2014年03月

~あとがきに代えて~【官能小説制作の舞台裏】

 あとがき


 岡山では珍しく、数年ぶりに雪が積もりました。皆さまお住まいのところは、いかがでしょうか?
 さて、今月の新作をお届けします。世はバレンタインも近しということで、今回は現代物の少しハードめなものを。
 私としては限界ぎりぎりの官能小説に挑戦という意味もあります。作品の内容としては意外とありがちなものかもしれません。でも、自分としては、いつものように精一杯頑張って書いてみました。少しでも何かを感じていただけましたなら、幸いです。
 来月はいよいよ〝小紅ちゃんシリーズ〟です。来月と再来月でいよいよ数年ぶりの江戸復帰作も完結です。まだまだ片付けなければならない山場が数え切れないほど残っているので、鋭意努力して出来るだけ納得のいく作品に仕上がるべく精進したいと思います。
 桜の咲く頃、思い入れのあるシリーズも完結とあいなりますように!
 それでは、今回もありがとうございました。

               もえ 拝


2014/02/09

 ☆ライブドアブログをご覧いただきました皆様へ、ご挨拶☆

 このような拙い作品を最後までご覧いただきまして、本当にありがとうございます。
 ここは官能小説? が完成した時、発表の場として時々、利用させていただいております。
 また、こんな感じの小説が書きたくなったら、そのときは新しい作品をひっさげて戻ってくる
 こともあるかと思います。
 そのときまで、どうぞ、皆様、お元気で!

 心からの感謝をこめて  もえ 
 
  
 

もう鳥籠は要らない。初めて身も心も拓人にゆだねた少女はその夜、世界で最も幸福な花嫁となった。小説 監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~【完結】

 更に数時間が経った。午後七時、愛奈は浴室でシャワーを浴びた後、部屋でじゃれつく子猫と遊んでいた。今はエメと無邪気に何も考えないで遊んでいられるのがせめてもの救いだ。
 七月に入り、随分と陽が長い。陽は漸く暮れたばかりで、まだ西の空の端はうっすらとかすかに朱(あけ)の色をとどめて昼の名残を残している。
 汗ばむ季節なので、室内は緩く冷房を効かせている。その時、しじまを破って、ケータイが鳴り響いた。
「もしもし」
 二つ折りケータイを開くのももどかしく手に取る。思ったとおり、かけてきたのは秘書の佐伯だった。
―奥さま、朗報です。社長のご無事が確認できました。
 何と拓人はその事故に遭ったバスには乗っていなかったとのことだ。山の天候は気まぐれだ。拓人が山上の村を訪れていた最中、急に晴れていた空が曇り、にわか雨が降った。その悪天候のため、拓人は村人に引き止められ、本来乗るはずの次のバスに乗って山を下りたとのことだ。
 だから、生存者・死亡者ともに名簿に名前がないのは当然である。
―神さま、ありがとうございます!
 愛奈はこれまで高校受験のときくらいしか神仏に祈ったことはないけれど、この瞬間だけは心から神に感謝した。
 やっと拓人への気持ちに気づいたのに、もう遅すぎるのではと後悔の念に押し潰されそうだったのだ。
「エメ、お前をここに連れてきてくれた人が無事だったの。拓人さんが生きていたのよ」
 愛奈は子猫を膝に抱き上げ、人間に対するように語りかけた。子猫は利口そう瞳をくるっと動かし、本当に愛奈の言葉を理解しているようにも見えた。愛奈の瞳からひと粒の涙が溢れ、白い頬をつたった。

