2つの大河が全長70kmにもわたる広大な砂丘と日本有数の平野を作り、日本海へ注ぎ込む。
その大河の河口付近にできた日本海側最大の港町「柳都(りゅうと)」。
その昔は大坂から下関や敦賀などを経て運航された交易船の寄港地として栄え、柳の木が多かったことから『柳の都』と名付けられたこの街は、明治維新の際に海外へ開かれたが海外交易の中心は横浜に移り、第二次世界大戦後に中田丸栄という政治家が現れるまでは裏日本と呼ばれ社会資本の投資が遅れていたため、日本海側最大都市となったのはこの数十年の話である。
この中心ターミナルである柳都駅から電車で2駅目にあり、近いようで遠く東北からの大河のほとりの穀倉地帯にあり、少子化の影響で5つの高校を統合再編し誕生し5年が経過した「柳都総合学園」。
その無線部・・・通称「ハム部」の部員と、その周囲の人々の物語である。
第1波「二年生二人・・・」
4月、雪国である柳都では入学式の頃にようやくサクラの花がその若さを誇るかのように咲き乱れ、時折吹く風にその花を散らしていた。
柳都総合学園前駅には真新しい制服に見を包んだ新入生が校舎に向け楽しそうに歩いていた。
それを4階の無線部の部室の窓から見ていた女池智子は、栗毛の髪を風に揺らしながらつぶやいた・・・。
「今年こそ・・・部員を獲得しなくては」
彼女の所属する無線部は、学校統合5校のうち柳都工業高校と柳都南高校という2校にあった無線部を統合して設立されたもので、柳都工業高校無線部は自力で電波方向探査装置を作り上げるなど、日本アマチュア無線連盟の無線機器製作コンテストでは入選者が出る県下一の技術力に定評のある高校無線部であった。
また、柳都南高校は外国語学科があり、日本語だけではなく、英語、中国語、韓国語、ロシア語に堪能な生徒が多くいたことから、アマチュア無線交信コンテストでは常に上位に食い込むという名門だった。
しかし、工学に関する技術力と通信の技術力の高い両校の無線部を統合すると普通はそれぞれの強みが出るはずなのだが、少子化から来る高校の統合という大人の事情で不本意にも統合することとなり、運営方針が定まらなかったところに、落雷ですべての機材が壊れ統合後すぐに休部。
昨年、旧南高系の海外コミュニケーションコースに入学した智子と、旧工業系の通信技術コースに入学した幼なじみの青山聡美で再開したが、部員は彼女たち二人しかおらず、今月中に部員をあと2名増やすことが部を存続させるための必須条件となっていた。
「聡美、なんか新入部員獲得のアイディアない・・・」
と、智子は尋ねたが聡美から返事がなく、振り返ると聡美がヘッドホンをしながら、工作机でハンダゴテを握って真剣に何か作っていた。
智子はムッとしながら、工作机に近づきヘッドホンを取り外し、聡美の耳元で大声で呼びかけた。
聡美は驚き大きく飛び跳ねたながら
「な、なによ。とも!びっくりするじゃない!」
と、叫んだ。
「聡美・・・あんたねぇ、あした新入生への部活説明をしなきゃならないのに何作ってんのよ?」
「あ、これ?放送部から小型の放送中継システムを作ってって言われたから、校内無線LANにぶら下がってやったほうが法律的に問題ないから、Grape piをベースに作ってやろうと思ってね。」
と悪びれず聡美は答えた。智子は
「うちの部の存続がかかっている時に他の部活の手伝いなんかやってる場合じゃないでしょ!」
とブチ切れたが、聡美はにやけながら言った
「でもさ、うちの部が学校から支給されている1万円だけで運営できるわけ無いじゃん。誰のおかげだと思う?」
正直、智子は痛いところを突かれたと思った。
無線局の免許申請手数料から無線機やアンテナの購入資金などで中古機を活用しても最低でも20万円は必要だった。
