前回までのあらすじ

 2つの大河が全長70kmにもわたる広大な砂丘と日本有数の平野を作り、日本海へ注ぎ込む日本海側最大の港町「柳都(りゅうと)」市の郊外に少子化の影響で5つの高校を統合再編し誕生し5年が経過した「柳都総合学園」。
 休止していた無線部を新入生だった女池智子と青山聡美と共に再建したものの、1年間は彼女達しか部員のいない状態であった。
 彼女たちが2年生になった年の入学式の日に、日本の第1級アマチュア無線技士に相当する「アメリカFCCエキストラクラス」のライセンスを持つ新津智子と親松はるかが入部する。
 そして、弘子とはるかは顧問の和納に出会い、かっこいい美人女教師と思ったら・・・。



第4波「スクランブル!」

 弘子が家で余っているからと、お茶菓子のほかにパソコン3台とカラーレーザー複合機を持ってきた。

 聡美はそれをみて驚いた・・・。去年の年末に佐世保弁の通販会社の社長がWindows10をインストールしてあるパソコンにインクジェットプリンタとコンパクトデジカメ付きでメーカー希望価格298000円を20万円と言っていたヤツだったからだ。
 それまで使っていたパソコンがサポートの切れたWindows2000パソコンだったから、処理スピードは桁違いになったからだ。
 また、カラーレーザー複合機だって、そんなに安いものではないのに余る家って・・・。
 
 そして、触って智子が驚いたのは、1年分の交信記録がすべてデータベースに入力されていたことと、アマチュア無線用の通信系ソフトと初級アマチュア無線国家試験チュートリアルソフトが入っていたのである。
 「弘子・・・これって本当余っていたパソコンなのか?」
聡美は思わず聞いた。
 「ええ、うちの父の書斎にあったパソコンなんですけど、父が新しいのを買ったから捨てようとしていたのをもらってきたんですよ。ごめんなさい、ゴミを持ってきて・・・」

 「いやいやいや・・・これだって結構新しいパソコンだし・・・それにこれをゴミって言ったら、今まで使っていたWindows2000のパソコンは・・・。それにこのデータ入力だって大変だっただろ?」
智子は焦りながら弘子に聞いた。
 「あ、あれならそんなに時間かかりませんでしたよ。父からもらうときに父が会社の人に入力してもらうって言って1時間位でデータ化してもらったんです。」
弘子はサラリと言ってのけた。

 智子と聡美は思った
 (この子どんだけのブルジョアなんだよ・・・)
と。

 「そういえば・・・はるかは?」
智子は聡美と弘子に聞いた・・・。

 「はるかさんなら日直だから先行っててって、言ってましたよ。」
と弘子は答えた。

 「あぁ、日直か・・・日直なら・・・」
と智子が言いかけたところで聡美がパソコンの画面を見て叫んだ・・・。

 その声に驚いたが、弘子と智子はパソコンの画面を見て・・・その意味を理解した。

 柳都は日本海側最大都市とはいえ、国家試験は年に2回6月と1月の2回しかなく、それ以外の時期で国家試験を受けるには、隣接県か毎月国家試験をやっている東京へ行かなければならないのだが、その試験申し込み期間が今日の消印まで受付をするとあった・・・。

 智子はつぶやいた。
 「今の時間が15時35分。申請書を入手するためには柳都駅南口のシュンイチドー書店が一番近い。柳都総合学園前から柳都駅まで最速で行く電車は15時58分・・・ダメだ。どうやってもゆうちょ銀行の窓口締め切りの16時には間に合わない。」

 弘子が叫んだ・・・
 「わたしがなんとかします!とにかくはるかさんを見つけて、玄関へ連れて行っていってください。」

 「お・・・おう。ともは教務部へ。わたしは教室へ行ってみる。見つけ次第、438.10MHzで!」
聡美はそう伝えると走りだした。


 智子は部室に鍵をして教務部へ向かった・・・が、階段を降りている時に中庭でのんびりバナナオレを飲んでいるはるかを踊り場の窓から見かけた。

 「はるかぁ・・・!すぐ出かけられる支度をして玄関に来て!」
智子は思いっきり叫んだ・・・が、はるかには聞こえていないようだ。

 「くそっ!」
智子は全速力ではるかのいた中庭へ向かった。

2分後・・・中庭でボケーッとバナナオレを飲んでいるはるかの元についた。

 「あ・・・ともちゃん。どしたの?そんな怖い顔して・・・」
はるかは戸惑っていた。智子は淡々とハンディトーキーに向かって言った。
 「こちらJM0TMOから各局。はるかを確保。これから玄関へ向かう。」
 『こちらJM0STO聡美了解。』
 『JN0HRO弘子了解しました。こちらは準備出来ました。』

 「ど、どうしたの?みんな。」
さらに戸惑っていた。
 「荷物はちゃんと持っているな?」
 「う・・・うん。」
 「詳しい話は後だ。とにかく、今はみんなの待つ玄関へ」

15時45分、柳都総合学園玄関前。

 弘子がベンツの前に立って、
 「みんな!早く乗って!」
と、叫んでいた。

 戸惑いながら全員ベンツに乗り込んだ。

 「運転手さん!駅南まで大至急!」
弘子は叫ぶように言った。
 「はい。弘子お嬢様。10分で着きます。シートベルトを全員締めてください。」
と、初老の運転手が言ったかと思ったらとんでもない速度で飛ばした。
 「な、、、なにがあったの?ねぇねぇ・・・。」
はるかは何がなんだかわからない状態。
 「あ・・・、実は国家試験の受付が今日までだったんだ。まだ、申請書出してないどころか買ってもいないだろ」
 急な展開で戸惑いながらも聡美がはるかに話しだした。
 「うちの学校から申請書が買えるのは駅南のシュンイチドーが一番近いから・・・って、色々と検討したら・・・何故かこうなった。」
 「え・・・このベンツって・・・聡美ちゃんかともちゃん家の?」
 「んなわけないっ!弘子がなんとかするから・・・って」
智子も戸惑いつつ話した。
 「みんなごめんねぇ。一番学校の近くにいたうちの車を回してもらったから、狭くて。」
(これで狭い車ってどんな家だよ!)
三人は心の中でつっこんだ。
 「でも、これから10分で申請書を入手しても柳都中央郵便局には着くことはできないわね・・・。」と、つぶやくと弘子は携帯電話で電話をかけた。