 二日後、予定より一日だけ遅れて拓人が帰国した。愛奈はボディガードに頼んで、空港まで連れていって貰うことにした。
「良いのかな。ボスに無断でこんなことしても」
 と、流石にこれには渋ったが、愛奈がどうしても迎えに行きたいのだと言うと、渋々、言うことをきいてくれた。
 拓人は羽田空港まで国際線で帰ってきて、そこからは国内線に乗り換えてI空港に到着する予定だ。マンションから空港までは車で一時間ほどだから、迎えにいけないことはない。
 手持ちの服はないので、制服を着た。
 午後一時、拓人の乗っているはずの飛行機が空港に着陸する。ゲートが開き、次々に昇降客がロビーに溢れ始めた。
 正面玄関へと続く長いエスカレーターの上方に長身の男が立った。どこに行っても拓人のルックスの良さと圧倒的な存在感は目立つ。通りすがりの若い女性がちらちらと彼を見て通り過ぎていくのが愛奈には判った。
 拓人の背後にはぴったりとビジネススーツ姿の男が寄り添っている。あれが秘書の瀬道だろう。
 エスカレーターが下に到着し、拓人がロビーへと足を踏み出す。
「拓人さん」
 愛奈は彼がこちらに気づく前に叫び、走り出していた。今日の彼はビジネススーツではなく、半袖のカーキ色のポロシャツ、グレーのズボンといったカジュアルな格好である。愛奈に声に気づいたのか、彼がかけていたサングラスを外した。
 その眼が愕いたように大きく見開かれる。
 走ってきた愛奈を拓人は愕きながらも、両手をひろげて受け止めた。
 いつしか忠実な秘書の姿はどこかへ消えている。気を利かせたに違いなかった。
「無事だったのね。私、ホントに心配したのよ。死んじゃったんじゃないかと思って」
 拓人が優しい笑みを浮かべた。
「馬鹿だな。俺がお前を置いて、一人で死ぬわけないだろうが」
 拓人は愛奈を抱きしめ、耳許で囁いた。
「迎えにきてくれて、嬉しいよ。それに、お前が泣くほど俺のことを心配してくれたのも」
「泣いてなんかないもん」
 愛奈が持ち前の負けん気ぶりを発揮すると、拓人はまた笑った。
「まあ、お前がそう言うのなら、それでも良いさ」
 彼がポロシャツの胸ポケットから小さな箱を取り出した。
「これをお前に」
 黒色の小さな箱にピンクのリボンが付いている。愛奈は渡されたそれを静かに開けた。
「あ―」
 箱の中から現れたのはベージュ色をした薔薇の形の石だった。そっと指で持ち上げてみると、石にワイヤーが巻きつけられていて、ネックレス仕様になっている。
「綺麗」
 愛奈は眼を輝かせた。
「これはデザートローズといって、砂漠でしか取れない珍しい石なんだ。普通、プロポーズするときはダイヤモンドだろうけど、これもあまりに定番すぎるだろ。だから、これを婚約指輪の代わりとして贈るよ。俺の嫁さんになってくれ、愛奈」
「この石を買うために拓人さんは事故に遭うところだったのね」
 愛奈がしみじみと言うと、拓人が眉を寄せた。
「何でお前がそれを知ってるんだ?」
「瀬道さんに聞いたの」
「あいつ、お喋りなヤツだな」
 拓人はぼやいたが、口調ほど怒っている様子はなく、むしろ面白そうな表情である。
「ありがとう、歓んで頂きます」
 愛奈の言葉に、拓人が息を呑んだ。綺麗な顔には〝信じられない〟と書いてある。
 愛奈は微笑んだ。
「でも、これからは無茶はしないでね。私は宝石も何も要らない。拓人さんさえ側にいてくれれば、それで良いの」
「おい、愛奈。俺は今、夢を見ているのか?」
 拓人はまだ夢見心地のような顔をしている。
「俺はお前に対して酷いことばかりした。そんな俺をお前は嫌っていたはずなのに」
「もう一度、最初から始めましょう。今、この場所から」
 愛奈は拓人の眼を見つめながら言った。もうこの男の傍以外に私の居場所はない。想いを込めた瞳の中に愛奈の固い決意を見たのか、拓人が頷いた。
「そうだな。俺はお前を手に入れたいと焦るあまり、やり方や順番を間違っていた。もう一度、俺にチャンスをくれ。俺には一生、愛愛奈だけだ。この世の誰よりも幸せにするよ」
 拓人は愛奈から砂漠の薔薇(デザートローズ)を受け取る。彼女が解き流した長い髪をかき分け、細いうなじを差し出すと、そっとネックレスをかけた。制服の胸許に純白の薔薇が今、たおやかに花ひらいた。

