斎藤茂吉

2019年09月17日

仙台文学館で斎藤茂吉展を見て永田和宏さんの講演を聞いた

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仙台文学館の斎藤茂吉展を見た。



茂吉直筆の原稿やハガキを見た。読みづらい字だ。これを当時の人は読んだのかと、こういう展示を見るたびに思う。孫に書いた絵はがきの鯉のぼりがよかった。

「写生道」とばかでかく書いてあった。いつもこのように書くならば読みやすいと思った。

茂吉の使っていたトランクとかカンカン帽とかも展示されていた。読めない古い紙よりは、こういうののほうがおもしろい。

うなぎを食べた日に丸がついた「うなぎカレンダー」があった。



それから永田和宏さんの「茂吉短歌のおもしろさ」の講演を聞いた。10分前に行ったらうしろの席しか空いていない。うっかり背の高い人のうしろに座ってしまって、あまり永田さんが見えなくて、移動したくなったが我慢した。

講演の内容は「蚤、ダニ、鼠の歌」ということで、蚤、ダニ、鼠の歌や関係したエッセイを見ていくものだった。それぞれ年代の偏りがあって、たとえば鼠の歌は『寒雲』『暁紅』に多かったりする。

茂吉に同行した板垣さんという人が茂吉との会話を詳細に記録した本があるんだそう(板垣家子夫『斎藤茂吉随行記』)で、それが読みあげられた。
永田さんの読む東北弁を、会場の年寄りが笑ってたが笑い過ぎだろう。方言が下手な者を方言が上手い者が笑うっていうのは、こっちのほうが田舎者なんだぞと自慢しているわけだ。はずかしい。

蚤を串刺しにして何時間生きるかを観察した茂吉。実相観入。



有島武郎氏なども美女と心中して二つの死体がぶらさがりけり/斎藤茂吉

宋美齢夫人よ汝が閨房の手管と国際の大事とを混同するな/斎藤茂吉


といった歌も紹介された。



蚤が血を吸うポンプの仕組みであるとか、蚤のサーカスであるとかが紹介された。永田さんは蚤のことまでよく調べている。



蚤に苦しめられた茂吉。晩年には、蚤が駆除されていなくなって安心だという歌を作っていて、こういうところにも時代があらわれる。


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2017年09月21日

《歌集読む 107》 斎藤茂吉『つきかげ』  ~欠伸といふは善なりや惡か、ほか

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斎藤茂吉の最後の歌集『つきかげ』の中から歌を紹介していく。



欠伸(あくび)すれば傍にゐる孫眞似す欠伸といふは善なりや惡か/斎藤茂吉『つきかげ』

われの背(せ)にゐるをさな兒が吃逆(しやくり)せり世の賢きもするがごとくに/斎藤茂吉『つきかげ』

→孫のあくび、しゃっくりの歌。あくびやしゃっくりを善悪や賢さに結びつけようとする。



山なかに作歌能力も衰へて七日を居つつ十日を居たり/斎藤茂吉『つきかげ』



思ひではをかしきものか遙かにし過ぎにし人も目のまへにくる/斎藤茂吉『つきかげ』



人富みてゆたかになれる面相を牛馬見なばいかにか見らむ/斎藤茂吉『つきかげ』



わが眉も白くなりたれば地下鐵にひそむ時さへ氣がひけてならず/斎藤茂吉『つきかげ』

→眉が白くなった経験はないが、そういうものなのか。地下鐵に「ひそむ」がいい。



予自身の心臓の音(おん)を聞くごとく冬の泉の湧く音(おん)を聞く/斎藤茂吉『つきかげ』
→「音」にだけ二度ルビがふってある。「おん」という読み方にこだわりがあるのか。思えば自分の心臓の音を聞くときって、聞くことにとても集中している。