それを近隣のアマチュア無線家から壊れた無線機などをもらってきては修理したりして、無線機を調達したり、放送部など他のクラブからオーダーを受けて開発や修理の請負を行って、資金調達を行うなどしていたのは、天才的な技術オタクの聡美だからできた芸当だった。
「ま、ともがやりやすいように技術的にバックアップするのがあたしの無線部での仕事。実務は部長のともに任せるよ。」
と、にやけながら言った。
そんな時、部室のドアが開いた。
「あの・・・無線部ってこちらですか?」
気品のある長身で金色の長髪が美しい色白の女の子が智子たちに話しかけてきた。
「え・・・あ、ここは放送部ではなくて無線部ですよ?」
思わず聡美はそう答えた。
「えぇ、ですから無線部ですよね・・・?」
困惑しながら入口付近でその少女は智子と聡美に再度聞いた。
「あ・・・」
聡美はやってしまった・・・という顔で智子に視線を向けた。
「あ・・・ひょっとして入部希望の方ですか?」
智子はドギマギしながら聞き返した。
「ええ、わたくし、1年A組商業コースの新津弘子って言います。」
「あ、わたしは部長の2年の女池智子。こっちが副部長で同じく2年の青山聡美です。早速だけど、新津さんこのクラブでは無線従事者免許がないと無線局で通信できないけど、何か免許をもっているかな?」
と、再度弘子に尋ねた。弘子は
「大した資格ではないんですけど・・・」
と、もじもじしながら何かをかばんから取り出して智子と聡美に見せた。
「え・・・エキストラ・・・FCC(米国連邦通信委員会)の!」
智子は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「え・・・これではダメですか?」
弘子は戸惑いながら聞き返した。智子たちは顔を横に振りながら答えた。
「いえいえ・・・そんなことないよ!第一級アマチュア無線技士同等資格だもの・・・新津さんが入部してくれればすごくありがたいよ!」
智子たちは素直に喜んだ!
(次回は3月10日公開予定です。)
その大河の河口付近にできた日本海側最大の港町「柳都(りゅうと)」。
その昔は大坂から下関や敦賀などを経て運航された交易船の寄港地として栄え、柳の木が多かったことから『柳の都』と名付けられたこの街は、明治維新の際に海外へ開かれたが海外交易の中心は横浜に移り、第二次世界大戦後に中田丸栄という政治家が現れるまでは裏日本と呼ばれ社会資本の投資が遅れていたため、日本海側最大都市となったのはこの数十年の話である。
この中心ターミナルである柳都駅から電車で2駅目にあり、近いようで遠く東北からの大河のほとりの穀倉地帯にあり、少子化の影響で5つの高校を統合再編し誕生し5年が経過した「柳都総合学園」。
その無線部・・・通称「ハム部」の部員と、その周囲の人々の物語である。
第1波「二年生二人・・・」
4月、雪国である柳都では入学式の頃にようやくサクラの花がその若さを誇るかのように咲き乱れ、時折吹く風にその花を散らしていた。
柳都総合学園前駅には真新しい制服に見を包んだ新入生が校舎に向け楽しそうに歩いていた。
それを4階の無線部の部室の窓から見ていた女池智子は、栗毛の髪を風に揺らしながらつぶやいた・・・。
「今年こそ・・・部員を獲得しなくては」
彼女の所属する無線部は、学校統合5校のうち柳都工業高校と柳都南高校という2校にあった無線部を統合して設立されたもので、柳都工業高校無線部は自力で電波方向探査装置を作り上げるなど、日本アマチュア無線連盟の無線機器製作コンテストでは入選者が出る県下一の技術力に定評のある高校無線部であった。
また、柳都南高校は外国語学科があり、日本語だけではなく、英語、中国語、韓国語、ロシア語に堪能な生徒が多くいたことから、アマチュア無線交信コンテストでは常に上位に食い込むという名門だった。