☆☆

 その夜。
 マンションの寝室で拓人と愛奈は十日ぶりに身体を重ねた。
「ありがとう、俺にもう一度、幸せになれるチャンスを与えてくれて」
 拓人が愛奈の身体中にキスの雨を降らせる。二人ともすべてを脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿だ。
 涼子のことについて訊ねた時、拓人は彼に応えられる限り、誠実に向き合って応えてくれた。愛奈の想像どおり、拓人は確かに二年間、涼子と愛人関係にあった。が、拓人の心には常に愛奈の存在があり、彼は愛奈との結婚を決意したのを契機に涼子に別れ話を切り出した。
 そのため、嫉妬に狂い拓人を失うまいとした涼子が一方的に愛奈に嫌がらせを仕掛けてきたのだ。
 その後、拓人は涼子に以前に提示した手切れ金代わりの慰謝料に更に上乗せした金額を進呈しようとしたが、涼子は
―馬鹿にしないで。ここまでして別れようとする男に追いすがるほど、未練がましくも男に飢えてもいないわ。
 と、それらをすべて突き返してきたという。
 いかにもあの女らしい啖呵の切り方だと、話を聞いた愛奈は納得できた。恐らく涼子は涼子で、拓人に本気だったに違いない。拓人という男を間に挟んでの出逢いでなければ、あの涼子という女とは歳は違っても良い友達になれただろうのにと少し残念だ。
 拓人が愛奈に覆い被さっている。彼の腕が彼女の顔のすぐ側にあり、彼女は逞しい腕に閉じ込められた形だ。だが、互いの想いを確かめ合った今、この男の腕に閉じ込められるのはけして嫌ではない。
 囚われた小鳥は籠から飛び立つのではなく、自ら籠を自分の生きる世界だと定めたのだ。けれど、拓人はもう二度と愛奈を狭い鳥籠に閉じ込めようとはしないだろう。愛奈は何故か、そんな確信があった。
 拓人の唇が静かに降りてくる。自ら腕を伸ばして彼を引き寄せ、そのしっとりとした感触を受け止めながら、その夜、愛奈は世界中でいちばん幸福な花嫁となった。
               
                                                                     (了)

    
 




ヒナゲシ
 花言葉―恋の予感、未来の恋。別名、虞美人草、ポピー。 
     

デザートローズ
 宝石言葉―愛と知性。
 不必要な人との縁を切る、寛容さと深い愛情を育む。深い愛情を持って人と接することを可能にしてくれるパワーストーン。
 砂漠の砂の中から見つかる薔薇の花に似て美しい鉱物。別名をサンドローズともいう。花びら状の形が薔薇に似ていることからこのように呼ばれている。
 自分に本当に必要な人を見極め、その人との縁を取り持ってくれると共に、逆に不要な縁、害をもたらす人との縁は後腐れないように断ち切ってくれる効果あり。 

まだ大切なことは何も伝えてないのに、あなたは本当に死んでしまったの? 涙を堪えきれない愛奈。 小説 監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~