さしあたり吾にむかひて傳ふるな性欲(せいよく)に似し情(じやう)の甘美(かんび)を/斎藤茂吉『つきかげ』



不可思議の面(おも)もちをしてわが孫はわが小便するをつくづくと見る/斎藤茂吉『つきかげ』



齒の手入れあらためてせむとおもひたち寝(ね)しかば夢二つばかり見たるかも/斎藤茂吉『つきかげ』



かの夜(よる)に電燈のうへ蔽(おほ)ひたる黒き紙いまだも殘り居りにき/斎藤茂吉『つきかげ』



ひとねむりせし老の身が目をあきて寂しくなりぬ山の夜のあめ/斎藤茂吉『つきかげ』

→年をとると眠りが浅くなると聞く。それとも雨の音で目覚めたのか。
老の身が寂しくなるってことは、若いころの夢でも見たのかと想像した。



硯の中に墨みづのかたまりが老いたる人の憂(うれ)ひのごとし/斎藤茂吉『つきかげ』



ひむがしに茜さす雲たなびきぬ平凡にして欲のなき雲/斎藤茂吉『つきかげ』





以上。
これまでのなかでとくに良いと思った。



これで講談社の日本現代文学全集51「齋藤茂吉集」に入ってる七つの歌集を読み終えた。



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2017年08月12日

《歌集読む 105》 斎藤茂吉『白き山』  ~出で入る息をたのしみて、ほか

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講談社の日本現代文学全集で斎藤茂吉の歌集『白き山』を読んだ。山形の地名が多く出てくる。初句「最上川」が多い。蔵王なども詠まれる。



飛行機の音のきこえし今日の午後われは平凡なる妄想(まうざう)したり/斎藤茂吉『白き山』



かすかなる出で入る息(いき)をたのしみて臥處(ふしど)にけふも暮れむとぞする/斎藤茂吉『白き山』

→自分の呼吸する息をたのしんでいるというのか。身近すぎて気づかないようなところだ。



岩の間にかぐろき海が見えをれば岩をこえたる浪しぶき散る/斎藤茂吉『白き山』
→見える海から、散るしぶきへ。海とは距離のある場所にいるのかと思ってると、海はかんたんに岩を越えてくる。急に海が迫ってきたみたいで、力がある。




にごり酒のみし者らのうたふ聲われの枕をゆるがしきこゆ/斎藤茂吉『白き山』

われひとりきのふのごとく今日もゐてつひに寂しきくれぐれの山/斎藤茂吉『白き山』

少年の心は清く何事もいやいやながら爲(す)ることぞなき/斎藤茂吉『白き山』

あかときの山にむかひてゐる如く大きなるかなやこの諦念(あきらめ)は/斎藤茂吉『白き山』

→晩年の歌集だからか敗戦のことがあってか、さびしい愚痴っぽい歌が目立つ。にごり酒を飲んでうたう仲間に入ることはなく、しかし歌声にゆさぶられている。ものをいやがる少年に清さを感じるのも、自分のなかには山のようなあきらめがあるばかりだからだ。



春彼岸に吾はもちひをあぶりけり餅(もちひ)は見てゐるうちにふくるる

人は餅(もちひ)のみにて生くるものに非ず漢譯聖書はかくもつたへぬ
/斎藤茂吉『白き山』

→となりあって餅の歌がふたつある。餅をあぶっていたら訳された聖書の言葉を思い出したという流れか。おもしろいつながりだ。
「人はパンのみにて~」とは聞いたことあるが、餅に訳されている。餅は主食でもないし、ニュアンスが違うよねえ。
オレは餅が苦手だから、それのみで生きることになったらとても困る。



