和田康子・天野慶『美しい字で和をいつくしむ万葉集』{そのほかの短歌読む 137} 『あみもの 第二十号』  ~祈りと呼ぼう、ほか

2019年09月28日

《歌集読む 214》相原かろ『浜竹』  ~あなたの椅子になるわけですね、ほか

Fotor_156816647255710







《歌集読む 214》
相原かろ『浜竹』。
2019年6月。青磁社。



吊り革を両手で握りうつむいて祈る姿で祈らずなにも
/相原かろ『浜竹』

→どんな状態なのか、図が浮かんでくる。祈っていないことを強調したことで、虚無がたちあがってくる。神はいないこと、祈る習慣がないこと、救いがないこと。



小便を仲立ちにしていま俺は便器の水とつながっている
/相原かろ『浜竹』

→前の歌では神とつながっていないことを書いたけど、ここでは便器の水とつながっている。なんとも無意味な仲立ちであり、つながりである。笑えるというよりは、発見にビビった。



椅子の背にタオルを一枚かけますとあなたの椅子になるわけですね
/相原かろ『浜竹』

→席をとっておくために私物を置くことがある。
ここでは丁寧語で、確認するように言ってくる。考えないでやっていたことを、見抜かれてしまう。
あるいは、ハンカチをつかった手品みたいだと思った。



サーカスを家族で見たという過去のだんだん作りものめいてくる
/相原かろ『浜竹』



運び去るバスのみいつも見ていたがみのり幼稚園ここにあるのか
/相原かろ『浜竹』

→幼稚園バスは見かけるけど幼稚園がどこにあるかはわからないということがある。
「みのり幼稚園」は実際にありそうな名前だ。あるでしょうこれは。こうした名前を出すと効果がある。



映像で紹介される街の声三人きりなり三人の街
/相原かろ『浜竹』

→テレビやなんかで、街の声だといって街の人が出てきてしゃべるが、だいたい三人くらいなもんだ。この三人が街の代表なんだ、無名で偉くもない三人が代表なんだと考えてみると妙だ。



ふくらみのちょうどよいとこ指が押す枝豆みどりあらわれにけり
/相原かろ『浜竹』 ​



そのむかし赤ペン先生なる人へ将来の夢告げしことあり
/相原かろ『浜竹』

→オレも進研ゼミやってたなあ。「赤ペン先生」っていうと親しみがあるが、実際は何者なのかよくわからない人たちだ。
初句「そのむかし」がいい。そう言っていいくらい古いことだ。



電車から見えて見えなくなる町に中の見えない家々も過ぐ
/相原かろ『浜竹』

→「見えて見えなくなる」に、電車に乗ってるときの感じが出ている。見えたと思うと見えなくなる。
中が見えないのはべつに普通なんだけど、それをわざわざ言いたくなるのはわかる。中が気になるからだ。



連結部のきしむ音とは知りながらあえぎ声かと思ってしまう
/相原かろ『浜竹』

→「あるある」の要素があり、下ネタといえば下ネタだ。
あえぎ声というのは、あるいは連結部のきしみみたいなものなのかもしれない。



電車にて知らない子どもがこねている駄々がいよいよ人語を越える
/相原かろ『浜竹』

→電車の歌がつづく。自分もよく電車で短歌をつくるので、わかる。
「いよいよ人語を越える」が見どころ。ここからは人の言葉ではなく叫びか鳴き声みたいになる。子供のなかには人間じゃないものが住んでいて、本気になると姿をあらわす。



選ばねばドレッシングの三種からウエイトレスの見おろす下に
/相原かろ『浜竹』



玉入れの玉がくたりと地に落ちてとうとうじっと砂まみれなり
/相原かろ『浜竹』

→「くたり」が玉の質感を表現している。
「とうとうじっと砂まみれ」と、なぜか一つの玉を見つめつづけているのだ。



言えた気もしないでわれに使われる「閉塞感」はかわいそうなり
/相原かろ『浜竹』





元旦に遠くのサイレン近づいて来そうだったが来なかった
/相原かろ『浜竹』

→「元旦」に何か意味がありそうで、特にない。サイレンもべつになにもない。結句の字足らず。



クリームがあふれてあわててエクレアをあっけなき間に食べ終わりたり
/相原かろ『浜竹』

→こういうことあるなあ。「あっけなき間に」がいい。



手紙とは違う紙片も入れた気がしてきてポストを振り返りみる
/相原かろ『浜竹』

→振り返ってもわかんないし、わかっても取り出せない。それでも振り返ってしまうものだ。



ほとんどが工藤吉生だつぶやきの相原かろを検索すれば
/相原かろ『浜竹』

→という歌がある。オレを詠んでくださったのだ。
オレの名前を含む短歌はいくつか知っているが、歌集に収録されたものを見るのは初めてのことだ。うれしい。




以上です。この本おわり。



んじゃまた。

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
mk7911 at 10:14│Comments(0)歌集読む 

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
和田康子・天野慶『美しい字で和をいつくしむ万葉集』{そのほかの短歌読む 137} 『あみもの 第二十号』  ~祈りと呼ぼう、ほか