橘いずみを聴き直す

2011年08月01日

橘いずみを聴き直す★6「TOUGH」 - 『WINDOW』ほか

TOUGH




1997年のアルバム。11曲入り。曲名が全て英語表記になっている。



ジャケット、歌詞カード

ジャケットはバラの花びらが散りばめられたバスタブに腰かけるいずみさん。あらぬ方向を見ている。波紋のある水のような衣装だ。


さらに外側には刺繍みたいな模様のワクがある。キラキラした印象を形づくっている。

歌詞カードの中も模様があり、壁紙みたいな印象を受ける。
アメリカにいるらしい。黄色いタクシーがある。黒人とチェスやってる写真もある。楽しそう。
「WINDOW」のページの写真は体がきれいな三角形になっていて印象的だ。


また、曲名のレタリングが一つ一つ違う字体になっている。
異なる字体に異なる背景。なかなかこだわっている。




楽曲について



1.WINDOW

濁ったギターから始まる、中庸なテンポのけだるくかっこいい曲。

どうやら夜で、主人公は孤独で、癒やしみたいなのを求めてるらしい。

しかしそういう内容はあまり重要ではなさそうだ。ひたすらかっこいい音に身を任せていたくなる楽曲。




2.BROWN

やはりけだるく、ちょっとワルそうなかっこよさを持つ。ヴォーカルがささやくように控えめなのも1曲目から続く傾向だ。

1番。応援してるみたいな詞で始まるが、逆にしんどそうな感じがする。

途中で少し早口になり朝食の描写をする。
「僕からは特別にない」という言い回しが独特だ。学校の先生のお話みたいだと思った。
先は行き止まりで戻れば砂漠、とはどういうことか。八方ふさがりってことか。


2番。さらにしんどそうな詞で始まる。

「ピンチ」と「パンチ」、「ピンチ」と「認否」が韻を踏む。

また早口になり、人生のやり直しを思わせることを言う。
1番だと「行き止まりなんだ」で2番だと「行き止まりだって」になってる。伝聞なのか?

つまり、このまま行くのでもなく、かといって戻るでもなく、新しい道を行こう、ということかな。
時間を持て余す、という部分から失職を連想した。

BROWNとはキリマンジャロの色だ。新しい朝、新しい人生の象徴かな、と考えた。実際の意味はもちろん知らない。




3.RADIO WAVE
相変わらずゆるいテンポだ。ゆるくてかっこいいのがこのアルバムの方向性なのだろう。洋楽の影響があるのかもしれない。


詞を見て「深夜急行」を思い出した。すぐに場面が変わり主役もいないため、全体としては筋がない。1~3行ずつ別の詞をコラージュしてるみたいだ。
それはまるでラジオの周波数をいじりながら聴いてるみたいでもある。ノイズに混じっていろんな放送局から断片が聞こえるわけだ。

「言葉をあやつる知能犯 詩人きどり」
「囚われの部屋までご案内」
がいいな。




4.MOON PALACE

テンポが上がる。内容が汗臭くなる。
がむしゃらに生きて、苦しんだり楽しんだりする内容。

「いいかげんにやってるふりして全力だしてしくじる」のがかわいい。
オレは逆だな。一生懸命さをアピールしながらスキを見ては手抜きする。いいかげんそうなやつが自分よりできてると焦る。




5.BLUE ARCADE

クラリネットが印象的な楽曲。
「きまり」「愛してる」の系列のつらい恋の歌だが、オシャレなアレンジのおかげで重くならず、流して聴ける。

アーケードを歩きながら彼を思っているのだろう。

サビが何かに似てると思ったら「可愛い女」に似てるんだと気づいた。




6.SHOOTING STAR

ハーモニカが印象的。よく見たらタンバリンを叩いてるのもいずみさんだ。
積極的になれと歌い、それから、自分の嘘やごまかしや不安を歌う。

「ミッドナイト」と「みんな」はそっくりだな。見事。




7.SHOELESS JOE

リラックスした楽曲が続いていたが、ここで熱い曲が出てくる。

外人さんの声をふんだんに使って金管で盛り上げる。弦楽器の人数が多いみたいだがあまり聴こえない。

2番の野球の描写が非常に印象的で、この歌といえば野球の歌、というイメージがオレにはある。
九回裏の逆転ホームラン。これは熱い。メジャーリーグを想像しながら聴く。




8.NATASHA

やや短い。テンポが速いがうっすらと悲しい。好きな歌だ。

「ゼッケン5」のように何人かの無関係な人が描写される。
ナターシャやイリーナはロシアの名前だ。ウォッカを出すのも効いてる。

彼らには共通項がある。「ウサギとベルベット」のようにみんな失った過去を考えている。

今回歌詞を読み直していて、「閉めた扉が開かない」の一行が心に響いた。





9.FERRY BOAT

ギターと弦楽が優しい。歌詞カード横のいずみさんもまた優しい。
手紙っぽい。「こぼれおちるもの」で手紙っぽい問いかけの歌詞が出てきたが、こちらはより徹底的に手紙のようになっている。

相手にたくさんのことを訪ねている。それらは相手を気づかう内容になっている。ただの問いかけなのに、優しさにあふれている。
そしてこちらからも近況を伝える。一つ一つは他愛のない内容のようだが、なぜだか心を打つ。

歌い出しで「わたしがいなくなったら」「わたしと別れたなら」と言っている。この2人は手紙をやりとりしてはいるが、思い出は遠くなり色ばかり残り、思わず知らずのうちに距離が広がっていくようだ。そんな別れの予感がこの歌に悲しみをもたらしている。

最後から2行目に「また逢えるかな」と言ってるが、もう逢えない感じだし、できることももはや何もないのではないか。
そういえば「こぼれおちるもの」の最後に「また、逢えるでしょ」という言葉がある。いずみさんが手紙の最後で言いたくなる言葉なのかな。