自動車のはじめて通るよろこびをこの部落びと聲にあげたり/斎藤茂吉『白き山』



馬叱る人のこゑする狭間(はざま)よりなほその奥が紅葉(もみぢ)せりけり/斎藤茂吉『白き山』





以上です。
んじゃまた。



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2017年06月22日

《歌集読む 103》 斎藤茂吉『暁紅』  ~相撲に負くるありさまを見つ、ほか

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斎藤茂吉の歌集『暁紅』を読む。

昭和10年から11年の歌が収録されている。「ぎょうこう」と読むらしい。



一ときに飛びあがりたる鷗らはわれのうしろにまた降りたちぬ/斎藤茂吉『暁紅』




「國技館」という連作がよかった。弱くなった力士を見に来て、負けたのを見て帰る。

斷間(たえま)なく動悸してわれは出羽ヶ嶽の相撲に負くるありさまを見つ
一隊の小學兒童が出羽ヶ嶽に聲援すればわが涙出でて止(と)まらず/斎藤茂吉『暁紅』





まどかなる顔をしながら歌壇にてわれをにくむは誰と誰と誰か/斎藤茂吉『暁紅』



毒殺の新聞記事讀む夫人らは劇(げき)見しごときおもひしたりや/斎藤茂吉『暁紅』



春まだき野べといへどもけふ來れば光みなぎり草そよぐおと/斎藤茂吉『暁紅』

→下の句、なんともすがすがしくてよい。



うつくしきをとめの顔がわが顔の十數倍(じふすうばい)になりて映りぬ/斎藤茂吉『暁紅』
→映画のスクリーンだろうか。
自分の顔の大きさと画面のなかの顔の大きさを比較するなんて、ありそうでない。画面越しにものを見ることに慣れてないんだろうな。十数倍という数字が真面目だ。ほんとに大きさを比べてるんだなと思う数字。



現身(うつせみ)と思ほえぬまで心やすし石かげに來てわれは居たれば/斎藤茂吉『暁紅』



幾臺もトラツクにてわが隣地(となりち)に砂利(ざり)を運ぶを氣にすることあり/斎藤茂吉『暁紅』

→「氣にすることあり」って。そんな結句があってもよかったんだ。



木曾谷に入日あたりてしづかなる心になりぬ奈可(いか)に保たむ/斎藤茂吉『暁紅』



赤き實はすき透りつつ落ちむとす雪ふるまへの山中(やまなか)にして/斎藤茂吉『暁紅』

→「雪ふるまへの」で、降ってないけど雪の白いイメージがわいてくる。透きとおりつつある赤と響きあう。



口籠(くつこ)して馬はいななくこともなし馬いななかばこゑ傳はらむ/斎藤茂吉『暁紅』



阿部定(あべさだ)が切り取りしものの調書をば見得べきもなき常の市民われは/斎藤茂吉『暁紅』





この歌集おわり。
講談社の「日本現代文学全集51 齋藤茂吉集」というのを見て歌を引いた。この本には歌集七冊が全篇収録されている。『暁紅』は五つ目で、あとは『白き山』『つきかげ』を残すのみとなった。



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2017年05月29日

山形に行って歌会してきましたよ

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第2回山形歌会に参加するために観光を兼ねて山形に行った。


まず歌会のことをさらっと書く。

オレの記憶が正しければ一昨年の夏以来の歌会だった。いいものだ。いろんな人がいて、いろんな読みがあって。閉塞感が開放感になった。







最近のオレはやや停滞気味であった。
短歌が以前ほど熱中できなくなってきて、総合誌をあんまり買わなくなった。歌ができなくて投稿を減らした。短歌雑誌をそっちのけにして「枕草子」「方丈記」「徒然草」を読んだりしていた(といってもこれらの作者も短歌と関わりのある人物であるが)。


歌会に行くと刺激を受けることが多いので、それをアテにしていたところもあった。そして、期待したとおりの新鮮な気持ちを得ることができた。







いろんな歌を読むことは普段からやっているが、歌会の刺激はそれともまた違った刺激だ。
生身の人間から得られる情報量というものがある。身振り手振りもそうだし、口調もそうだ。
歌会とは生身の歌人を見る機会だ。歌にとりくむ歌人を見られるライブだ。
ひとつひとつの歌の読みでは、一人ではとても気づかないような見方を知ることができる。
好きな歌について、それがどれだけどのように好きかを語る言葉をそばで聞くのは、興味深いし心に響いてくる。短歌への感動ってこういうものだったなと思い出すこともあるし、あらたに知ることもある。

といっても自分は客じゃないから緊張感をもって場にのぞむ。
いつもそうなるように恥をかいてしまったけども、自分の言えることは言ったので満足だ。

歌会に出ると、歌人としての自分がちょっとだけ更新されるような気がする。




歌会は怖いとか怖くないとか言われる。オレは歌会を怖いと思っている。まわりの人たちが優しくても、やっぱり歌会はこわい。べつに特定の人が怖いのではないんだよ。
こわいのは、自分の読めなさや無知があらわになるから。昨日もやっぱり怖さの原因に直面して恥をかいた。

