Waking(めざめ)

 その二日後、愛奈は十六日ぶりに登校した。本当は昨日から登校しても良いと拓人に言われたのだが、前日にあまりにも烈しく愛を交わしすぎたために、翌日は一日中、ベッドから出られない状態だったのだ。腰が立たなくて、その日はずっと寝ていなければならない有様だった。
 流石に可哀想に思ったのか、昨夜は拓人も訪ねてはこなかった。久しぶりに広いベッドで手足を伸ばして寝(やす)めたせいか、身体も心もいつになくすっきりと感じられる。
 自分のここのところの生活がいかに拓人という男に支配されていたかを改めて思い知らされた。
 クラスメートたちの態度は特に変わらなかった。二週間余りに渡っての欠席は、病気療養中と届け出られていたようだ。友達はそれを信じて疑っていないようで、親友の満奈実ですら
「入院してたんだって、大丈夫?」
 と気遣ってくれる始末だった。しかし、それも当然といえばいえた。そういう愛奈だって、これが我が身に起こったことでなければ、小説かドラマの中の出来事でしかあり得ないと思うだろう。
 現実世界に女子高生を監禁して、ペットのように飼い慣らし性の道具扱いする男がいると誰が考えるだろうか。
 だが、担任の大木先生だけは真実を知っているらしかった。授業の合間にも時々、物言いたげな眼を向けてくるが、かといって、直接話しかけてくることはもちろん、拓人との関係や欠席していた理由について訊ねてくることはなかった。
 ただ放課後、廊下ですれ違ったときに大木先生は悔しげに言った。
「校長から安浦の家庭の事情については余計な口出しは控えるようにと言い渡されてしまったんだ。生徒の家庭のことにまで教師が干渉するのは越権行為だと君の従兄から陳情があったようでね」
 つまり、拓人が何かと目障りな大木先生に校長を通じて牽制したということだろう。
「先生、私なら大丈夫、何とか自分の力で乗り切ってみるから」
 気丈に言い切った愛奈に、大木先生はやるせなさそうな顔で頷いた。
「担任なのに、何も力になってやれなくてごめんな」
 その何かに耐えるような表情がつい先日、哀しい別離をしたばかりの反町君と重なる。反町君もこんな風に辛そうな顔で〝ごめんな〟と何度も繰り返した。
 本当は謝らなければならないのは愛奈の方なのに、彼は謝ってくれた。しかし、反町君が悪いわけではないし、大木先生が教師として力足らずなのでもない。
 拓人は日本国内だけでなく海外にもその名を轟かせる大企の社長で、社会的にあまりにも影響力がありすぎるし、力を持っている。
 そんな拓人に彼らが敵うはずもないのだ。そのことを愛奈は誰よりよく知っていた。
「明日もまた頑張って登校します」
 愛奈が笑顔で挨拶すると、大木先生は泣き笑いのような顔で頷いた。
「待ってるぞ」
 愛奈は心からの感謝を込めて大木先生に頭を下げた。

 けれど、拓人は知らない。誰よりも権力を持っているからといって、けして人の心は力や金で手に入るものでも自由になるのでもないことを。
 拓人が愛奈に執着し彼の側に繋ぎ止めておこうとすればするだけ、愛奈の心は彼から離れてゆくのだ。ホテルに連れ込まれてレイプされた夜、愛奈の中で〝大好きで優しい従兄〟は死んだ。今、愛奈を籠の鳥のように飼い慣らしているのは彼女の知らない、ただの冷酷で女好きの若社長にすぎない。
 久しぶりに登校したその日は流石に疲れた。思えばずっと心身ともに疲労しっ放しだった。昨日を除けば、拓人が来ない日はなく、従って必然的に日毎、夜毎、愛奈は彼に抱かれてばかりいたのだ。
 登校は許されたものの、電車での通学を拓人は最後まで認めなかった。送迎を車でという条件付きでの通学だ。今日の放課後だって、黒塗りの高級車が校門前に横付けされ、生徒たちの間ではちょっとした騒ぎになっていた。
―運転手つきのお迎えだなんて、どこのお嬢さまなの? 