この曲はアルバムのトリを飾るくらいの器は充分にあるが、これで終わったら悲しいアルバムになりそうだな。
終わらずに引き続き次の曲が始まる。




10.TOUGH

弦楽器のメロディーが美しい。

歌詞の長いメッセージ性の強い曲には激しいものが多いが、この曲はそっとささやきながら言葉を聞き手の心に刻み込む。

最初の「小声で伝えてごらん」がすでに橘いずみの成長を語っている。
ないものをねだったり理屈を振り回す生き方を歌う。「なんぼのもんじゃろかい」という言い回しは特殊だ。

2番では父さん母さんが出てくる。両親の浮気話を聞きたがった「失格」の頃とは違う。苦労話や昔話を聞きたい。


曲調がかわる。ここでは自分の生き方らしきものが語られる。若くて、迷っていて、はかない。そんな描写だ。



続いて、人間や人生を悪くする欲求が歌われる。最後にようやくタフという言葉が出てくる。


人間の強さと弱さ両方が詞にも曲にも込められているように感じる。弱さを受け入れる強さって言えばいいのかな。
一つ一つのことを愚直にやっていくしかないな。




11.NEW YORK NITE

ピアノのみで歌われる。チャーリーという人は他の歌でもピアノを弾いている。
オレの英語力ではおぼろげにしかわからない。

弾んだ感じのオシャレで短い曲だ。

はじめは蛇足に感じていたが、8.9.10.とさびしい深刻な内容の楽曲が続いたし、こういう曲でサラッと終わるのもアリかなと今は思う。





おわりに

3つに分けられる。
はじめはけだるくかっこよく(1~3曲目)、
だんだん汗臭くなったり感情が混じってきて(4~7曲目)、
終盤では失われた過去を真摯に歌う(8~10曲目)。
最後はサラッと全て洗い流す。(11曲目)

「オリオン座」までのような激しいメッセージ性や力強さを期待すると「あれっ」と思ってしまう。が、リラックスした中にかっこよさも深さもあるのがこのアルバムだ。
正直はじめは変化にとまどい「失敗したかも」と思ったけど、聴いてるうちに大好きになっていった。そんなアルバム。




橘いずみを聴き直す
★1「どんなに打ちのめされても」
★2「太陽が見てるから」
★3「こぼれおちるもの」
★4「十字架とコイン」
★5「ごらん、あれがオリオン座だよ」



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2011年07月08日

橘いずみを聴き直す★5「ごらん、あれがオリオン座だよ」 - 『真空パック嬢』ほか

ごらん、あれがオリオン座だよ(Dec.11th,1968)



1996年。11曲入り。シングル「アマリリス」「真空パック嬢」を含む。




歌詞カード、ジャケット

このアルバムタイトルの日付は橘いずみの誕生日を示すものだとたった今確認した。(今まで気にせず聴いてた…)

ジャケットはどこか外国だ。パッと見、どこの国かわからない。赤茶けた地面、青緑色の服のいずみさんがこちらを振り返っている。

この赤茶色と青緑という組み合わせは歌詞カードの中でも見られる。
「十字架とコイン」が赤と黒のアルバムなら、このアルバムは赤と緑のアルバムだ。


歌詞カードの中では憂鬱そうな表情が多い。悲しそうな表情したら魅力的と言われたのか。確かに、あまりはしゃいでたら観光旅行の記念写真みたいになってしまうかもしれないが。




楽曲について




1.Hello,Hello

前奏はなく、いきなり「やあこんにちは」から始まる。この「やあこんにちは」はアルバムを聴いてる人への挨拶でもあるのかな。

最初からすごい量の歌詞だ。歌詞カード1ページにおさまらない。

物語になっていて面白い。

まずは久しぶりに会った友達に挨拶すると、この主人公は火事を見た話をする。きれいだと思って眺めていたのが火事だった。そして助けを求める女を助けられなかった。

友達は特にリアクションしない。
「元気そう」なのに「難しそう」な顔をしている。どうなんだ。
「幽霊みたいな顔」とまで言われている。幽霊みたいな友達と、火事で死んだ女。何かつながりがあるのか?



2番になると急展開を見せる。
なんだかよくわからない悪い奴ら(複数人いるようだ)がやってくる。主人公(一人称が出てこない)はあっち行けと言わんばかりだ。そりゃそうだよな。

しかし奴らはニヤニヤして黙っている。そしてナイフを出してくる。怖すぎる。意味わからなすぎる。

主人公は奴らを満足させ、なんとかして帰ってもらおうとする。「よそへ行ってくれ」だったのが、最後は「仲良くしようよごめんね」に軟化する。
奴らは友達に手を出す。この友達は女性なのか。


「恋に落ちそうなんだ」が最後だけ「だめになりそうなんだ」に変化する。主人公が最後に話を聞いてもらおうとした相手は誰なのか。


この友達はなんにもしない人形みたいなキャラだな。嬉しくなさそうな表情に謎がある。友達も謎だし、奴らも謎だ。


もしかしたらホテルの火事は放火で、こいつらが犯人で、だから目撃者を口封じしたかったのか。
それともこの友達は最初から奴らとグルなのか。

な~んて妄想は膨らむ。

隣の写真をみると治安の悪そうな街だが、海外での見聞がこういう世界観の楽曲を生んだのかな。日本っぽくない内容の歌だよね。




2.深夜急行

深夜のすさんだ感じがよく出ている。激しく混沌としつつも出口のないような暗さと孤独だ。

不審な男が印象的だ。サングラスで襟を立てしかめつらで銀のケースを運ぶ。

「薬の数より多い病気」
「公園に集まる野良犬」
「最後に写真を撮られたのはいつ?」
が特に不吉だな。ごみ捨て場にある新品のハイヒールも気になる。


俳句みたいな短い情景を集めたような歌詞だ。




3.アマリリス
リコーダーの音が出て「アマリリス」の断片を奏する。オレも小学生のころにリコーダーでこれを吹いたと思う。


彼が自虐的な思い出話をする。
男性のセリフが数行つづき、「とあなた笑ってた」でしめる。この手法は「ハムレット」でも見られた。
ハムレットは理屈っぽい男性だったが、こちらはもっと大人の男性だ。

