現代短歌の有名な作品を読んでみよう!【70人330首】いま若手歌人たちはどんな短歌をつくっているのか【25人72首】

2018年12月10日

近代短歌の有名な作品をまとめました【30人130首】

まえがき

近代短歌の有名作品、30人の歌人による約130首をまとめました。

どこまでが「近代」か、ということについては小高賢編著『近代短歌の鑑賞77』にならって、
落合直文〔1861-1903〕
から
吉野秀雄〔1902-1967〕
までとしました。

作者名の横に生年と没年を記しました。これは井上宗雄・武川忠一編『和歌の解釈と鑑賞事典』を参考にしました。

有名作品というのはすなわち、これをまとめた歌人・工藤吉生が有名であると判断した作品であります。複数の本を参考にしましたので、そんなに大きくははずしていないと思っています。
順番は生年の順となっています。

参考文献
小高賢編著『近代短歌の鑑賞77』
井上宗雄・武川忠一編『和歌の解釈と鑑賞事典』
永田和宏『近代秀歌』
岡井隆・馬場あき子・永田和宏・穂村弘『新・百人一首』
ほか





近代短歌130選



▼落合直文〔1861-1903〕

緋縅の鎧をつけて太刀はきてみばやとぞ思ふ山桜花

霜やけのちひさき手して蜜柑むくわが子しのばゆ風のさむきに

父君よ今朝はいかにと手をつきて問ふ子を見れば死なれざりけり



▼伊藤左千夫〔1864-1913〕

淋(さび)しさの極(きは)みに堪(たへ)て天地(あめつち)に寄(よ)する命(いのち)をつくづくと思ふ

今朝(けさ)のあさの露(つゆ)ひやびやと秋草(あきくさ)や総(す)べて幽(かそ)けき寂滅(ほろび)の光(ひかり)

