歌集

2019年10月20日

あとがき  ◆工藤吉生ブログ歌集

これでブログ10周年企画「工藤吉生ブログ歌集」300首を終わる。まえがきとあとがきを入れれば13日の連続更新をおこなった。

これまで発表してきたものがバラバラになっているので今回一ヶ所にまとめた。その際、直したいところを直した。




受賞すると歌集が出版できるという現代短歌社賞や笹井宏之賞に応募しているが、縁がない。
紙の質やサイズやなにかにこだわらなければ安く本を出せるとも聞く。そうしないのはオレの意欲の不足による。投稿するくらいの意欲とネットに発表するくらいの意欲はあるが、それ以上のものはないというわけだ。
紙や書籍へのこだわりがないからこのようにネットに横書きに発表した。


この歌集にはタイトルがない。現状短歌社賞や笹井宏之賞に出したときには「ぬらっ」というタイトルがあった。
今回は、オレがブログにつくった歌集だから「工藤吉生ブログ歌集」とした。



オレが早く死んだら誰かがこの300首を遺歌集としてまとめて出版してくれてそれがたくさんの人に読まれたらいいなと思う。死んだあとのことなんか言ってもしょうがないんだが、頭を離れないことなのでここに書いてみた。



今回ここに作品をまとめたことで、これからあらたな気持ちで短歌をやっていければ自分のために良いと思う。


これを読んだあなたが面白いと思ってくれたら、オレはうれしい。



2019.10.21
工藤吉生


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校舎・飛び降り(50首)  ◆工藤吉生ブログ歌集<11>

