前回のあらすじ

 2つの大河が全長70kmにもわたる広大な砂丘と日本有数の平野を作り、日本海へ注ぎ込む日本海側最大の港町「柳都(りゅうと)」市の郊外に少子化の影響で5つの高校を統合再編し誕生し5年が経過した「柳都総合学園」。
 この高校の無線部は統合時の混乱と天災により休部状態となっていた。
 この部を新入生だった女池智子と青山聡美と共に再建したものの、1年間は彼女達しか部員のいない状態であった。
 彼女たちが2年生になった年の入学式の日に、日本の第1級アマチュア無線技士に相当する「アメリカFCCエキストラクラス」のライセンスを持つ新津智子が入部希望を出し、部員は3名となった・・・。


第2波「食べられないよ」

 その日の13時。1年B組教室。
 入学式やオリエンテーションなどがおわり、クラスには緊張感から解放され帰るだけとなっていた。
 そんな中、親松はるかは窓側の席から校庭とその先にある柳都総合学園前駅をボーッと眺めて  

 「紗友里ちゃん・・・今日来なかったな・・・。」と呟いた。

 どちらかといえば、彼女はやりたいことがあってこの学校に入った訳ではなかった。
 幼なじみで、アイドルの卵である松崎紗友里が芸能コースがあるこの学校に入ると言い、それに付いてきたのだが、アイドルでも何でもない何もかもが普通の女子が芸能コースに入れるわけでもなく、比較的定員に余裕のあった人文コースに滑り込んだ。
 しかし、基本学習クラスが紗友里と同じになったものの、入学直前にローカルアイドル「inecco」のSayuとしてデビューしてしまったため入学式から欠席してしまったのだった。
 今まで一緒だった紗友里がローカルアイドルとはいえ別の世界に旅立ち、親友と言える友達が紗友里だけ、そしてやりたいことの見つからないはるかは一抹の不安感を覚えたのだった。

 「・・・もう帰ろう・・・。」
 
 しかし、親しい紗友里も毎日学校にいるわけではない、特に親しい友人もいるわけではない・・・これから3年もこんな日が続くのだろうか・・・暗澹たるものを感じた。

 昇降口へ向かう途中の渡り廊下に差し掛かった。

 「キャッっっ」

 突如として突風が吹き、スカートの裾がめくれ上がったため、はるかはスカートを押さえたのだが、顔に飛んできた紙切れが張り付いた。

 「もぉ・・なんなのよ!」

はるかは憤りながらその紙切れを取り外し、ゴミ箱に捨てようとした・・・しかし、紙には

 『ハム部部員募集中!初心者大歓迎!』

と書かれていた。

 『ハム部・・・農業系コースもあるからハムでも作るクラブがあるのかしら?』

はるかは率直にそう思った。

 『どーせ、なにもやりたいこともないし、暇だし、ちょっと行ってみようかな・・・。』

紙にある場所へ足を向けた。

 その部室ははるかの教室のある校舎棟の最上階4階の角部屋にあった。
 『こんな校舎最上階でハムなんか作っているのかしら・・・?あ、そうか!燻製にするんだよね確か・・・。でも、それにしては煙くないな・・・』
と、はるかは思っていた。
 そんな時、ドアが開き、入学式で美しさで一際目立っていた少女が出てきた。弘子だった。

 「あれ?あなたもしかして・・・入部希望の人・・・?」
 はるかは戸惑っていた・・・なぜこんな美人の人がなぜハムを作る部活にいるの?と。
 「ささ、どうぞ入って・・・」
 弘子は構わずはるかを部室へ誘った。部室内に入ったはるかはパソコンやなんか色々な機械があり、とてもハムを作っているとは思えない様相に驚いていた。

 はるかに気がついた智子が弘子に話しかけた。
 「新津さん、こちらの人は?お友達?」
 「部室前にいらっしゃったのでお連れしました。えっと・・・お名前は・・・」
 「初めまして、1年B組人文コースの親松はるかです。」
と、戸惑いながらもはるかは答えた。

 「わたしは部長の女池智子。2年A組専攻は海外コミュニケーションコースだよ。そして、奥でヘッドホンしてハンダゴテをいじっているのが副部長の2年C組通信技術コース専攻の青山聡美だよ。」
 「そして、私が1年A組の商業コース専攻の新津弘子です。よろしくね。」

