2005年02月23日

ライブドア対フジテレビ 正当性を巡る争い

 ライブドアによるニッポン放送の買収がメディアを騒がせている。多くのマスメディアは、ライブドアの買収行動を「金にものをいわせた買収」「時間外取引での株式取得は、法律には違反しないが、殆どルール違反」のような論調で、日々批判を行っている。
 これらの批判はある意図に基づいていることは明確であるため、テレビを見る人間はこうした放送各局による緒言説に対して、批判的にこれを見る必要があるかもしれない。
 ある意図とは、端的に言えば放送業界の有する総務省による電波割り当てという既得権の保護である。この点については、既に数年前にホットワイヤード内に連載されていた池田信夫氏の記事の中で明確に指摘されているし、同氏の著作『インターネット資本主義革命』NTT出版、1999年にも指摘されている。
専門家でない私の理解で池田氏の主張をまとめると、放送はインターネットでIP(インターネットプロトコル)の上でコンテンツが流されるようになれば、旧来の総務省による電波の割り当てという形での規制が意味を成さなくなる。なぜならば、共通のプロトコルがIPであり、誰でもデータを送信することが可能となるためである。しかし、放送業界は電波割り当ての既得権の価値を保持し続けるための戦略として、BSデジタルや地上波デジタルなどの新しい技術を開発し、そこに旧来のアナログ放送と同等の割り当てという既得権を反映させることを行っているのである。勿論、そうした新技術開発や実際のインフラ整備には、国からの膨大な補助金が投入され、それらが放送局に限らず、インフラ開発業者なども含めた業界のメンバーに分配される仕組みになっていることは言うまでもないことだろう。
ライブドアの堀江氏は、昨日出演したJ-WAVE「JAM THE WORLD」内で、「インタラクティブな放送が次世代のメディアであるならば、あんな莫大な投資をするメディアをわざわざ作らずに、その金をインターネットに投資すればよかったのだ。そうすれば、そもそもそんな莫大な投資は必要ないし、同じだけ投資したらもっとものすごいメディアが出来ていたはずだ。」と述べているが、これには上記のような背景があるのである。
 勿論、まだまだインターネットが旧来のテレビに変わるようなものになるためには、技術的な問題と言うよりも、むしろ、戦略的な問題が数多く存在する。どのような形態で最終消費者に配信するのか、誰がどうやってコンテンツを開発するのか、ビジネスモデルはどうするのか、等々いくらでも課題はあるだろう。しかし、何よりもこうしたインターネット化を阻む要因は、既存の放送業界の既得権保持の姿勢であるかと思われる。なにかクリステンセンのイノベーションのジレンマを彷彿とさせるような問題だが、彼らはインターネット化は既得権の喪失を意味するので、それとは異なる方向へ関心を向けようとしているのである。
 既得権を保護するために無駄に税金を投入されているならば、私は既存の放送業界を支持する理由は全くない。むしろ、コストがかからずに多様なコンテンツを提供してくれる可能性を提供する側を支持したいと思う。

 こうした観点から、ライブドアの主張やマスメディアのライブドアに対する反応を見ると、ある意味で極めて妥当な利害の反映を見ることができると言える。すなわち、ライブドアのニッポン放送買収は、「放送のインターネット化の問題である」とするライブドアの主張と、訳の分からない会社の卑怯な襲撃による「株式市場の混乱の問題」ないし「放送法の規制の抜け道を狙った外資の手先になった買収行動」という問題にしようとする放送局側の争いである。放送局側は、既得権を保持し続けようとする戦略的意図がみえみえであり、ライブドア側には放送業界のあり方を問題化し、買収行動を正当化させようとする狙いが見える。
 結局のところ、こうした対立とはライブドアと既存の放送業界との間の戦略の正当性を巡る闘いであり、勝者はより大きな合意を形成し得た側となるだろう。堀江氏に欠如しているとたびたび指摘されるのは、こうした合意形成の能力であると言われるが、その中身とは、彼の主張が理解されるような形で世の中に訴えていく方法と技量が欠けている、ということである。特に今回は既得権と絡む問題であるため政治力も関係する問題である。また合意形成の手段であるメディア自体を握っているのが今回の買収行動の対象であるために、困難が多いのも事実だろう。勿論、それ故に彼は市場という政治が介在できないフィールドでの勝負を挑んでいるのであろうが。
 彼の主張する戦略には正しい点が多い。しかし、戦略は社会的な正当性を獲得して初めて機能する。正当性とは相対的なものであり、だからこそ既得権を有する利害集団は、政治と結びつくことを通じて、自らの正当性を保とうとするのである。ある意味で、そうした合意形成活動自体も戦略なのであり、このプロセスに対し堀江氏の関心が薄いような印象も受ける。
 かつてヤマト運輸が宅急便サービスを始めた際には、国との間で数多くの対立があった。しかし、消費者に質の高いサービスを提供し、また時にはメディアを利用した闘いを国に挑んだヤマト運輸は、数多くの素晴らしい価値を実現してきた。起業家が起業家たる所以は、それまでの常識や論理を根本から覆すような新しい考え方・価値観を(思いつくだけでなく)社会に実現する点にある。当然、新しい考え方には既存の価値観に基づいた人々からの大きな反発がある。しかし、それを乗り越えて初めて価値を実現することが可能になるのである。
 よって、真の起業家は優れた戦略家であらねばならない。優れた戦略家は、小局で敗北しても大局で勝利することを選ぶ必要もある。果たして堀江氏は真の起業家なのだろうか。今後の彼の行動から目が離せない。  

Posted by mku at 23:11Comments(0)TrackBack(0)