でも怖さだけじゃないから、歌を読むこと読まれることの面白さを感じるから、また行きたいと思う。

歌会を怖いという人に「こわくないよ」とは言わないよオレは。だって、オレもこわいもん。「こわいけどそれ以上に楽しいよ」とは言える。



歌会でいろんなお菓子や製作物をもらって、ああ、こういう慣習もあったなと思い出した。全く頭になかった。
あまってるフリーペーパーがあるのに持っていかなかった。







旅行のこと。

山形に行くのはたぶん三度目。歌会で行くのは二度目。
仙台から高速バスに乗った。片道930円で二回券だと1650円。一時間で着く。
そこから奥羽本線で米沢行きに乗った。200円。広告がまばらに貼られていた。仙台市営地下鉄のビッシリ広告が貼られた状態を見慣れていると「まばらだ……」と思う。10分くらいですぐ茂吉記念館前につく。

茂吉記念館のまわりはひらけていなくて、緑だらけでコンビニもない。


そこで昼飯を食いたくなって、蕎麦屋まで5分くらい歩いて行って肉そば800円を食べた。

2011年の旅行雑誌がテーブルに置いてあった。今は2017年なんだけど。
中島みゆきの「パラダイス・カフェ」という歌の
「'60年のカレンダーがいまもここでは使われてる」という歌詞を思い出した。

サインが飾られてるけど誰のかわからなかった。サインってみんな読めないけど、サインとはなんだろうな。もらった人がわかればいいもの、なのかもな。

日曜の昼12時なのに誰も客がいなかった。



茂吉記念館には早めに行ったが、些細なトラブルもあって展示を見ることはできなかった。またいずれ。

茂吉の歌集の文庫版のものが売られていた。秋葉四郎さんや佐藤佐太郎歌集もあった。
また、北杜夫や斎藤茂太の本がたくさんあった。


環翠亭というところで歌会をしたのだが、電気もない古い小さい建物で、おもむきがあった。





山奥といった感じの場所で、自然がいっぱいだった。こういう場所もいいものだ。

帰りの電車では、乗る前に証明書を発行して、車内で車掌さんに運賃と証明書をわたして切符(といってもペラペラのオレンジ色の紙)を受け取って、それを帰りの駅で駅員に渡すという乗りかたをした。それが自動改札と併用されていた。
乗り物の乗りかたが違うことも、遠くへ来たんだぞという気持ちにさせる。




山形土産で、家族に「お米パイ」をあげた。



そんな感じでした。




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2017年05月01日

《歌集読む 94》 斎藤茂吉『白桃』  ~するどき山の見ゆることあり、ほか

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斎藤茂吉の歌集『白桃』を読んだ。
昭和八年、九年の歌が収録されている。