そして、そんなあなたに対する熱烈な気持ちがサビで歌われる。




4.自分

地味な印象の歌。音もメロディーもこれといったものは見られない。

エゴイスティックな生き方をする「君」に対して自分を捨てようと呼びかける。

自分を手放せないのは、愛が自分にしか向かってないのかな。


いずみさんは「人はこう生きるべきだ」というのがあって、そういうのを気にしながら生きてるんだな。




5.ウサギとベルベット

オレの中では名曲。

子供の持つ喪失感を描く。

飼ってもらえなかったウサギ、自由に着れなかったドレス、知らない場所を歩く不安。
それらからは子供が強く感じる負の感情が見えるようだ。
子供の頃に大切にしていたものが、いつの間にかどこにもなくなってることってあるよね。オレも経験ある。それは悲しいことだ。





6.ハヤリスタリ

これ好きだなあ。目につくものをみんな粉砕するような内容だ。ユーモアも豊富で皮肉たっぷりだ。
「スキンケア」が進化した形だ。


最初はテストの点数みたいなことから始まって、キャンペーンガールには内容がないとほのめかす。

次は昔話を引き合いに出しつつ、テレビのおいしい話に根拠はないと歌う。

次に果てのない欲望を歌う。ダイエットしたい、体力もつけたい、おいしいものも食べたい、きれいになりたいし男も抱きたい、でも全部やってたら金がない。

続いて、「寿司食いねぇ」と昔のヒット曲みたいなことを言いつつマスコミやカルチャー教室に矛先を向ける。

そしてここまでの内容が入り乱れてカオスをつくる。「日本全国穴掘り競争」って面白いな。

「電話する」っていうのは何を意味するんだろうな。




7.退屈

後半から急に激しくなる。この歌も歌詞のボリュームはある。

退屈な休日にありそうなことを歌う。

ギターを弾いたりやめたり、ちょっとだけ片付けたり、変な枕を買ったり洗濯したりする。
年功序列みたいなことを言い出すが、別に熱いメッセージになるわけでもない。ファミレスも本屋もつまらない。友達も若さもない。


仕事が嫌いなオレからすると、代わりに休日もらいたい。




8.真空パック嬢

タンバリンに始まってタンバリンに終わる。
音楽的でないコーラスもあり、音として面白い作品だ。

真空パックとは、世間を知らない箱入り娘という意味と、スーパーにいくらでも並んでる値段の貼られた食品のような存在という2つの意味があるのだろう。

大事にされてぬくぬくと育ってきたが、社会に出て現実を知り、そのギャップにあえぐ女性の歌だ。
つらい失恋をしながらも夢は捨てていない。「瞳に星」という表現がいいな。






9.赤鉛筆は葡萄酒の香り


音の面白さという点ではこちらの方が面白い。いろんな擬音が出てくるのも面白い。

イタリアの地名が出てくる。最後にマンドリンが出るのもイタリアっぽい。

歌詞の内容はよくわからない。「あのこ」がいなくなったらしいが、それ以上はわからない。

セリフの部分では真剣な言葉もある。
「ピアノを習いたかったな」に「ウサギとベルベット」の片鱗を見る。

この歌を聴くたびに、一度色鉛筆を灰皿で燃やしてみたいと思うが、実行には至らない。




10.26-Dec.11th,1968

この曲名は口頭ではなんと言ったらいいんだろうな。
誕生日をタイトルにしたということは、これは自分自身ということなのか。

冬のソナタの曲にメロディーが似ている。


冒頭では、街の音をバックにギターだけで1曲目のサビを歌う。

やりたいわけでもない仕事をし、やりとげても達成感は少ない。
自然に素晴らしい自分になるわけじゃないと気づいてしまった。
男との関係でトラウマに近いものを抱えている。

悩んではいるが、明日からも泣かずに頑張ると言う。そこに見えるのは差し込んでくる光ではなく、自分自身の精神力のようだ。

この孤独な主人公はいったい何をよりどころに頑張るというのだろう。本当に頑張れるんだろうか。



部屋を描写する部分があるが、部屋の様子だけでもこの人が悩んでるっぽい感じがする。
冒頭の街の音、特に女性が得意そうに何かしゃべってる声は、この主人公に手の届かない明るい世界の描写のようだ。




11.Dudada

最後はエネルギーのある歌でしめくくる。

Aメロでは何かの例え話が語られる。立場の違う者に対する感情とか、嘘と本当、男と女に関する箴言みたいだ。
しかしそれは否定される。

Bメロでは、溺れる者は藁をもつかむ、急がば回れと言う。

サビでは、悲しまず、ひねくれずに生きろと歌う。



一種の応援歌のようでもある。「GOLD」ではダメダメな人を応援していたが、この歌では理屈に逃げ込んでしまう人に歌っている。




▽おまけ
「アマリリス」のシングルのカップリング曲は「泣きたい」という曲。

歌詞は5行しかないが、セリフが入る。全ての言葉を文字にしたらけっこうな量になると思う。


最初は自己紹介みたいだが、軽い感じだ。自分を偽っているのか。
ハワイに行ったら日焼けして嫌になったと話している。日差しで嫌な思いをした話は「失格」「リフレッシュ・ホリデー」にも見られる。何度も語るってことは、おそらくそういう体験があったのでしょう。

泣きたい、泣きたいと繰り返し歌われる。

間奏では「あなたに代わりはいくらでもいる」「余計なことを考えるな」という主旨のイヤミのセリフが入る。こういう言葉にいじめられて泣きたくなるんだろうなあ。

自分を偽って明るく見せること、存在を否定されるような言葉を言われること。それに耐えられず泣きたい。あなたに会って慰められたい。そういう感じかな。

3分47秒というと短いようだが、久しぶりに聴いたらけっこう聴きごたえあった。



おわりに

相変わらずのエネルギーだ。力強さとたくさんの言葉は保ちつつも、より表現が深まったように感じる。
音による表現も言葉による表現も、どちらも深く広くなっているように思う。かなり好きなアルバムだ。
1.2.5.6.9.が好きだけど、今回聴き直して「真空パック嬢」もいいなと思った。




橘いずみを聴き直す
★1「どんなに打ちのめされても」
★2「太陽が見てるから」
★3「こぼれおちるもの」
★4「十字架とコイン」

 



