天水桃綺譚 (プラチナ文庫)
凪良 ゆう
プランタン出版
2017-05-12

凪良 ゆう/著 藤たまき/画

凪良ゆうさんがデビュー前に書かれたお話だそうで、なんとも心洗われる可愛いファンタジーでした。

受けが人間ではなく、だからこそ無垢で純真で一途に相手を慕うキャラなのは『ショートケーキの苺にはさわらないで 』を思い出します。
桃農家の亨が見つけた、金色の芳しい桃。それは、天から落ちた桃の精だった。金髪の美しい少年に変じモモと名付けられ た彼は、天真爛漫に下界での暮らしを楽しむ。ぎこちなくも不器用な優しさで見守る亨と、純真なモモはやがて想いを寄り 添わせていくが、それは許されぬ恋だった―。その後のふたりに加え、白虎さまに恋慕する、未熟な桃の精・コモモの切な い恋物語も書き下ろし。

時は戦後すぐ辺り。

桃農家の高山亨は真面目でいい男ですが融通が利かず口下手で思っている優しさを外に出すことができません。
そのせいで嫁にも逃げられて(新婚当時のお話を読むと、それは無理ないわ〜と逃げた嫁にも同情します^^;)以来、再婚の話も断り浮いた話もなく、ますます無口になってひたすら桃作りに励む毎日を過ごしています。

ある日、亨は畑に美しい黄金の桃が落ちているのを見つけて大事に家に持ち帰ります。

しかし、その桃は天から落ちてきた桃の精だったのです!

現実派の亨は『僕は天の桃林になった桃でございます』というモモの言葉に、この外人のように綺麗な子はちょっとおかしいのではないかと扱いに困り果てます。

それでもモモに懐かれた亨はそのままモモの身元を引き受けることとなり、やがて何事にも一生懸命なモモを愛しいと意識するようになって行きます。

本当に読んでいてモモの可愛さは悶絶ものです。あの堅物朴念仁の亨でさえくらっと来たのですから。

この時代背景もあるのでしょうが亨は自分の中に芽生えたこの気持ちを認めるわけにはいかないと密かにモモを手放すことを決め街に出て百貨店でモモに色々と買い与えます。

何も知らないモモを施設に出す餞別として。

この買い物の場面が心が痛みます。
汚れた想いを抱く自分の側にモモを置くわけにはいかない。モモのためだと思いながらも亨はモモが愛しくて仕方ないんですよね。
そしてまたモモも百貨店のきらびやかさに目を見張り亨に買ってもらった綺麗な二客の紅茶茶碗をこれで一緒にずっとご飯を食べると嬉しそうに大事に抱えて帰るんですよね。

この紅茶茶碗を買ってもらったことがどんなに嬉しくて、この茶碗がどんなにモモにとって大事なものになったか。この茶碗はお話を通しての大事なキーになっていきます。

紅茶茶碗は贈り物用ですねと店員さんが木箱に入れて包んでくれたまま、開封されることはありませんでした。

お互いの気持ちがついに通じ合ったその夜、モモの放つ香りにモモの主・天の白虎がやって来たのです。

そう言えば、これまでも何度かモモは自分の香りが強く漂うになると何かに怯えて隠れようとしていました。

ついに天から迎えが来てしまったのです。

まるで竹取物語のかぐや姫のように天に帰る運命のモモと白虎に逆らってでもなんとかモモを引き留めようとする亨。恋する二人は泣く泣く引き裂かれてしまいます。

このお話はある老人が孫のように可愛がっている勇という少年に病室でこの話をするという形で語られます。

そう、この老人こそ亨なんです。そしてその寿命が尽きた時、亨を迎えに来たのはやはり白虎でした。

「天の桃は今でもおじいちゃんを想ってしくしく泣いている」

勇の口を通して語られた白虎の言葉。
天では今でもモモが亨を想って泣き暮らしているいる。
主の白虎がその桃の木を自分の庭に植え替えて毎日水も与えているのに毎日泣いていると。

白虎はちゃんと亨がモモのことを最後まで想っているかちゃんと天から見ていたんですね。

そして二人のお互いを強く強く想う気持ちが奇跡を起こします。

白虎に導かれた亨はついにあの紅茶茶碗を抱えてモモの元にやって来ます。

一際やせ細った桃の木にぶら下がる弱々しい果実。その果実からはとめどもない雫が。モモです。モモが亨を想って泣いているのです。

いやいや、やっと出会えた二人に涙腺崩壊のもらい泣きでした。
めでたしめでたし!です。

あと、弱々しいモモの樹になった小さなコモモと白虎さまの身分違いの素直になれない恋のお話も切なかったです。
コモモは白虎に大事にされているとは思っていても自分のような貧相なコモモが想いを寄せるなどとんでもないと思っているし、白虎はこんなに自分が大事にしてやっているのにコモモの鈍感さには腹が立つと拗ねているし。

コモモが瀕死の状態になってから死ぬほど後悔して命を繋ぎとめようとする白虎の愛の深さにこちらの胸も痛みました。
早く素直に「コモモが愛しい」と言ってやればよかったんですよね。
まあ、死ぬほどモテる白虎ですから自分から言い寄るのは慣れてなかったのかもしれません。

生き返ったコモモを后として迎える準備に浮かれる白虎の溺愛ぶりにはにんまりでしたが、白虎は根は遊び人でやんちゃです。

どっぷり溺愛しているコモモがいても女仙と浮気はするし、モモの機転でなんとかコモモにはばれないでいるけど、なんかもうそこも白虎らしくて笑ってしまいました。

そうそう、モモの精に性別はないんだそうです。
コモモもモモも自分のことを『僕』というので性別は男だと思っていました。

なのでコモモのご懐妊という今はやりの受けの妊娠もあります。

コモモのおめでたに浮かれまくる白虎と逆にそれが不安になるコモモのすれ違いもなんか微笑ましかったです。

あ、コモモの下にはスモモもいるそうで、なんか早口言葉みたいと思ってしまいました(笑)。


にんまりして泣いてほっこりするお伽噺です。
泣ける癒しのお話を読みたい方は是非!