菅野彰/著  田丸マミタ/画

ざっくり言うと受けを挟んだ幽霊の恋人とずっと恋心を秘めていた不器用で一途な男の三角関係のお話です。
一方、受けにとっては温かい巣を出て、自分の足で立ち自分の意志で歩き始める道を選ぶという自立再生のお話。

愛する相手を護りたいという気持ちは同じでもその護るということはどういうことか考えさせられます。

大学時代の親友・久世大地(くぜだいち)が死んだ──。突然の訃報に呆然自失の圭吾(けいご)。けれど、残された恋人の優 (ゆう)が、音信不通で心配だ。学生時代から密かに優に片想いしていた圭吾は、優の家を訪れる。ところがそこで見たのは 、幽霊となった大地と楽しそうに話す優の姿だった!!  驚愕する圭吾に、優は「何しに来た」と喧嘩腰。昔から優に嫌わ れている自覚はあるけれど、この状況を見過ごすことはできなくて!?

先ずは登場人物の説明から。

主人公の尾崎圭吾には親友が二人います。
法科大学院で同期だった久世大地と白鳥優です。

その優秀さと仁徳で神と呼ばれた久世とその絶世の美貌と壮絶な冷酷さで悪魔と呼ばれた優は周りも公認の恋人同士でした。

もっとも優の方は感情の読めない冷酷さと毒舌で周りを寄せ付けず誰に対しても高い壁を作っていて、取柄はその狂気のような美貌だけといってもいいほどでしたが、実はものすごい猫を被っていたんですよね。

恋人の久世の前だけではよく笑い甘え、まるで別人のような可愛げのある恋人になるのです。
久世もそんな優のことが可愛くてしかたないと公言してぐずぐずに甘やかします。

優は久世しか見てなくて、久世は過保護なまでに優を傷つけるものを排除して甘やかします。まさにスパダリです。

そして圭吾はそんな二人をずっと側で見ていました。
久世が優に恋に落ちた時、まさに同時に圭吾も優に恋に落ちたのです。でも優の側にいて優の求めていた言葉をかけたのは久世。そして優は久世に恋に落ちたのです。

優を諦められない圭吾は久世しか見てない優を横顔でもいいから見ていたかったのです。

圭吾は久世のように優の欲しがっている言葉をかけてやれるほど器用な男ではありません。

口を開けばつい強い言葉で優を傷つけてしまいます。

例えばなんのために法律はあると言う優に圭吾は「おまえみたいなのがいるから」と答えます。
圭吾としては優自身が裁くことではないから迷わないようにと言いたかったのに、優はそれをお前のような人間は子供を作る権利はないと言われたと捕えてしまったのです。

「いつも一番言って欲しくないことを言う」

そんなつもりはないのに、真意は伝わらずいつも優を傷つけてしまう圭吾。
なにもかも受け止めて優しく包み込む久世。

カップルプラスワンで周りから圭吾の恋心はダダ漏れだったとはいえ、優は久世以外を決して見ようとはしませんでした。

優は旧家の跡取りとして生まれたものの先祖がえりでロシア人の血が強く出てしまったために忌み嫌われたことから、自己否定が激しく自分自身の存在を受け入れることができなくなっています。そんな優をまるごと受け入れて愛してくれたのが大地だったのです。

そりゃ、優にとって大地は全てになってしまいますよね。

さてさて、ここまでは三人の関係の説明です。

お話の冒頭、圭吾は大地が危篤の知らせを受けて病院に走ります。

大地は残された時間を優と二人きりで過ごすために自分たちの仲を反対していた弟たちを初め圭吾たち知人にも一切知らせずにいたのです。誰かに知らせれば優との時間が削られてしまう。敵を作りやすい優を護りたい。それは大地の愛でした。

「俺は死んでも必ずお前の側にいる」

そう優に言い残して大地は息を引き取ります。

そして49日。

圭吾は同期の斎木から公認不正検査士として優と二人に仕事を頼みたいと依頼され、優の家を訪ねます。

世田谷の三階建の瀟洒な事務所兼自宅は大地と優の愛の城です。

そこに一人きり残された優がどんな日々を過ごしているのかおそるおそる覗いた圭吾の目に映ったのは今はもういない大地と楽しそうに会話する優の姿。

ついに悲しさに耐えられず壊れたのかと慌てて優の元に飛び込んだ圭吾の肩を叩いたのは死んだはずの大地でした。

「新年度から幽霊になってみた」

優との約束を守って大地は優の元に現れたのです。
幽霊でもちゃんと実体があってお酒も飲めるスパダリな大地。
そんな大地の側で二人きりならそれで幸せと言って側から離れようとしない優。

今度もまた優は大地しか見てないんですよね。
大地さえいればいいのです。
幽霊の大地がいつかいなくなってしまうのではと大地に縋り付いて離れようとしません。

優は二重人格ですかと言いたくなるほど大地に向ける甘い顔と圭吾に向ける氷のような冷たい顔の二つを器用に使い分けています。

そしてやはり大学時代と同様、優の欲しい言葉をかけて甘やかす大地と外に出て現実と向き合うようにという優の一番聞きたくない言葉を言ってしまう圭吾。

優はいつも本当だからこそ聞きたくない言葉を言う圭吾に嫌われていると思い込んでいます。

しかし、嫌なことには同調せずちゃんと考えて闘えという圭吾に嫌われてないといいなと思っていたのも事実です。

読んでいくうちに次第に大地の優に対する愛とはなんだろうと思い始めました。

優が何か思い悩んで考え出すと、先に答えを出して抱き締めそれ以上優に考えさせず甘やかしてしまう大地。
優には自分で考えて欲しいから敢えてキツイことも言うけど優が自分で答えを出すように優の考えを聞く圭吾。

そうして見えてくるのはスパダリだと思っていた大地自身もまたどこか欠けた人間で優に必要とされることで人間らしさを取り戻していたということです。

大地と優。
完全無欠の相思相愛深く強い愛で固く結ばれた二人のはずでしたが、実はそれも大地が優を自分の腕の中に囲い込んで甘やかして自分無しでは何も考えれないように自分だけを頼りにするようにしていただけではということが見えてきます。

「借り過ぎたな」と圭吾に言った大地の想いは。

きっと大地は優が一人で歩けるようになるまで見守るのが自分の最後の愛だと思ったんでしょうね。

大地もまた愛する恋人の前では決してスパダリではなく臆病なただの男でした。

そして優が自分で決めた道を共に歩く相手とは・・・。

私ごとですが、私も伴侶を亡くして来年は早七回忌。色々と想いが重なることもあって時には読み進めることが辛かったりしましたが読んでよかったと思います。

そうそう、私は未読ですが「小説Chara vol.36」にはこのお話の続き、「成仏してはみたのの」が掲載されているそうです。大地視点ですかねえ。気になります^^;