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2011年06月29日

橘いずみを聴き直す★4「十字架とコイン」 - 『GOLD』ほか

十字架とコイン



1995年。11曲入り。シングル「スパイシー・レッド」「GOLD」を含む。



ジャケット、歌詞カード

無造作な髪、真っ赤な唇。ジャケットからは激しさが伺われる。



歌詞カードは黒と赤が基調となっている。歌詞の長い歌が多いのがわかる。





楽曲について



1.平成

久しぶりに聴いたけど、面白い歌だなあ。

ギターとハーモニカで飄々と始まるが、言葉は必ずしも軽くはない。

自由とか青春とか、いろいろ出てくるが、この楽曲を貫いているのは「幻滅」ではないかと思った。

自由が幸せにしてくれると思った、しかし叶わなかった。

青春に関するところでは珍しく自然描写がある。青春にも幻滅する。

大人になることに憧れた、お金に余裕ある生活に憧れた、しかしそれらも実現するとつまらなくてがっかりした。

そして自分を偽って笑って生きていく。
最後は泣きそうになりながら「また笑う」と繰り返す。


今回の橘いずみも言葉による表現力がすごいぞ、と予感させるキレキレな一曲。



2.SHAN KBANK JAPAN


サウンドは激しいが、歌い方はささやくようだ。
音にはけっこう工夫があり面白い。

金にまつわる欲望を批判するような内容になっている。


コガネムシの歌のメロディーのあとにコガネムシが歌詞に出てくるのがいい。こういう工夫の積み重ねだよな。





3.エナメル・ブラック

どちらかといえば激しい楽曲が続く。

意味をとりづらいが、性的なことを想起させるような部分がいくつか見られる。そういうつもりで読むと何もかもがいやらしい気がしてくるから困る。
隣のページの写真までそういう意味の気がしてくる。




4.スパイシー・レッド

これもいいなあ。激しさはかなり増してきた。

浮気を問い詰めるような内容の歌だ。

「言えない言えない」は私が面と向かって問い詰められないのかとも思ったが、彼が私に答えを言えない、という意味なんだろう。

女のスゴミというか、迫力を感じる楽曲だ。




5.スキンケア
昔はこの曲ばかり繰り返して聴いたこともある、好きな楽曲だ。

速いテンポで、すごい量の言葉をこれでもかこれでもかとぶつけてくる。



表現力の高さを感じる。「フワリと乾かし」とか「沈んでいくより」とか、最後の「あーあ」にもそれがうかがわれる。


似たような楽曲、例えば「ピストル」「ズレテル」に比べたら、歌詞に合わせて歌い方を変えているのがわかる。スピードも歌詞の量も上回っている。ところどころで韻も踏んでいる。


しかし、これは一体何が言いたいんだろう。そこがよくわからない。より良い生き方を目指す女のしたたかさを表現しているのだろうか。

「きれいになったらそれからどうなるの」が痛烈だなあ。
女として求められるものに対してのフラストレーションを一気に爆発させたかのようだ。




6.にらめっこしましょ

ギターで大人しく始まるがすぐに激しくなる。今までのアルバムでは、4曲目か5曲目になるとテンポの遅いおとなしい楽曲を入れていたが、このアルバムでは10曲目までエネルギーが維持される。



かなり抽象的な内容のラブソングだ。「にらめっこ」も何か違うことを意味するのかもしれない。
例えば「にらめっこ」を「キス」とか「抱きしめる」に置き換えたら、途端に平凡でつまらなくなるだろう。ここに「にらめっこ」という言葉を置くところにセンスがある。






7.ウソだよ

タイトルがいきなりネタばらしになってる。

はじめは休日の退屈な様子を歌う。これはわかるなあ。
アルジェリアに旅行した友達の話。アルジェリアはアフリカの北の方にある。友達は旅に幻滅した。
人ごみで人にぶつかった。
ここまでの内容は嘘だと自虐的になる。


なんともまとまりがない。作りかけのものを集めたみたいだ。

引きこもってるくだりは次のアルバムの「退屈」に発展する。
アルジェリアの幻滅はこのアルバムの1.2.曲目に通じる。

人ごみの話は歌にならないような内容だ。世の中には、なかなか歌にならない事柄というのがあるものだ。

ウソをオチにするのは「またかけるから」にも見られた手法だ。




8.ドッグレース・ブルー

盛り上がってていいなあ。LIVEっぽい。ライブ?



相撲の比喩が面白い。
全体的な意味はよくわからないが部分部分がいい。

「疑問と答えふたつでひとつの組み合わせなら 本当の謎を知らない」が好きだな。答えがすぐに出ない、ずっと挑み続けなければならない問いというのもあるのだろう。




9.GOLD

曲名に色のついた楽曲が多いアルバムだが、この曲もそう言えるだろう。

今までありそうでなかった、力強い応援歌。何があっても夢を持って正面からぶつかり強く生きろと歌う。

ダメなやつに向けてのメッセージだが、まるで自分が言われてるみたいだ。





10.かじりかけの林檎

ここでようやくゆったりとした楽曲が登場する。

さまざまな情景が描写されるが、それらはみな輝きを失ってくたびれている。おまけに天気も悪い。

間奏では、歌詞にも出てきた「かすれた口笛」が鳴っている。

最後の「夏の日の夢屑」は何か憧れがこめられているような歌い方だ。くたびれた風景の中に夢の面影を見る。



11.十字架とコイン

個性的でしかも感動的な楽曲。

貧しさに苦しみ、人生の成功を夢見るユキ。
転勤族の父を恨んでグレるカズ。
幼少時の描写がなぜかグッとくる。「紙のこいのぼり」が特にクる。



十字架をもらった「私」とは誰なのか。ユキとは別なのか。


ユキもカズも私も、みんな空を見上げる。人生に接点はなくとも見上げてる空は同じ空だ。
さまざまな人生を見て自分と結びつける手法は「ゼッケン5」の進化した形ととれる。