15時55分柳都駅南口のシュンイチドー書店の前に着いたら、スーツを着た男が立っていた。

 「弘子お嬢様。予め、申請書を入手しておました。」
その男は深々と頭を下げ、申請書の入った茶封筒を弘子に手渡した。
 「木戸さん、ご苦労様でした。それではこの足で柳都銀行本店へ向かいますわね。」
車は、そのまま動き始めた。
 「はるかさん、この申請書に必要事項を書いてください。」
弘子は微笑みながら言った。
 「え!わかった・・・。」
はるかは申請書を書き始めた。智子は思わず聞いた。
 「ちょっ・・・柳都銀行へ行っても窓口は15時に閉まっているだろ・・・」
 「大丈夫ですよ。世の中なんとかなるもんです。」
と、微笑んでいた。

16時10分 柳都銀行本店。
 柳都銀行は柳都市の市街地・柳都島でも一番古くから栄えた本柳町の一等地にその本店を構えていた。
 その前身は明治政府のもとで設立された国立銀行であり、日本屈指の老舗地方銀行である。
 バブルの崩壊後破綻した同業の雪椿銀行がレジャー施設やブイブイ言わせていたバブル経済下でも堅実な経営をしており、経済が低迷している中でも安定した経営を行っていた。
 その銀行の本店に弘子たちの乗ったベンツが滑り込んできた。降りたあと、弘子は運転手に帰社するように伝えた。
 本店裏手の通用口警備室で警備員に話しかける弘子。
 「すいません。常務の山下さんにアポイントメントをとっているのですが・・・。」
 「お嬢ちゃん、何を言っているんだね。常務があんたみたいな女子高生と会う訳がないだろう。ささ、帰って勉強でもしてなさいな。」
 警備員は明らかに弘子たちを相手にしていなかった。
 「弘子ちゃん、国家試験なんか最悪東京に受けに行けば良いんだから・・・帰ろう。」
はるかは諦めて、弘子に帰るように諭していた。
 「大丈夫です。お取次ぎをおねがいします。」
弘子は毅然とした態度で警備員に言った。
 「新津さまのお嬢さま、おまたせいたしました。」
50歳位のロマンスグレーの男が弘子をこう呼びかけた。
 「山下常務。この女子高生を知っているんですか?」
警備員はそのロマンスグレーの男に尋ねた・・・。
 「ああ、よく知っているよ。私や当行が懇意にして頂いているお取引先の娘さんだよ。何か失礼なことを言わなかったかね。」
 キッと警備員に睨みつけながら警備員に答えた。
 「とりあえず、ここで立ち話もなんですから、お友達も含めて私のオフィスでお茶でも飲みながらお話を伺いましょう。あ、新崎くん、雪国紅茶を4つ私の部屋へ。あと以後のスケジュールは1時間ほど遅らせて頂く調整してください。」
 女性秘書にそう告げ、女子高生4人を柳都銀行本店に招き入れたのだった・・・が、智子と聡美、そしてはるかは
(銀行の常務さんと知り合いってどんな家の子なん・・・この子。)
と、戸惑っていた。

16時20分 柳都銀行本店8階北側にある山下のオフィス。
はるかたちは戸惑っていたが、山下はにこやかに微笑んで、腰掛けるよう諭した。
 「まぁ、そんなに固くならなくてもいいよ。温かい紅茶でも飲みながら話を伺いましょう。」
弘子が口を開いた。
 「実はわたしの友達のアマチュア無線国家試験の締め切りが今日までで、受験料を支払わなくてはならないんですけど・・・。」
 「あ、なるほど。そういうことですか。少しお時間よろしいですか?」
弘子が頷いたのを確認したら山下はどこかへ電話をかけた。

 2分後、職員が駆けつけた。
 「5250円と送金手数料324円と送金票を頂けますか?」
はるかが5580円をその職員に手渡すと、そのお金を持って、部屋から出て行き、3分後にはお釣りの6円と支払い証明書を手渡しに来た。

 山下は
 「さぁ、これで申請書にこの証明書をつけて隣りにある柳都中郵便局から送れば、申請できるでしょう。僕もアマチュア無線を趣味でしていてね。それに、新津さんのお父様には色々と良くしていただいているのでね。」
と笑った。

 女性秘書の新崎が次の予定の時間を告げるまで、4人の女子高生と山下はアマチュア無線についての話で盛り上がっていたのだった。
 16時55分
 「あぁ・・・疲れた・・・」
 智子は柳都中郵便局の玄関前の植え込みに腰掛けてボヤいた。
 「ほんとに、疲れましたね・・・。」
 弘子は微笑みながら賛同した。
 「いやいや・・・学校にベンツが横付けになって、それに乗り込まされて、いつの間にか銀行のお偉いさんに会ってなんて普通の女子高生じゃないからな・・・。」
 聡美はそう答えたあと、
 「ともかく・・・だ。はるかを二ヶ月で合格させる。これがあたしらのミッションだ。」
 決意を込めて呟いた。

(次回は6月10日の予定です)