梅田望夫氏の『ウェブ進化論』を読んだ。
梅田氏は、以前よりご自身のブログで有名な方なので、何度か文章も読んだことがあるが、この本はなかなか興味深い内容だった。
今、Web2.0という言葉が取りざたされているが、本書はWeb2.0のもつ革命性を説明してくれている一冊だ。
自分のWeb1.0的な頭で理解した範囲はこんな風になる。
今までのWeb1.0時代では、インターネットは既存のビジネスの効率化を基礎として、競争優位性を企業に与えたり奪ったりしてきた。その中で登場したのがアマゾンや日本だと楽天ということになろう。
しかし、グーグルという企業が登場したことや、ブロードバンドで常時接続の環境が整ってきたことなどを背景として、にわかにその状況は変化を遂げ始める。グーグルは、ヤフーやMSNのように単に「情報を検索する機能としてのサーチエンジン」として事業を捉えたのではなく、「世界中の情報を整理しつくす」という壮大な構想に基づいて作られた企業である。しかも、そのためのシステムは、30万台の普通のコンピュータと、無料で使えるリナックスというオープンソースによって運営されている。既存の企業であればともすれば億の単位を超えかねない投資が、ゼロが3つ程少ないであろう金額で作られたと考えられる。これがインターネットの「チープ革命」と呼ばれるものである。
その結果何が起きたのかというと、旧来の企業ビジネスでは光の当てようのなかった小規模の需要や情報の存在というものにも存在可能性が生じてきた。これが「ロングテール」と呼ばれるもので、例えば、グーグルであれば「アドセンス」によって、アフィリエイトサイトの情報と、商品とのマッチングが既存のビジネスでは考えられないほど小さい需要レベルから可能になったし、アマゾンの売上の本の1/3は、通常の書店では並ばないほど少ない需要しかない本で占められることになった。アマゾンはそうした現象を前に、Web1.0的発想をやめ、自社の販売システムを他に利用したい事業者に利用可能にした。こうして自社のビジネスプラットフォームを他社にも利用可能にする(一方でコミッションを15%取る)ことによって、自社のシステムの想定外の需要ですらも取り込める仕組みを構築したのである。
重要なことは、グーグルにしろ、アマゾンにしろ、両者ともインターネット上で自己増殖していく情報の媒介になるという役割に徹していて、別に自社から需要をマスマーケティング等を用いてある枠組みの中に「作り出そう」としているわけではないという点にある。インターネットにおいては、中国で天安門事件の情報規制などがあるが、そうした政治権力の介入という希有な働きかけがない限り、自由な領域である。
この意味は漠としていてつかみどころがないが、今自分が考えられるのは、これが社会のあり方そのものを変えてしまう力を持ちうるかもしれない、ということだ。なぜならば、社会における価値を成り立たせているのは、意味体系であり、文化と呼ばれるものであろう。この文化というものの形成においては、多分に情報の秩序形成とそれを行わせる権力とが作用する。しかし、インターネットとはそうした「価値形成をさせる」ことは似つかわしくなく、むしろ、「価値形成が個々でマジョリティにならずに展開されているのを促進させる仕組み」なのかもしれない。(このあたりについては、朝一人で考えていたときはもっとクリアに説明できたのだが、どうも文章にするとえらく安っぽい感じになってきたので、今日はこのくらいにしておきたい。)要するに、今までの情報の非対称性というものによって成り立ってきた社会秩序が、別な次元に変わっていくことで、価値観やそれを支える権力といったものが変わっていく可能性があるかもしれない、ということだ。
もしこの論理に矛盾がないとするならば、これはとんでもないことである。自分は組織論を研究しているけれども、インターネットによって組織というもののあり方や価値も全く違う姿に変わっていくかもしれない。これから考えるべきことが増えた気がしてならない。
以上、とりあえずバージョン1.0の読後感想。