チャレンジ・コミュニティ・プロジェクトの皆さんとは、以前から中小企業の経営革新支援や右腕人材のマッチング・人材定着といった文脈でご一緒させて頂いていました。
今回は少し切り口を変えて、「"初めての"社会的インパクト評価」をテーマに分科会のコーディネーターを担当。
登壇者などは以下のご参照を。
http://challenge-community.jp/summit2016/session/62/
■中小企業経営革新プログラムについて
ETIC.さんは、ゴールドマン・サックス社の支援を受け、「中小企業経営革新プログラム」を実施されています。
http://www.etic.or.jp/cc/mip/about
このプログラムでは、「インターンである学生」が、全国の「コーディネート機関」のサポートを受けながら「経営者」と共に、インターン先の中小企業の経営革新に挑みます。
このプログラムは、既に3期が実施されていますが、このうち「第1期」のプログラムの成果について、SROIによる評価を実施されたとのこと。
その報告書はこちら。
http://www.impactmeasurement.jp/wp/wp-content/uploads/2016/09/bffa1a1e03f73511654632665f76466a.pdf
ソーシャルインパクト評価イニシアチブのサイト(事例集)にリンクしています。
※http://www.impactmeasurement.jp/case/
■分科会の内容
今回の分科会では、この「GS×ETIC. 中小企業経営革新プログラム 社会的インパクト評価報告書」を題材に、議論をしました。
分科会では、社会的インパクト評価のうち、特にSROIの実践について、実際の評価対象案件を素材にご紹介頂きました。
構造としては、
・GS社の中小企業経営革新プログラムの第1期のPJのうち、
・SROI評価の対象となった4つの事例のうち、
・長野県塩尻市の事例
を今回の分科会で取り上げた、ということになります。ちなみに、SROIにより、半年間の時点でのアウトカムを把握。
■セミナーで伝えきれなかったこと
以下、セミナーで伝えきれなかったことを、メモ程度ですが残しておこうと思います。またセミナーの後、SROIネットワークジャパンの大沢さんと口頭・メールでやりとりしたこともたくさん含まれています。(大沢さん、ありがとうございます!)
セミナーにご参加されたみなさんはもちろん、そうでないみなさんにも、何かのご参考になれば。
※長いのでINDEXを付けます。そして、記事を2つに分けますね。
==INDEX==
【前編】
●1:TOCやロジックモデルの大切さ
●2:SROI以外の社会的インパクト評価手法に対する目配せの必要性
●3:「評価から何を学びどう改善するか」という視点の必要性
●4:複数の評価手法の組み合わせや、定量的分析と定性的分析の組み合わせ
【後編】
●5:貨幣価値換算する際の妥当性の配慮
●6:評価の原則の理解(ご紹介)
●7:既にある知見の活用
●8:そもそも「社会的価値とは何か」に対する議論の必要性
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ではでは、前編の今日は、1~4まで。
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●1:TOCやロジックモデルの大切さ
改めて大切だなあと思ったのは、TOCやロジックモデルの存在です。
TOCについては、下記のブログにも書きましたが、屋台骨であり、土台となる存在であるわけです。ですから、SROIをする際にも、ここが整理されている必要があります。
「セオリー・オブ・チェンジ(Theory of Change)案を素材にディスカッションして考えた2つのこと」(2016.7.8)
http://blog.livedoor.jp/mizutanieri/archives/8100748.html
「セオリーオブチェンジは作る過程を楽しめる。楽しむためには第3者の存在って大事だと思った。」(2016.10.27)
今回の分科会では、最後に、「ネクストステップ」をご紹介しましたが、「社会的インパクト評価に取り組みたい」と考えた団体に最初に求められることは、TOCやロジックモデルの整理を行うことだと思いました。
これについても、既に作成に関する書籍が沢山出ていますので、まずはここをクリアに学んでみる、あるいは作成にトライしてみる、というのも一案だと思います。
●2:SROI以外の社会的インパクト評価手法に対する目配せの必要性
今回は、たまたまSROIを用いた評価が実施されましたが、社会的インパクト評価=SROIではないわけです。
時間の制約もあり、他の手法については言及できませんでしたが、
