空売り比率について、最近、過去最高の空売り比率(35%)を記録したため、話題になっています。
「いや~、空売りが多いのですね、下落予想が多いのでしょうか!」
と、不安を煽るような記事がありますが、はっきりいって、誤解があります。
ここまで記事を書いたり、分析するなら、もっと正確に分析しないと、投資家(特に個人投資家)に誤解を与えます。
まず空売りには、大きく2つの種類があります。
「価格規制あり」と「価格規制なし」の空売りがあります。
通常、プロ扱いの投資家が、空売り(信用売りも含む)を行うとき、アップティック・ルールというのがあり、直前の取引価格より高い値段でしか売ることができないのです。もちろん、成行注文なんて出来ません。
例えば、7203トヨタを空売りしようとします。仮に今の値段が3300円とします。
現値 直前の値段 空売りの指値が出来る値段
3300円↑ 3295円 3300円以上
3300円↓ 3305円 3305円以上
これが「価格規制あり」です。
ヘッジファンドや証券会社などが相場(銘柄)の下落をによって、利益を上げようとする時は、この「価格規制あり」という執行条件がつきます。
一方、「価格規制なし」とはどういうものか。
・CBなどのつなぎ売り
・指数先物との裁定取引
・VWAP保証取引のヘッジ売り
・個人投資家の50単位までの信用売り
などがあります。
これは、空売りという行為には違いないのですが、上記のようなアップティック・ルールという価格規制の適用除外とされています。
理由は、それぞれにあるのですが、無理やりまとめれば、(個人の50単位を除けば)市場への思惑的な空売り行為とは異なるということだと思います。
さて、前置きが長くなりましたが、空売りには、「価格規制あり」と「価格規制なし」の2種類があるのです。
では、この両者の割合がどのように変化しているのか表にまとめました。
日付 | 規制あり | 規制なし | 合計 |
6/1 | 12.3 | 13.4 | 25.7 |
6/2 | 12.7 | 22.1 | 34.8 |
6/3 | 12.7 | 20.6 | 33.3 |
6/6 | 14.2 | 14.0 | 28.2 |
6/7 | 14.1 | 10.9 | 25.0 |
6/8 | 14.5 | 10.5 | 25.0 |
6/9 | 14.8 | 13.2 | 28.0 |
6/10 | 10.1 | 17.6 | 27.7 |
確かに、6月2日と3日は空売り比率が34.8%、33.3%と過去最高なのですが、増加しているのは、「価格規制なし」の空売りが増加しています。これは、想像するに、指数裁定取引による空売りがあり(現物を空売り+先物買い)、その結果、空売り比率を20%以上に押し上げたのではないかと思われます。
と推測する理由として、
・その頃、先物と現物の乖離が、若干ながら、先物が割安で現物が割高な状態で、裁定取引の「現物売り先物買い」が起きやすい環境にありました。
・裁定業者のポジションは、残高が少ない状況で、一部の証券会社は「現物売り」の売りを空売りにしていた可能性があります。
・東証発表の「裁定取引に係る現物ポジション」で売りポジションが、同時期に増加していますので、「空売り先物買い」のポジションが増えていたことになります。
つまり、この価格規制なしの空売りが増えたのは、SQ前に裁定業者が、わずかなスプレッドを取りに空売り先物買いポジションを一時的に増やしただけだと推測できます。
いずれにせよ、「価格規制あり」の空売りは、ほぼ一定で増えていません。
よって、急にヘッジファンドなどが、思惑的な空売りを増やしているということはありません。
ですから、「空売りが多い」というのは、正しいのですが、相場が下がるから空売りして儲けようということでの空売りが急に増えているわけではないのです。
ドン・キホーテ(--;