 女子生徒たちがひそひそと囁き交わす中、愛奈は恥ずかしさに消え入りそうになりながら迎えにきた車に乗った。もちろん、運転手はあの黒服のボディガードだ。
 普段、彼ともう一人の男がマンションに詰めて愛奈の監視役を務めている。三度の食事を運んできてくれるのも彼らだ。もちろん、愛奈と彼らの接触は必要最低限でしかない。
 毎日、決まった時間に部屋の前にトレーに載った食事が置かれていて、その時間だけ外から鍵が外される。愛奈がそのわずかな時間内でトレーを受け取ると、すぐにまた施錠される。次の食事時間になるとまた同じように施錠が一時的に解除されるので、食べ終わった前のトレーを戻し、代わりに新しいトレーを受け取る。そんなことの繰り返しだ。
 だから、愛奈が男たちの姿を見ることはなかった。独占欲の強い拓人がまた彼らに愛奈と接触することを許しているとは思えなかった。
 マンションに到着早々、愛奈は頭痛を憶えた。愕くことに、留守中に拓人が来ていた。
「久しぶりの学校はどうだった、愉しかったか?」
 部屋のドアを開けた時、拓人は窓辺に佇み、外の景色を眺めているようだった。この部屋は八階にある。中規模どころの地方都市なので、都会のような高層ビル群がそうそうあるはずもなく、窓から見える景色といえば、ミニチュアのように小さく見える町と蒼い空だけだ。
「―ええ」
 愛奈は疲れた声で短く応え、よろめくようにベッドに腰掛けた。拓人はそれを勘違いしたようである。顔をほころばせ、近寄ってきた。
「やけに積極的だな。一晩、俺に抱かれなかったのがそんなに淋しかったか?」
 勘違いもはなはだしかったが、いちいち訂正するだけの気力も残っていなかった。それが余計にいけなかったのだ。
 早速手を伸ばしてきた彼を、愛奈はつい無意識の中に押しのけようとしてしまった。
「何だ? 俺を拒むのか」
 拓人の声が一段低くなった。ハッと我に返ったときはもう遅かった。
「ごめんなさい、頭が痛くて」
 せめて今日だけは勘弁して欲しい。そんな想いを言外に込めて拓人を見つめる。しかし、拓人の整いすぎるほど整った顔がさっと蒼褪めた。
「たまにはゆっくり休ませようと昨夜、抱かなかったのが悪かったのか」
 違う、そうじゃない。そう言おうとした言葉はいきなりのキスで塞がれた。噛みつくような奪うようなキスは荒々しく、まるで懲らしめのようだ。
 拓人は自らがベッドの淵に座り、愛奈を後ろ向きに膝に乗せた。愛奈の背中が拓人の逞しい胸板に当たっている。キスで息も絶え絶えの愛奈はなされるがままになるしかない。
 彼はそのままの体勢で愛奈の制服のスカートを大きく捲り上げ、自分もズボンの股間をつくろげ、既に大きくそそり立つ彼自身を解放した。
 愛奈の小さなピンクのビキニパンティを乱暴に引き下ろし、ひと息に背後から貫く。
「―っ」
 物凄い衝撃に、愛奈の身体が大きく仰け反った。意識が瞬間的に飛び、声すら出ない彼女を拓人は縦横無尽に突き上げる。拓人の方は準備万端だったが、愛奈はまだ愛撫どころか前戯すら与えられていなかった。
 殆ど濡れていない状態でいきなり深々と下から刺し貫かれたのだから、堪ったものではない。いつもならたっぷりと際限なく与えられる快楽など今日は微塵も感じる由はなく、あるのは狭い膣道を無理にこじ開けられる苦しさ痛みだけだ。
「くっ、あれだけ抱いたのに、一晩抱かなかっただけで、もう逆戻りか」
 拓人は苦しげに呻いたが、やがて、抜き差しを繰り返していく中に、愛奈の胎内も少しずつ蜜が出て幾分かは挿入しやすくなったようである。