大沢さんとやりとりをしていて、改めて、SROI以外の社会的インパクト評価の手法やフレームワークについても、目配せしつつ、自団体や関係者にとって最適な方法を選択する目線が大切だなあと思いましたので、いただいた情報を整理しながら、メモしておきたいと思います。
1:MSC(Most SignificantChange)
MSC手法 実施の手引き(リック・デイビース、ジェス・ダート 著
田中博 監訳 MSC 翻訳チーム 翻訳 (無料でDL可能)
http://mande.co.uk/blog/wp-content/uploads/2013/10/MSCGuide-Japanese-2013.pdf
※とても有名ですが、田中博さんのウェブサイト
「評価とは価値発見!NPO/NGOプロジェクトを改善しよう」からリンクが貼られています。
2:PCM(ProjectCycle Management)
(参照先)特定非営利活動法人 PCM Tokyo から引用
PCM(ProjectCycle Management)とは、海外援助プロジェクトで使用される、関係者の参加による計画立案を特徴とする事業管理手法です。
PCM手法には、プロジェクトの計画、実施、評価というすべてのサイクルをカバーする「包括性」という特徴があります。計画、実施、評価それぞれに独立した手法は様々ありますが、プロジェクト・サイクルの一連の流れをひとつの手法でカバーするというものは、おそらくPCMをおいて他にないでしょう。
さらに注目されるのは、PCM手法は、それら計画から評価までのプロジェクト管理を、関係者が一堂に会したワークショップを通して「参加型」で行なうことです。これによって、プロジェクトが、上から与えられたトップダウンのものではなく、当事者がみずから考え、計画し、実施し、評価するボトムアップのものになります。PCM手法をもちいることによって、関係者一人ひとりの「思い」を「形」にしたプロジェクトの計画、実施、評価が可能になるのです。
3:エンパワーメント評価
明治大学 源先生の論文
「エンパワメント評価の特徴と適用の可能性~Fettermanによる「エンパワメント評価」の理論を中心に」
Fettermanによるエンパワメント評価は、評価の概念と技術を使い「自己決定能力」を身につけるプロセスを提供し、変革を支援するものである。それは受益者を含む当事者グループが、自らが継続的に評価を行うことを通して、エンパワメントしていくプロセスである。そこでは、評価専門家は査定者ではなく、ファシリテーター、評価手法のトレーナー、人々の代弁者などの役割を担う。エンパワメント評価は変革とエンパワメントのアジェンダがある事業に適していると考えられ、開発援助の社会開発プロジェクトや国内のNPOによる公益事業に適用可能である。従来型の評価と併用することにより、社会の多元的な視点を取り入れた評価が可能になり、地縁、血縁を越えた自発的なコミュニティの発展を考えるひとつの契機となり得る。今後は我が国においても事例を積み重ねることにより、理論、方法論の更なる検証が必要になるであろう。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjoes2001/3/2/3_2_70/_article/-char/ja/
●3:「評価から何を学びどう改善するか」という視点の必要性
社会的インパクト評価を行う際に、「当初の想定・目的をどのくらい実現できたか」、「意図していたが達成できなかったことは何か」という観点から分析をすることもとても大切だなぁと感じました。
評価は、それによって
‐説明責任を果たすこと(アカウンタビリティの向上)
‐自己改善や学習に繋げること
が大切だと言われます。
なので、評価結果を踏まえて、自組織・事業をどう改善していくのか、という観点から、評価結果を活かすことができるよう、設計段階で留意したり、分析の視点を持つことが大切なのだと思います。
SROIの評価では、もちろん貨幣価値換算が出来ることが一つの魅力なわけですが、きっと複数年、あるいは10年以上に亘り事業を続け、インターン生を世に送り企業の支援を続けていくのであろうETIC.やチャレコミの皆さんにとっては、「事業を改善する上でのアイデア」をどう見つけるか、ということは大切になるのだろうと思うのです。
ですので、その事が伝えられたら、より社会的インパクト評価に取り組む意味が伝わったかなぁ、と。
●4:複数の評価手法の組み合わせや、定量的分析と定性的分析の組み合わせ
SROIというと、どうしても定量分析が頭に浮かぶわけですが、実際には定性的な分析と組み合わせて実施されます。
また、SROIをプロセス評価・分析と組みあわせて実施されることも。
(これは他の評価手法も同じ。組み合わせて実施されることもある。)
こうした点をしっかりと把握しておくと、単に知っていることをやってみた、ということで終わらない、「自分たちにとって、必要で最適な評価」ができるのだなと思ったわけです。