 電話を切った後、愛奈は込み上げる涙を抑えきれなかった。拓人は自分に贈る宝石を買いに行こうとして、観光バスに乗った。その途中で悲惨な事故が起きてしまったのだ。
―何か土産を買ってきてやるから、大人しく良い子にしてるんだぞ。
 拓人がマンションを出るときの科白が今更ながらに思い出された。あの時、自分は何と応えただろう。いや、何も応えなかった。長い旅路に出る彼を見送りもせず、ふて腐れてベッドの中にいた。
 あの時、彼はデザートローズを買ってきてくれるつもりだったのだろうか。
 それなのに、自分は頑なに彼に背を向けた。
 それに、彼が出ていった後、自分は何を考えただろう。
―あんな男、この世からいなくなってしまえば良い。
 よりにもよって、そんな想いを抱いたはずだ。
 ああ、私のせいだ。私がいなくなっちゃえば良いなんて思ったから、拓人さんがこんなことに。
 愛奈はもう堪え切れず、両手で顔を覆った。堪え切れない嗚咽が低いすすり泣きとなって洩れた。
 と、それまで無言でハンドルを握っていた運転手の男が唐突に沈黙を破った。
「瀬道さんの話では、まだボスが死んだと決まったわけじゃないですよ。生存者の中にも死亡者の中にも名前がないってことは、まだ生きてるって望みもあるんですから」
 そのひと言に、愛奈の泣き声が止まった。
「ボスは奥さんに滅茶苦茶惚れてますからね。たとえ地獄まで行っても、奥さんに逢いたくて引き返してきます。そんな人ですよ」
 その声は愛奈が初めて聞いたボディガードの声だった。気のせいか、サングラスの向こうの細い瞳が優しく細められているように見えた。いつもは表情を消し去った無機質な印象が強いけれど、今はアンドロイドのような冷たい雰囲気ではなく、人間らしい温かな表情を浮かべている。
「あ、でも、ボスには内緒にしといて下さいね? こんなことを奥さんに言ったって知れたら、クビは間違いないですから」
 恐らく普段は社長の身内と親しく接することは禁じられているに違いないが、愛奈の哀しみ様を見かねて声をかけたのだろう。
 今はその心遣いが泣きたいほど嬉しい。
「とにかく今は気をしっかりと持って下さい。ボスは必ず生きてます。ちょっとやそっとで死ぬようなヤワな人じゃないです。何せ、業界では、何があっても笑わない、沈まない、必ずのし上がる鉄の男って呼ばれてるんですよ。あ、これも内緒ね」
 少しおどけたような物言いに、愛奈は思わずクスリと笑った。
「あ、やっと笑いましたね。奥さん、もう少し笑った方が良いです。奥さんが哀しそうにしていると、ボスまで元気がなくなりますからね」
「拓人さんが?」
 信じられない話に思わず訊き返すと、黒服の男は朗らかに言った。
「いつもボス、零してますよ。女は一体、何をすれば歓んでくれるのか、どうやったら歓んでくれるんだろうって。いつかは大真面目に俺に訊くもんで、俺、マジでボスも焼きが回ったなと思いましたもん。女のことにかけては俺なんかよりボスの方がよほど百戦錬磨なのに、たかだか女子高生一人の機嫌を必死に取ってるなんて、以前のボスなら想像もできないっスしね」
 あ、と、彼が頭をかいた。
「何かこれじゃ、ボスにたくさんの女がいるように聞こえますね」
 愛奈はもう、こんなときなのに笑いが止まらなかった。
「気を遣って下さって、ありがとう。拓人さんが無事に帰ってきたら、ちゃんと向き合って話してみます」
 愛奈の言葉に、ボディガードはニッと笑って頷いた。それから後はいつものように彼は二度と愛奈に馴れ馴れしく話しかけようとはしなかった。
 不思議だった。あんな卑劣なやり方で自分の身体を奪った男のことなんて、心配する必要はない。いなくなれば、愛奈は自由になれるのに。何故、自分の胸はこんなにも不安にざわめくのか?
 今なら判る。いや、恐らく応えはとっくに出ていたのに、愛奈がその応えから眼を背けて、真実を見ようとしていなかったのだ。
 不思議なことに、あれほど好きだと思い込んでいた反町君よりも拓人のことばかり考える。もちろん、反町君のことは今でも好きだ。
 彼のことも一生、忘れることはないだろう。
―僕にもっと力があったら、君を攫ってゆくのに。
 泣きそうな表情で告げてくれたあの一瞬は、たとえ拓人という男がいたしても心から消えることはない。大切な青春の宝物だ。
 だけど、その想いは拓人へのそれに比べれば、ほんの淡いものでしかない。
―私がいちばん好きなのは拓人さんなんだわ。
 幼いときから大好きだった従兄。優しい年上の男。一時は無理に身体を奪われ、毎日レイプのように抱かれることに怒りと失望を感じ、そんなことをする彼を憎いとすら思っていた。でも、その心の底では、やはり彼を憎みきれない、何か別の感情がまだ生きていることを私は知っていた。
 多分、女として彼に抱かれて、理不尽に自分を奪い尽くそうとする彼を憎む心と、裏腹に彼を慕う心が同時に芽生えてしまったのだろう。それとも、幼いときからのほのかな憧れがいつしか彼を一人の男性として恋する女心に変わったのだろうか? 自分でも気づかなかった真実が彼に抱かれたことで、はっきりと自覚した?
 いいや、そんな彼を好きになった理由なんて、今はもうどうでも良い。ただ、あの男が生きてくれてさえいれば。
 ボディガードに言われなくても、彼が今までたくさんの女たちと拘わってきたのは判る。子どもの自分だって、これほど女について知り尽くしている男がこれまで女っ気なしで過ごしてきただなんて思わないし、信じない。
 何より、彼ほどの美貌で社会的地位もある男なら、女の方が放っておかない。恐らく、その女たちの一人が涼子という女なのだろうということも。
 もちろん、好きな男が別の女とベッドを共にしたりするのが嬉しいわけじゃない。でも、それが過去のことなら、愛奈は何とか受け容れられる。大切なのは未来、これからではないだろうか。たとえ拓人が涼子とどれだけの夜を共にしていようが、愛奈にプロポーズするために、きちんと彼女との関係を清算し愛奈一人に誠実に向き合おうとしてくれたのなら、それで構いはしない。
 涼子のことも、拓人に逢ったら、ちゃんと訊ねてみよう。二人のこれからのためにも、どんな小さなしこりでも残しておかない方が良いのだ。
 愛奈はあたかも向こうに自分が進むべき未来への道が続いているかのように、真っすぐに前を見つめた。丁度その時、ボディガードが運転する車がマンション前の駐車場に止まった。

