「まあ、これはこれで初夜のときのようで悪くはないな。それにしても、お前の中は狭いな。おい、そんなに締め付けないでくれ。俺を食いちぎるつもりか?」
 もちろん、愛奈にはまったく自覚がないのだが、時折、愛奈が彼を締め付けるらしい。それがまた彼には心地良いらしく、最初はきついと不満げだった彼はすぐに気持ちよさげに腰を使い始めた。
 あるときは腰を大きく回し、あるときは殆ど抜けそうなほど引いて、そこから一挙に最奥まで刺し貫く。多彩な腰の動きは愛奈を翻弄し、彼女もまたいつしか苦痛は過ぎ去り、感じるのは快感ばかりになっていた。
「あ、ああっ、そこはいや、いやなの。感じすぎから駄目」
 啼きすぎて声も嗄れてしまって、自分が何を口走っているのかも判らなくなりつつある。今の愛奈を突き動かしているのは感情でも心でもない。人間がまだ原初の生物でいた大昔そうであったように、ただ肉体の欲望に忠実に動いているだけだ。
 それは拓人も同じだった。
「愛奈、ほら、あれが今のお前の姿だよ。何て淫乱で色っぽくて可愛らしいんだろう」
 拓人に促されるようにして眼前の鏡を見れば、拓人の膝に乗っている自分がいる。今日は幼児が大人に後ろから抱きかかえられ小水をしているかのようなポーズだ。
「いやっ」
 あまりの痴態に愛奈は思わず顔を背けた。
「眼を背けては駄目だ。これが今のお前のありのままの姿なんだから。よおく見るんだ、お前のあそこが俺を嫌らしく銜え込んでいる。見えるか?」
 赤黒いグロテスクな肉塊が愛奈の蜜壺をゆっくりとと出入りする様がはっきりと鏡に映し出されている。信じられない光景に、愛奈は涙を滲ませた。
 もう、このまま死んでしまいたい。本気でそう思った。しかも今日は高校から帰ったばかりなので、夏の制服姿だ。制服を着たまま、こんな格好で犯されるなんて、それこそ下手なアダルトビデオに出るAV女優みたいではないか。
 こんな自分を見るなんて、いやだ。この残酷で悪夢のような光景が本当に悪い夢であれば良いのにと願った。
 耳裏をネロリと熱い舌が這う度に、愛奈の蜜壺が烈しく収縮して彼を締め付ける。
「お前の中は熱くてよく閉まって、何て気持ち良いんだろう。もう堪らない」
 拓人の動きが烈しくなり、腰遣いにも声にも余裕がなくなった。後はもういつものように烈しく突き上げられるだけ突き上げられ、最後に彼は身を震わせて吐精して、悪夢のような情事はそれで終わった。 
 拓人はそれからほどなく慌ただしく出かけていった。明日から長期の出張に出るとのことである。
「何か土産を買ってきてやるから、大人しく良い子にしてるんだぞ」
 と、かける言葉だけは優しく、まるで子どもに対するようなものだった。しかし、彼の愛奈にする扱いはあくまでも大人のものであり、しかも彼女の意思を頭から無視した強要される行為ばかりであった。
 愛奈はそれに対して返事もせず、ベッドにうち伏したままで見送りもしなかった。半分は卑劣な男に返事なんかするものかという意地と、もう半分は冗談ではなく本当に身体が辛くてベッドから起き上がれなかったせいもある。
 拓人から受ける荒淫は想像以上に、愛奈の心と身体を傷つけていた。
―あんな男、この世からいなくなってしまえば良い。
 愛奈は溢れる涙でシーツを濡らしながら、自分の身体を慰みものにする男を憎いと思った。
 翌日はまた学校を休んだ。少し動いただけで、腰に鈍い痛みが走って動けない。昨日の乱暴な営みが原因なのは判っていた。午前中、ベッドに潜り込んでうとうとと微睡んでいた時、枕許のケータイが鳴った。
 エグザイルのチューチュートレインが鳴りだし、愛奈の意識は浅い眠りの淵から浮上した。
「―もしもし」
 幾分くぐもった声音で話すと、深いバリトンの声が聞こえてくる。
―今、どこにいる?