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校舎・飛び降り




高校の四階建ての校舎から雪が溶け去りチャイム降り出す



マンドリン、マンドラ、マンドラセロ、ギター、コントラバスのわが音楽部



コントラバス略してコンバス体格がオレよりもいいオレの楽器だ



女子五人、男子三人ほそほそと集まり楽器つるつると弾く



同級生部員のあなたがあまやかに息をはじめるこの胸の中



噂には聞いていたけどどうしよう戻れなくなりそうな吊り橋



「こんにちは」「さようなら」しか話せないつづきは心の中だけで言う



いちじくを二つに割った形状のマンドリンはあなたに抱かれて



妬ましい奴だあなたのその指に押さえられつつはじかれる弦



コンバスの弦をフォルテではじいても口ごもってるみたいな響き



こんにちは 今の「こんにちは」を見たか聞いたか今夜はこれで眠れる



青い春 恋がこころに満ち満ちて好きでたまらぬたまらず好きだ



十七のオレの想いがつづられたルーズリーフの四枚四ツ折



ラブレター手渡すときの渾身のオレのことばのどもりうわずり



封筒を受け取るあなたがほほえんだかに見えたのを手ごたえと呼ぶ



これほどにオレはあなたを思ってるならばあなたはオレをどれほど



二週間返事を待って待ちきれずまちぶせをした朝の廊下に



目が合ったあなたは去った軽蔑に致死量があることがわかった



耐えられないすべて消したい恥ずかしい永久にどこにもいたくない



『ウェルテル』が自分のために書かれたと感じた 壁に黒い靴跡



透明なナイフを自分の胸に刺す、抜く、刺す、もっとだ、もうゆるさない



とぶために四階に来てはつなつの明るいベランダに靴を脱ぐ



目を閉じて頭を下にして落ちた六十九キログラムの自分



空白は一時間弱 三階で守衛はオレを見つけたという



守衛の見たオレは涙を流しつつ廊下を歩いていたのだという



保健室のホワイトボードの落書きを見ていた心とりもどすまで



有耶無耶の曖昧模糊をただよってなつかしいなあこの世のからだ



病院に向かう車に押し黙る教師父親母親じぶん



アゴなどを数箇所強打した以外なにも変わらぬオレの現世



二日間休み再び学校へ行って自分の位置に着席



教室の机にひじをついている死ぬことだけを考えている



遠くからあなたを見れば惨めさがびっしり生えた自分と思う



部活には行かなくなったオレがドアを開けると笑い声が止むんだ



あの森は昼も真っ暗なんだよという声がしたほうに振り向く



ヘ音記号みたいにオレの魂はどこにも行けない形で黒い



灰色に曇る五月が六月にうつって雨が降り出してきた



六月の雨をあなたが駆け抜けてバスに乗るのを校舎から見た



さしだせばどうなったかと思いつつ自分のためにさす傘の紺



ぶざまブザマ無様がオレのためだけの言葉になるまで降れ笑い声



忘れずにいてもらうため死にたいとマジで思うし理解されたい



すれちがう時は互いが影になる 外にファイトのかけ声やまず



なげやりになってしまったオレの持つ槍のひとつに白い答案



ここまでの話を聞いた先生の返す言葉にうなずく午後は



教頭が「そんな話は古い」と言う珍しい茶を碗に注いで



心臓が、ひどく重くて、痛いです、どうして生きて、られるんです、か



苦しんでいるのはあなたのほうだろう変なおとこにつきまとわれて



夏までに秋までに死ぬ卒業をするまでに死ぬ死ぬまでに死ぬ



音楽部の演奏会の客席のオレにあなたの音がとどいた



コンバスはオレじゃなくてもできるという当然を知る生きながら知る



それからはもうそれっきり高校に夏秋冬がきて雪つもる






※出典
『短歌研究』2018年8月号に一部掲載
中城ふみ子賞 次席






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2019年10月19日

バラバラ事件(19首)  ◆工藤吉生ブログ歌集<10>

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バラバラ事件    



【あ】


遊んでる声か部活をやっている声かあるいはぜんぶ気のせい




【か】


科学館まで来て自動車運転のゲームの席を奪い合うなよ



公園がとても大きいからだろうサンタクロースの格好もいて



この像もだいぶ太っていることを言い訳にできればするんだが




【さ】


避けられているのだとして大人しく避けられているよりほかにない



自分にはなんにもないと言いながらチラッチラッと見てくる人だ



照明の加減でオレの実体を上回り大きい影あたま




【た】


ちんちんが二つあったら楽しいとケンくんは言い、オレは反対



トロいとは言われなくなり考えていたいろいろがなくなりました




【な】


ナメンナヨブットバスゾと言っているみたいに鼻をすすってもだめ



眠ってるときだけオレはくだらない穢れた奴じゃなくなるみたい




【は】


背後からカッ飛んでくるエンジンも歩道にいれば他人事なので



はじめてのハンドクリーム塗っている女の子の手かなりネリネリ



母の言うバラバラ事件はあちこちに出したおもちゃを放置すること




【ま】


目を閉じて昼の電車にいるときは徐々にチラチラしてここが駅



面接のときに来たことある道を強く迂回し病院へ行く




【や】


「夢」の字がうまく書けない四とタのあいだに伸びる棒が長くて



四十になろうというのに若者に向けた批判を身構えて聞く




【わ】


われながら百点と思う作品を八十と言い五十五と言う





※出典
『短歌研究』2019年7月号
(一部変更)


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2019年10月18日

おもらしクン(7首)  ◆工藤吉生ブログ歌集<9>

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おもらしクン




桃太郎のほんとの親を考えて特に結論なく目を覚ます



鬼とヒト二つに分かれ遊ぶとき怖くて選べなかったよ ヒト



あくびしてちょっと漏れてる声だもの耳ある者よ聞かなくてよし



これはもうタマランですなという顔が真顔とわかり手から落とした



目の前を歩く小さなおじさんの口笛のせいでむなしいと知る



投げやりな気分だったがパトカーとすれ違うときややふくらんだ



早く早くとドアを叩いてそののちに漏らして泣いた夜を忘れず




※出典
2019.1/9 朝日新聞「あるきだす言葉たち」
(一部変更)

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2019年10月17日

人狼・ぼくは(30首)  ◆工藤吉生ブログ歌集<8章>

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人狼・ぼくは




作文をいつも「ぼくは、」で書き始める素直なオレはどっか行ったよ



いいことはなんもないけどももいろの花をながめてだましだましだ



信号を待ってるあいだ灰色の壁を見つめる 透けりゃいいじゃん



力こめ丸めた紙が(ゆるせないことだが)元に戻ろうとした



ガムテープ貼られた郵便受けのこと思い出してる橋の中央



なぜオレをブロックするかわからない。わからないのが原因だろう



マーガリンの違いだったら知らねえなマーガリン野郎に訊けばいいだろ!



