西山

南回帰線には建物の周り東西南北に敷地があり、私たちはそれぞれ西山・東山・南の丘・北裏と呼んでいます。
この自然の山を雑誌で見るような美しい庭にすることは10年前の開業当初からの私の夢でした。

最初がんばったのは一番広い面積のある東山で、まずは道を造ろうとしましたが前回もお伝えしたようにジョンさんロードは初夏には草に覆われて姿を消してしまいました。以前せっせと植えた花々も7年間の留守の間に皆どこかへ消えてしまいました。クリスマスローズだけが主のいないMK(南回帰線の略号)の庭のすみで毎年ひっそり咲いていたそうです。

 

で今回は、こちらは後回しにして、道行く人が眺めていく南の丘とダイニングから眺められる西山をなんとか花壇らしくしようということになりました。

しかしサントリー時代以来40年手つかずの「まんま」になっている西山は今や萩とすすきが跋扈して萩山、すすき野、どくだみ原となりにけり。すすきはへたにさわれば手を切るし、根っこが硬くてとれません。萩は枝ばかりおばけのように伸びて、秋に咲いた花の小ささにがっかり。

まずは萩とすすきを根元からぶっつり刈り取るところから始まります。カポックなどあまり面白くない木も根元から切りました。そうしてそこに宿根草や花木、ハーブなどをいろいろ植え込んでいくのですが、庭造りの方針がすぐに変わってしまうわたくし。

 

当初お客さんに勧められてハーブが中心でしたが、季節ごとにおよその庭で、きれいに咲く花々を見ては欲しくなって買ったり、でも秋の庭の色が寂しいので結局1年草のビオラに賑やかしに来てもらったり。行き当たりばったりの植栽の極め付けは由康のたっての希望で購入した「みかんの木」。ある日突然にクリスマスツリーのように鈴なりのミカンの木が西山に登場。育てる手間を省いていきなりの鈴なりミカンというのはどんなもんでしょうかねえ。翌日にはリスが食べに来て、しばらく攻防戦が続きました。

業界大手のタキイの苗はがっかりでした。来年は真っ白な紫陽花アナベルを咲かせようと2株1500円の苗を注文。待たされてやって来たのは、丈10㎝ほどの棒っきれ。まあ小さな根はついているから来年には何か咲く?のでしょう。有名な種苗会社が育てたお苗さまだから優秀なDNAは持っているんだろうけれど、パンフレットに載っていたような大輪のアナベルの庭になるのはいつ?私そこまで生きてないかも。

花の種もそう。種の袋にはお花畑のように花々があふれかえっているから、ついこの種を蒔けば、来年の春には花園が! と思ったら大間違い。培養土で一粒づつ育て、ポットの植え替え、それから一苗づつ土に植え替えてあげなくてはだめなのね。私のように土の上にばらっと播いて、勝手にお育ち!で済むのはレンゲの花ぐらいでしょうか。

水やりもホースが届かないので何回もじょうろで往復しなくてはならなかったり。

通信販売で買った鳴り物入りの軽―いホースはKeiが咬んじゃったら一発で破れてお終い。そんな試行錯誤を繰り返し、今では主人の作った散水装置も稼働するようになり、はまさんの水やり作業もだいぶ楽になりました。南回帰線のミントとパセリはみんなおばあちゃん農場で獲れたものです。

 

来年の春に向けて、水仙やチューリップの球根たちが土の中で芽吹く日を待っています。

ターシャの庭にも、風のガーデンにも程遠いけれど、自分の植えた花たちが日々大きく育っていくのを見守るのは、私の人生のヨロコビの中でもかなりの上位を占めるようになったこの頃です。