丸ビルにむかひてあゆむ朝の群衆(ぐんじゅう)を見るゆとりあり春日(はるび)になりぬ/斎藤茂吉『白桃』



この日ごろ日脚のびしとおもふさへ心にぞ沁む老に入るなり/斎藤茂吉『白桃』

→このころには「老」ということばが出てくるようになる。年をとると感動するポイントが変わるという経験ならあるけど、そこまでになるとは。



海にそひて汽車は走ればある時にするどき山の見ゆることあり/斎藤茂吉『白桃』
→たいらな海と、それに沿う汽車。そこへくる「するどき山」のコントラスト。



川上よりたぎち來りて川下(かはしも)に流るる見ればさびしきろかも/斎藤茂吉『白桃』



砂の中に蟲ひそむごとこのひと夜山中(やまなか)に來てわれは眠りぬ/斎藤茂吉『白桃』




M君は目前(もくぜん)にたつ山々を黒きかたまりに描きつつあり/斎藤茂吉『白桃』

→山は黒いかたまりじゃないが、そのようにうつしとられている。絵を描くというのは不思議な行為だと思う。



向うには雪ふぶきする墓地が見え葬禮ひとつ微かに行けり/斎藤茂吉『白桃』



犬いで來(き)人いで來(こ)しと思ふばかりに川の對岸に雉子(きじ)は打たれぬ/斎藤茂吉『白桃』



伊豆の海ほびこりたりし冬雲は片寄りにつつ夕映えにけり/斎藤茂吉『白桃』

→「片寄りにつつ」がいい。雲が動いていて時間が流れている。美しいと思う。



大股に歩ける人のうしろより吾歩みゐていや離れゆく/斎藤茂吉『白桃』




以上。
んじゃまた。


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2017年03月24日

《歌集読む 88》 斎藤茂吉『ともしび』

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歌集。斎藤茂吉『ともしび』。

火事の後からはじまる歌集だ。大正十四年から昭和三年。


Thanatos(タナトス) といふ文字見つけむと今日一日(ひとひ)焼けただれたる書(ふみ)をいぢれり/斎藤茂吉『ともしび』



戀にこがれて死なむとすらむをとめごもここの通(とほり)に居(を)るにやあらむ/斎藤茂吉『ともしび』



柱時計ここに焼けけむ齒ぐるまの錆(さ)び果て居るを蹴(け)とばしにけり/斎藤茂吉『ともしび』



たまきはる命をはりし後世(のちのよ)に砂に生れて我は居るべし/斎藤茂吉『ともしび』

さっきも砂と命の歌があった。砂に親しみがあるのか。



をさなごは吾が病み臥せる枕べの蜜柑を持ちて逃げ行かむとす/斎藤茂吉『ともしび』



ならび立つ墓石(はかいし)のひまにマリガレツといふ少女(をとめ)の墓も心ひきたり/斎藤茂吉『ともしび』

今なら「マーガレット」ってところか。青山墓地の歌。



よるふけし街の十字にしたたかに吐きたるものの氷りけるかも/斎藤茂吉『ともしび』



をさなごは「なるほど」という言おぼえて朝な夕なにしきりに使ふ/斎藤茂吉『ともしび』



味噌汁に笹竹の子を入れたるをあな珍(めづ)らあな難有(ありがた)と云ひつつ居たり/斎藤茂吉『ともしび』



朝がれひ旨(うま)らに食へど足いたし諸足いたしかがみがたしも/斎藤茂吉『ともしび』

茂吉と食べ物。ありがたく食べたりおいしく食べたりしている。ミカンは持ち去られている。
さっきの蜜柑の歌は「逃げ行かむとす」だった。茂吉から無事逃げきれたんだろうか。



人だかりの後(うし)ろよりわれのびあがり正岡子規が遺物見にけり/斎藤茂吉『ともしび』




あんまりコメントせずに好きな歌を引いてみた。



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「やめたい」と書きたい|mk7911|note(ノート)https://note.mu/mk7911/n/na34b71807522

抜け出したいという話|mk7911|note(ノート)https://note.mu/mk7911/n/n3e29a2c9d9c3

成人病予防健診に行って、最悪だった話|mk7911|note(ノート)https://note.mu/mk7911/n/n825cec319cde

2017年2月の工藤吉生の短歌すべて見せます|mk7911|note(ノート)

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2017年01月31日

{短歌の本読む 97} 斎藤茂吉『アララギ二十五年史』

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斎藤茂吉全集二十一巻の『アララギ二十五年史』っていうのを読んだ。文庫本にして200ページくらいの長さ。昭和7年に書かれた。

画像は表紙。箱から出した状態。まったくなにも書かれていない。



この本にはだいたいの流れがある。一年ごとに主な出来事、掲載された文章、主な会員の歌が数首ずつ引いてある。

出来事は、結社を長くやってれば起こりうるようなことが書いてある。発行所がどこになったとか、誰が加わっ たとか亡くなったとか誰の著書が出たとか。それより作品の抜粋が多い。