 はるかは会釈したあと、部室内を改めて見回してこういった。

 「ハム部って色々な機械があるんですね。」
 「ああ、ほとんどが聡美が修理したりして調達したんだよ」

智子が胸を沿って威張ってみた。

 「で、この機械でどうやってハムを作るんですか?」
はるかは悪びれず素で言った。これには智子をはじめとして部室にいる3人がすっ転んだ。

 「ちょ・・・・ちょっとまって(笑)。うちの部のことを食べる方のハムを作る部活だと(笑)」
智子はお腹を抑えて大笑いしながら言った。はるかはなぜ笑われているのかわからなかった。
 「あははっ、ごめんごめん。気を悪くしないでね。ここはアマチュア無線のクラブなんだ・・・。Amateurの英語スペルの頭二文字のAMだけだと発音しづらいからHを一番前につけてHAMと略すようになったという説が有力なんだ・・・。ちょっと、どんな風な事をやるか見てて。」

と、智子は目の前にある無線機の操作ダイヤルを回した。
 そこから聞こえてくる声は物凄く甲高い声だな・・・と、はるかは思った。智子はマイクを握って話しだした。

「JS8ZAR JS8ZAR こちらはJK0YDC。ジュリエットキロゼロヤンキーデルタチャーリー 入感ありますか?どうぞ。」
『JK0YDC JK0YDC こちらはJS8ZAR札幌中央学園アマチュア無線クラブオペレータは南です。みかさのみ、なごやのな、みかさのみで、南です。こんにちわ、そちらのシグナルは59で札幌市中央区に入感しています。お返しいたします。どうぞ。』
「JS8ZARこちらはJK0YDC 柳都総合学園無線クラブ、オペレータは女池です。めいじのめ、いろはのい、けしきのけで女池です。そちらのシグナル同じく59で柳都市東区に入感しております。カードはアマチュア無線連盟経由でお送りいたします。JS8ZAR札幌中央学園アマチュア無線クラブ南さま。こちらはJK0YDC柳都総合学園無線クラブ女池です。どうぞ。」
『JK0YDC女池さま。こちらはJS8ZAR南です。カードの件了解しました。こちらからも日本アマチュア無線連盟へ送りますのでよろしくお願いします。また、つながりましたらおねがいします。エイティエイト。』
「JS8ZAR南さま。こちらはJK0YDC女池でした。お稼ぎください。セブンティースリー。」

一連の交信が終わると、智子ははるかの方に向いて、話しかけた。

「てな具合で、今アマチュア無線で北海道札幌市にある札幌中央学園のアマチュア無線クラブと交信したんだ。そして、交信証を交換しましょうねって約束をした・・・ざっくり言うとそんな感じかな。」

「へー。そうなんですね。最後のセブンティースリーとかエイティエイトってなんですか?」

「あ、どちらも『さようなら』って言う意味で、セブンティースリーが男性に向けて。エイティエイトが女性向けなんだ。」

「なるほど・・・。でも、今なら携帯電話もあるし、そんなに必要性はないですよね。」

「そう。いま携帯とかLINEとかあるけど、自分で電話番号とか教えないと知らない人と話はできないし、携帯電話の電波が来てなかったら話せないわけじゃない。それに、Skypeとかの会議通話なんかもあるけど、一人が発信した情報を多人数に一気に伝えることもできる。そして、アマチュア無線ならその気になってタイミングが合えば、南極の昭和基地にいる隊員さんにも、国際宇宙ステーションにいる宇宙飛行士とも話ができるんだよ。」

「え!そんなところまで話すことができるんですか?わたしも話すことできるんですか?」

はるかはあまりに知らなすぎてショックを受けた。

「うーん・・・この無線を使うためには国家試験を受けて無線従事者免許を取らないとダメなんだよ・・・。」
と、聡美が説明をした。

「え?国家試験を受けないとダメなんですか?なんか難しそう・・・」
はるかはめげそうになった・・・。そんな姿を見ていた智子がフォローに入った。

「大丈夫。試験パターンが決まっているから、一番下位の資格なら小学生でも受かる内容だよ。例えば、工学の問題で『電気を通すのは? ガラス、プラスチック、鉄、紙』なんて問題もあるからね。」

「あ、その位ならわかる!」

「ここにいる3人は資格を持っているし、もし入部するなら国家試験受験までサポートするよ。」
智子は畳み掛けた・・・。すこし、はるかは迷った・・・けど、なんか面白そうとも感じていた。少しの沈黙の後、はるかは入部を決意したことを伝えた。

 こうして、柳都総合学園無線部は4名で再始動した。

(次回は4月10日公開です)