しかし、工学に関する技術力と通信の技術力の高い両校の無線部を統合すると普通はそれぞれの強みが出るはずなのだが、少子化から来る高校の統合という大人の事情で不本意にも統合することとなり、運営方針が定まらなかったところに、落雷ですべての機材が壊れ統合後すぐに休部。
昨年、旧南高系の海外コミュニケーションコースに入学した智子と、旧工業系の通信技術コースに入学した幼なじみの青山聡美で再開したが、部員は彼女たち二人しかおらず、今月中に部員をあと2名増やすことが部を存続させるための必須条件となっていた。
「聡美、なんか新入部員獲得のアイディアない・・・」
と、智子は尋ねたが聡美から返事がなく、振り返ると聡美がヘッドホンをしながら、工作机でハンダゴテを握って真剣に何か作っていた。
智子はムッとしながら、工作机に近づきヘッドホンを取り外し、聡美の耳元で大声で呼びかけた。
聡美は驚き大きく飛び跳ねたながら
「な、なによ。とも!びっくりするじゃない!」
と、叫んだ。
「聡美・・・あんたねぇ、あした新入生への部活説明をしなきゃならないのに何作ってんのよ?」
「あ、これ?放送部から小型の放送中継システムを作ってって言われたから、校内無線LANにぶら下がってやったほうが法律的に問題ないから、Grape piをベースに作ってやろうと思ってね。」
と悪びれず聡美は答えた。智子は
「うちの部の存続がかかっている時に他の部活の手伝いなんかやってる場合じゃないでしょ!」
とブチ切れたが、聡美はにやけながら言った
「でもさ、うちの部が学校から支給されている1万円だけで運営できるわけ無いじゃん。誰のおかげだと思う?」
正直、智子は痛いところを突かれたと思った。
無線局の免許申請手数料から無線機やアンテナの購入資金などで中古機を活用しても最低でも20万円は必要だった。
それを近隣のアマチュア無線家から壊れた無線機などをもらってきては修理したりして、無線機を調達したり、放送部など他のクラブからオーダーを受けて開発や修理の請負を行って、資金調達を行うなどしていたのは、天才的な技術オタクの聡美だからできた芸当だった。
「ま、ともがやりやすいように技術的にバックアップするのがあたしの無線部での仕事。実務は部長のともに任せるよ。」
と、にやけながら言った。
そんな時、部室のドアが開いた。
「あの・・・無線部ってこちらですか?」
気品のある長身で金色の長髪が美しい色白の女の子が智子たちに話しかけてきた。
「え・・・あ、ここは放送部ではなくて無線部ですよ?」
思わず聡美はそう答えた。
「えぇ、ですから無線部ですよね・・・?」
困惑しながら入口付近でその少女は智子と聡美に再度聞いた。
「あ・・・」
聡美はやってしまった・・・という顔で智子に視線を向けた。
「あ・・・ひょっとして入部希望の方ですか?」
智子はドギマギしながら聞き返した。
「ええ、わたくし、1年A組商業コースの新津弘子って言います。」
「あ、わたしは部長の2年の女池智子。こっちが副部長で同じく2年の青山聡美です。早速だけど、新津さんこのクラブでは無線従事者免許がないと無線局で通信できないけど、何か免許をもっているかな?」
と、再度弘子に尋ねた。弘子は
「大した資格ではないんですけど・・・」
と、もじもじしながら何かをかばんから取り出して智子と聡美に見せた。
「え・・・エキストラ・・・FCC(米国連邦通信委員会)の!」
智子は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「え・・・これではダメですか?」
弘子は戸惑いながら聞き返した。智子たちは顔を横に振りながら答えた。
「いえいえ・・・そんなことないよ!第一級アマチュア無線技士同等資格だもの・・・新津さんが入部してくれればすごくありがたいよ!」
智子たちは素直に喜んだ!
(次回は3月10日公開予定です。)