がんばろう? それは地震のやつですか今それオレに言ったんすかね



一杯の水にうるおう人間を一億倍の水はのみこむ



魔女狩りを一千分の一にして人狼ゲームに人はうるおう



むらびとを殺しオオカミ守りぬく選考会を立ったまま読む



狼の群れにもきっと入れない朝とか昼は人間だから



なぜこんな植物も知らないのかとうすらわらいだ吊るしてみよう



粉は先、液体スープは後入れと知っているからマウントとれる



本当に思ってるかはわからない「ごめんなさい」にイイネやっとく



「芸術のようだ」を敷いて「食べるのがもったいない」を乗せて完成



触れられて倒れのたうち回ってるサッカー選手を見下ろす主審



テキトーにやってんのかと疑って聴いた祭りの笛のひょろりら



坂道でアイス食べてもいいかねえだめかねえもう三十八歳



生きていてごめんなさいと身を守るため言ったんだイイネがついた



昼に寝て夜起きている日に聞いたまったく獣じみてる悲鳴



まばたきとそのつぎにしたまばたきのあいだだけいたとうめいなひと



いきものをすごく怖がるロボットを頭の中で歩かせてみる



空席の前で吊革持って立つあんたの富をオレにくれなよ



ルーレット回して給料決めましょう人生ゲームの子持ちフリーター



行きたくて行ってみたのさ土砂降りの夜の公園 そっちこそ誰



気が利いてるつもりのオレのあいづちが鳴り響いてるまっくろの部屋



眠ってる人にさわると眠ってるなりに自分を守ろうとする



腹をもむ いきなり宇宙空間に放り出されて死ぬ気がすんの



ぼくは、なわ飛びがとく意です。スキップ飛びが、とても楽しかったです。





※出典
『短歌研究』2018年10月号
短歌研究新人賞 受賞後第一作
(一部変更)






