2020年12月04日
《歌集読む240》萩原慎一郎『滑走路』 ~ぼくは大人になってゆくのだ、ほか

歌集読む240
萩原慎一郎『滑走路』角川書店。2017年12月。
オレが持ってるのは2018年3月の二刷。
『滑走路』の萩原慎一郎さんと『世界で一番すばらしい俺』のオレは、投稿をやってた時期が重なっている。
もしかして雑誌の同じページに歌が載ったことはあるのかなーと思って過去の雑誌をめくっていたら、角川短歌の2015年7月号で同じ216ページに短歌が載っていましたよ。
『角川 短歌』の「公募短歌館」という投稿欄でご一緒してました。
沢口芙美選。
特選
針の穴を通った糸はそれまでの糸よりやる気を感じさせるぜ╱工藤吉生
と同じページに
秀逸
あなたへの愛を断念することでぼくは大人になってゆくのだ╱萩原慎一郎
という短歌が掲載されている。これは『滑走路』に収められていない作品。
オレが「ぜ」で仕掛けていって、萩原さんは得意の「のだ」だ。
あなた、愛、断念とAの音が続き、のだ、で再びAに戻る。この「のだ」は断念する強さと響きあっていて、効いているように思う。
あとは同じページに載ったのは見つからなかったんだけど、『短歌研究』の「うたう★クラブ」で一緒に載っていた時期があったのがわかった。
▼
『滑走路』を読む。
辛口のカレーに舌は燃えながら恋するこころこういうものか
╱萩原慎一郎『滑走路』
→から、カレー、恋、こころ、こういう、と活用みたいにならんでいて楽しい。
納得しそうになるけど、そういうものかな? どうかな?
〈青空〉と発音するのが恥ずかしくなってきた二十三歳の僕
╱萩原慎一郎『滑走路』
→帯に俵さんが「ピュア」って書いてるけどほんとにそうで、まぶしいなあと思う歌が多い。それでもこういう感覚はあるんだなと、なんか安心してしまった。
あのときのベストソングがベストスリーくらいになって二十四歳
╱萩原慎一郎『滑走路』
→これも加齢の歌だ。そういう歌に反応してしまうオレは加齢を気にしているんだな。
いい歌を知るのが生きて年を重ねていくってことかな。
まだ結果だせず野にある自販機で買いたるコーラいまにみていろ
╱萩原慎一郎『滑走路』
→「まだ結果だせず」と「いまにみていろ」はなめらかにつながる。間に「野にある自販機で買いたるコーラ」がはさまってくる。ABAの形で、こういう短歌はわりと珍しいかも。
歌作とはこころの森に棲む鳥の声音に耳を澄ますことなり
╱萩原慎一郎『滑走路』
疲れていると手紙に書いてみたけれどぼくは死なずに生きる予定だ
╱萩原慎一郎『滑走路』
→こういう短歌が、この歌集では、連れてきてしまうものがある。
電話ならただの体の疲れともとれるが、手紙に書かれた疲れだ。「疲れている」が「死」につながっている。
曇天にメスを入れたし開きたし暗い未来を取り除かんと
╱萩原慎一郎『滑走路』
われを待つひとが未来にいることを願ってともすひとりの部屋を
╱萩原慎一郎『滑走路』
→未来を詠んだ二首ということでまとめて引いてみた。一つ目、曇天を切り開いて未来を取りだそうとはおもしろい発想。二つ目の部屋の歌は暗く小さな場所での、孤独な願いだ。
職場にてふんわり空に浮かびたき感情を抱くのは当然だ
╱萩原慎一郎『滑走路』
→仕事をサボりたいなっていう歌で、こういう短歌はそんなに多くは見かけないです、意外と。新鮮に感じる。
「当然だ」まで言っちゃうのが面白い。確信が力強い。
「ふんわり空に浮かびたき」まで言って「雲」とは言わないところ。
また挫折かと思いつつ茫然と空を観ているだけの今日です
╱萩原慎一郎『滑走路』
→「です」で終わる歌。
「のだ」「だ」「のだ」「だ」という調子の本を読み進めていったら急に「です」がきて、そこにショックの大きさを見た。
この列はなんの列かと思ったらシュークリームの列だったのだ
╱萩原慎一郎『滑走路』
→「だったのだ」の強さと「シュークリーム」の甘いふわふわの対比でできている。気になる行列、街を歩いていると時々あるなあ。
噴火している山は遠方だけれども他人事とは思えないのだ
╱萩原慎一郎『滑走路』
→遠方がどれくらい遠いかはわからないが、それはさすがに他人事では……。
素直な歌集だと思って読んでいると、時々すごく変なことを言い出すから面白い。素直さに突き抜けたものがあるようだ。
テロに対して反応している歌もあり、報道に敏感な面がある。
そんな感じでこの本おわりです。
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