最近銀行のキャッシュカードを偽造して現金を引き出すという悪質な犯罪が数多く発生しているとの報道が多い。
報道内容によると、キャッシュカードを何らかの方法で偽造され、現金を引き出された場合や、キャッシュカード自体を盗まれた場合には、あくまで本人はカードを盗まれたにすぎず、現金を盗まれたのは銀行、ということになるそうだ。
よって、現金を引き出された当事者は、現金を盗まれたことの被害届けを出すことが出来ない。銀行にはキャッシュカードによって現金を引き出された顧客に対しても、暗証番号による認証を経ているため、盗まれた現金を返す義務はなく、現金が戻ってこない可能性が極めて高い、ということになる。これは大きな問題である。
無論、法整備上の問題もあるが、経営戦略的観点から言えば、今こそ銀行の顧客戦略が問われるときだと考えられる。
なぜ銀行が被害補償の仕組みを持っていないのか、ということを考えると、
1.今までそうした被害がなかったため、対応が追いつかない
2.顧客の現金を弁償するのは、コストがかかるため対応する必要がない
3.キャッシュカードは顧客の利便性のために作られたものであり、顧客が管理する必要がある(から、対応する必要がない)
という点が考えられる。
しかし、こうした考え方がどれも間違っているのは、言うまでもない。
顧客から見た場合、たとえ銀行がどんな理由であったとしても、キャッシュカードは便利かつ安全に現金を引き出せるための道具なのである。
従って、顧客の立場に立ったカード利用をまず第一に考えるべきは当然であり、そのためにコストがかかるとはいえ、そのコストは最優先で負担すべきである。或いは、顧客に月額いくら、のような形で新たな顧客サービスを打ち出すこともできるだろう。
逆に言えば、今のような業界のマインドセットの中では、いち早くこの被害に対応し補償する仕組みを作ることは、顧客を集めるチャンスであると言える。当然の事ながら、こうした問題が社会問題となってきている現在、顧客の関心は、自分のカードや現金は大丈夫なのか?という点に向いてくる。
つまり、関心が向いているということは、それが銀行を選ぶ上での問題(選択基準)であると顧客が認識しているということを意味するのであり、その点にソリューションを提供することができるのである。こうした機会というのはそうそうないものである。ある意味で、マーケティング的に顧客の問題関心を引きつける努力をしなくてもよい状況にあるのであり、従って大きなチャンスなのである。
恐らく、銀行は業界として補償の仕組みをつくる、というようなことを考えているのではないだろうか。しかし、もし私が銀行の経営者であったならば、いち早く独自に対応して、その仕組みを他の同業者にも使わせることで利用料をとることを考える。仮に利用料がとれなくても、その仕組みを作った最初の銀行が自社であることを少なくとも訴求するだろう。要は、そうしたことに関心と努力を向けるかどうかは、その銀行の戦略上の問題なのである。
今後の展開から、日本の銀行がいかなるものか、見極めていくことが可能である。