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2019年10月16日

この人を追う(30首)  ◆工藤吉生ブログ歌集<7章>

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この人を追う




砂嵐以外は何も映さないテレビを思う 風の水面に



公園の禁止事項の九つにすべて納得して歩き出す



キスをする距離のふたりがオレのいるあいだはせずにいてくれていた



てのひらで暴力団を止めようとしてる女はポスターの中



マスタード・ケチャップ同時にかけられる便利パックも散乱のゴミ



ボケというひどい名前の植物の背丈がオレとそうかわらない



左肩にかけてたカバンを右肩にかけてパラレルワールドみたい



黒髪を生やす力のおとろえた頭を下げて求めたゆるし



力の限りがんばりますと言わされて自分の胸を破り捨てたい



「サイコロをもう一度振り出た数を戻れ」もどれば「一回休み」



〈ラーメン〉と赤地に白く染められた決定的な幟はためく



並盛りと言ってもかなりの量がくるしきたりを受け入れてわれらは



コクとキレ知らないものを知っているみたいに半ばまで来てしまう



スープまで飲み干し思う破滅から地球を救い胴上げされたい



現金のように使えるポイントのもう戻れない無垢の心に



この人にひったくられればこの人を追うわけだよな生活かけて



頭を掻くつもりで上げた左手の先が帽子の中へ潜った



考えず腕組みをして不機嫌に見えそうだなと思ってほどく



何をしても落ちなさそうな黒ずみに両足で立ち〈1〉と〈閉〉押す



ひらきだす自動扉の前に立ち通れるようになるまでの無為



むらさきとピンクの歌が漏れているこのスナックの名を「蘭」という



なんとなくいちごアイスを買って食う しあわせですか おくびょうですよ



わかるけどそうは言っても死んだまま一生過ごすことはできな




脱ぎ捨てた靴下ふたつの距離感を眺めていれば鳩時計鳴く



全身に力こめれば少しだけ時間を止められないこともなくない



手を腰にやってコーヒー牛乳を飲んではみても傷もつ心



トリックをすべて解かれてうらみつらみねたみを2分言う殺人者



次にくる年号を予想する人がテレビの中に座ってて邪魔



水を吐くオレを鏡に見てしまうモザイクかけておいてほしいな



見たくないものが日に日に増えてくるオレの一人の部屋の消灯





※出典
『短歌研究』2018年9月号掲載
短歌研究新人賞 受賞作



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2019年10月15日

ぬらっ(56首)  ◆工藤吉生ブログ歌集<6章>

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ぬらっ




憎しみを社会に向けてひとに向け自分に向けてそこで落ち着く



「死ね」という言葉によって君の持つ説得力が自殺したのだ



学級会 トイレでズボンを脱がされた話にみんなで耳澄ます午後



安全を求めるうちに狭い方暗い方へと追われる獣



朝起きて「おやすみなさい」のメール読みそれに答える日本語がない



鬼の面 年々かわいくなってきて豆がイジメになる日も近い



地下鉄に自殺防止の柵できて人を押してもせいぜい打撲



伝わったようだがオレが言ったのと逆方向に行く迷い人



絵日記の中の家族が一列に並んで立って笑うのを見た



指されてもわからないから黙ってる「座っていい」しか聞きたくはない



解答欄ずっとおんなじ文字並び不安だアイアイオエエエエエエ



ばれなけりゃいいさと風呂で小便をすればなぜだかいつもより濃い



殺人をしてしまったら殺人をしてない人に憧れそうだ



オレ以外みんな真面目に生きていて取り残された気のする深夜



戦いに行きはしないが深刻なポーズをしてるガンプラとオレ



黄色い紙郵便受けに入ってて読んで捨てたらまたも黄色い



祈りとは声も指先も届かない者にダメ元で伝える手段



二十年通い続ける床屋だがいまだ『ドカベン』開くことなし



ヒョウ柄の強そうな人を後ろから見ているオレの柄はチェックだ



プロ野球選手のシールを集めるがG. G.佐藤ばっかり当たる



このオレの入浴シーンを謎として見る猫アリス牝7ヶ月



シューティングゲームのうまいやつが来て雨粒全てよけて帰った



歴史上すべてが大事教科書をキラキラさせる君のイエロー



戦場に細川たかしの笑い声 ハッハッハッドカーンハッハッハッドカーン



関東や関西イベント盛り上がりひとり東北に歌書読むオレは



桜の木見上げて写真を撮るひとの片方曲げた足がよかった



精子以前、子のない頃の父の食う牛丼以前、牛や稲穂や



人生をやってることにはなってるがあまりそういう感じではない



Aだねと言われてBへ歩み出すオレの進路は危ういだろう



重役が何人か来てその中の不吉において抜きん出た顔




うんこ味のカレーのほうを真剣に選んだ君の頬に飯粒



55を20と20と15とに分解してる雪道の上



幸せなあちらのオレが今ここのこのオレを思いぞっとする夜



ぱぴぷぺのポップコーンに固いのがあって口からいま出すところ



ああ人は諭吉の下に一葉をつくり英世をその下とした



ストローで飲み終えた後しばらくはスースースースー吸う男性だ



美しく映る鏡があるならばそれには映らないよう走る



透明なガラスのせいで進めないふりがうまくて行かないで済む



生命を恥じるとりわけ火に触れた指を即座に引っ込めるとき



水色のボールころがり土がつく 夢は習字の先生でした



「少年よ神話になれ」と口ずさみ楽しげな現実のおじさん



柔道の授業で早く負けようとやわらかく踏む畳のみどり



東京に行って頑張りたいなどと聞こえるベンチにまどろんでゆく



ああオレもナナコカードを勧められ断ってああ人間してる



女子バレー見慣れたころに男子バレー見ると驚く見慣れるまでは



ワンタンメン専門店の前を過ぎ唱えるわんたんめんせんもんてん



「ああいうふうになっちゃだめだ」と十歳のころに言われた指をさされて



お時間があれば話をしたいという声しりぞけて暇もてあます



おみこしになって元気な人達にかつがれたいな年に二回は



雪かきにも草むしりにもあらわれる中途半端なオレの性格



ヨーグルトを容器とフタとスプーンとスプーン袋にして食べ終える



オレに対し決定的な一言を持っていそうな沈黙の人



好きなだけ言わせといたら在日で生活保護で毛が無くて死者



