2005年07月14日

第38話「新しき旗」

ザフト軍はヘブンズベースに対して期限内のロゴスメンバーの引渡しを要求。ミネルバを旗艦とした艦隊を待機させていた。ジブリール以下のロゴスメンバー達に降伏の意志はなく、彼らは勧告への返答などせず準備が整い次第先制攻撃を仕掛けるつもりであった。正義の味方なんて存在しない。愚民共はたやすくデュランダルの甘言に踊らされているが、彼らが倒れた後ただとってかわる者が現れるだけであろうと。それがコーディネイターではあってはならない。

出撃に向け控え室で待機していたシンにルナマリアは話しかける。
「インパルス、私にも扱えるかな?シンみたいに?」
問いかけではなく、そうあらねばならないという彼女の決意表明であった。
「メイリンはあんな子じゃなかったのに。ロゴスに。アスランだって!」
哀しみが彼女の心に作った隙間に、憎悪が入り込もうとしていた。
(この子は俺とおなじだ。)
シンは彼女を抱きしめた。そして思わずキスした。
「ごめん。」
「ううん・・・。」
「インパルスは俺が絶対守るから!」
「シン・・・。」

 開戦の合図は連合のミサイル一斉発射であった。回答期限を待っていたザフト軍の先鋒部隊は不意打ちにあった形となり、次々と撃沈される。
「いまだ、何ら回答も得られぬままに!」
タリア達が驚く間もなく、連合の総攻撃が開始される。その先陣を切るのは5機のデストロイであった。先の戦闘でカオスを撃破されながらも生き延びていたスティングは1号機を駆り、破壊の限りをつくす。彼はもはや以前のような冷静さをもっておらず、狂気に満ちた戦闘マシーンと化していた。なぎ払われてゆくザフト艦と蚊トンボのごとく落ちてゆくモビルスーツの哀れな様が彼にとってのカタルシスなのであった。

 その頃、アークエンジェルの医務室ではようやくアスランが意識を取り戻していた。視界が徐々に戻り、彼をみつめるキラの顔が浮かび上がる。
(キラ!俺は生きているのか?それともここは!?)
「お、お前、死・・んだはず・・・?」
インパルスがフリーダムを貫いた悪夢が蘇る。
「大丈夫、君、ちゃんと生きてるって。」
その言葉が彼に自分と親友の生存を確認させる。
視界が再びぼやけ始める。
涙が溢れてくる。
「キサカさんが連れてきてくれたんだ。ほんとびっくりしたよ。カガリなんてずっと泣きっぱなしで。」

 デュランダルは応戦を指示する。そして、地球上空にて待機していた降下部隊が侵攻を開始した。だが、ヘブンズベースは大気圏外からの降下を想定した施設であり、対空掃討兵器ニーベルングを備えていた。ザフト軍のカプセルが上空で割れ、4機編成のザク部隊が次々と降下してくる。その状況は繰り返されたシミュレーションの如く冷静に伝えられ、司令官は命令を発した。
「ニーベルング照射開始!」
次の瞬間、ヘブンズベースのある一点から、上空に向け破壊の光柱が立ち上った。ザフト軍の降下部隊は巨大な光に包まれ、一瞬にして跡形もなく爆発してしまった。降下部隊のパイロット達は苦悶の表情を浮かべる暇もなく、未知の事態が己に確かな死をもたらそうとしているのを理解する間もなかった。驚きの声をあげようとした者も言葉を吐き終える前に消滅していった。

「降下部隊消滅です!?」
タリアは目の前で繰り広げられた惨劇に眼を見開いていた。戦争だからと言ってしまってよいのだろうか?一方的で無慈悲な殺戮に思えた。しかもそれはシミュレーションをなぞるかのように想定どおりに冷徹に行なわれたことなのだ。彼女が直面しているのはただの殺し合いだった。相手はもはやルールブックの存在など気にしていない。お互いを滅ぼすことがこの戦闘の目的であるかのようだった。

先陣部隊に続き、突破口を切り開くはずの降下部隊がなすすべもなく消滅してしまい、もとより物量に劣るザフト軍は劣勢に陥ったかのように思われた。そして敵方はまだどのような兵器を用意しているのか?
タリアは進軍を躊躇した。
だが、シンの言葉が反撃の開始となった。
「行きます!こんなこと、もう許しておけません!」
デュランダルをうかがった彼女は、そこに強固な意志を読み取る。
許可が出され、デスティニー、レジェンド、インパルスが発進する。
シンの駆るデスティニーは圧倒的な攻撃と防御で、敵陣を正面から直線的に切り崩してゆく。インパルス初搭乗となったルナマリアも怒りを力に変えたかのような動きで次々と敵部隊を撃墜してゆく。
海上からインパルスを狙った一撃を、デスティニーが受け止める。
「うかつだぞ、ルナ。上空にいるんだから下からも狙撃される!」
「くっ・・・。」
シンは彼女を守るという約束を実行にうつした。
だが、彼女の自尊心は少し傷ついた。
(確かに空中戦は初めてだわ。でも、私だってレッドなのよ!)

一方的な破壊の限りを尽くしていたスティングは、鬼神のごとき動きで自陣に切り込んで来る3機に気づく。
(何だあれは?ザフトの新型?人殺しのコーディネイター共がまた!)