最後に私は「大きな河のそば」にいるが、これはユキの生まれた場所だ。

ユキとカズは出会って結ばれて、「私」は実は大人になったユキだ、という想像をしたが、これは想像にすぎない。

「あの人」と「私」が出てくるあたりから話がよくわからなくなる。


十字架は愛の象徴で、コインは人間の欲望の象徴なのかな。

聴きおわると達成感がある。みんなが幸せになったと決まったわけではないが、ユキやカズの苦労した人生が報われたような充実感を残して終わる。





おわりに

言葉のエネルギーに加え音のエネルギーも加味された、力強い充実したアルバム。ジャケットの印象通りの内容だ。

「TOUGH」以降は力が抜けて大人になった。もうこういう怒涛のようなアルバムはいずみさんからは出てはこないのだろう。パワーに関してはこのアルバムが頂点と言っていいんじゃないか。






おまけ

「スパイシーレッド」のシングルのカップリング曲「イワン」はいい曲だ。恥をかく体験と、それに負けないでというメッセージが歌われる。



「GOLD」のシングルのカップリング曲は「ONE PAIR」。これはせつない。
姿勢を正して電話でうまくしゃべろうとする彼女。

あまり語られないかもしれないが、橘いずみの恋の歌はかなり悲しい。「愛してる」「ごみ」「きまり」「こぼれおちるもの」、それらの系列に連なる楽曲だ。




橘いずみを聴き直す
★1「どんなに打ちのめされても」
★2「太陽が見てるから」
★3「こぼれおちるもの」




 



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2011年06月27日

橘いずみを聴き直す★3「こぼれおちるもの」 - 『永遠のパズル』ほか

こぼれおちるもの



1994年。「THE SHADOW OF THE MOON」という題もついているが、これは前作「太陽が見てるから(THE SUN IN THE SKY)」との対比だろう。

10曲いり。


ジャケット、歌詞カード

ジャケット。
とにかく空が青い。いずみさんは真っ白い衣装で真っ白な場所にいる。ここはどこだ。どこなんだ。雲の上にでもいるみたいだ。



なんか橘いずみの歌詞カードはめくった最初のページにインパクトがあるようだ。
花を踏んづけているようないないような写真、生首みたいな写真がある。


手から砂がこぼれてるみたいな写真がいくつかある。よく見るとみんな違う。「すくってもすくってもこぼれおちてしまう」に対応してるのか。

中の写真でもいずみさんは一貫して衣装が真っ白い。





楽曲について

1.上海バンドネオン

中国の都会の夜の歌だ。弦楽器のトレモロが気持ちいい。好きな歌だ。

上海の裏と表、醜さと美しさを描く。色っぽいしロマンがある。
韻の踏み方が巧みだ。

ウォー、ルーキンショウシュウファー
ワイトウ、ヨウティア、ハン
という中国語はどんな意味だろう。



上海バンドネオンはシングルになった。その時のカップリング曲「まにあうかもしれない」はアルバムには入っていない。このアルバムのイメージとは違う楽曲かもしれないな。
「まにあうかもしれない」は、がむしゃらで前向きでパワーがある。LIVEの臨場感がある。かなりいい曲だ。




2.DARK ZOO

夜の歌が続く。激しいが暗い歌だ。
自分を閉じ込められ飢えた動物になぞらえている。

孤独、不信、恐怖。解決が見えず、閉塞感がある。




3.永遠のパズル

ドラマの主題歌になり、知名度がある。


人生における理想と現実のギャップを歌う。
このパズルとは正しい生き方、自分が満足できる生き方、理想の生き方とかそういうことだろう。永遠に理想的で完璧な生き方はできない。だからパズルは永遠に解けず、パズルのままでありつづける。



「流した涙の数だけ それだけの喜び 本当に君を救っているかい」
とは何が言いたいんだろう。あなたの涙は無駄な涙だと言いたいのか。
自分の尺度で「わりに合わない」などと言ってられる期間は限られているように思う。喜びがともなわなくとも涙を流しながら頑張らなきゃいけないこともあるんじゃないかと思った。




4.砂場の太平洋

再び夜の歌。夢を見て理想に突っ走り、音楽に慰められ、そして悩む様子が伝わってくる。

「街の灯り消えてゆく中 私を照らす光を探してる」が好きだな。

好きな歌のひとつ。




5.指定席

「バニラ」もそうだったけど、この人は恋愛に罪悪感が伴うのかな。わからなくはないけど、「してはいけないこと」が何か気になる。

憂鬱な歌だ。終盤のエレキなんか、ズタズタに傷ついた心を表現してるみたいだ。聴くシチュエーションによっては落ち込みそう。





6.リフレッシュ・ホリデー

ここまで夜の歌、暗い歌、悩んでる歌が続いていたが、急に馬鹿みたいに明るくなる。明るいけど、みんなで盛り上がれるような歌じゃない。


休日に出かけて楽しいな、みたいな歌だ。しかしよく見ると皮肉っぽい。遊んでる自分に対して軽薄さを強調しているのは一種の自虐か。


シャガールであくびするのが個人的には残念。あれはいいものだ。




7.ズレテル

全編セリフでできている。

おじいちゃんを慰めるような音楽から急に変わるのが面白い。

教訓やことわざみたいなのが並んでいる。かなり理想が高い。こんなにたくさんの理想をこの通り実行できるわけないと思う。それでも、この人は理想通りにできないのを気にしてるらしい。
目標設定が現実とズレテルのだ。



おじいちゃんを慰めているが、これがまさにズレテいる。悩んでる若い者が老人の悩みなど聞いてどうなるものか。人生の先輩が後輩の悩みを聞く方が自然だ。そこにズレがある。




8.アドバイス
悩んでる歌が多かったが、それらの主人公達に捧げるような歌だ。落ち着く。

私が見てるから素直に自分らしく迷わず行きなさい、と歌う。
身近に信頼できる人がいるのは大事だな。




9.ボタン

悪い夢から作った歌だろうか。
冷たい別れが、けだるい雰囲気の中で歌われる。

夢から覚めると一番好きなシャツのボタンがとれてる。不吉だ。いや、もとから取れてたのか?