政権とハラスメントの絶望をフォローしすぎた切り捨ててゆく



美男美女だけのドラマにダンプカー突っ込んで結局は感動



膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺









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2019年10月14日

うしろまえ (20首)  ◆工藤吉生ブログ歌集<5章>

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うしろまえ  



泳いでる海がみるみる干上がってゆく感触の果てに目覚める



休日の朝七時から一日をなぜだかあきらめてしまうんだ



十七の春に自分の一生に嫌気がさして二十年経つ



悪口を言われてる気がすることを自己紹介の途中に言った



パトカーが一台混ざりぼくたちはなんにもしてませんの二車線



電柱を登ってゆける足がかりとても届かぬ位置より生える



うしろまえ逆に着ていたTシャツがしばし生きづらかった原因



「呪われたみたいに肩がこってる」と言ったオレだがなぜ分かるのか



自己嫌悪にうっとりとしているあいだベルトゆるめに締めている手は



おそろしい形相をした歳月がうしろからくる 前からも来た



出前用バイクは昨日見た位置の五十センチほど後方にある



あたためたはずのパスタが冷たいのも自分のせいと知るべきだった



田舎芝居「平謝り」を披露してそのブザマさにより許される



まったくの時間の無駄と知っていてなお口喧嘩必殺の法



ドブに捨てるようなものだと冗談に聞こえるように言って千円



バカにしているのを見やぶられかけて次の細工は丁寧に編む



他人への刃がクシャミしたせいで自分の胸に、ほら刺さってる



目を閉じて夜の電車に乗っているできれば耳も脳も閉じたい



ぼろぼろを渡って帰る二十二時ぼろぼろは来てくれた部屋まで



死にたくて飛びこんだ海で全身を包むみたいに今日を終わらす




※出典
『未来』2018年1月号掲載
2017年度 未来賞受賞作






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2019年10月13日

ピンクの壁(38首)  ◆工藤吉生ブログ歌集<4章>

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ピンクの壁





朝起きた途端に夢はくじかれて強制的な現実のなか



鏡では見たことのある顔をした自分自身で見る窓の外



道端に落ちてるマスクを無理矢理に着けさせられる予感 朝もや



ベランダで煙草くわえる男性に見下ろされれば行き急ぐのみ



まぶしがる顔といやがってる顔の似ていてオレに向けられたそれ



走馬灯ながれるとして見どころのないこともない現時点まで



左手になにか隠した短パンの右手の振りがオレを追い越す



戦えばオレをぶちのめせるだろう中学生の低い挨拶



公園を公園らしく見せるための装置のような利用者たちだ



投球を追ってくわえて駆け戻る犬の賢さ健全である



ゲートボールをしているそばを通るとき「地球は丸い」と声が聞こえた



たくさんの子供がしがみついている巨大遊具を正面に立つ



標識の落石注意に落石は四つ描かれてどれも真っ黒



憎しみがうまく言葉にのってきて舗装途切れて土に踏み出す



N君の家が床屋であることをどうして笑ったんだろオレは



再会のN君に根掘り葉掘り訊かれごまかす二十年の生き方



いいんだよオレのことなどどうだって、などと言いニヤニヤしてみるが



モザイクをかけたみたいだ拡大をしすぎた結婚式の写真は



いつかまた会おうと言ったN君の記憶の顔は顔のみで浮く



みんなして飛び回っててオレだけがうつ伏せなのだ ぼろい畳に



映像で見たか実際されたのかもうわからない裏切りのこと



公式を用いてオレの持つ価値をゼロと証明しそうな人よ



媚びている自分醜く頑迷な自分到底見れたものじゃなし



ヘアーサロンNITTAにピンクの壁はありピンクだけれどどうしても壁



遠近感狂いはじめて森林が心の奥にあるようである



淋しげな道を選んで散歩して灯りのような桜に出逢う



過剰から散る花々の母親の給料後数日のパチンコ



春になるとおかしな人が出てくると聞こえて自分の胸に手を置く



木でできている電柱を灰色の春の日暮れの下に見上げる



トラックに轢かれ死のうと考えてややふらついただけの車道だ



母親に今日は三千円貸した春の酸素が鼻から入る



夕方のテニスコートをよく見ると二人いてオレを足すと三人



見えてないみたいに避けるヤバそうな人を虚ろなオレや誰かが



なつかしくさせる光の××○××夕陽はフェンス越しにオレを突く



立ち並ぶ夜の桜の一本の一部を特に照らす街灯



うるせえと注意している声だけがオレの耳まで無事たどりつく



何をしても間違っているような夜に縄跳びの音、それも二重跳び



金属が金属を打つ音が五回、六回あってあとは暗闇






※出典
『角川短歌』2016年11月号に一部掲載
角川短歌賞 予選通過作品50首から38首抜粋


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2019年10月12日

魂の転落(10首)   ◆工藤吉生ブログ歌集<3章>

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魂の転落





雲と雲と雲と雲との戦乱のまっただなかに電信柱



一日は毎日あるが去り際の太陽が照らし出す雲の群れ



風景を見てるつもりの女生徒と風景であるオレの目が合う



ほとんどの家に入れずほとんどの人にはオレがただのよそもの



君らのはケンソンだろうオレの場合ほんとにダメなんだよ近寄るな



体型のことを言われてひっこめる腹のそれほどでもない動き



鏡には日毎に老いてゆくオレを見つめる目やにのついているオレ



ぼくは衣車、汽車なんだぞー! と駆けてきた子供がオレにぶつかって泣く



「魂の転落」とでも題すべき雲を含んで空暮れてゆく



見とれてた空もいよいよ暗くなり妖しいものの立つ気配する




※出典
『短歌研究』2014年11月号「新進気鋭の歌人たち」


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mk7911 at 14:29|PermalinkComments(0)