「シン、ともかくあれをどうにかするんだ。切り込めるか?」
「分かった。」
レイはデストロイ5機を連携して倒すようシンに促す。
デスティニーはスティングの乗るデストロイに突進してゆく。
「お前らも!」
ロドニアのラボで見た異様な光景が思い起こされる。
研究室に整然と並ぶ人間の脳。
それはエクステンデッドの研究資料と成り果てた人間のものであった。
見かけは普通の女の子なのに、ステラは処置を施さなければ身体機能の維持すらできなかった。彼らが彼女を作り変えてしまったからだ。優しくて暖かい・・・そんな世界が似あうはずのあどけない女の子を!
満ちみちた怒りがシンのSEEDを弾けさせた。
認識が全方位に広がるかのような感覚があり、世界の動きが全て緩慢に感じられる。極限まで高まった認識力が克明に相手の動きを捉え、正確に予測された軌跡が脳裏に描き出される。ビームシールドを有するデスティニーを得た彼には、もはやこれまでのような回避運動を取る必要もなかった。最短のルートをたどって敵に接近し、機体を破壊する。
圧倒的な火力を無効化されたデストロイは次々と中破してゆく。
「シン・・・!」
「これはまたすごい!」
タリアはあっけにとられてしまった。圧倒的な敵戦力をたった一機で切り崩してゆくとは。アーサーの平板な言葉は何ら状況を描写できていなかったが、彼女はこの状況でそのような言葉を無邪気に吐ける彼を少しうらやましくさえ思った。正義のための戦い?破壊と破壊のぶつかり合いではないか?これで果たして・・・。否、そのようなことは今考えるべきでない・・・。

スティングのデストロイを中破させたシン達は、次々と他のデストロイに襲い掛かる。ソードシルエットが射出される。レジェンドとインパルスはエクスカリバーを振りかざして立ち向かってゆく。インパルスの一撃をくらい、爆発した一機の上空でレイは言う。
「ルナマリア、やるじゃないか!」
「忘れてた?私も赤なのよ!」

 アスランは自分を助けてくれた人のことを思い出す。
「メ・・・イリン。彼女は?」
「大丈夫彼女の方が軽症だよ。君がかばったんだね。」
よかった。彼の心に安堵が広がる。
そして、ずっと話したかった相手に、あえぎながら言葉を伝えようとする。
「キラ・・・カガリも・・・守りたかった。力が欲しかった。議長・・・それを知って。」
素直な気持ちで話せたのはいつ以来だろうか?
彼の焦り、傷ついたプライドをデュランダルは見透かしていたのだ。そして、まんまと手駒として動かされてしまった。デュランダルに持ち上げられた正しい判断など最後の最後まで自分にはできなかった。
追いつめれて逃げてきただけだ・・・。
キラが体を気遣って制止する。
「大丈夫、僕達はまた話せる。いつでもね。」
それを聞いて安心したのか、涙を浮かべたまま、彼は再び眠りに落ちる。

スティングのデストロイは中破しながらもなおも立ち向かってくる。
デスティニーはシールドでビームを受けながら、接近してゆく。
両者は気合の咆哮を発する。
「うぉぉぉぉっー!」
デスティニーの対艦刃がデストロイのコクピットを縦に切り裂く。
スティングは忘れていたことを思い出す。
死。それは誰にでも訪れるのだった。
自分はそれを一方的にもたらす者として、使わされたのではなかったか?
いや、そうではなかった。ただ、忘れていただけだ。奪われていただけだ。
今、取り戻した。これが人生。そして痛み、そして死。そして・・・恐怖?
「お、俺の・・・。」
取り戻した。
その勝利が、消滅の瞬間、微笑すら彼に浮かべさせた。

「1号機撃破されました!」
「ジブリール!これでは!」
戦況が一変してゆく中、ロゴスメンバー達はジブリールに詰め寄ろうとする。
しかし、彼の姿はもはや司令室にはなかった。
彼はそのとき既に脱出用の潜水艦に乗り込んでいるところであった。
「こんな・・・。馬鹿なことが!デュランダルめ!」
ジブリールの逃走を知った連合は、敗北を認め白旗を掲げた。
デュランダルは彼らを信用はできないとして、確認作業を指示する。

「これで戦いは終わる!せめて!」
デスティニーはレジェンドとともに最後に残されたデストロイを襲う。
両者が切りつけた跡はデストロイの胸部にX字状の傷をつくり、巨体は轟音とともに倒れ、爆発した。

ブリッジに戻ったキラは、マリューに戦闘の状況を確認する。
「まだ、わからないけど・・・。どうやら連合の負けのようね。」
「そうですか・・・。」

僕達は何をしているんだろう?
僕達の世界は?
無力感がキラを襲う。
そして、エターナルのラクスもまた。

愚民共はわかっていない。ただ成り代わって統治する者が現れるだけだ。
滅ぼされた旧世界の統治者の言葉を最も理解する男は、ミネルバのブリッジでひとり目を閉じた。

デュランダルは、新しき旗のもと組み上げられてゆく世界の様を見た。
盤上の駒達が読み通りに動いていた。
彼の記した五線譜の旋律が、しかるべき役割を与えられたしかるべき人々によって、奏でられていた。

(美しい・・・。)
序奏は申し分なかった。

TBC


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