朝山にあさゑをあさり夕山(ゆふやま)に夕餌(ゆふゑ)をひろふ雀の子あはれ/岡千里


さみどりの若草山(わかくさやま)の夕影(ゆうかげ)に羊追ふ兒やあぶら繪の中/赤木格堂

→結句で絵になる。それまでに読んできたものが絵に閉じられてかたまって、ちょっと驚いた。


高原の夕日落ちたる遠空に静かにうごく雲の寂しも/田川の里人
「柿乃村人」のほかに、「田川の里人」とか「芋の花人」という人の名前を見つけた。竹の里人にならったのだろう。


おとろへし蠅の一つが力なく障子に這ひて日は静なり/伊藤左千夫


弱ければ人に甘(あま)ゆるわがこころ今宵もあはれ息づけるらし/中村憲吉


生垣をくぐりていゆく孕み猫土に腹すりくぐりけるかも/平福百穂


停車場に牛乳(ぎうにう)を賣るなりはひの女(をんな)もあらず聖(せい)の日なれば/石原純


雪の上に夜の雨ひたにふりそそぎいのち亂るる春きたるらし/古泉千樫

→雪に雨が降ればたしかに乱れた感じになるが、それがもっと広い意味の「いのち亂るる」を導いているのだろう。


大正六年、「茂吉・憲吉怠け、憲吉には作歌が最も少い」とある。赤彦が彼らに対して
アララギは出さねばならず茂吉千樫憲吉もしか思ひてあらむ
と詠んだというエピソードなどが書いてある。茂吉と憲吉の歌のやりとりもある。誌上で会員同士が歌でやりとりしている。


むらぎもの心はりつめしましくは幻覺(げんかく)をもつ男に對(たい)す/斎藤茂吉


死にたれどまぶたつぶらぬ黒馬は臺車に積まれ運ばれゆけり/山口好



アララギに載った文章のタイトルが書いてあるんだけど、海外文学についての文章や、哲学関係が目をひいた。詩も載ったりしていたようだ。いまの結社誌ではあまり見かけない。



大正九年。赤彦の消息文の抜粋がある。
『自己成長の工夫疎かなる時、放言多く冗辯賑ひ申すべく候』
茂吉によれば、抜粋した歌にアララギの歌の二十五年の変化があらわれているのだそうだが、オレにはよくわからなかった。
終わります。







どこへ向かって表現するべきなのか|mk7911|note(ノート)https://note.mu/mk7911/n/n4fcb83c1b017
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2017年01月23日

《歌集読む 82》 斎藤茂吉『赤光』再び  ~もみぢ葉の夢、ほか

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講談社の『日本現代文学全集51 齋藤茂吉集』というのを毎日少しずつ読んでいる。一冊に歌集七冊分と随筆などが入っている。
画像は表紙で、味もそっけもないが、実際にこういう表紙なのでこのようにした。


『赤光』を読み返したら前のときとだいぶ違う歌に丸がついたからこの機会に記しておく。
前に読んだときというのは岩波文庫だった。気がついたら二回とも編年体のほうだった。うむ。



前回読んだときの記録はこれ。2014年6月。
斎藤茂吉『赤光』(岩波文庫)を読む  ~弟は無常を感じたるなり、ほか : ▼存在しない何かへの憧れ
http://blog.livedoor.jp/mk7911/archives/52100294.html



この講談社のほうは1ページで28首、見開きで55首くらいが載っている。慣れると窮屈ではない。連作を一望しやすいとも言える。



ひむがしのともしび二つこの宵も相寄らなくてふけわたるかな/斎藤茂吉『赤光』


湯のやどのよるのねむりはもみぢ葉の夢など見つつねむりけるかも/斎藤茂吉『赤光』

→ゆ、や、よ、と続いて柔らかく眠りに落ちてゆく。葉が湯の上に舞い降りるようなイメージをもったが、さてどんな夢だろう。後半はMの音が多いが、これが眠りの中なのか。



かうべ垂れ我がゆく道にぽたりぽたりと橡(とち)の木の實は落ちにけらずや/斎藤茂吉『赤光』

銃丸(じゆうぐわん)を土より堀りてよろこべるわらべの側(そば)を行き過(よ)ぎりけり/斎藤茂吉『赤光』

黒土に足駄の跡のつづけるを墓のほそみちにかへり見にけり/斎藤茂吉『赤光』

→なにか見て通り過ぎる歌。
「銃丸」や「墓」が暗示的だ。橡の木の實の歌は「ぽたりぽたり」のほうに力を感じた。
一応検索してみたら「銃丸」は銃弾で「足駄」は下駄のことで、特に気をつけることはなかった。