衝撃! 拓人が行方不明。〝愛奈は俺にとって、たった一人の女だ〟と残した彼。一人、遠い日本で彼を待つ愛奈の心は。小説 監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~

 何て憎らしい男。愛奈の身体を欲しいままに弄び慰み者にする癖に、ふっとこんな意外な優しさを見せたりする。
「反則よ、こんなの」
 愛奈はエメのすべすべした毛並を撫でながら一人、呟く。子猫は痩せてもいないし、気の艶も良い。どう見ても、誰かがきちんと世話をしていたとしか思えない。そして、それができるのは恐らく、ただ一人。
「こんなことをされると、憎めなくなっちゃうじゃない」
 愛奈はふるふると首を振った。いいえ、騙されるものですか。こんなことくらいで、私の気持ちを無視して好き放題にしたことを許せるはずがない。
 愛奈はともすれば萎えそうになる反抗心を奮い立たせる。だが、思えば、拓人がわざわざ海外に向かう飛行機の中から電話をかけてきたのも、エメのことを知らせたいからだったに違いない。
 残酷で優しい男。昔は彼が大好きだった時期もあった。今は大嫌い。あいつが私の身体をまるで玩具のように扱うから。籠の鳥のようにここに閉じ込めるから。
 拓人を嫌いな理由は幾つでもあった。でも、心のどこかでいまだに憎みきれない、嫌いになりきれない部分があることを、愛奈はよく知っている。
 それが何故なのかは判らなかった。ここまでとことん人格を無視された扱いを受けているのに、何故―?
 早くあの男が帰ってくれば良い。唐突に浮かんだ想いに愛奈は自分でも愕いた。
 ううん、あの男が帰ってくれば良いと思ったのは、ただ今のやり場のない感情を彼にぶつけたいからだけよ。こんなもやもやした気持ちはあの男のせいなんだから、あの人に思いきり叫んでやれば、きっとすっきりするもの。
 それが単なるごまかし、自分の本当の気持ちを知ろうとしない自分への言い訳だとはこの時、まだ愛奈は気づいていなかった。

