前回までのあらすじ

 日本海側最大の港町「柳都(りゅうと)」市の郊外に少子化の影響で5つの高校を統合再編し誕生し5年が経過した「柳都総合学園」の休止していた無線部を女池智子と青山聡美で復活させ、そこに新入生の新津智子と親松はるかが入部し、女装教師の和納が顧問になり、本格的に始動した。
 そんなある日、はるかが国家試験受験申請を締め切り当日まで忘れていたことが発覚。弘子の実家の力もあり無事申請書を提出したのだった。


第5波「ロコドルとハム部と・・・」
 はるかの国家試験受験勉強が始まった。
 はるかが受験する第4級アマチュア無線従事者国家試験は、電波法とそれに関係する総務省令からなる「法規」と、中学生程度の電気や無線工学からなる「工学」を各四者択一で12問。各科目8問以上の正答で合格するというもので、ある程度出題パターンも限られていることから無線従事者資格では一番簡単な国家試験である。
 智子は法規。聡美は工学をそれぞれ30分づつ教え、弘子が智子と聡美をフォローしつつ、お茶を用意するというスタイルで進めることとした。

 しかし、問題ははるかがあまりに天然すぎることだった。

 「いい、『免許人が免許状を汚したために免許状の再交付を受けたとき、旧免許状をどのようにしなければならないか、正しいものを次のうちから選べ。』って、問題があるけれども、この場合どうすればいいのかな」
智子が出題した。
「うん・・・と、ヤギに食べさせる?」
はるかはドギマギしながら答えた。
「そんなん、選択肢にあるわけ無いだろ!答えは総合通信局長に返納でしょ。」

 「いい?電波の一波長の長さを出す公式は、300を周波数MHzで割ると出せるんだけど、1波長が10mの周波数は何MHzかな?」
聡美が公式を教えて出題してみた。
 「え・・・と、3000MHz?」
はるかはドギマギしながら答えた・・・。
 「はぁ・・・。」

 一時が万事そんな感じなのであった。

 昼休み。部室にはるかを除いて集まった。
 「これは・・・まずい。」
智子は聡美に話しかけた。
 「確かに、はるかは天然だとはおもってはいたけど・・・ここまでとは。」
聡美は思わず同意し、続けた。
 「でもなぁ・・・合格させるって言っちゃったもんなぁ・・・。弘子、何かいい方法ないか?」
 「そうですね・・・試験官を買収する・・・」
 「そうそう。弘子の家の財力で・・・って、できるかぁー!まさか、エキストラクラスもそれで取ったんじゃないだろうな。」
 「いやですねぇ・・・冗談ですよ。冗談。でも、はるかさんは柳都総合学園(うちの学校)に入学できるくらいの学力はあるんですよね・・・あ、あれは?」
 弘子は窓越しに校庭を見ながら話をしていたら、校庭ではるかが女生徒と話をしていたのを見つけた。
 「どこかで見たような人なんですが、誰だろう。智子さん、聡美さん、あの人どこかで見たことある人なんですが、わかります?」
 弘子が智子と聡美を自分のいる窓側に呼んだ。
 「ん?どれ?あ、あれineccoのSayuじゃないか?Sayuと友達なのかな?」
智子は訝しげに呟いた。弘子は部室のパソコンを叩きながら言った。
 「あ・・・松崎紗友里・・・この子か・・・出身中学は柳都市立柳岡山中学・・・って、はるかと同じ中学か・・・。」 
 「え、そんなことまでインターネットに出てるんですか?」
弘子は尋ねた。
 「いや、教職員サーバーから情報抜いた。」
聡美はクスりと笑いながら答えた・・・。
 「えー!!!それって犯罪じゃないですか!」
弘子は驚いた・・・。
 「大丈夫。大丈夫。情報処理の黒崎先生からファイヤウォールの脆弱性試験をしてくれと頼まれていたついでだからね。・・・しかし、うちの教職員サーバーのファイヤウォール穴だらけじゃないの。よくこんなの使ってるな・・・。そうだ!日本無線協会のサーバーをハッキングして・・・」
 聡美はディスプレイを覗き込みながら呟いた。
 「いや、それはダメだろ・・・思いっきり犯罪じゃんか!」
 そういった智子は何か思いついたように
 「はるかはSayuと同じ中学出身か・・・。聡美、Sayuの今日のスケジュールわかるか?」
聡美に尋ねた・・・。
 「そうだな・・・授業計画によると今日は6時間目まで授業を受け、その後17時まで補習らしい・・・。」
 「そうか・・・。」
智子はニヤつきながら一言答えた・・・。