牛飼(うしかひ)が歌咏(うたよ)む時に世の中のあらたしき歌大(おほ)いに起(おこ)る 



▼正岡子規〔1867-1902〕

いちはつの花咲きいでて我目(わがめ)には今年(ことし)ばかりの春行かんとす

吉原の太鼓聞えて更(ふ)くる夜にひとり俳句を分類すわれは

久方のアメリカ人(びと)のはじめにしベースボールは見れど飽かぬかも

瓶(かめ)にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり

くれなゐの二尺伸びたる薔薇(ばら)の芽の針やはらかに春雨のふる




▼佐佐木信綱〔1872-1963〕

願はくはわれ春風に身をなして憂(うれい)ある人の門をとはばや

幼きは幼きどちのものがたり蒲萄のかげに月かたぶきぬ

呼べど呼べど遠山彦のかそかなる声はこたへて人かへりこず

ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲



▼与謝野鉄幹〔1873-1935〕

京の紅は君にふさわず我が噛みし小指の血をばいざ口にせよ

われ男の子意気の子名の子つるぎの子詩の子恋の子あゝもだえの子

くれなゐにそのくれなゐを問ふがごと愚かや我の恋をとがむる



▼尾上柴舟〔1876-1957〕

今の世は来む世の影か影ならば歌はその日の予言ならまし

つけ捨てし野火の烟のあかあかと見えゆく頃ぞ山は悲しき



▼金子薫園〔1876-1951〕

あけがたのそぞろありきにうぐひすのはつ音ききたり藪かげの道



▼太田水穂〔1876-1955〕

ほつ峯を西に見さけてみすずかる科野のみちに吾ひとり立つ

命ひとつ霧にまみれて野をぞゆく涯(はて)なきものを追ふごとくにも



▼島木赤彦〔1876-1926〕

みづうみの氷は解けてなお寒し三日月の影波にうつろふ

隣室に書(ふみ)よむ子らの声聞けば心に沁みて生(い)きたかりけり



▼窪田空穂〔1877-1967〕

鉦鳴らし信濃の国を行き行かばありしながらの母見るらむか

四月七日午後の日広くまぶしかりゆれゆく如くゆれ来る如し



▼与謝野晶子〔1878-1942〕

乳(ち)ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅(くれなゐ)ぞ濃き

夜の帳(ちやう)にささめき尽きし星の今を下界の人の鬢のほつれよ

鎌倉や御仏(みほとけ)なれど釈迦牟尼は美男(びなん)におはす夏木立かな

金色(こんじき)のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に

その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな

なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな

清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき

春みじかし何に不滅(ふめつ)の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ

やは肌のあつき血潮にふれも見でさびしからずや道を説く君

髪五尺ときなば水にやはらかき少女(おとめ)ごころを秘めて放たじ



▼長塚節〔1879-1915〕

馬追虫(うまおひ)の髭のそよろに来る秋はまなこを閉ぢて想ひ見るべし

垂乳根の母が釣りたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども

白銀の鍼打つごとききりぎりす幾夜はへなば涼しかるらむ

白埴(しらはに)の瓶(かめ)こそよけれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり



▼山川登美子〔1879-1909〕

それとなく紅き花みな友にゆづりそむきて泣きて忘れ草つむ

しら珠の数珠屋町(じゆずやまち)とはいづかたぞ中京(なかぎやう)こえて人に問はまし



▼会津八一〔1881-1956〕

くわんおん の しろき ひたひ に やうらく の かげ うごかして かぜ わたる みゆ

あせたる を ひと は よし とふ びんばくわ の ほとけ の くち は もゆ べき もの を

おほてら の まろき はしら の つきかげ を つち に ふみ つつ もの を こそ おもへ

あめつちに に われ ひとり ゐて たつ ごとき この さびしさ を きみ は ほほゑむ



▼斎藤茂吉〔1882-1953〕

たたかひは上海(しゃんはい)に起り居たりけり鳳仙花紅(あか)く散りゐたりけり 

草づたふ朝の蛍よみじかかるわれのいのちを死なしむなゆめ

暁の薄明に死をおもふことあり除外例なき死といへるもの

ゆふされば大根の葉にふる時雨いたく寂しく降りにけるかも

ガレージへトラックひとつ入らむとす少しためらひ入りて行きたり

ひた走るわが道くらししんしんと堪(こら)へかねたるわが道くらし

赤茄子の腐れてゐたるところより幾程もなき歩みなりけり

めん鶏(どり)ら砂あび居たれひつそりと剃刀研人(かみそりとぎ)は過ぎ行きにけり

最上川逆白波(さかしらなみ)のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも

沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ

このくにの空を飛ぶとき悲しめよ南へむかふ雨夜(あまよ)かりがね

あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり

のど赤き玄鳥(つばくらめ)ふたつ屋梁(はり)にゐて足乳(たらち)ねの母は死にたまふなり

死に近き母に添寝(そひね)のしんしんと遠田(とほた)のかはづ天(てん)に聞(きこ)ゆる

ゴオガンの自画像みればみちのくに山蚕(やまこ)殺ししその日おもほゆ

電信隊浄水池女子大学刑務所射撃場塹壕赤羽の鉄橋隅田川品川湾

ただひとつ惜(を)しみて置きし白桃(しろもも)のゆたけきを吾は食ひをはりけり

最上川の上空(じやうくう)にして残れるはいまだうつくしき虹の断片(だんぺん)



▼前田夕暮〔1883-1951〕

雪の上に春の木の花散り匂ふすがしさにあらむわが死顔は

君ねむるあはれ女の魂のなげいだされしうつくしさかな 

向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ

自然がずんずん体のなかを通過する──山、山、山

木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな



▼北原白秋〔1885-1942〕

ニコライ堂この夜(よ)揺りかへり鳴る鐘の大きあり小さきあり小さきあり大きあり

君と見て一期(いちご)の別れする時もダリヤは紅(あか)しダリヤは紅し

君かへす朝の鋪石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ

春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外(と)の面(も)の草に日の入る夕

草わかば色鉛筆の赤き粉のちるがいとしく寝て削るなり  

大きなる手があらはれて昼深し上から卵をつかみけるかも

病める児はハモニカを吹き夜に入りぬもろこし畑(ばた)の黄なる月の出

ヒヤシンス薄紫に咲きにけりはじめて心顫ひそめし日



▼土岐善麿〔1885-1980〕

はじめより憂欝なる時代に生きたりしかば然かも感ぜずといふ人のわれよりも若き

遺棄死体数百(すうひやく)といひ数千(すうせん)といふいのちをふたつもちしものなし


手の白き労働者こそ哀しけれ。
 国禁の書を
 涙して読めり。 


指をもて遠く辿(たど)れば、水いろの
ヴォルガの河の
 なつかしきかな。


りんてん機、今こそ響け。
うれしくも、
東京版に、雪のふりいづ。


あなたは勝つものとおもつてゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ



▼若山牧水〔1885-1928〕

海底(うなそこ)に眼(め)のなき魚の棲(す)むといふ眼の無き魚の恋しかりけり

かたはらに秋ぐさの花かたるらくほろびしものはなつかしきかな

吾気香(われもかう)すすきかるかや秋くさのさびしききはみ君におくらむ

白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ

白鳥(しらとり)は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

幾山河越えさり行かば寂しさの終(は)てなむ国ぞ今日(けふ)も旅ゆく

かんがへて飲みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ



▼木下利玄〔1886-1925〕

大き波たふれんとしてかたむける躊躇(ためらひ)の間(ま)もひた寄りによる

遠足の小学生徒有頂天に大手ふりふり往来とほる

曼珠沙華一むら燃えて秋陽(あきび)つよしそこ過ぎてゐるしづかなる径(みち)

牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ



▼石川啄木〔1886-1912〕

石をもて追わるるごとく
ふるさとを出でしかなしみ
消ゆる時なし


たはむれに母を背負ひて
そのあまり軽きに泣きて
三歩あゆまず


不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五の心


いたく錆びしピストル出(い)でぬ
砂山の
砂を指もて掘りてありしに


はたらけど
はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり
ぢつと手を見る


東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて
蟹とたはむる


友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買ひ来て
妻としたしむ


やはらかに柳あをめる
北上の岸辺目に見ゆ
泣けとごとくに


ふるさとの訛(なまり)なつかし
停車場の人ごみの中に
そを聴きにゆく


ふるさとの山に向ひて
言ふことなし
ふるさとの山はありがたきかな


やや長きキスを交わして別れ来し
深夜の街の
遠き火事かな


大といふ字を百あまり
砂に書き
死ぬことをやめて帰り来れり



▼古泉千樫〔1886-1927〕

おもてにて遊ぶ子供の声きけば夕かたまけてすずしかるらし

みんなみの嶺岡山の焼くる火のこよひも赤く見えにけるかも



▼吉井勇〔1886-1960〕

君にちかふ阿蘇のけむりの絶ゆるとも万葉集の歌ほろぶとも

夏は来ぬ相模の海の南風(なんぷう)にわが瞳燃ゆわがこころ燃ゆ

かにかくに祇園は恋し寝るときも枕の下を水のながるる



▼釈迢空〔1887-1953〕

人間を深く愛する神ありて もしもの言はゞ、われの如けむ 

人も 馬も 道ゆきつかれ死にゝけり。旅寝かさなるほどのかそけさ

葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり


桜の花ちりぢりにしも
 わかれ行く 遠きひとり
 と 君も なりなむ



▼半田良平〔1887-1945〕

独(ひとり)して堪へてはをれどつはものの親は悲しといはざらめやも



▼原阿佐緒〔1888-1969〕

沢蟹をここだ袂に入れもちて耳によせきく生きのさやぎを

吾がために死なむと云ひし男らのみなながらへぬおもしろきかな



▼中村憲吉〔1889-1934〕

篠懸樹(ぷらたぬす)かげ行く女(こ)らが眼蓋(まなぶた)に血しほいろさし夏さりにけり



▼岡本かの子〔1889-1939〕

はてしなきおもひよりほつと起きあがり栗まんじゆうをひとつ喰(たう)べぬ

桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命(いのち)をかけてわが眺めたり



▼土屋文明〔1890-1990〕

吾が見るは鶴見埋立地の一隅ながらほしいままなり機械力先制は

この三朝(みあさ)あさなあさなをよそほひし睡蓮の花今朝はひらかず

ただひとり吾より貧しき友なりき金のことにて交(まじはり)絶てり

小工場に酸素熔接のひらめき立ち砂町四十町(しじつちやう)夜ならむとす

時代ことなる父と子なれば枯山(かれやま)に腰下ろし向(むか)ふ一つ山脈(やまなみ)に

にんじんは明日蒔けばよし帰らむよ東一華(あづまいちげ)の花も閉ざしぬ

終りなき時に入(い)らむに束(つか)の間(ま)の後前(あとさき)ありや有りてかなしむ

垣山(かきやま)にたなびく冬の霞あり我にことばあり何か嘆かむ



▼吉野秀雄〔1902-1967〕

これやこの一期(いちご)のいのち炎(ほむら)立(だ)ちせよと迫りし吾妹(わぎも)よ吾妹

真命(まいのち)の極みに堪へてししむらを敢てゆだねしわぎも子あはれ



あとがき

ここまでお読みくださりありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。なにかの参考になりましたでしょうか。
書籍ではこのようなことをまとめたものはあるのですが、ネットですぐに読める近代短歌のまとめはこれまでなかったのではないでしょうか。それがこのまとめを作った動機です。

ほかに、現代短歌のまとめも作ってありますので、興味のある方はこちらもどうぞ。


現代短歌の有名作品まとめ 【70人330首】
https://matome.naver.jp/m/odai/2154427789786603501





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現代短歌の有名な作品を読んでみよう!【70人330首】いま若手歌人たちはどんな短歌をつくっているのか【25人72首】