「マンション」
 応えてやりたくなどないが、それもできない立場が口惜しい。
 意外そうな声が返ってきた。
―学校は行かなかったのか?
「腰が痛くて、歩くのもやっとなの。登校なんて無理よ」
 電話の向こうで小さく笑う声が聞こえた。
―なるほど、そういうことか。やはり、お前を大人しくさせておくには抱いてやるのがいちばんみたいだな。
 誰のせいでこんな風になったと思っているのか。そう罵ってやりたかったが、グッと込み上げる怒りを抑えた。
「何かご用?」
 わざと馬鹿丁寧に訊ねてやっても、相手には一向に通じていない。
―廊下を見てみろ。そろそろ食事時だろ、俺がいなくても食事はきちんと取れよ。身体を休めるのは良いが、食事も忘れて眠りこけるのは感心しないからな。
 愛奈が応えないので、しばらく沈黙があり小さな溜息が聞こえた。
―今は飛行機の中だ。
 誰もそんなこと訊いちゃないわよ。
 心の中でまた悪態をついてやる。
―俺がいなくて淋しいだろうが、良い子で待ってろ。帰ったら、それこそまた腰が立たないくらいに何度でも抱いてやる。
 そのときだけハッとするような艶めいた官能的な声音になった。男の色めいた声を聞いただけで、カッと身体が火照った我が身がつくづく情けない。気のせいか、下肢がわずかに濡れているような気もするが、それは考えないことにした。
 それで電話は向こうから切れた。
「あの助平、変態、鬼畜、淫乱レイプ男」
 思いつく限りの言葉で罵倒してみても、心はいっかな晴れない。とりあえず廊下を見てみようと痛む腰を庇いながらベッドから出る。案の定、ドアは施錠が外されていた。そっとドアを開けると、いつの場所にはトレーと小さなバスケットが置いてある。
「何?」
 バスケットとトレーを持ってまたゆっくりと時間を掛けてベッドに戻った。ひとまずトレーを側に置き、先にバスケットを開けると、途端にミャーと真っ黒な猫が顔をちょこんと出した。
「お前」
 愛奈は歓声を上げた。黒猫のエメがつぶらな瞳をキラキラさせて愛奈をじいっと見つめている。
「エメ、元気だったのね」
 愛奈は両手を伸ばして子猫を抱き上げ、胸に抱きしめた。ミャアとエメも甘えた啼き声を上げて愛奈のふくよかな胸に顔をすりつけた。
 拓人が留守中も、着ることを許されているのはこの部屋では透ける薄物の夜着だけだ。子猫が甘えて胸に顔をすりつけてくると、あろうことか、愛奈の乳房の先端がこすられて固くなった。
「やだ」
 愛奈はあまりのことに唇を噛んだ。
―私の身体、本当にどうかしちゃったのね。
 快感なんて何も知らなかったこの身体をここまで淫らに作り変えたのは拓人だ。一日に幾度も抱かれ、泣いて許しを請うまで徹底的に犯され続けた。
 もう、自分が昔の無垢だった頃に戻ることは二度とないのだろう。それを思うと拓人が堪らなく憎く恨めしかった。
 そこで、はたと気づく。それにしても、何故、子猫が突然、戻ってきたのだろう。ネットカフェで拓人に連れ去られて以来、エメとは離れ離れになってしまった。元々野良の子だったのだし、自分は籠の鳥のようにここに閉じ込められたきりだから、探しにゆくこともできない。
 もう二度と逢うことは叶わないと諦めていたのだ。それが、今になって、ひょっこりと戻ってくるなんて。
 だが、エメがバスケットに入って一人で戻ってくるはずはないのだ。愛奈の脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。エメをここに連れてこられるのは、悔しいけれど、あの男しかいない。