 その日の17時。1年B組教室前・・・紗友里が補習を終え教室から出てきた。
 教室の前にはineccoのSayuを見たいと数人の生徒が集まっていた・・・
 『Sayu!こっち見てー!』
 『サイン頂戴!』
と、大騒ぎになっていたが、紗友里は微笑みながら通りすぎようとしていた。その先に智子と聡美。そして弘子が行く手を塞ぐように立ち、聡美が
 「松崎さん!ちょっとよろしくて?」
と、紗友里に話しかけた。
 「あら先輩。何か私に御用ですか?生意気だとかそういうの要りませんから・・・」
紗友里はまた先輩から因縁をつけられているのかと思った。
 「あ・・・ineccoのSayuとしてじゃなくて、はるかの親友の松崎紗友里さんとして聞きたいことがあってね・・・。」
 「はる・・・いえ、はるかのことをご存知で?」
意外な名前が目の前にいる先輩の口から出て正直驚いた。
 「ああ、わたしは3年海外コミュニケーションコースの女池智子。はるかが入っているハム部の部長だよ。」
 「あぁ!あなたが智子さんですか?はるから色々と聞いてます。」
 「はるかについて少し話を聞きたいんだ・・・少し時間もらえる?」
 「じつはこの後、駅南のプラーザのスタジオでラジオ番組収録があるんです・・・。」
 「駅南まで電車?」
 「いえ、タクシーをこれから呼んで行くんですよ・・・。」
と、戸惑いながらも智子の問に紗友里が答えた後に、弘子が提案した。
 「それなら、私のうちの車で話しながら行きましょう。」
 「え・・・でも悪いわ・・・。」
紗友里は戸惑いながら遠慮していたが、被せるように智子が言った
 「この間のベンツ?この弘子さんのお宅は運転手さん付きのベンツが来るんだよ!」
 「ごめんなさい。うちの父の会社の車が車検が終わって戻る途中にピックアップしてもらう形だから、乗用車じゃないんです。でも、みなさんは乗れますから。」
 弘子が恐縮しながら答えたので、智子はがっかりした表情で
 「なんだ・・・ベンツじゃないのか・・・」
と、言った直後に柳都総合学園入口に一台の日野の大型観光バスが入ってきた。
 「あ、うちの車が来ましたわ。ささ、みんな乗ってください。」
弘子が3人を押していく。
 「ええ???なんで観光バス???」
 「しかも、白ナンバーだから自家用なの???」
戸惑う3人。
 「すみません。父の移動オフィス車なんでちょっと狭いですけど・・・。応接の方にどうぞ。」
恐縮する弘子。
 「いや・・・移動オフィス車ってなんなのよ・・・。つか、牛皮張りのコクーンスタイルのソファーと立派な机と椅子・・・って、本当にバスかよ。これ。」
 智子は戸惑いながらもツッコんだ。

 ソファーに掛け、智子は紗友里に話しかけた・・・。
 「実は、はるかがアマチュア無線従事者国家試験に出る勉強が全然進んでいない・・・というより、かなり素っ頓狂な答えを出してくるんだよ・・・。うちの学校ってそれなりの学力がないと入れないだろ?どうやって勉強していたかを知りたいんだ・・・。」
 「あぁ・・・はるって、結構頭いいんですけど・・・美味しいもの・・・特に甘いものと記憶が無意識にリンクするみたいなんですよ・・・。」
 「なんじゃいそれ。」
 紗友里の説明を聞いて、智子は呆れた。
 「でも、人間の記憶って興味のあることのシナプス結合は強固で、その時に関連することがインデックス化されるって、そんな様なことを聞いたことがあるわね・・・。ある意味有効かもしれないな・・・。」
 聡美は妙に納得していた。それを見た弘子は手を上げながら
 「じゃあ・・・わたしは家に余ったお菓子持ってきます。たしか、部室に冷蔵庫ありましたよね。」
提案した。
 「はるかが皆さんのこと話す時って、本当に楽しそうな顔するんですよ・・・。はるかを少し嫉妬しちゃいますね。」
紗友里は少し寂しそうであり、親友の部活仲間が良い人そうで安心した複雑な表情をしながら話しかけた。
 「何言ってんの。紗友里がはるかの友達なのは変わらないし、私達ははるかと部活の仲間だけど、大切な友人だと思っている。だから、紗友里が嫌だと言わなければ、はるかの友達である紗友里も仲間だと思っているよ。」
智子がそう言うと聡美と弘子は頷くのだった。その言葉を聞いた紗友里の表情は明るくなるのだった。

 そして10分程度はるかについての雑談をしていたが、移動オフィスと化したバスは柳都駅南口の商業ビル『プラーザ』に滑り込み、駆け出しのロコドルと女子高生3人を下ろした。

 「皆さん、きょうはありがとうございました。」
紗友里は笑顔で3人に挨拶をした。
 「いやいや、こっちもはるかの国家試験対策でいい案が出たのは紗友里のおかげだよ。」
智子は笑いながら答えた。
 「それじゃ・・・今日の収録分は明日の23時半から放送されるので必ず聞いてくださいね。皆さん!」
そう言うと、紗友里はプラーザ3の奥へと消えていった。
 
 「アイドルだからとお高く止まっているのかと思ったら良い娘だねぇ・・・」
聡美は紗友里の後ろ姿を見送りながら呟いた。
 「あしたラジオ聞いてみるかな・・・。」

 翌日、りゅうと放送では、ineccoの冠番組『ineccoのきょうはいねいね!』が放送され、紗友里は前日の出来事を嬉しそうにメンバーに話したのだった。
(次回は7月10日です)