10.こぼれおちるもの

最初に上海バンドネオンの音型が出てくる。

手紙みたいに相手を気づかう調子でささやかに始まるが、胸が張り裂けそうな、つらい失恋の歌になってゆく。
叶わぬ思いだが、この主人公はあきらめきれない。あなたのことを全部知りたいと願い、答えを探している。

スケールの大きな傑作だ。





おわりに

英語のタイトル通り暗いアルバムだなあ。ジャケットが明るいから、聴いた時によけい暗く感じた。

1.2.4.は夜の歌で、5.9.10.は悲しい恋の歌だ。3.7.では理想の自分になれず悩んでいる。6.の明るさはうさんくさい。8.には救いがある。

5.6.7.9.はどちらかといえば捨て曲かな。

「上海バンドネオン」「砂場の太平洋」が好きだ。




橘いずみを聴き直す
★1「どんなに打ちのめされても」
★2「太陽が見てるから」



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2011年06月24日

橘いずみを聴き直す★2「太陽が見てるから」 - 『バニラ』『サルの歌』ほか

太陽が見てるから



1994年のアルバム。10曲いり。





ジャケット、歌詞カード

オレが初めて買った橘いずみのCDがこれだった。95年に買ったから、もう16年もたつのか。久しぶりに歌詞カードを見た。懐かしい。


ジャケットのいずみさんは自分で自分を抱いているみたいだ。そして静かに目を閉じている。ちょっとピンボケ気味になっている。カメラの特性かもしれない。そのへんの機材のことはわからん。
その左側にはいろんな小さな写真がある。



歌詞カードの中を見る。ハシゴから飛び出すような白黒写真がある。脚立なら足場があるはずだが、それが見られない。
落っこちそうにも見えるが、ガラスを手で押さえてるようにも見える。

ライブやスタジオでの写真もある。
どこか日の照りつける場所でも撮影されている。
前作から比べたらずいぶん歌詞カードがカラフルになり、写真も充実している。




楽曲について



1.1982年の缶コーラ

激しいサウンドはどこか暑い夏を思わせる。うまく説明できないけど、不安な未知の要素を含んだ音に聴こえる。


1982年というのは橘いずみさんにとっての若い青い時代なんだろう。オレよりだいぶ年上なのをあらためて感じる。


1.オシャレだけど機能の劣った車が歌われる。エアコンがきいてるはずなのに「君」は汗をかいている。

2.地下鉄だ。群集の中でのふるまいが歌われる。

3.みんなでコーラを飲んだ時のことが歌われる。
「缶コーラ盗んで」が「盗んだバイク」に、「十三の夏」が「十五の夜」に似てみえる。この部分が尾崎豊へのオマージュだというのは考えすぎだろうか。

4.最後は、他人によく見られようとする気持ちを歌う。


いろんなことが歌われている。バラバラなようだが、よく見るとこれらの情景には共通点がある。

それは
「見栄」とか「見せかけ」だ。

見かけだけの車、見せかけだけの慌て方、苦しみを我慢しての笑い。
さまざまな場面で本来の自分を見失ったり体裁をつくろってしまう。しかし、それは本人が悪いわけではないのだ。




2.可愛い女


セリフのような部分とメロディーのある部分が繰り返しあらわれる。


1.彼と私は会話が成立しない。お互い言葉が届かない。

2.彼の考えが私にはわからない。彼は他の女のことを考えているのだろうか。


この間奏で何か言ってる。聞きとりづらいが、オレにはこう聞こえる。
ねえ、いつの夜もあなたのことばっかり考えてるの/自分でも信じられないくらい/あなたが考えてるより私はあなたのこと愛してるの/だってあなたがいないと生きていけないんだもの/でも、あなたなんて大嫌い
この甘ったるいセリフは彼の思う「可愛い女」の話す言葉なのかなと思った。

3.ここは間奏のセリフを受けてか、かなり分裂した内容だ。束縛されたいと言ったり、その束縛から逃れたいと言ったりする。

最初の部分を振り返って終わる。


女心って本当に難しいな、互いの気持ちを通わせるのは難しいなと思う。




3.ピストル

今までの自分を破壊して、新しい知らない自分になりたいという欲望を歌っているようだ。
そしてピストルというのは破壊をもたらすものの象徴なのだろう。


知らない世界に入りこんだら新しい命をひとつもらう」というのが宗教的で神秘的だ。

小さな穴を埋めてふさいで 大きな穴をまた作り出す」というのはうまい表現だ。ことわざみたいだ。


これだけの長い歌詞を4分半に凝縮してしまうなんて贅沢な一曲だ。





4.ゼッケン5
人間臭い曲。よく知らないが長渕剛とかそのへんに近い音なんだろうか。


1.50代の×2の親父。

2.学校も勤めも続かない少年。

3.夜の仕事をしていて友人のいない女

4.ばあちゃんに会いに行ったこと。

これといった共通項もない。短編集のようにさまざまな人生が映し出される。

「ゼッケン5」というタイトルがオレの中では謎だ。それらしい歌詞は見られない。
白髪男、少年、女、私の4人がゼッケンをつけて人生を走っているとして、5人目はこれを聴いてるあなただ、みたいな意味かと想像した。





5.太陽

このアルバムのタイトルである「The sun in the sky」は「太陽」と「空になりたい」を合体させたんじゃないか。この2曲がこのアルバムの中核なのではないか、と思う。



「太陽」では、どんなにつらくともあなたがいるから生きていける。あなたはどこにいても何をしていてもいい、ただ生きていてほしい。そう歌われる。

ところどころに「あなた」が私から遠い所にいるのがうかがえる。もしかしたら死に瀕しているのか、ともとれる。


これほど深く愛しているのに遠くにいるとは、つらい内容だ。しかし曲は前向きで、一種の行進曲のようですらある。その前向きさがけなげだ。





6.バニラ

かつてはずいぶんラジオで聴いた。「失格」もすごかったが、オレが橘いずみという名前を知ったのはこの歌だ。


怪物が吠えているようなサウンドに迫力のヴォーカル。何回聴いても素晴らしい。


しかし意味を考えたことはあまりなかった。
親に抑圧された子供が激しく反発してる歌のようでもあるが、それが全てではなさそうだ。

恋愛の要素がからんでいる。後腐れのない関係を迫られて「本当にごめんなさい」と断っているようにも見える。

ここでのアイスクリームとかバニラとは何なのだろうか。
恋愛感情をとろけるアイスに例えたと考えた。とろけた恋愛が一晩で乾いて元に戻る。それは都合がよすぎると「私」は言う。


