{短歌の本読む 120} 「うた新聞」2018年10月号《歌集読む 187》 穂村弘『シンジケート』  ~彗星しか愛せない、ほか

2018年12月06日

第61回短歌研究新人賞受賞作「この人を追う」30首

2018年、第61回短歌研究新人賞をいただいた短歌連作「この人を追う」30首をここに公開いたします。

短歌研究新人賞は雑誌「短歌研究」で年に一回おこなわれている公募です。未発表作品30首を対象としていて、本賞は賞状、副賞は賞金20万円。
この年の応募の有効総数は545。選考委員は栗木京子さん、加藤治郎さん、米川千嘉子さん、穂村弘さんでした。授賞式は9/21に講談社でおこなわれました。
川谷ふじのさんの「自習室出てゆけば夜」との同時受賞でした。

30首すべて出します。最後に、一位に推してくださった加藤治郎さんと穂村弘さんの短評を載せておきます。鑑賞の参考になさってください。
選考の様子などもっとくわしいことは「短歌研究」2018年9月号に掲載されています。

IMG_20180820_192029




短歌の雑誌を読まないけど短歌に興味のあるみなさん、雑誌を買い逃してしまったみなさん、遠い未来の読者であるみなさん、新人賞を狙うみなさん、そのほかここを見ているみなさんにこの作品をお届けいたします。








「この人を追う」  工藤吉生



砂嵐以外は何も映さないテレビを思う 風の水面に

公園の禁止事項の九つにすべて納得して歩き出す

キスをする距離のふたりがオレのいるあいだはせずにいてくれていた

てのひらで暴力団を止めようとしてる女はポスターの中

マスタード・ケチャップ同時にかけられる便利パックも散乱のゴミ

ボケというひどい名前の植物の背丈がオレとそうかわらない

左肩にかけてたカバンを右肩にかけてパラレルワールドみたい

黒髪を生やす力のおとろえた頭を下げて求めたゆるし

力の限りがんばりますと言わされて自分の胸を破り捨てたい

「サイコロをもう一度振り出た数を戻れ」もどれば「一回休み」

〈ラーメン〉と赤地に白く染められた決定的な幟はためく

並盛りと言ってもかなりの量がくるしきたりを受け入れてわれらは

コクとキレ知らないものを知っているみたいに半ばまで来てしまう

スープまで飲み干し思う破滅から地球を救い胴上げされたい

現金のように使えるポイントのもう戻れない無垢の心に

この人にひったくられればこの人を追うわけだよな生活懸けて

頭を掻くつもりで上げた左手の先が帽子の中へ潜った

考えず腕組みをして不機嫌に見えそうだなと思ってほどく

何をしても落ちなさそうな黒ずみに両足で立ち〈1〉と〈閉〉押す

ひらきだす自動扉の前に立ち通れるようになるまでの無為

むらさきとピンクの歌が漏れているこのスナックの名を「蘭」という

なんとなくいちごアイスを買って食う しあわせですか おくびょうですよ

わかるけどそうは言っても死んだまま一生過ごすことはできない

脱ぎ捨てた靴下ふたつの距離感を眺めていれば鳩時計鳴く

全身に力こめれば少しだけ時間を止められないこともなくない

手を腰にやってコーヒー牛乳を飲んではみても傷もつ心

トリックをすべて解かれてうらみつらみねたみを2分言う殺人者

次にくる年号を予想する人がテレビの中に座ってて邪魔

水を吐くオレを鏡に見てしまうモザイクかけておいてほしいな

見たくもないものが日に日に増えてくるオレの一人の部屋の消灯






<短評>
■不条理な日常である。底ごもるような思索と行為を通じて現れる人間性は濃厚である。柔軟な文体で暗喩が巧みだ。「公園の禁止事項の九つにすべて納得して歩き出す」には、この人物の奇妙な性格が滲んでいる。九つを読み通すところにむしろ不信感がある。「並盛と言ってもかなりの量がくるしきたりを受け入れてわれらは」は、日常の片隅のちぐはぐさを捉えた。どうでもよいことだ。それを受容することで我々は何とかやっている。(加藤治郎)

■「公園の禁止事項の九つにすべて納得して歩き出す」「てのひらで暴力団を止めようとしてる女はポスターの中」「トリックをすべて解かれてうらみつらみねたみを2分言う殺人者」など、おかしないい方になるが、高度な無力感が表現されている。その根っこにあるのは完成された社会システムに対する違和と諦念と絶望だろう。魂の叫びの持ち時間が2分と限られているのはテレビ番組としての都合。でも、我々の現実は限りなくその世界に近づいている。(穂村弘)





■受賞後第一作もこのブログで読めます
「人狼・ぼくは」30首【第61回短歌研究新人賞 受賞後第一作】
https://t.co/oKE6LjcDKD







▼▼▼

【こっちもおすすめ】
noteのほうでは、ブログでは読めない内容の記事をたくさんアップしています。




2018年8月のオレの短歌とその余談/連作の歌のつなぎ方
https://t.co/A139XJ2pSk

「短歌研究」2018年9月号・短歌研究新人賞のことを思うぞんぶんに書く【1】
https://t.co/9LDZrsWmr0

【2】
https://t.co/lcoeLM1kt6

【3】
https://t.co/f993MV2JHS

【4】選考座談会・前編
https://note.mu/mk7911/n/ncbc826b3e18a

【5】選考座談会・後編

https://note.mu/mk7911/n/n44d84c9e74f6
2018年の短歌研究新人賞の自分のことについて、思うぞんぶんに書き尽くしました。また、選考座談会で言われたことへの応答。




などなど、
500円ですべての記事(約100記事)が読めます。よろしければどうぞ。







このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr Clip to Evernote

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
{短歌の本読む 120} 「うた新聞」2018年10月号《歌集読む 187》 穂村弘『シンジケート』  ~彗星しか愛せない、ほか