーにはただただ驚かされました。
去年から楽しみにしていた演奏会なのでCDも複数枚購入しましたし、スコアも少しは読みました。
それでも演奏を聴いた後には「こういう曲だったのか・・・」と思わざるを得ませんでした。
今年はショスタコの実演が多いはずなので、機会を見つけて行きたいですね。

新日の記事を見つけ、嬉しくなって書き込んでしまいました。
良いお年を。
Posted by こうよう at January 08, 2006 00:08
どうも、こうようさんもやはり聴きにいっていらしたのですね。
自分も曲に非常に魅せられて、帰りがけにCDを購入してしまいました。
とにかく、昨日のこの曲の演奏でこの作曲家の真の姿を垣間見たという感じでした。
これを本場ロシアのオケで聞いたらどんななのでしょうね。
考えただけでも非常にワクワクします!
Posted by みずきんぐ at January 08, 2006 20:15