 拓人が海外出張に出てから七日が過ぎた。その間、愛奈はボディガードの運転する車に送り迎えされて、毎日、学校に通った。マンションにいるときはエメと遊んで過ごし、食事も残さず食べた。
 もちろん、断っておくが、食事をきちんと取っているのは何もあの男に言われたからではない。あの男がいなくなって執拗に夜通し責め立てられることもなくなったから、精神的にも身体も解放されて楽になった。だから、長らく感じていなかった空腹感を感じるようになっただけ。
 学校にいるときはケータイの電源は切るが、校門を出るとすぐにオンにする。
 いつケータイが鳴るかを心待ちにしている自分に気づいた時、愛奈は愕然とした。このケータイにかけてくるのは世界で一人しかいない。何で大嫌いな男からの電話を待ちわびるのか、そんな自分が自分で信じられず呆れた。
 そんなときも愛奈は適当な言い訳を考え出して自分を納得させた。これはきっと人恋しいからだと。今の愛奈の世界はこのマンションの中、彼に飼われている鳥籠の中だけなのだから、彼が愛奈の世界のすべてといっても良い。だから、きっと彼からの電話を待っているのだ。彼の声を聞きたいと思ってしまうのだ。
 だけど、その考え方は少しおかしい。今は拓人も高校へは行かせてくれている。学校に行けば親友の満奈実もいるし、他の大勢のクラスメートもいて、それなりに愉しい時間を過ごせた。だから、少なくとも今は愛奈の世界は鳥籠の中だけではないのに。
 悶々とする愛奈を嗤うように、ケータイは一度も鳴らなかった。そんなある日、拓人がいなくなって八日目のこと、明日はいよいよ拓人が帰ってくるという前日。
 実に久しぶりにケータイが鳴った。その時、愛奈はボディガードの運転する車で高校から帰宅途中だった。
―もしもし。
 嬉しげに弾んだ声で出たことに、愛奈自身は気づいていない。無言で運転するボディガードがチラリとこちらを窺っていた。基本的に彼らと愛奈が言葉を交わすことはない。彼らはあくまでも監視役としていつも少し離れた場所から愛奈を見守っているという感じだ。
 だが、当然、拓人からだと思っていた電話は実は全然違っていた。
―愛奈さまのお電話でよろしいでしょうか?
 丁重に問われ、愛奈は思わず頷いていた。
「はい、安浦愛奈ですが」
―私は拓人さまの第一秘書を務めている瀬道と申します。
 その名前なら聞いたことはある。とにかく頭の切れる男で、常に影のように社長に寄り添い、忠実無比、拓人の懐刀と目されているとか。
 でも、その秘書が何故、愛奈に電話をかけてくる必要があるのか。第一秘書ならば、拓人について現地へ赴いているはずだが。
 刹那、愛奈の胸に警鐘が鳴り響いた。拓人が電話をかけてこられないということは、彼が今、そんな状況にあるから?
 いや、幾ら何でも考えすぎだ。愛奈は自分の想いが杞憂であることを信じ、やり過ごそうとした。
―奥さまにどうしてもお伝えしなければならないことがございます。落ち着いてお聞き下さい。
 愛奈は今し方の不吉な予感が図らずも当たってしまうことを怖れた。不安のあまり、秘書が自分を〝奥さま〟と呼んだことにも頓着せず、叫ぶように言った。
「拓人さんに何かあったんですか?」
 一瞬の不穏な沈黙があり、それがこれから先、聞くであろうすべての事を物語っていた。
―本日昼過ぎ、社長の乗ったバスが大きな事故に遭いました。崖から谷底に転がり落ちて転覆、バスは炎上しました。現在のところ、死者十数名、生存者が数名とのことですが、生存者の中に日本人がいるかどうかの確認は取れていません。今も現地の警察や救助隊が必死の救助活動を続けていますが、何しろ谷底で足場が悪いものですから、難航しているようです。
「拓人さんが事故に? そんな馬鹿な」
 愛奈は呟き、身体中の力が失われてゆくのを感じた。
 何故、アークのような大企業の社長が単身で観光バスに乗っていたか? 愛奈の疑問はすぐに解消された。瀬道はこんなことを言った。
―彼(か)の国はいまだ治安も不安定で、政情も安定していません。私はむしろ拉致とかテロとか別の意味で心配したのですが、社長はどうでもお一人で行くと言われて、止めるすべはありませんでした。
 今回、拓人が赴いたのは中近東の砂漠の国だった。油田をたくさん持ち、日本へもこの国からの輸入に頼っている部分は大きい。国土そのものはけして広くはないが、いまだに王政が敷かれ、国王が絶対君主として君臨しているというやや封建的な面がある。
 現在は王政に対抗する革新勢力が台頭してきており、王政派と国内を二分する勢いである。そのため、しばしばデモが起こり、革新派と王立の軍隊が衝突するといったことが起こった。砂漠の国といっても、国土のすべてが砂漠ではなく、一部に峻厳な山脈を有している。今回、拓人が向かったのはその山頂の小さな村の一つらしい。
―社長はデザートローズを探しに行かれたのです。
―デザートローズ?
 愛奈は鸚鵡返しに訊いた。
―私も宝石にはあまり詳しくはないのですが、何でも砂漠の薔薇と呼ばれる大変稀少な宝石だそうです。ウィザード山脈のとある山上の村にはとりわけ珍しく品質の良いデザートローズを集めている収集家がいるとのことで、その人物を訪ねていかれるとおっしゃっていました。 
 そこで秘書はまた少し躊躇い、続けた。
―余計なことを奥さまのお耳に入れると後で社長からお叱りを受けるかもしれませんが、デザートローズは本来は砂漠で取れるものですから、わざわざ辺鄙な山奥まで行かれずとも、都の観光客相手の店にたくさん出ているのです。ですが、社長はこんなことを言われまして―。
 〝愛奈は俺のたった一つの宝石だ。最高の女には第一級の、世界で一番価値ある宝石を贈りたい〟
 それが秘書が現段階では社長から聞いた最後の科白となった。