親からの抑圧や叱責の結果、私は恋愛に対しても臆病になった。だから一夜の恋などできない。
そういう内容だと解釈した。




7.ハムレット
これは面白い楽曲だな。
男のセリフは普通に歌われ、女の方は声が二重になって区別されている。

ハムレットとは言うまでもなくシェイクスピアの悲劇だ。あれこれ悩むのがハムレットの特徴とされる。

そう考えて詞を読むと、確かに男は理屈ばかり振り回している悲劇役者みたいに見える。

この男には理想の愛の形があるらしく、そうなっていない現実に批判的だ。「僕」の愛が真実の愛であり、「君」の愛は表面的で君は僕を理解してないと言う。

女は別に反論するわけではなく、彼の身ぶりを描写し「もう言わないで」と言うだけだ。だが何よりも「ハムレット」というタイトルが彼を痛烈に批判している。能書きばっかりたれてんじゃねえ、愛は理屈じゃない、という無言のメッセージのように見えた。




8.ひとでなし

なんと自虐的な歌だろう。

以前は「イマイチな歌。捨て曲」としか思わなかった。今は共感する。
オレは仕事ができないヤツで、なんでこんなこともできないのかと自己嫌悪することがある。自分を責めたくなる。そんな時のオレの心の中を代弁しているかのような歌だ。




9.サルの歌

せつないなあ。わかるなあ。今のほうがしみる。

自分はすごいやつなんだ、人とは違うんだ、というのを見せたくてたまらない・見せずにいることができない時期というのがオレにもあった。思い出すと恥ずかしいような奇妙なことを、かつては自分らしさだと思っていた。

他人を意識しすぎて他人と違うことをすると、逆に自分らしさを見失ってしまう。
他人に受け入れられるには、まず自分が他人を受け入れないといけない。自分の弱さも認めなくてはいけない。


大人になれば自然に身につくことだが、思春期にはそれができず苦しむ現象が起こる。


「あの人」が優しいのが救いだな。この人次第では「私」はグレてしまったり、ぼっち一直線だったかもしれない。




余談になるけど「サルの歌」のシングルのカップリング曲「きまり」はギター中心の悲痛な恋の歌だ。解決できない恋に苦しむ主人公が痛々しい。





10.空になりたい


女であるということが強調される。両親から女らしさを教わったということか。

生きがいのようなもの、大切なものを見つけたら、それのために強く生きる。そのことには男とか女とか性別は関係ない。「たとえ女でも」が「たとえ私でも」に変わったのはそういうことだろう。

両親の言葉を踏まえ、守るべきもののために強く生きる。それが「空になる」ということか。



最後らしい、明るく強い歌だ。





おわりに

名曲ぞろいの非常に充実したアルバム。だけど「可愛い女」や「ひとでなし」は好みが分かれるかも。



オレなんかが橘いずみの詞をどれだけ理解できるんだろう、一体何が書けるんだろう、と思っていたが、けっこう書けるものだ。いろいろ気づけるし、こういうタイプの記事を書くのは楽しい。



橘いずみを聴き直す

★1「どんなに打ちのめされても」
 



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mk7911 at 23:42|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2011年06月22日

橘いずみを聴き直す★1「どんなに打ちのめされても」 - 『失格』ほか

序文

1回目なので少し序文めいたものを書く。

オレが橘いずみを知ったのはラジオから流れる「失格」が最初だったと思う。
当時中学生のオレはラジオばっかり聴いてた。ラジカセでラジオからテープに録ってそれを聴く、そんな生活。

「失格」は衝撃的だったが「バニラ」もとても衝撃的だった。
当時中学生でいろいろ思うところがあったが、しかしそれを言葉にするだけの頭もなかった。そんな時に橘いずみの言葉の洪水に会って感激したわけだ。


CDプレーヤーを入手したのは94年。
95年から97年にかけて橘いずみのアルバムを集めて聴いた。「tough」が最後で、それ以降は知らないが、機会があれば榊いずみになってからのアルバムも聴いてみたい。

ファーストアルバム「君なら大丈夫だよ」は気に入らなくて売ってしまった。それ以外の6枚のアルバムを聴き直し、今ならどう聴こえるか・どう感じるかを書いてみたい。





オレが急にこんなことを思いついたのは、榊いずみさんをTwitterで見つけたことがきっかけだ。まだ音楽活動をしてらっしゃるようで嬉しい限り。
光の速さでフォローしたけど、恐れ多いからリプライ飛ばしたりはしない。

そんなことがあり、懐かしくなって聴き直したいと思ったわけ。


どんなに打ちのめされても



10曲入り。3曲目に失格が入っているのが目をひく。



ジャケット、歌詞カード

ジャケットでは無表情の橘いずみがこちらを見ている。何か悩んでそうな感じがする。枯れた枝に取り巻かれている。紫色だ。一見地味なようで、なかなか個性的なことをしている。



裏側ではいずみさんは荒れ地のようなところを歩いている。




歌詞カードを開くといきなり砂で汚れた顔で笑ってるいずみさんが出てきてビビる。

何がおかしいのか、砂の上で笑い転げてる写真もある。

親しくもないような人からこれだけの表情を引き出すのがカメラマンの仕事だとしたら、カメラマンって偉いよな。



ミュージシャンの名前を見ると、中島みゆきのアルバムで見たことある名前がちらほら見られる。アレンジの星さんは「あした天気になれ」の編曲をやってた。キーボードの中西さん、浦田さん、ベースの美久月さんも名前は知ってる。




楽曲について


ようやく楽曲まできた。
書くまでもないとは思うけど、オレがここに書くのはオレの感じ方であって、アーティスト本人の意図とか、多くのファンの意見とか、そういうものとは必ずしも合致しないところもあるかと思います。