杵(きね)あまた竝(なら)べばかなし一様(いちやう)につぼの白米(しろごめ)に落ちにけるかも/斎藤茂吉『赤光』
→それを言うんだったら杵を落とされる白米のほうを悲しむこともできるし、つぼの方を悲しむことだってできる。
「読み解く」ような読み方をすれば、力を奮っているように見えても操られる側にあるのが杵だ。



『赤光』を再び読んだということは「死にたまふ母」を読み直したわけだけども、母が亡くなって終わりではなくて、その後しばらく続いていることに目がいった。「たらの芽」など山菜をとったり「湯どころ」の湯に入ったりしている。終盤に「山」の字がたくさんある。

その前のほうに「黄涙餘録」という連作? がある。連作に「?」をつけたくなるのは、サブタイトルみたいに小さく書いてあるから。
「自殺せし狂者」について詠まれるが、そのあと「人のいのちをおそれて」動物園に行っている。有名な「鶴のあたま」の歌がある。

わが目より涙流れて居たりけり鶴の頭は悲しきものを/斎藤茂吉『赤光』

人が亡くなった歌のあとに動物園へ行ったり山菜とりに行った歌が置かれていて、場面が二つ用意されている。誰かが亡くなっても自分の生はつづいてゆく。

山や動物園に場面が切り替わっても死の悲しみは続いていて、動物も山も悲しみに染まってゆく。
おひろも左千夫も亡くなっているし、そうして見ると死の悲しみの大きい歌集だ。

『赤光』おわり。







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mk7911 at 11:03|PermalinkComments(0)

2016年12月07日

~歌書読む 51~ 北杜夫『壮年茂吉』

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壮年茂吉 「つゆじも」~「ともしび」時代 北杜夫著
岩波書店 1800円

「青年茂吉」につづく本。このあと「茂吉彷徨」「晩年茂吉」と続く。


Ⅰ章
谷底を日は照らしたり谷そこにふかき落葉の朽ちし色はや/斎藤茂吉『つゆじも』


みちのくの春の光はすがしくてこの山かげにみづの音する/斎藤茂吉『つゆじも』


空(そら)のはてながき余光(よくわう)をたもちつつ今日(けふ)よりは日がアフリカに落つ/斎藤茂吉『つゆじも』





大きなる都会(とくわい)のなかにたどりつきわれ平凡(へいぼん)に盗難(たうなん)にあふ/斎藤茂吉『つゆじも』

という歌がある。
以前「短歌ヴァーサス」の6号で
最先端情報集まるこの街にわれ平凡に掏模に会ひたり/香川ヒサ「共感」
という歌を見たが、茂吉の本歌どりだったのか。


シンガポールで街娼を買って路上でしようとしたエピソードも印象的。



Ⅱ章

「むかしは線香をともさて、それがとぼりきる前に何首作ったかを競ったものだ。それが根岸短歌会の伝統だった」と茂吉は言ったという。速詠もできる茂吉。




Ⅲ章

ミユンヘンの夜寒(よさむ)となりぬあるよひに味噌汁(みそしる)の夢見てゐきわれは/斎藤茂吉『遍歴』



斎藤家には「株をやってはならぬ」「ダンスをしてはならぬ」という家訓があるという。誰かがやって失敗したことが家訓になるのがおもしろい。




Ⅳ章

漱石はカルタ遊びで子供に取らせて喜ばせたが、茂吉は容赦しなかったという話。茂吉らしさがある。


かすかなるものにもあるかうつせみの我が足元(あしもと)に痰(たん)なむる蟲/斎藤茂吉『ともしび』



茂吉が芥川龍之介に薬を処方していたエピソード。
手紙に「薬は高きものと思召にならざれば利かぬものに候」とある。
芥川の自殺に茂吉は心を痛めた。



『壮年茂吉』おわり。


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mk7911 at 21:23|PermalinkComments(0)