失った子猫が戻ってきた。男の見せた意外な優しさに愛奈の心は揺れる。そんな中、拓人は長期出張で離れ離れに 小説 監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~

「まあ、これはこれで初夜のときのようで悪くはないな。それにしても、お前の中は狭いな。おい、そんなに締め付けないでくれ。俺を食いちぎるつもりか?」
 もちろん、愛奈にはまったく自覚がないのだが、時折、愛奈が彼を締め付けるらしい。それがまた彼には心地良いらしく、最初はきついと不満げだった彼はすぐに気持ちよさげに腰を使い始めた。
 あるときは腰を大きく回し、あるときは殆ど抜けそうなほど引いて、そこから一挙に最奥まで刺し貫く。多彩な腰の動きは愛奈を翻弄し、彼女もまたいつしか苦痛は過ぎ去り、感じるのは快感ばかりになっていた。
「あ、ああっ、そこはいや、いやなの。感じすぎから駄目」
 啼きすぎて声も嗄れてしまって、自分が何を口走っているのかも判らなくなりつつある。今の愛奈を突き動かしているのは感情でも心でもない。人間がまだ原初の生物でいた大昔そうであったように、ただ肉体の欲望に忠実に動いているだけだ。
 それは拓人も同じだった。
「愛奈、ほら、あれが今のお前の姿だよ。何て淫乱で色っぽくて可愛らしいんだろう」
 拓人に促されるようにして眼前の鏡を見れば、拓人の膝に乗っている自分がいる。今日は幼児が大人に後ろから抱きかかえられ小水をしているかのようなポーズだ。
「いやっ」
 あまりの痴態に愛奈は思わず顔を背けた。
「眼を背けては駄目だ。これが今のお前のありのままの姿なんだから。よおく見るんだ、お前のあそこが俺を嫌らしく銜え込んでいる。見えるか?」
 赤黒いグロテスクな肉塊が愛奈の蜜壺をゆっくりとと出入りする様がはっきりと鏡に映し出されている。信じられない光景に、愛奈は涙を滲ませた。
 もう、このまま死んでしまいたい。本気でそう思った。しかも今日は高校から帰ったばかりなので、夏の制服姿だ。制服を着たまま、こんな格好で犯されるなんて、それこそ下手なアダルトビデオに出るAV女優みたいではないか。
 こんな自分を見るなんて、いやだ。この残酷で悪夢のような光景が本当に悪い夢であれば良いのにと願った。
 耳裏をネロリと熱い舌が這う度に、愛奈の蜜壺が烈しく収縮して彼を締め付ける。
「お前の中は熱くてよく閉まって、何て気持ち良いんだろう。もう堪らない」
 拓人の動きが烈しくなり、腰遣いにも声にも余裕がなくなった。後はもういつものように烈しく突き上げられるだけ突き上げられ、最後に彼は身を震わせて吐精して、悪夢のような情事はそれで終わった。 
 拓人はそれからほどなく慌ただしく出かけていった。明日から長期の出張に出るとのことである。
「何か土産を買ってきてやるから、大人しく良い子にしてるんだぞ」
 と、かける言葉だけは優しく、まるで子どもに対するようなものだった。しかし、彼の愛奈にする扱いはあくまでも大人のものであり、しかも彼女の意思を頭から無視した強要される行為ばかりであった。
 愛奈はそれに対して返事もせず、ベッドにうち伏したままで見送りもしなかった。半分は卑劣な男に返事なんかするものかという意地と、もう半分は冗談ではなく本当に身体が辛くてベッドから起き上がれなかったせいもある。
 拓人から受ける荒淫は想像以上に、愛奈の心と身体を傷つけていた。
―あんな男、この世からいなくなってしまえば良い。
 愛奈は溢れる涙でシーツを濡らしながら、自分の身体を慰みものにする男を憎いと思った。
 翌日はまた学校を休んだ。少し動いただけで、腰に鈍い痛みが走って動けない。昨日の乱暴な営みが原因なのは判っていた。午前中、ベッドに潜り込んでうとうとと微睡んでいた時、枕許のケータイが鳴った。
 エグザイルのチューチュートレインが鳴りだし、愛奈の意識は浅い眠りの淵から浮上した。
「―もしもし」
 幾分くぐもった声音で話すと、深いバリトンの声が聞こえてくる。
―今、どこにいる?