1.打ちのめされて


いい曲だなあ。曲は前向きな感じだけど、歌詞はそうでもない。

2番の最初だけ明るい。1番の生き方と対比されているんだろう。
だから、暗→暗→明→暗→暗、という変わった流れになっている。

サビの部分では挫折を歌う。優しい言葉で余計に打ちのめされる。わかるけど、善意ならば良い方に受け止めてほしいかな。




2.東京発



言葉が多い歌。「失格」から入ったオレは、こういうテンポのいい、言葉のマシンガンみたいな楽曲に特に魅力を感じる。

この歌でも主人公は打ちのめされているが、しかし自分らしく乗り越えている。
そして全てをリセットして新しい一歩を踏み出そうとしている。
青臭くていいね。

今、歌詞カードを見ていて誤解に気づいた。最後の部分、今まで「吠えてばかりいたけれど」だと思っていたら「微笑んでばかりいたけれど」だった。全然意味が違う。
愛想笑いでもしてたってことか? なんか違和感。


冷蔵庫がカラッポ、というのが気になった。淋しくておかしくなるのと関係あるのか。まあ何か食べて落ち着いてください。
冷蔵庫の次は洗濯機も出てくる。1人暮らしなのが強調されている。





3.失格

ここでいよいよ失格が登場。叩きつけられる言葉にマゾのような快感を感じながら聴いてきたけど、一度この歌詞をじっくり読んでみたいと思っていた。


出だしから不吉な感じだ。怪しい夜の都会を思わせる。


ざっくり言ってしまえば、この主人公は薄情で愚痴っぽくて恰好つけたがりで自分が大好きだ。


1番、前半では病人と赤ん坊がベッドにいて、後半では自分がベッドにいる。


まあこれくらいならどこにでもいる機嫌の悪いOLだな、って感じの内容だ。


2番。地名が多いが、あちこちに住むのがステータスだと思っている。
チャカ・カーンは知らないけど、オレだって橘いずみの歌の意味をよくわからずに夢中になったよ。

失格と言われたいのは、つまり開き直りたいんだろう。「そのままでいいんだよ」なんて優しい言葉を聞いたら打ちのめされるんだろう。


こんなふうなキャラになる前を振り返ってから3番。
両親の浮気に寛容なのは、自分が浮気者だからか。愛してない男にも抱かれるわけだから。

他人の不幸に関して問いかけている。「悪いのは自分だけじゃない」と言いたいんだろう。




こういう人って、けっこうどこにでもいると思う。それを失格だと言い放つことによって、むしろ聞き手をドキリとさせる。
いくつかは身に覚えがあるから共感できるし魅力を感じる。この歌を聴いて「なんて悪い女だ」と憤慨する方が珍しいんじゃないかと思う。




4.富良野

女性二人で傷心旅行というわけか。
せっちゃんはさみしい顔をして、飛び込んで死のうと言ったり、誰か(男かな)の悪口を言う。私は勝手にふさいでしまったりもしたが、なんとか明るいことを言ってせっちゃんを慰めようとする。


富良野にはオレも修学旅行で行ったことがある。ラベンダーアイス食べた。紫色なんだよな。
ちょうどこのアルバムが紫色だけど、ラベンダーの紫なのかな、なんて一瞬考えた。




5.愛してる

このアルバムのラブソングは5.6.8.の3曲だけか。

強く愛しているが、彼はそれを知らない。この愛は伝わることがない。
ハスキーな声が悲痛さを際立たせている。せつねえ。




6.またかけるから

まだかなり若いカップルの電話の様子だ。

ひとりで映画を見ててもあなたのことを考えている。
「あなた」に似た主人公がキスしてるから嫉妬でふてくされてるわけだ。空き缶つぶすのかわいい。

キスもまだだし、同じ番組見てるのを喜んでる。初々しい。

悪い夢の話は彼に心配を求めているのか。オレは彼女から「汚れたトイレの夢を繰り返し見る」と言われて「じゃあオレが行って掃除するからね」と言ったことがある。
そういう受容を期待したんだろう。


最後に全部ウソだと話す。そして電話を切る。ウソでした、というオチ。
本当は何してたんだ。
つまりラブシーンの話も夢の話も彼との距離を縮めたくて話したのか。黙ってりゃわかんないのに、ちゃんと話すのが正直だな。




7.オールファイト

青春って感じだな。
バスケ部なのか。バスケでグラウンド使うか? いや、いろんな部活の情景か。

ダメなチームなのが微笑ましい。

オレの時はオールファイトというかけ声は無かったな。もう覚えてないや。



ウーウー、というコーラスがださい曲だなあ。



8.ごみ

「愛してる」に近い内容。悲痛な恋の歌。

サビの部分で紙をクシャクシャするような音がある。これがごみっぽい。

ごみという言葉は出てこないが、私はあなたに拾ってもらう価値もない、というところがごみなんだろう。



9.ジュエル

「ごみ」の対比でこういうタイトルなのかな。
「ボロは着てても」という冒頭が水前寺清子の「いっぽんどっこの唄」みたいだ。


さまざまな矛盾を含んでいる。
地名が出てくるが、「失格」同様に、この人にとっては海外は金持ちの象徴なのだろう。

なにげに深い歌だと思う。難しいなぞなぞを見てるみたいだ。

さまざまな理想や過酷な状態が歌われるが、最後は無邪気になる。
理想と現実のギャップに苦しむより、素直にありのまま生きよう、みたいなことだろうか。



10.がんばれ、なまけもの

いくつか動物が出てくる。

ピンクのフラミンゴは見かけによらず頑張ってる。
なまけものはベソをかいてる。ベンチにいるということは人間を例えているのか。ベンチでなまけてるように見えても、普段は会社に勤めてるのかもしれない。
踊ってるどぶねずみにも忘れてしまいたいつらいことがある。
つまり、みんな頑張ってるんだ、と言いたいのか。

みんな頑張ってるから君もがんばれと歌う。がむしゃらなエネルギーがある歌だ。元気がでる。




おわりに

サウンドに多少の難はあるが名作だ。(まあ全部名作なんだけどさ)

4.5.8.は悲痛で、何度も軽く流すことはできない。7.は青臭さが最初は受け付けなかった。
名作だがヘビーローテーションには適さないアルバムのように思う。





 



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mk7911 at 10:59|PermalinkComments(0)TrackBack(0)