「マンション」
 応えてやりたくなどないが、それもできない立場が口惜しい。
 意外そうな声が返ってきた。
―学校は行かなかったのか?
「腰が痛くて、歩くのもやっとなの。登校なんて無理よ」
 電話の向こうで小さく笑う声が聞こえた。
―なるほど、そういうことか。やはり、お前を大人しくさせておくには抱いてやるのがいちばんみたいだな。
 誰のせいでこんな風になったと思っているのか。そう罵ってやりたかったが、グッと込み上げる怒りを抑えた。
「何かご用?」
 わざと馬鹿丁寧に訊ねてやっても、相手には一向に通じていない。
―廊下を見てみろ。そろそろ食事時だろ、俺がいなくても食事はきちんと取れよ。身体を休めるのは良いが、食事も忘れて眠りこけるのは感心しないからな。
 愛奈が応えないので、しばらく沈黙があり小さな溜息が聞こえた。
―今は飛行機の中だ。
 誰もそんなこと訊いちゃないわよ。
 心の中でまた悪態をついてやる。
―俺がいなくて淋しいだろうが、良い子で待ってろ。帰ったら、それこそまた腰が立たないくらいに何度でも抱いてやる。
 そのときだけハッとするような艶めいた官能的な声音になった。男の色めいた声を聞いただけで、カッと身体が火照った我が身がつくづく情けない。気のせいか、下肢がわずかに濡れているような気もするが、それは考えないことにした。
 それで電話は向こうから切れた。
「あの助平、変態、鬼畜、淫乱レイプ男」
 思いつく限りの言葉で罵倒してみても、心はいっかな晴れない。とりあえず廊下を見てみようと痛む腰を庇いながらベッドから出る。案の定、ドアは施錠が外されていた。そっとドアを開けると、いつの場所にはトレーと小さなバスケットが置いてある。
「何?」
 バスケットとトレーを持ってまたゆっくりと時間を掛けてベッドに戻った。ひとまずトレーを側に置き、先にバスケットを開けると、途端にミャーと真っ黒な猫が顔をちょこんと出した。
「お前」
 愛奈は歓声を上げた。黒猫のエメがつぶらな瞳をキラキラさせて愛奈をじいっと見つめている。
「エメ、元気だったのね」
 愛奈は両手を伸ばして子猫を抱き上げ、胸に抱きしめた。ミャアとエメも甘えた啼き声を上げて愛奈のふくよかな胸に顔をすりつけた。
 拓人が留守中も、着ることを許されているのはこの部屋では透ける薄物の夜着だけだ。子猫が甘えて胸に顔をすりつけてくると、あろうことか、愛奈の乳房の先端がこすられて固くなった。
「やだ」
 愛奈はあまりのことに唇を噛んだ。
―私の身体、本当にどうかしちゃったのね。
 快感なんて何も知らなかったこの身体をここまで淫らに作り変えたのは拓人だ。一日に幾度も抱かれ、泣いて許しを請うまで徹底的に犯され続けた。
 もう、自分が昔の無垢だった頃に戻ることは二度とないのだろう。それを思うと拓人が堪らなく憎く恨めしかった。
 そこで、はたと気づく。それにしても、何故、子猫が突然、戻ってきたのだろう。ネットカフェで拓人に連れ去られて以来、エメとは離れ離れになってしまった。元々野良の子だったのだし、自分は籠の鳥のようにここに閉じ込められたきりだから、探しにゆくこともできない。
 もう二度と逢うことは叶わないと諦めていたのだ。それが、今になって、ひょっこりと戻ってくるなんて。
 だが、エメがバスケットに入って一人で戻ってくるはずはないのだ。愛奈の脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。エメをここに連れてこられるのは、悔しいけれど、あの男しかいない。
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  • イケメンの優しい従兄がまさか豹変するとは思わず、、小説 監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~ 第三回
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